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3章 夢かと思った
14話 魔王と魔女の起こした奇跡
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★14 魔王と魔女の起こした奇跡
「実は俺は今、自分の魔力を使って存在している」
「真の名を教えたらからこの世界にワタシの庇護もなしに居続けられる、と言いたいのか? それこそあり得ない。それは、首から名札をぶら下げて裸体を衆目に晒しているようなものだ。特にアスタフェルオマエは風の魔王として人々に広く周知されており――」
「だが、できてる!」
アスタフェルはひどく真剣な表情でワタシの言葉を遮った。
「魔王の真の名を知るは天地開闢以来お前のみ! きっとなにか奇跡が起きたんだと思う!」
……熱く言い切ってるわりにはふわっとした理論だった。
神話は大雑把なことしか伝えていないから、彼の実態までは分からなかった。もうちょっと……頭が……普通かなって思っていた。
「オマエ……この世の始まりからアホだったのか……」
簡単な感想を述べながらも考える。
魔王の真の名を知るのは確かにワタシのみだ。奴はもともと神族だから、ワタシは神の真の名を知っているといえなくもない。そして、ワタシの正体はアスタフェルが殺そうとした『何か』である。
そのあたりの事実が何らかの作用を世界に対して及ぼし、何かが起こったのだろうという予想はつく。奇跡という思考停止の概念で済ませるのは性に合わない。
「それにな、決定的なことがある。聞きたいか」
「ほう、なんだ」
知的なことには興味がある。
それが魔女ジャンザというものだ。
「俺たちは、契約していない」
「……そうだっけ?」
「本当だ。思い出してみろ、俺達のこれまでを。城の玉座でお前のことぼけーっと考えていたら声が聞こえてきて、ハッとしたらお前が目の前にいて……」
「……それオマエが魔界で召喚に応じたときのことじゃないか?」
「そうだが」
「それはさすがに知らないよ……」
思い出していく。召喚したら殺されかけ、奴に真の名を明かされて粘着され、ワタシは倒れて、回復したらこれで……。
あ、本当だ。
「……え、じゃあオマエ、何が目的でここにいるの? 意味分からない。魔物はあくまでも人間と取引して、欲しいものがあるから人間に力を貸すんだろ? 師匠だって、フィナだってそれで……」
「フィナとは?」
「師匠の使い魔だよ。銀色の大鴉。フィナは師匠の遺体を魔界に持っていった。それが使い魔として働くかわりの対価……そういう契約だった」
「俺は別にお前の遺体なんかいらないが。かわりに嫁になってくれれば。それが契約かな――」
「オマエはハナっから契約なんかしようとしなかった。ただワタシを殺そうとしてきた。真の名を明かしてまでワタシに粘着し、それで自分の魔力を使って自分を維持しているだと? 聖なる神々によって干渉を禁じられている存在であるはずの魔物が。その最たる魔王が。必ず世界による拒絶を受け魔界へと戻されるはずだ、オマエだって一度はそうなりかけたはず……それがこの世界の正しい在り方だ。真の名を知られていようがいまいが関係ない、それは抜け道にはならない。でもオマエはそこいる。ワタシは無事だ。なぜ……?」
理論的な説明がつかない。
世界の法則が、ワタシの目の前で崩れているとしかいえない。もしかしたらこれは本当に、神族が起こした奇跡なのかもしれない。
「俺はお前の夫としてここにいることを自ら選んだ。お前もそれに呼応したのだろう。お互い誰に縛られることなく、自分の意志で求めあったのだ。共にいるためだけに……」
「……待てよ。ということは……もしかして」
混乱の中であることに気づいたワタシは、出し抜けに奴の魔力を取り出した。
銀の光をまとい、再び奴を指差す。
「えっちょっ、カッコいいこと言われたからっていくらなんでも展開早すぎる……」
同時にアスタフェルも銀の光を発する。
「あっ、ジャンザ、やめっ……」
魔力を強くするのと比例して、奴は前のめりになっていった。
キモい。
ワタシは魔力を取り出すのをやめた。
銀の光も消え、解放されたアスタフェルはため息をつく。
ワタシにはなんの影響もない。
……やはり、何度やっても同じ結果になる。これはアスタフェルの魔力だ。
これは……この状況は、使える。
「アスタフェル」
一息ついているアスタフェルに、ワタシは微笑みかけた。同年代の娘がする花のような笑顔ではないが……。
「なんっ……なんだよ」
頬を赤らめて涙目で呼びかけに応えるアスタフェル。すまない、実験に付き合わせて……。
だがこれからはそういうのもう考慮しないから。
「実は俺は今、自分の魔力を使って存在している」
「真の名を教えたらからこの世界にワタシの庇護もなしに居続けられる、と言いたいのか? それこそあり得ない。それは、首から名札をぶら下げて裸体を衆目に晒しているようなものだ。特にアスタフェルオマエは風の魔王として人々に広く周知されており――」
「だが、できてる!」
アスタフェルはひどく真剣な表情でワタシの言葉を遮った。
「魔王の真の名を知るは天地開闢以来お前のみ! きっとなにか奇跡が起きたんだと思う!」
……熱く言い切ってるわりにはふわっとした理論だった。
神話は大雑把なことしか伝えていないから、彼の実態までは分からなかった。もうちょっと……頭が……普通かなって思っていた。
「オマエ……この世の始まりからアホだったのか……」
簡単な感想を述べながらも考える。
魔王の真の名を知るのは確かにワタシのみだ。奴はもともと神族だから、ワタシは神の真の名を知っているといえなくもない。そして、ワタシの正体はアスタフェルが殺そうとした『何か』である。
そのあたりの事実が何らかの作用を世界に対して及ぼし、何かが起こったのだろうという予想はつく。奇跡という思考停止の概念で済ませるのは性に合わない。
「それにな、決定的なことがある。聞きたいか」
「ほう、なんだ」
知的なことには興味がある。
それが魔女ジャンザというものだ。
「俺たちは、契約していない」
「……そうだっけ?」
「本当だ。思い出してみろ、俺達のこれまでを。城の玉座でお前のことぼけーっと考えていたら声が聞こえてきて、ハッとしたらお前が目の前にいて……」
「……それオマエが魔界で召喚に応じたときのことじゃないか?」
「そうだが」
「それはさすがに知らないよ……」
思い出していく。召喚したら殺されかけ、奴に真の名を明かされて粘着され、ワタシは倒れて、回復したらこれで……。
あ、本当だ。
「……え、じゃあオマエ、何が目的でここにいるの? 意味分からない。魔物はあくまでも人間と取引して、欲しいものがあるから人間に力を貸すんだろ? 師匠だって、フィナだってそれで……」
「フィナとは?」
「師匠の使い魔だよ。銀色の大鴉。フィナは師匠の遺体を魔界に持っていった。それが使い魔として働くかわりの対価……そういう契約だった」
「俺は別にお前の遺体なんかいらないが。かわりに嫁になってくれれば。それが契約かな――」
「オマエはハナっから契約なんかしようとしなかった。ただワタシを殺そうとしてきた。真の名を明かしてまでワタシに粘着し、それで自分の魔力を使って自分を維持しているだと? 聖なる神々によって干渉を禁じられている存在であるはずの魔物が。その最たる魔王が。必ず世界による拒絶を受け魔界へと戻されるはずだ、オマエだって一度はそうなりかけたはず……それがこの世界の正しい在り方だ。真の名を知られていようがいまいが関係ない、それは抜け道にはならない。でもオマエはそこいる。ワタシは無事だ。なぜ……?」
理論的な説明がつかない。
世界の法則が、ワタシの目の前で崩れているとしかいえない。もしかしたらこれは本当に、神族が起こした奇跡なのかもしれない。
「俺はお前の夫としてここにいることを自ら選んだ。お前もそれに呼応したのだろう。お互い誰に縛られることなく、自分の意志で求めあったのだ。共にいるためだけに……」
「……待てよ。ということは……もしかして」
混乱の中であることに気づいたワタシは、出し抜けに奴の魔力を取り出した。
銀の光をまとい、再び奴を指差す。
「えっちょっ、カッコいいこと言われたからっていくらなんでも展開早すぎる……」
同時にアスタフェルも銀の光を発する。
「あっ、ジャンザ、やめっ……」
魔力を強くするのと比例して、奴は前のめりになっていった。
キモい。
ワタシは魔力を取り出すのをやめた。
銀の光も消え、解放されたアスタフェルはため息をつく。
ワタシにはなんの影響もない。
……やはり、何度やっても同じ結果になる。これはアスタフェルの魔力だ。
これは……この状況は、使える。
「アスタフェル」
一息ついているアスタフェルに、ワタシは微笑みかけた。同年代の娘がする花のような笑顔ではないが……。
「なんっ……なんだよ」
頬を赤らめて涙目で呼びかけに応えるアスタフェル。すまない、実験に付き合わせて……。
だがこれからはそういうのもう考慮しないから。
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