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第27話 巫貴妃は男装していました:瑞泉視点
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なんで巫貴妃が男装して市場にいてチンピラに絡まれていたんだ? 何があったらそんな愉快なことになるというのだ、いったい……。
「信じられないでしょうね、普通は」
「当たり前だろ! なんだよそれ! 意味分からん! なんだそりゃ! 巫貴妃が男装して街に繰り出しただとぉ!?」
「その通りでございます。そこを龍帝陛下に助けられた、と。いやはや見事な麗しき夫婦愛。まさにこれは運命にございますな」
「綺麗な言葉で有耶無耶に片付けようとするんじゃない。何考えてるんだ、巫貴妃は。その辺のことは聞いたのか?」
「後宮に閉じこもるのは性に合わない、と。そんなことをおっしゃっておいででした」
「それは……まあ分かるが……。でもなんでそれで男装なんかするんだよ……」
「その答えは明確ですよ。男装すれば後宮を出ることができるからです」
「だからってほんとに男装して後宮脱出するなっての……」
俺は頭を抱えた。
後宮の妃たちはみな皇帝の妻である。
その立場上、自由はほとんど無いといっていい。
それを分かって後宮に入ったのではないのか。
なのになんで男装してまで後宮を抜け出す?
「……面白い女、なのか? 巫貴妃よ……」
考えてみれば家出同然で龍に乗って後宮に入りに来た女である。型破りは最初からだった。
だが……。
(あの少年が巫貴妃だったとは……)
それなら納得がいく。後宮の事情に詳しかったことや、妙に巫貴妃に肩入れしたこと。
俺が顔を知らなかったこともだ。巫貴妃に会ったことがないから顔も形も分からない。
「なるほど……。確かに剛胆な女だ……」
後宮に閉じこめられるのは嫌だとか言って、男装して後宮を出てしまうような女。面白い、面白いではないか。
「よし、会おう。巫貴妃に会おう。面と向かって面白い女呼ばわりしてくれよう。準備せよ、世臣! 巫貴妃を呼び出せ!」
「今からですか? 明日会えることになっておりますが。巫貴妃様が陛下に伺候しにくるのをお忘れですか?」
「う、うむ……」
明日か。明日……。
明日というのはなんと遠いのだろう。
同じ宮廷にいるというのに気軽に会いにいけないなんて……。
いや、待て。
巫貴妃は後宮の妃だ。つまり龍帝である俺の妻。
それって俺はいつ彼女に会いに行ってもいいわけだ。
それどころか手を付けてもいい存在なわけで……。こ、子供とか作る相手なわけだしな。
あの少年が。あの少年とそういうことをしても誰も怒らないし、誰も邪魔しない……天国かよ!
「世臣よ。あの少年……、いや巫貴妃はいま後宮にいるのだな?」
「はい、陛下」
「だよな」
母が殺された場所である後宮。
しかし、あの少年である巫貴妃がいる場所でもある。
ためらう俺の脳裏に、あの少年の笑顔が思い浮かんだ。
あの少年に会いたい。いや、巫貴妃に。
巫貴妃。……元の名を成水氷。
俺はその名を血が出るほど深く心に刻みつけた。
この感覚は妙だ、と自分で分かる。
身体の中からわき上がってくる熱が俺の心をじわじわと血だらけにするのだ。
血で染まっていく心は一つのことしか考えられない。
巫貴妃に会いたい。会いたくて会いたくて、もう他にはなにも目に入らない。
会って抱きしめたい。抱きしめられたい。
その巫貴妃が、俺と同衾することを待っている場所……それが後宮なのだ。
「……行くわ、世臣」
ぼそっと、俺は言った。
開いた口から熱い血が出るのではないかと思った。心に刻み込まれた傷から出た血が。
しかし、実際に出たのは熱に浮かされた言葉だった。
「いま行く。すぐ行く。俺、後宮に行く! 枕持って行く! 枕が変わると眠れないから!!!」
「夜までお待ち下さいませ、龍帝陛下。いままで十年弱渡ったこともない後宮ですよ、いきなり行くのはそれこそ失礼というもの。女人の準備は時間がかかるものでございます。なにとぞ夜までご自重くださいませ」
「ぐぅ!」
ここにきて後宮を蔑ろにしてきた罰が当たるというのか!?
俺は悔しさのあまり、思わずぐうの音が出てしまった事にも気づいていなかった。
「信じられないでしょうね、普通は」
「当たり前だろ! なんだよそれ! 意味分からん! なんだそりゃ! 巫貴妃が男装して街に繰り出しただとぉ!?」
「その通りでございます。そこを龍帝陛下に助けられた、と。いやはや見事な麗しき夫婦愛。まさにこれは運命にございますな」
「綺麗な言葉で有耶無耶に片付けようとするんじゃない。何考えてるんだ、巫貴妃は。その辺のことは聞いたのか?」
「後宮に閉じこもるのは性に合わない、と。そんなことをおっしゃっておいででした」
「それは……まあ分かるが……。でもなんでそれで男装なんかするんだよ……」
「その答えは明確ですよ。男装すれば後宮を出ることができるからです」
「だからってほんとに男装して後宮脱出するなっての……」
俺は頭を抱えた。
後宮の妃たちはみな皇帝の妻である。
その立場上、自由はほとんど無いといっていい。
それを分かって後宮に入ったのではないのか。
なのになんで男装してまで後宮を抜け出す?
「……面白い女、なのか? 巫貴妃よ……」
考えてみれば家出同然で龍に乗って後宮に入りに来た女である。型破りは最初からだった。
だが……。
(あの少年が巫貴妃だったとは……)
それなら納得がいく。後宮の事情に詳しかったことや、妙に巫貴妃に肩入れしたこと。
俺が顔を知らなかったこともだ。巫貴妃に会ったことがないから顔も形も分からない。
「なるほど……。確かに剛胆な女だ……」
後宮に閉じこめられるのは嫌だとか言って、男装して後宮を出てしまうような女。面白い、面白いではないか。
「よし、会おう。巫貴妃に会おう。面と向かって面白い女呼ばわりしてくれよう。準備せよ、世臣! 巫貴妃を呼び出せ!」
「今からですか? 明日会えることになっておりますが。巫貴妃様が陛下に伺候しにくるのをお忘れですか?」
「う、うむ……」
明日か。明日……。
明日というのはなんと遠いのだろう。
同じ宮廷にいるというのに気軽に会いにいけないなんて……。
いや、待て。
巫貴妃は後宮の妃だ。つまり龍帝である俺の妻。
それって俺はいつ彼女に会いに行ってもいいわけだ。
それどころか手を付けてもいい存在なわけで……。こ、子供とか作る相手なわけだしな。
あの少年が。あの少年とそういうことをしても誰も怒らないし、誰も邪魔しない……天国かよ!
「世臣よ。あの少年……、いや巫貴妃はいま後宮にいるのだな?」
「はい、陛下」
「だよな」
母が殺された場所である後宮。
しかし、あの少年である巫貴妃がいる場所でもある。
ためらう俺の脳裏に、あの少年の笑顔が思い浮かんだ。
あの少年に会いたい。いや、巫貴妃に。
巫貴妃。……元の名を成水氷。
俺はその名を血が出るほど深く心に刻みつけた。
この感覚は妙だ、と自分で分かる。
身体の中からわき上がってくる熱が俺の心をじわじわと血だらけにするのだ。
血で染まっていく心は一つのことしか考えられない。
巫貴妃に会いたい。会いたくて会いたくて、もう他にはなにも目に入らない。
会って抱きしめたい。抱きしめられたい。
その巫貴妃が、俺と同衾することを待っている場所……それが後宮なのだ。
「……行くわ、世臣」
ぼそっと、俺は言った。
開いた口から熱い血が出るのではないかと思った。心に刻み込まれた傷から出た血が。
しかし、実際に出たのは熱に浮かされた言葉だった。
「いま行く。すぐ行く。俺、後宮に行く! 枕持って行く! 枕が変わると眠れないから!!!」
「夜までお待ち下さいませ、龍帝陛下。いままで十年弱渡ったこともない後宮ですよ、いきなり行くのはそれこそ失礼というもの。女人の準備は時間がかかるものでございます。なにとぞ夜までご自重くださいませ」
「ぐぅ!」
ここにきて後宮を蔑ろにしてきた罰が当たるというのか!?
俺は悔しさのあまり、思わずぐうの音が出てしまった事にも気づいていなかった。
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