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第1章 婚約破棄の章
〈3〉偉大な男(エドガー視点)
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「お引き取りください」
「はぁ?」
友人たちと楽しく庶民の店で酒を飲んだ翌日。俺は婚約者であるロティーナの家……アレクサンドルト伯爵家の門の前にいた。
いつもなら門の鍵を開けて中へ招き入れてくれる伯爵家の老執事が門の内側から俺を拒否する言葉を吐いたのだ。
せっかくロティーナに会いに来てやったと言うのに、この俺を門前払いにするなんてどういうつもりだ!と怒りが出そうになったがぐっと堪える。昨夜は友人たちに「ロティーナ嬢もだが、婿入りするんだったら伯爵家の執事とかにも気に入られとかないと後々面倒だぞ」とアドバイスをもらったことを思い出したからだ。
この老執事はロティーナが生まれる前からいる古株でそれなりに発言力を持っているようだから敵に回すと厄介かもしれない。まぁ、全ては結婚して俺が伯爵家を継ぐまでの我慢だ。そしたら真っ先にこの老いぼれをクビにしてやろうと思った。
「俺はロティーナに会いに来たんだ。婚約者が会いに来たとつたえ「お嬢様はご多忙につき、事前にお約束のない方とはお会いになりません。どうぞお引き取りください」えっ、ちょっ……」
取り付く島がないとはこういうことか。と言うほどに老執事は冷たい視線を向け頭を下げたかと思うと踵を返して屋敷へと戻ってしまったのだ。
「お、おい!このエドガーが来たと伝えろと言っているだろう?!」
どれだけ叫んでも老執事が振り返ることはなく、屋敷からロティーナが出てくることもなかった。
おのれ、あの耄碌じじぃめ!!
全くなんだというんだ!せっかく俺がわざわざご機嫌取りにきてやったと言うのにこんな対応をするなんて……!ロティーナは使用人の躾も碌に出来ないようだな!
だいたい多忙だと?!事前に約束がないから会えないだと?!ロティーナのくせに何を忙しいなどと偉そうに言っているんだ!伯爵家は俺が跡継ぎになるのだから忙しくなるのは俺であってロティーナなんかただのお飾りじゃないか!
あの女は何様のつもりだ!?
せっかく俺が2番目に愛を囁いてやったと言うのに調子に乗りやがってぇぇぇ!
怒りに興奮して思わず鉄の門を蹴り上げたがガシャンと音を立てるだけでやはり開く事はない。ただ俺の足の爪先が痛くなっただけだった。ちくしょう!慰謝料を請求してやる!
あぁ、やはりアミィに敵う女などいないな。アミィはいつも優しく微笑んでいて、約束などなくてもいつでも会ってくれていたのに。深夜にアミィの屋敷に忍び込んで明け方にこっそり出ていった時はスリルがあってさらに燃え上がったものだ。
アミィはそれはそれは心の優しい女性だった。ある時だって薔薇の花束をプレゼントしたら「花はいつか枯れてしまう。わたしはあなたから貰うなら永遠に残る物がいいわ」なんて可愛らしい事を言っていた。だから次の日にダイヤのネックレスを贈ったらとても喜んでくれたっけ。
それに比べてロティーナは花束の方が良いと言っていたな。すぐ枯れてしまう花の方がいいなんて、俺からのプレゼントを永遠に残しておこうと思わない冷たい女なんだ。
ついでに言えばロティーナはケチだ。その花束をドライフラワーにするなんて言い出したんだ。花は瑞々しいから美しいのに、わざわざ花のミイラにするなんて何を考えているのやら。花くらい伯爵家の財力があれば好きなだけ買えるくせに「勿体ないから」なんて、ケチにも程があるだろうと思った。
それでも2番目に好きな女だから我慢しているのだ。俺だってやはり好きな女と結婚したいし、伯爵家の権力も欲しいからな。
俺ともあろう男が、とんだ女を好きになってしまったものだ。それでもあの気味の悪い桃色の髪だって頑張って誉めてやってるし、パーティーではちゃんとエスコートもしてやる。なにせ、俺を伯爵家当主にしてくれる大事な女なのだからな。
全く、俺はロティーナをちゃんと愛しているし、ちゃんと大切にしているこんなに良い婚約者なのに、ロティーナが俺を大切にしないのが悪いんだ。
結婚さえすれば……俺がどれだけ偉大な男かしっかりと叩き込んでやるさ。ここで我慢出来る俺はわがままなロティーナとは違うんだというところを見せつけてやらねばならない。
「チッ……!」
結婚するまでの我慢。そう思って、俺は舌打ちをしてから伯爵家を背に踵を返したのだった。
「はぁ?」
友人たちと楽しく庶民の店で酒を飲んだ翌日。俺は婚約者であるロティーナの家……アレクサンドルト伯爵家の門の前にいた。
いつもなら門の鍵を開けて中へ招き入れてくれる伯爵家の老執事が門の内側から俺を拒否する言葉を吐いたのだ。
せっかくロティーナに会いに来てやったと言うのに、この俺を門前払いにするなんてどういうつもりだ!と怒りが出そうになったがぐっと堪える。昨夜は友人たちに「ロティーナ嬢もだが、婿入りするんだったら伯爵家の執事とかにも気に入られとかないと後々面倒だぞ」とアドバイスをもらったことを思い出したからだ。
この老執事はロティーナが生まれる前からいる古株でそれなりに発言力を持っているようだから敵に回すと厄介かもしれない。まぁ、全ては結婚して俺が伯爵家を継ぐまでの我慢だ。そしたら真っ先にこの老いぼれをクビにしてやろうと思った。
「俺はロティーナに会いに来たんだ。婚約者が会いに来たとつたえ「お嬢様はご多忙につき、事前にお約束のない方とはお会いになりません。どうぞお引き取りください」えっ、ちょっ……」
取り付く島がないとはこういうことか。と言うほどに老執事は冷たい視線を向け頭を下げたかと思うと踵を返して屋敷へと戻ってしまったのだ。
「お、おい!このエドガーが来たと伝えろと言っているだろう?!」
どれだけ叫んでも老執事が振り返ることはなく、屋敷からロティーナが出てくることもなかった。
おのれ、あの耄碌じじぃめ!!
全くなんだというんだ!せっかく俺がわざわざご機嫌取りにきてやったと言うのにこんな対応をするなんて……!ロティーナは使用人の躾も碌に出来ないようだな!
だいたい多忙だと?!事前に約束がないから会えないだと?!ロティーナのくせに何を忙しいなどと偉そうに言っているんだ!伯爵家は俺が跡継ぎになるのだから忙しくなるのは俺であってロティーナなんかただのお飾りじゃないか!
あの女は何様のつもりだ!?
せっかく俺が2番目に愛を囁いてやったと言うのに調子に乗りやがってぇぇぇ!
怒りに興奮して思わず鉄の門を蹴り上げたがガシャンと音を立てるだけでやはり開く事はない。ただ俺の足の爪先が痛くなっただけだった。ちくしょう!慰謝料を請求してやる!
あぁ、やはりアミィに敵う女などいないな。アミィはいつも優しく微笑んでいて、約束などなくてもいつでも会ってくれていたのに。深夜にアミィの屋敷に忍び込んで明け方にこっそり出ていった時はスリルがあってさらに燃え上がったものだ。
アミィはそれはそれは心の優しい女性だった。ある時だって薔薇の花束をプレゼントしたら「花はいつか枯れてしまう。わたしはあなたから貰うなら永遠に残る物がいいわ」なんて可愛らしい事を言っていた。だから次の日にダイヤのネックレスを贈ったらとても喜んでくれたっけ。
それに比べてロティーナは花束の方が良いと言っていたな。すぐ枯れてしまう花の方がいいなんて、俺からのプレゼントを永遠に残しておこうと思わない冷たい女なんだ。
ついでに言えばロティーナはケチだ。その花束をドライフラワーにするなんて言い出したんだ。花は瑞々しいから美しいのに、わざわざ花のミイラにするなんて何を考えているのやら。花くらい伯爵家の財力があれば好きなだけ買えるくせに「勿体ないから」なんて、ケチにも程があるだろうと思った。
それでも2番目に好きな女だから我慢しているのだ。俺だってやはり好きな女と結婚したいし、伯爵家の権力も欲しいからな。
俺ともあろう男が、とんだ女を好きになってしまったものだ。それでもあの気味の悪い桃色の髪だって頑張って誉めてやってるし、パーティーではちゃんとエスコートもしてやる。なにせ、俺を伯爵家当主にしてくれる大事な女なのだからな。
全く、俺はロティーナをちゃんと愛しているし、ちゃんと大切にしているこんなに良い婚約者なのに、ロティーナが俺を大切にしないのが悪いんだ。
結婚さえすれば……俺がどれだけ偉大な男かしっかりと叩き込んでやるさ。ここで我慢出来る俺はわがままなロティーナとは違うんだというところを見せつけてやらねばならない。
「チッ……!」
結婚するまでの我慢。そう思って、俺は舌打ちをしてから伯爵家を背に踵を返したのだった。
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