教養が足りない、ですって

たくわん

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レオナルドの提案を受け入れた後、エリーゼは不安を口にした。

「陛下、しかし私が相談役になれば、社交界は騒ぎになります」

レオナルドは頷いた。

「だからこそ、非公式の相談役として働いていただきたいのです」

彼は椅子に座り、エリーゼにも座るよう促した。

「表向きは、あなたはただの侯爵令嬢のまま。しかし、実際には私の最も信頼する助言者として、王国の政策に関わっていただく」
「つまり、これまでと同じように?」
「いいえ、違います」

レオナルドは真剣な目で彼女を見た。

「これからは、直接私と協議できる。手紙のやり取りではなく、対面で。そして、より深い情報を共有できる」

エリーゼは考え込んだ。

「でも、なぜ公表しないのですか?」
「二つ理由があります」

レオナルドは指を立てた。

「一つ、古い貴族たちは女性が政治に関わることを好ましく思わない。公表すれば、彼らの反発を招き、あなたの提言を受け入れなくなる可能性がある」
「もう一つは?」
「あなた自身の安全のためです」

レオナルドの声が低くなった。

「政治には敵がつきもの。あなたの提言で損をする者たちもいる。もし公になれば、あなたが標的にされる可能性がある」

エリーゼは背筋が寒くなった。確かに、その通りだ。

「分かりました。陰から支えます」
「ありがとうございます」

レオナルドは微笑んだ。

「では、具体的な取り決めをしましょう。月に二度、あなたは王宮を訪れる。名目は『父の代理で陛下に謁見』とします」
「それなら、不自然ではありませんね」
「ええ。そして、私の執務室で政策について協議する。必要な資料も、全て見ていただきます」

エリーゼの目が輝いた。

「本当に、全ての情報を?」
「はい。あなたは今や、私の相談役なのですから」

レオナルドは立ち上がった。

「それと、もう一つ」

彼は窓の外を見た。

「私は、あなたに感謝しています。婚約破棄という辛い経験をした後も、王国のために力を尽くしてくれた」
「陛下」

エリーゼも立ち上がった。

「婚約破棄は、私にとって不幸ではありませんでした。むしろ、本当の自分を見つける機会でした」

彼女は微笑んだ。

「アレクシスが私を必要としなかったおかげで、陛下が私を必要としてくださった。これは、運命だったのかもしれません」

レオナルドは彼女を見つめた。

「あなたは、本当に強い」
「いいえ、弱かったからこそ、強くなろうとしたんです」

二人の間に、理解と信頼が流れていた。

図書室の扉がノックされた。

「陛下、そろそろお時間です」

側近の声に、レオナルドは頷いた。

「では、エリーゼ様。三日後、王宮でお待ちしています」
「はい、陛下」

レオナルドが部屋を出た後、エリーゼは椅子に座り込んだ。心臓が激しく鼓動している。

「私が、国王陛下の相談役」

信じられないことが起きた。かつて社交界の笑い者だった自分が、今や王国の政策に関わる立場になった。

「お嬢様」

マルタが入ってきた。

「陛下は、お帰りになりました。一体、何があったんですか?」
「秘密よ、マルタ」

エリーゼは微笑んだ。

「でも、素晴らしいことが起きたの」

その夜、エリーゼは眠れなかった。興奮と期待で胸がいっぱいだった。

一方、王宮に戻ったレオナルドも、側近に報告していた。

「やはり、彼女が『憂国の民』でした」
「では、これから彼女を相談役に?」
「ええ、非公式にね」

レオナルドは満足そうに頷いた。

「彼女は、私が求めていた人材だ。知性、洞察力、そして何より、王国を想う心を持っている」

側近が慎重に尋ねた。

「陛下、しかし彼女は若い女性です。古い貴族たちは」
「だから秘密にするのです」

レオナルドは断言した。

「性別など関係ない。必要なのは能力だ。そして、彼女にはその能力がある」

彼は窓の外を見た。

「これから、王国は大きく変わる。エリーゼと共に」

三日後、エリーゼは父に同行する形で王宮を訪れた。

「エリーゼ、緊張しているな」

馬車の中で、侯爵が娘を見た。

「少しだけ」

エリーゼは微笑んだ。父には、まだ全てを話していない。いや、話せない。

王宮に到着すると、側近が出迎えた。

「ハルトマン侯爵、そしてエリーゼ様。陛下がお待ちです」

侯爵は謁見の間へ、エリーゼは別の部屋へと案内された。

執務室の扉が開く。そこには、レオナルドが一人で立っていた。

「ようこそ、エリーゼ」

彼は親しげに微笑んだ。

「こちらへどうぞ」

机の上には、様々な資料が広げられている。財政報告書、貿易統計、農業生産データ。

「これが、現在の王国の状況です」

レオナルドが説明を始める。エリーゼは真剣に聞き入った。

「北部の食糧問題は改善しましたが、南部で新たな問題が発生しています」
「どのような?」

エリーゼが尋ねる。

「港の整備が遅れていて、貿易が滞っている。これについて、あなたの意見を聞きたい」

エリーゼは資料を見ながら考えた。

「港の整備には時間がかかります。だが、短期的には」

彼女は別の資料を手に取った。

「近隣の小さな港を活用できないでしょうか。分散すれば、一つの港への負担が減ります」

レオナルドは感心した。

「なるほど。すぐに検討させましょう」

二人は数時間、政策について議論した。時間を忘れるほど、充実した時間だった。

「エリーゼ、あなたと話していると、新しい視点が得られます」

レオナルドが言った。

「私も同じです、陛下。資料を直接見られるのは、とても勉強になります」

エリーゼは本当に楽しそうだった。

協議が終わり、エリーゼが立ち上がった時、レオナルドが言った。

「次回は、五日後。また、お待ちしています」
「はい、必ず参ります」

エリーゼが部屋を出ると、廊下で父が待っていた。

「長かったな。陛下と何を話していたんだ?」
「色々と」

エリーゼは曖昧に答えた。

「お父様、これから定期的に王宮に参ることになりそうです」
「そうか」

侯爵は娘の輝く顔を見て、微笑んだ。

「陛下が、お前の才能を認めてくださったのだな」
「お父様、ご存知だったんですか?」
「お前が『憂国の民』だということか?ああ、知っていたよ」

エリーゼは驚いた。

「いつから?」
「最初の提言書を送った時からだ。お前の筆跡を変えても、考え方までは変えられない」

侯爵は娘の肩を叩いた。

「誇りに思うぞ、エリーゼ」

馬車が王宮を離れる時、エリーゼは振り返った。

あの執務室で、国王と対等に議論できる。それは、夢のようなことだった。

「私の道は、まだ始まったばかり」

エリーゼは静かに微笑んだ。

新しい人生が、確実に動き始めていた。
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