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村に戻って、一ヶ月が経った。
季節は秋から冬へと移り変わり、村には初雪が降った。
セレスティアの生活は、以前と変わらないようでいて、少しずつ変わっていた。
朝、猫たちに餌をやる。ノアの家に行き、子猫たちの世話を手伝う。マーサの店で買い物をし、リーナとお茶を飲む。
でも、一つだけ大きく変わったことがある。
ノアとの関係だ。
「セレスティア」
ある日の夕方、ノアが真剣な顔で言った。
「話がある」
「何ですか」
「俺と——結婚してくれ」
セレスティアは目を見開いた。
「結婚……」
「急に言って悪い。でも、ちゃんと言葉にしておきたかった」
ノアは相変わらず無愛想だったが、耳が真っ赤になっている。
「お前を、一生守りたい。そう思っている」
セレスティアの目から涙が溢れた。
「はい」
「……本当にいいのか。俺は——」
「いいんです」
セレスティアはノアの手を取った。
「私も、ノアさんと一緒にいたい。ずっと、そう思っていました」
「……そうか」
ノアは不器用に微笑んだ。
その笑顔を見たのは、初めてだった。
結婚の報せを、王都の家族に送った。
すぐに返事が届いた。
父からの手紙には、こう書かれていた。
『セレスティアへ
ノア君との結婚、心から祝福する。
お前が自分で選んだ道だ。何も心配していない。
ただ、一つだけ頼みがある。
結婚式の前に、もう一度会いに来てくれないか。
父として、娘に伝えておきたいことがある。
体調は良くなっている。心配はいらない。
父より』
セレスティアは、すぐに王都へ向かうことにした。
今度は、一人で。
王都に着くと、父は書斎で待っていた。
以前より顔色が良く、椅子に座って本を読んでいた。
「セレスティア、よく来たな」
「お父様、お元気そうで何よりです」
「ノアの薬のおかげだ。あれ以来、調子がいい」
父は本を閉じ、娘に向き合った。
「さて、お前に話しておきたいことがある」
「何でしょうか」
「私の人生について——そして、お前の母との馴れ初めについてだ」
父は、遠い目をして語り始めた。
「私がお前の母と出会ったのは、二十五歳の時だった。社交界のパーティーでな」
「お母様は、男爵家のご出身でしたよね」
「ああ。身分は低かったが、誰よりも美しく、聡明だった。一目で惹かれた」
父は微笑んだ。
「でも、周囲は猛反対した。伯爵家の跡取りが、男爵家の娘と結婚するなど、ありえないと」
「……」
「私の父——お前の祖父は、特に厳しかった。『家の恥だ』と言われた。縁を切るとまで言われた」
セレスティアは息を飲んだ。
「それでも——お母様と結婚されたのですね」
「ああ。自分の心に従った。後悔はしていない」
父がセレスティアを見た。
「お前も、同じだ」
「私……?」
「周囲の反対を押し切って、自分の道を選んだ。私と同じだよ」
父は立ち上がり、窓辺に行った。
「最初、私はお前の選択に反対だった。正直に言えばな」
「……」
「伯爵家の娘が、田舎の医者と一緒になる。世間体が悪い、噂になる——そんなことばかり考えていた」
「お父様……」
「でも、お前が変わっていくのを見て、考えが変わった」
父が振り返った。
「お前は、王都にいた頃より——生き生きしている。自分の言葉で話し、自分の足で立っている」
「……」
「それは、私が教えられなかったことだ。ノア君が、お前にそれを教えてくれたのだろう」
セレスティアの目から涙が溢れた。
「お父様……」
「だから、心から祝福する。お前の結婚を」
父がセレスティアを抱きしめた。
「幸せになれ、セレスティア。これからの人生を、思いきり楽しめ」
「はい……はい、お父様」
帰り際、父がもう一つ言った。
「ノア君に、伝えておいてくれ」
「何をですか」
「私の娘を泣かせたら、許さん——とな」
父はいたずらっぽく笑った。
「冗談だ。まあ、半分はな」
「お父様ったら……」
セレスティアも笑った。
父の愛情が、確かに伝わってきた。
村に戻ると、ノアが待っていた。
「どうだった」
「お父様に、祝福してもらいました」
「そうか」
「それと、伝言があります」
「伝言?」
「『娘を泣かせたら許さん』——だそうです」
ノアの顔が引きつった。
「……厳しい親父さんだな」
「でも、半分は冗談だって」
「半分は本気ってことだろ」
セレスティアは笑った。
「大丈夫ですよ。私、ノアさんといると——泣くことはあっても、悲しい涙じゃないですから」
「……そうか」
ノアは照れくさそうに目をそらした。
でも、その口元は緩んでいた。
「結婚式の準備、進めるか」
「はい」
二人は、手を取り合って歩き出した。
新しい人生へ向けて。
季節は秋から冬へと移り変わり、村には初雪が降った。
セレスティアの生活は、以前と変わらないようでいて、少しずつ変わっていた。
朝、猫たちに餌をやる。ノアの家に行き、子猫たちの世話を手伝う。マーサの店で買い物をし、リーナとお茶を飲む。
でも、一つだけ大きく変わったことがある。
ノアとの関係だ。
「セレスティア」
ある日の夕方、ノアが真剣な顔で言った。
「話がある」
「何ですか」
「俺と——結婚してくれ」
セレスティアは目を見開いた。
「結婚……」
「急に言って悪い。でも、ちゃんと言葉にしておきたかった」
ノアは相変わらず無愛想だったが、耳が真っ赤になっている。
「お前を、一生守りたい。そう思っている」
セレスティアの目から涙が溢れた。
「はい」
「……本当にいいのか。俺は——」
「いいんです」
セレスティアはノアの手を取った。
「私も、ノアさんと一緒にいたい。ずっと、そう思っていました」
「……そうか」
ノアは不器用に微笑んだ。
その笑顔を見たのは、初めてだった。
結婚の報せを、王都の家族に送った。
すぐに返事が届いた。
父からの手紙には、こう書かれていた。
『セレスティアへ
ノア君との結婚、心から祝福する。
お前が自分で選んだ道だ。何も心配していない。
ただ、一つだけ頼みがある。
結婚式の前に、もう一度会いに来てくれないか。
父として、娘に伝えておきたいことがある。
体調は良くなっている。心配はいらない。
父より』
セレスティアは、すぐに王都へ向かうことにした。
今度は、一人で。
王都に着くと、父は書斎で待っていた。
以前より顔色が良く、椅子に座って本を読んでいた。
「セレスティア、よく来たな」
「お父様、お元気そうで何よりです」
「ノアの薬のおかげだ。あれ以来、調子がいい」
父は本を閉じ、娘に向き合った。
「さて、お前に話しておきたいことがある」
「何でしょうか」
「私の人生について——そして、お前の母との馴れ初めについてだ」
父は、遠い目をして語り始めた。
「私がお前の母と出会ったのは、二十五歳の時だった。社交界のパーティーでな」
「お母様は、男爵家のご出身でしたよね」
「ああ。身分は低かったが、誰よりも美しく、聡明だった。一目で惹かれた」
父は微笑んだ。
「でも、周囲は猛反対した。伯爵家の跡取りが、男爵家の娘と結婚するなど、ありえないと」
「……」
「私の父——お前の祖父は、特に厳しかった。『家の恥だ』と言われた。縁を切るとまで言われた」
セレスティアは息を飲んだ。
「それでも——お母様と結婚されたのですね」
「ああ。自分の心に従った。後悔はしていない」
父がセレスティアを見た。
「お前も、同じだ」
「私……?」
「周囲の反対を押し切って、自分の道を選んだ。私と同じだよ」
父は立ち上がり、窓辺に行った。
「最初、私はお前の選択に反対だった。正直に言えばな」
「……」
「伯爵家の娘が、田舎の医者と一緒になる。世間体が悪い、噂になる——そんなことばかり考えていた」
「お父様……」
「でも、お前が変わっていくのを見て、考えが変わった」
父が振り返った。
「お前は、王都にいた頃より——生き生きしている。自分の言葉で話し、自分の足で立っている」
「……」
「それは、私が教えられなかったことだ。ノア君が、お前にそれを教えてくれたのだろう」
セレスティアの目から涙が溢れた。
「お父様……」
「だから、心から祝福する。お前の結婚を」
父がセレスティアを抱きしめた。
「幸せになれ、セレスティア。これからの人生を、思いきり楽しめ」
「はい……はい、お父様」
帰り際、父がもう一つ言った。
「ノア君に、伝えておいてくれ」
「何をですか」
「私の娘を泣かせたら、許さん——とな」
父はいたずらっぽく笑った。
「冗談だ。まあ、半分はな」
「お父様ったら……」
セレスティアも笑った。
父の愛情が、確かに伝わってきた。
村に戻ると、ノアが待っていた。
「どうだった」
「お父様に、祝福してもらいました」
「そうか」
「それと、伝言があります」
「伝言?」
「『娘を泣かせたら許さん』——だそうです」
ノアの顔が引きつった。
「……厳しい親父さんだな」
「でも、半分は冗談だって」
「半分は本気ってことだろ」
セレスティアは笑った。
「大丈夫ですよ。私、ノアさんといると——泣くことはあっても、悲しい涙じゃないですから」
「……そうか」
ノアは照れくさそうに目をそらした。
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「結婚式の準備、進めるか」
「はい」
二人は、手を取り合って歩き出した。
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