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第三章 王都の策謀と迫る脅威
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ハインリヒの調査は迅速だった。
工作員たちの足取りは、北方の人間にとっては目立ちすぎていた。見慣れない顔が酒場で金を撒き、不自然なほど熱心にリーゼの悪評を語る。地元の情報網はそれを見逃さなかった。
「五名確認しました。全員が王都方面から入り、各地の集落で同じ内容の噂を流しています。組織的な工作であることは間違いありません」
ハインリヒの報告を受け、アルヴィンは即座に動いた。
「捕らえろ。ただし荒立てるな。領民の前で騒ぎを起こせば、噂に信憑性を与えかねん」
「承知しました」
二日後、工作員五名のうち三名が領内の関所で拘束された。残る二名はヴィンターフェルトで活動中だった。
アルヴィンは異例の行動に出た。
「明日、ヴィンターフェルトの広場で領民を集める。リーゼも来い」
翌日、広場には百人を超える領民が集まっていた。
冬の朝、白い息を吐きながら、人々は不安そうな顔で広場の中央を見つめている。そこには簡素な演壇が設けられ、アルヴィンが立っていた。
リーゼは演壇の脇にいた。緊張で手が冷たい。だが手袋の中の魔石が微かに温もりを伝えてくれる。
アルヴィンが口を開いた。
「領民諸君。近頃、この領内であらぬ噂が流れていることは承知している」
広場が静まり返った。
「リーゼ・フォン・ヴァイセンに関する中傷だ。彼女が聖女の力を偽っている、公爵を誘惑して地位を得た、結界修復は嘘だ。そういった類いの話だ」
人々の間にざわめきが走った。
「結論から言う。全て嘘だ」
アルヴィンの声は広場の隅まで届いた。
「噂を流していたのは、王都から送り込まれた工作員だ。すでに三名を拘束し、残る二名もこの場にいる。そこだ」
アルヴィンが顎で示すと、広場の端に潜んでいた二人の男を、騎士たちが素早く取り押さえた。男たちは観念したように抵抗しなかった。
「この者たちは、北方の安定を脅かすために送り込まれた間者だ。誰の差し金かは現在調査中だが、目的はリーゼ嬢の信用を失墜させることにある」
領民たちの表情が変わった。怒りの声が上がり始める。
「よそ者が俺たちを騙そうとしたのか!」
「リーゼ様を陥れようなんて許せん!」
アルヴィンが手を挙げると、声が収まった。
「噂に惑わされた者を責めるつもりはない。だが、事実を自分の目で見てほしい」
アルヴィンがリーゼに目を向けた。頷いた。
リーゼは演壇の前に進み出た。百を超える視線が集まる。足が震えそうになったが、堪えた。
両手を前に出す。手袋の中で掌が温まる。体の奥底の泉に意識を沈め、核を形成する。
光が掌に灯った。
核を広げる。ゆっくりと、しかし確実に。光の膜がリーゼの体から広がり、演壇を覆い、広場の中央を包み込んでいく。
領民たちから歓声が上がった。
「光だ……」
「結界だ。本物の結界だ」
光の膜は広場全体を半球状に覆った。薄い虹色の天蓋を通して、冬の空が見える。温かい。結界の内側は風が遮られ、ほのかな温もりに満ちていた。
子供たちが歓声を上げた。大人たちも目を見開いている。これほどの結界を目の前で見たことがある者は、ほとんどいなかった。
「これがリーゼ・フォン・ヴァイセンの力だ」
アルヴィンの声が静かに響いた。
「彼女の力と人格を、自分の目で見よ」
結界は一分ほど維持されてから、静かに消えた。リーゼは少しよろめいたが、すぐに姿勢を立て直した。
広場が沸いた。
「リーゼ様万歳!」
「北の光だ! 我らの聖女だ!」
人々が駆け寄ってきた。手を握られ、肩を叩かれ、感謝の言葉を浴びせられる。
リーゼは涙が溢れるのを止められなかった。
噂は消えた。いや、噂よりも強いものが、この場に生まれた。自分の目で見た真実。それは百の言葉よりも雄弁だった。
人垣の向こうで、アルヴィンが腕を組んで立っていた。その口元には、見たことのない表情が浮かんでいた。
誇らしげな、穏やかな、微かな笑み。
リーゼはその笑みを目に焼きつけた。涙で滲んでいたけれど、はっきりと見えた。
工作員たちの足取りは、北方の人間にとっては目立ちすぎていた。見慣れない顔が酒場で金を撒き、不自然なほど熱心にリーゼの悪評を語る。地元の情報網はそれを見逃さなかった。
「五名確認しました。全員が王都方面から入り、各地の集落で同じ内容の噂を流しています。組織的な工作であることは間違いありません」
ハインリヒの報告を受け、アルヴィンは即座に動いた。
「捕らえろ。ただし荒立てるな。領民の前で騒ぎを起こせば、噂に信憑性を与えかねん」
「承知しました」
二日後、工作員五名のうち三名が領内の関所で拘束された。残る二名はヴィンターフェルトで活動中だった。
アルヴィンは異例の行動に出た。
「明日、ヴィンターフェルトの広場で領民を集める。リーゼも来い」
翌日、広場には百人を超える領民が集まっていた。
冬の朝、白い息を吐きながら、人々は不安そうな顔で広場の中央を見つめている。そこには簡素な演壇が設けられ、アルヴィンが立っていた。
リーゼは演壇の脇にいた。緊張で手が冷たい。だが手袋の中の魔石が微かに温もりを伝えてくれる。
アルヴィンが口を開いた。
「領民諸君。近頃、この領内であらぬ噂が流れていることは承知している」
広場が静まり返った。
「リーゼ・フォン・ヴァイセンに関する中傷だ。彼女が聖女の力を偽っている、公爵を誘惑して地位を得た、結界修復は嘘だ。そういった類いの話だ」
人々の間にざわめきが走った。
「結論から言う。全て嘘だ」
アルヴィンの声は広場の隅まで届いた。
「噂を流していたのは、王都から送り込まれた工作員だ。すでに三名を拘束し、残る二名もこの場にいる。そこだ」
アルヴィンが顎で示すと、広場の端に潜んでいた二人の男を、騎士たちが素早く取り押さえた。男たちは観念したように抵抗しなかった。
「この者たちは、北方の安定を脅かすために送り込まれた間者だ。誰の差し金かは現在調査中だが、目的はリーゼ嬢の信用を失墜させることにある」
領民たちの表情が変わった。怒りの声が上がり始める。
「よそ者が俺たちを騙そうとしたのか!」
「リーゼ様を陥れようなんて許せん!」
アルヴィンが手を挙げると、声が収まった。
「噂に惑わされた者を責めるつもりはない。だが、事実を自分の目で見てほしい」
アルヴィンがリーゼに目を向けた。頷いた。
リーゼは演壇の前に進み出た。百を超える視線が集まる。足が震えそうになったが、堪えた。
両手を前に出す。手袋の中で掌が温まる。体の奥底の泉に意識を沈め、核を形成する。
光が掌に灯った。
核を広げる。ゆっくりと、しかし確実に。光の膜がリーゼの体から広がり、演壇を覆い、広場の中央を包み込んでいく。
領民たちから歓声が上がった。
「光だ……」
「結界だ。本物の結界だ」
光の膜は広場全体を半球状に覆った。薄い虹色の天蓋を通して、冬の空が見える。温かい。結界の内側は風が遮られ、ほのかな温もりに満ちていた。
子供たちが歓声を上げた。大人たちも目を見開いている。これほどの結界を目の前で見たことがある者は、ほとんどいなかった。
「これがリーゼ・フォン・ヴァイセンの力だ」
アルヴィンの声が静かに響いた。
「彼女の力と人格を、自分の目で見よ」
結界は一分ほど維持されてから、静かに消えた。リーゼは少しよろめいたが、すぐに姿勢を立て直した。
広場が沸いた。
「リーゼ様万歳!」
「北の光だ! 我らの聖女だ!」
人々が駆け寄ってきた。手を握られ、肩を叩かれ、感謝の言葉を浴びせられる。
リーゼは涙が溢れるのを止められなかった。
噂は消えた。いや、噂よりも強いものが、この場に生まれた。自分の目で見た真実。それは百の言葉よりも雄弁だった。
人垣の向こうで、アルヴィンが腕を組んで立っていた。その口元には、見たことのない表情が浮かんでいた。
誇らしげな、穏やかな、微かな笑み。
リーゼはその笑みを目に焼きつけた。涙で滲んでいたけれど、はっきりと見えた。
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