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第三章 王都の策謀と迫る脅威
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捕らえた工作員の尋問は、ハインリヒが担当した。
三名のうち二名は雇われただけの小悪党で、報酬と引き換えに噂を流す仕事を請け負っていた。だが残る一名、リーダー格の男は少し毛色が違った。元王都の裏社会に通じた情報屋で、口が堅い。
ハインリヒは焦らなかった。温かい食事と毛布を与え、穏やかに語りかけた。
「別に拷問はしませんよ。うちの公爵様はそういう趣味はありませんし。ただ、正直に話してくれれば罪は問わない。嘘をつけば、北方の冬を牢の中で過ごすことになる。どちらが賢いかは、ご自身でおわかりでしょう」
三日目の朝、男は口を割った。
「依頼主はミレーユ・パーシヴァル。クラウス第二王子の愛妾だ。直接会ったのは一度だけで、後は全て手紙でのやり取りだった」
ハインリヒは眉を上げた。予想の範囲内だったが、証拠が得られたのは大きい。
「もう一つ、興味深い話がある」
男が続けた。
「ミレーユの部屋で打ち合わせをした時に、机の上に手紙が何通か置いてあった。封蝋がヴァイセン家の紋章だったから覚えている」
「ヴァイセン家の手紙が、ミレーユの手元に?」
「いや、違う。手紙自体はヴァイセン家の令嬢宛のようだった。北方から届いた手紙を、別の令嬢から買い取ったか何かしたんだろう」
ハインリヒの目が鋭くなった。北方からヴァイセン家の令嬢に届いた手紙。それはリーゼが実家に送った手紙ではないか。
だがヴァイセン家の令嬢は二人いる。リーゼと、姉のグレーテル。リーゼの手紙がグレーテルに握り潰されたことは既に判明している。そのグレーテルからミレーユに手紙が渡った可能性がある。
「詳しく聞かせてもらおう」
その日の夕方、ハインリヒはアルヴィンとリーゼを執務室に呼んだ。
「工作員の尋問結果をまとめました。まず、噂を流す指示を出したのはミレーユ・パーシヴァルで確定です」
リーゼは小さく息をついた。薄々感じてはいた。自分を排除したい人間は限られている。
「それから、もう一つ」
ハインリヒが言葉を選ぶように間を置いた。
「リーゼ嬢がご実家に送られたお手紙のことです。以前お伝えしたとおり、お姉様のグレーテル嬢が握り潰しておいででしたが、どうやらその手紙がミレーユの手に渡っている可能性があります」
「姉がミレーユに……」
「直接の繋がりがあるかはまだ不明です。仲介者がいた可能性もある。ですが、少なくともグレーテル嬢がリーゼ嬢の手紙を外部に流したことは間違いないでしょう」
リーゼは膝の上で拳を握った。
手紙の内容を思い返す。北方での暮らしのこと、訓練のこと、領民との交流。悪用されるような内容ではないが、リーゼの近況を知る手がかりにはなる。ミレーユはそれを利用して、より効果的な中傷を仕組んだのだ。
「姉が、そんなことを……」
声が震えた。手紙を握り潰すだけならまだ理解できた。妹が疎ましかったのだろうと、諦めもついた。だが敵に情報を売り渡すとは。
アルヴィンが静かに言った。
「血の繋がりが、必ずしも味方を意味するわけではない」
冷たい言葉だったが、リーゼには優しさに聞こえた。同じように家族に恵まれなかった人の言葉だから。
「この件は証拠を整理して保管しておく。いずれ王都と交渉する際の切り札になる」
ハインリヒが頷いた。
「ミレーユの工作が王子の指示によるものか、単独犯かも重要な論点です。もし王子が関与していれば、王家にとって大きなスキャンダルになります」
リーゼは深呼吸をした。悲しみを飲み込み、前を向く。
「ハインリヒさん、ありがとうございます。全てを教えてくださって」
「隠しても仕方のないことですから。それに、リーゼ嬢は知る権利がある」
リーゼは頷いた。
もう実家への手紙は書かない。そう静かに決めた。あの家に、もう自分の言葉を届ける意味はない。
窓の外で、夕日が雪原を赤く染めていた。長い影が伸びている。
リーゼの影は、北方の大地にしっかりと根を下ろしていた。
三名のうち二名は雇われただけの小悪党で、報酬と引き換えに噂を流す仕事を請け負っていた。だが残る一名、リーダー格の男は少し毛色が違った。元王都の裏社会に通じた情報屋で、口が堅い。
ハインリヒは焦らなかった。温かい食事と毛布を与え、穏やかに語りかけた。
「別に拷問はしませんよ。うちの公爵様はそういう趣味はありませんし。ただ、正直に話してくれれば罪は問わない。嘘をつけば、北方の冬を牢の中で過ごすことになる。どちらが賢いかは、ご自身でおわかりでしょう」
三日目の朝、男は口を割った。
「依頼主はミレーユ・パーシヴァル。クラウス第二王子の愛妾だ。直接会ったのは一度だけで、後は全て手紙でのやり取りだった」
ハインリヒは眉を上げた。予想の範囲内だったが、証拠が得られたのは大きい。
「もう一つ、興味深い話がある」
男が続けた。
「ミレーユの部屋で打ち合わせをした時に、机の上に手紙が何通か置いてあった。封蝋がヴァイセン家の紋章だったから覚えている」
「ヴァイセン家の手紙が、ミレーユの手元に?」
「いや、違う。手紙自体はヴァイセン家の令嬢宛のようだった。北方から届いた手紙を、別の令嬢から買い取ったか何かしたんだろう」
ハインリヒの目が鋭くなった。北方からヴァイセン家の令嬢に届いた手紙。それはリーゼが実家に送った手紙ではないか。
だがヴァイセン家の令嬢は二人いる。リーゼと、姉のグレーテル。リーゼの手紙がグレーテルに握り潰されたことは既に判明している。そのグレーテルからミレーユに手紙が渡った可能性がある。
「詳しく聞かせてもらおう」
その日の夕方、ハインリヒはアルヴィンとリーゼを執務室に呼んだ。
「工作員の尋問結果をまとめました。まず、噂を流す指示を出したのはミレーユ・パーシヴァルで確定です」
リーゼは小さく息をついた。薄々感じてはいた。自分を排除したい人間は限られている。
「それから、もう一つ」
ハインリヒが言葉を選ぶように間を置いた。
「リーゼ嬢がご実家に送られたお手紙のことです。以前お伝えしたとおり、お姉様のグレーテル嬢が握り潰しておいででしたが、どうやらその手紙がミレーユの手に渡っている可能性があります」
「姉がミレーユに……」
「直接の繋がりがあるかはまだ不明です。仲介者がいた可能性もある。ですが、少なくともグレーテル嬢がリーゼ嬢の手紙を外部に流したことは間違いないでしょう」
リーゼは膝の上で拳を握った。
手紙の内容を思い返す。北方での暮らしのこと、訓練のこと、領民との交流。悪用されるような内容ではないが、リーゼの近況を知る手がかりにはなる。ミレーユはそれを利用して、より効果的な中傷を仕組んだのだ。
「姉が、そんなことを……」
声が震えた。手紙を握り潰すだけならまだ理解できた。妹が疎ましかったのだろうと、諦めもついた。だが敵に情報を売り渡すとは。
アルヴィンが静かに言った。
「血の繋がりが、必ずしも味方を意味するわけではない」
冷たい言葉だったが、リーゼには優しさに聞こえた。同じように家族に恵まれなかった人の言葉だから。
「この件は証拠を整理して保管しておく。いずれ王都と交渉する際の切り札になる」
ハインリヒが頷いた。
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「隠しても仕方のないことですから。それに、リーゼ嬢は知る権利がある」
リーゼは頷いた。
もう実家への手紙は書かない。そう静かに決めた。あの家に、もう自分の言葉を届ける意味はない。
窓の外で、夕日が雪原を赤く染めていた。長い影が伸びている。
リーゼの影は、北方の大地にしっかりと根を下ろしていた。
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