私はもう、あなたの所有物ではありません

たくわん

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第四章 対決と真実の暴露

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結界修復から二日後、リーゼたちは王都を発つ準備を始めていた。

国王から引き留めの言葉はあったが、「結界は自律維持するよう設計しました」というリーゼの説明に納得し、深い感謝とともに見送りを約束した。

出発は翌朝と決まった。

その日の夕方、リーゼは王宮の庭園を歩いていた。ここは七年前、幼いリーゼが枯れかけた花に話しかけていた場所だ。

冬枯れの花壇の前にしゃがみ、土に手を触れた。冷たい土から、微かに古い力の残り香を感じる。七年前の自分が無意識に張った結界の痕跡だろうか。

「ここだったのか」

背後からアルヴィンの声がした。

振り返ると、彼は庭園の入口に立っていた。夕暮れの光を背に受けて、長い影が伸びている。

「七年前に俺がお前を見つけた場所だ」

「覚えていてくださったのですね」

「忘れるわけがない」

アルヴィンが歩み寄り、リーゼの隣に立った。二人で冬枯れの花壇を見下ろす。

「あの時のお前は、枯れかけた花に話しかけていた。こう言っていた。大丈夫、春になればまた咲けるよ、と」

リーゼは目を見開いた。声まで聞いていたのか。

「十八の俺には、それが衝撃だった。誰も見ていない場所で、枯れた花に優しさを注ぐ子供。俺はそれまで、そういう人間を知らなかった」

アルヴィンが花壇の縁石に腰を下ろした。リーゼも隣に座った。肩が触れそうな距離。

「父は厳格で、周囲の人間は皆利害で動いていた。北方の領主として尊敬はされても、好意を向けられたことはなかった。だからあの光景は、俺にとって」

言葉を探すように、アルヴィンが空を見上げた。夕焼けが雲を赤く染めている。

「救いだった」

リーゼの胸が震えた。

「お前の力に気づいたのは、その後だ。最初に心を動かされたのは、力ではなく、お前自身だった」

アルヴィンがリーゼを見た。蒼い瞳に夕焼けの赤が映っている。

「北方で半年、お前と過ごして確信した。俺はお前に、ただ結界師として来てほしかったのではない」

心臓が跳ねた。

「お前に、俺の隣にいてほしかった。聖女としてではなく。結界師としてでもなく。ただ、お前自身に」

風が吹いた。冬の冷たい風。だがリーゼの体は熱かった。

「言葉にするのが遅くなった。俺は不器用だからな。だが、もうごまかせない」

アルヴィンが正面からリーゼに向き直った。いつもの無表情ではなかった。緊張と決意が混じった、見たことのない真剣な顔。

「リーゼ。北に帰ろう。俺の隣にいてほしい。聖女としてではなく……俺の、伴侶として」

世界が止まった気がした。

夕焼けの庭園で、二人きりで、この不器用な人がようやく言葉にしてくれた。七年間の想いが、一つの言葉に結実した。

リーゼの目から涙がこぼれた。

「ずるいです」

「何がだ」

「こんな場所で、こんな綺麗な夕焼けの中で言うなんて」

声が震えている。涙が止まらない。だが笑みも止まらなかった。

「はい」

「はい?」

「はい。あなたの隣にいたいです。ずっと」

アルヴィンの目が大きく見開かれた。そしてゆっくりと、ほんの微かに、口元が緩んだ。

リーゼが知る限り、初めて見る笑顔だった。

不器用で、ぎこちなくて、でもこの世の何よりも美しい笑顔。

アルヴィンの手がリーゼの手を包んだ。大きくて硬くて温かい手。

「帰ろう。北に」

「はい。帰りましょう」

夕焼けが二人を赤く照らしていた。冬枯れの庭園で、かつて花に話しかけていた少女と、遠くからそれを見つめていた青年が、ようやく隣り合った。

七年越しの想いが、実を結んだ瞬間だった。


客室に戻ると、エルザとハインリヒが待ち構えていた。

リーゼの赤い目と、アルヴィンの耳の赤さを見て、二人は全てを察したらしい。

エルザが両手を合わせ、涙ぐんだ。

「おめでとうございます、リーゼ様」

ハインリヒはにやりと笑い、アルヴィンの背を叩いた。

「ようやくですな、公爵様。十年来の側近として、感慨深いものがあります」

「うるさいぞ、ハインリヒ」

「いやいや、今夜ばかりはうるさくさせていただきますよ。祝い酒の手配をしなくては」

アルヴィンは渋い顔をしていたが、その目元は柔らかかった。

リーゼはエルザに抱きしめられながら、手の中に残るアルヴィンの温もりを感じていた。

明日、北に帰る。今度はただの客人としてではなく、この人の隣に立つ者として。

窓の外で、夕焼けが夜に変わろうとしていた。最初の星が一つ、空に灯った。
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