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第二章
第19話 新学期
しおりを挟む今日から新学期が始まる。流石にこの日ばかりは朝練も休みなので、朝はゆっくりだ。
いつもよりも1時間程遅い時間に目覚ましが鳴り、ぼーっとしながら起きると、ちょうど妹の優が階下のリビングに向かう所だったようで、次いでに俺の部屋の扉をドカドカとけたたましくノックをしながら声を掛けてきた。
「わっくーん、そろそろ起きないと遅刻するよ?」
「……ん、ゎかっ、た……」
朝から騒々しいなと思いながら、ベッドから降りググッと身体を上へ伸ばすと、俺は寝癖頭を直すことも無く着の身着のままで欠伸をしながら階下のリビングに向かった。
リビングに着くと、既にきっちりと支度終えてから朝食の席に着いていた兄は、俺のその気の抜けきった姿を上から下まで視線を動かしながら眺めると、眉を顰めて盛大に溜息を吐いた。
「おはよう。……はぁ、なんだよ、その格好。てか、お前、今日何の日か覚えてる?」
えーと、何の日だったかな……
兄にそう指摘されてなんとか眠い頭を必死に動かしたが……思い当たるものが無い。
如何せん寝起きの働いていない頭を動かした所で、即レスポンスが出来るわけもなく……視線をキョロキョロと動かしながら考える事数分。
あ、今日は短い春休みが開けて新学期が始まる訳だから……
…そうか、始業式だ。
キッチンのカウンターに置かれたカレンダーがふと目に入り、漸くそこで今日が新学期の初日だということに気が付いた俺は、すっかり失念していたことを誤魔化すように大きな欠伸をしながら兄の質問に答えた。
「ふぁぁぁ…おはよぉ。今日……んーと、新学期が始まる日だねぇ……だ、だから、始業式…があるんじゃなかったっけ?あとは、クラス分け?」
よし、俺やり切った!
とりあえず兄の質問の答えはこれで大丈夫だろうと安堵の息を吐くと、再び大きな欠伸が込み上げてきた。
いやー、それにしても眠い、この眠さは何なのだろうか。
俺が呑気にぽやぽやしていると、それを見た兄が何故か額に手を当ててガックリと項垂れた。
あれ?俺なんか間違った事いったっけ?
頭の中が?マークでいっぱいになりながらも俺は眠い目を擦りいつもの席に座る。
俺のその様子に吃驚して目を見開いた兄が、まるで何かを確認するかのように恐る恐る声を掛けてきた。
「……なぁ、お前…それ何かの冗談?」
「へ?何が?」
俺は質問の意味がわからず聞き返すと、兄は手に持っていたトーストをポロリと落として、マジかよ、と呟き、心底呆れたような視線を向けてきた。
うん、これ、俺なんか間違ったみたいだな。
一体何を間違えたか不明だが、兄のこの視線にはもう慣れているので、いつもの事のように受け流そうと心に決めた俺は、とりあえず目の前のプレートからウインナーをひょいと摘んで口に放り込んだ。
軽くボイルしてからフライパンで焼き上げたウインナーは、咀嚼するとパンパンの皮が弾けて肉汁がじゅわぁっと口に溢れる。
あー…うま。ウインナーうめぇなぁ……
俺は悦に浸りながらウインナーをもぎゅもぎゅと噛み締め飲み込む。相変わらずの視線を投げてくる兄を横目に、俺がもう一本ウインナーを摘んで口に入れようとしたその時、兄は少し乱暴にカトラリーを置くと深く長い溜息を吐いて言った。
「……あのさ、始業式の前に、入学式だろうよ。もしかして、忘れてた?」
呆れ顔の兄にそう言われて俺は思わずひゅっと息を呑むと、空気と一緒に咀嚼し始めたばかりののウインナーを飲み込んでしまった。
「んぐっ……ごほごほ…………そう…だったね…ははは、忘れるなんてそんなまさか!…忘れて…ました……はい。」
まだ咀嚼途中のウインナーの細かい肉粒が気管に入ってしまい、ゴホゴホと咽ながら涙目で胸をトントンと叩いてやり過ごした。
しかし、細かい肉粒は厄介なことに今度は喉の奥に貼り付きはじめる。俺は咄嗟に目の前の牛乳のコップをとると、一気にごくごくと飲み、残りの残滓を喉の奥へ流し込んだ。
ゴホゴホと咽ながら、そういえば先月中等部の卒業式があったなぁ…という事を思い出した俺は、その時漸く今日から進学したのだということに気が付き、頭が真っ白になる。
言わずもがな…気が付いたのは今なうな訳なので、この時まで全然実感も湧いているはずもなく、当然今日が入学式だったという認識もない。
突然の事態に寝ぼけた頭の中はぐるぐるパニック状態だ。
色々と頭の処理が追いつかず、思わず乾いた笑いが零れると、妹はそんな俺を残念な物を見るような目で見眺めながら短く嘆息した。
「…わっくんって黙っていればそこそこ見れるのに、ほんとに中身が残念すぎる。」
呆れ顔の兄は慣れたものだが、それに加えて残念な物を見るような妹の視線には流石に居た堪れなくなってくる。
俺はそのふたりからの視線と感じた居た堪れなさを誤魔化すように笑って流す素振りをしながら、テーブルにある牛乳のコップを取り口に運んだ。
すると、すかさず兄から言葉が飛ぶ。
「渉、それ、空だけど。」
「あ……」
兄からの言葉にハッとして手元のコップを見ると、それは確かに空だった。
あ………………そういえば、さっき咽せた時に飲み干したんだった。
「……」
暫し気まずい空気が流れる。その間向けられているふたりの視線が痛い。
俺は視線を泳がせながら、そっと手に持った空のコップをテーブルに置いた。
すると、妹が溜息をひとつ吐くと徐にテーブルの牛乳パックを取り立ち上がって、俺のコップに牛乳を注いで言った。
「わっくんはやっぱり残念イケメンだね。」
はい、仰る通りです。もういいです。俺が悪いです。
俺はガックリと肩を落としながら、ふたりの視線から逃げるように目の前の牛乳を取りちびちびと飲み始めると、それを見てふたりも漸く食事を再開する。
何だか針のむしろだなぁと肩を竦めて黙って黙々とトーストを齧っていると、なんで朝からこんな思いをしなきゃいけないのかとだんだんイライラしてきた。
確かに、何も考えていなかった自分が悪いのかもしれないが、そこまで言われる謂れはない気がする。考え出したらなんだか釈然としなくて俺は心の中で盛大にボヤいた。
ていうか、一貫校なんだから進学した事忘れてても仕方なくない?!
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