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第三章

一瞬で冷める恋と旅立ち①

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 ホテルから自宅に帰ったさくらは、スッキリしていた。恋人だと思っていた人に、最悪の形で裏切られどん底だったはずが、怜のお陰で前を向けた。

 もしかしたら、悠太から言い訳か謝罪の連絡があるかと思っていたが、スマホは鳴ることがなかった。だが、ショックではなく正直ホッとした。

 ただ仕事では、直属の上司だ。嫌でも顔を合わせてしまう。昇進して副社長になる悠太はどう考えているのだろうか。

 周りには関係を知られていないのが幸いなのか、社内では悠太の婚約と副社長昇進が話題になるだけだろう。さくらが捨てられたことは、誰にも知られることはない。

 自主退職、異動、解雇。さくらが問題を起こした訳ではないので、解雇はないはずだ。だが、仕事がやりにくくなることには違いない。

 悠太次第で退職出来るように、『退職届』は用意した。

 週明け、さくらはいつも通り出勤する。オフィスビルが見えたところから、心臓がバクバクする。表情に出さないようにポーカーフェイスを心掛ける。


 やはりと言うべきか、オフィスビルに入ったところから、話題は悠太の婚約だ。

「専務、婚約したね。しかも、副社長になるんだよね」
「ショック~密かに玉の輿狙ってたのに」
「何言ってるの~無理無理」
「わからないじゃない」
「あんな綺麗な秘書が近くにいるのに、違う人と婚約したんだよ」
「確かに~」

 さくらのことまで話題にされている。ここに、捨てられた人がいますよと内心で突っ込めるほど吹っ切れている。それよりも頭にちらつくのは怜のこと。

 ふとした瞬間に、抱かれた快感を思い出してしまう。我を忘れ乱れた恥ずかしさと初めて知る気持ちよさの余韻が、まだ身体に残っているようだ。

 悠太と対峙する前に何を考えているのかと、自分を叱責する。

 エレベーターに一緒に乗り合わせた人達は、秘書のさくらに真相を聞きたいと思っているはずだが、話し掛けづらい雰囲気を醸し出す。

 最上階の役員フロアに着く頃には、エレベーターの中はさくら一人だ。大きく深呼吸して落ち着ける。少し早めの時間で、まだフロアは閑散としている。
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