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第二章
第21話 謎の新入生代表-後編-
しおりを挟むしかし……早く着きすぎてしまってすっかり拍子抜けしてしまった俺は、とりあえず更衣室に向かうためエントランスに向かって行くと、クラス分けの発表がある事を思い出す。
入学式の際にクラス毎になるのでその時には分かることなのだが折角早く来たことだし、更衣室に行く前に先にエントランスでクラス分け表を確認することにした。
でかでかと張り出されたクラス分け表のA組から順番に見ていく。
俺は……A組か。
この中から自分の名前を探すのは大変かと思ったのだが、案外あっさり見つかってまたまた拍子抜けした。
ついでにクラスメイトの名前を確認していくと、『猫実』の文字を見掛けた。
どうやら新入生代表の猫実も同じクラスらしい。ちなみに梶原とは残念ながらクラスが離れてしまったようなので、後で何組か聞いてみようと思う。
一通り用事も済んだので俺はそのまま階段を降りて更衣室に向かった。流石にこの日くらいは部活の朝練もなく、いつもは賑やかな道場通りもしんとしている。
俺はそんな道場通りを通り過ぎ、更衣室に着くと勢いよく扉を開いた。
すると、姿見の辺りでゆらりと揺れる影が視界の端に映りドキンと心臓が跳ね上がった。
予想外の事態に吃驚し過ぎて足はガクガク震え、思わず声にならない声を上げかけた時、徐に視界の端の影が口を開き声をかけられる。
「……瀬田、何だ、お前随分早いな……」
「ぅひいっ!!!」
一瞬幽霊かと思ったが、どうやら生きている人間だったらしい。
まさかこの時間に更衣室に人がいるとは思ってもいなかったので、いきなり声をかけられて吃驚した俺からはなんとも情けない声が洩れ心臓もバクバクと早い鼓動を打ち続けていた。
って言うか、誰だよ~~~~~涙
「ふっ、お前……てか、すげー酷い格好だな。」
「うおぉっ!?!?」
声を掛けられビクッと身体が跳ねる。思わず涙目になった俺の様子をみて面白そうにくつくつと笑っているソイツは何となく聞き覚えのある声で……
あ、これはもしかして、と思った途端、弾かれたようにハッと顔を上げると、姿見の前で呆れた様な表情の梶原がくつくつと笑いながら何かの原稿を手に持って立っていた。
「はぁぁぁ…梶原かよ……つーかなんでこんな時間にこんなとこいんだよ……心臓止まるかと思った。あーマジ吃驚したわ。」
見慣れた友人・梶原の姿に、はぁっと心からの安堵の息を吐くと、緊張が解けたのか膝が笑ってしまってその場でへなへなと座り込んだ。
うぅ…情けない……
そんな俺を梶原はチラリと一瞥すると、また楽しそうに笑ってから再び手元の原稿に視線を戻した。
「んー、俺は原稿を読んでた。ここの所、引越しとかでバタバタしてたからなかなか時間とれなくてさ。」
梶原はそう言うと、持っていた原稿を俺の方にバサリと投げて寄こした。俺はそれを受け取り原稿の文面に目を落とすと、そこには新入生の挨拶らしき文章が書かれていた。
なるほど、手に持っていた原稿は新入生代表挨拶の原稿だったのか、と目を通しながら梶原に確認をする。
「これ、入学式で読むやつ?ってことは、今回もお前が代表なんだ?」
「んー、そうらしいねぇ。」
「らしいねって……お前、自分の事だろ?まぁ良いけどさ。いやぁ相変わらずスゲーなぁ。流石学年首席サマ。」
「凄いっていうか……面倒なだけだよ。ぶっちゃけ、やりたくないんだけど……」
梶原は面倒くさそうにそう洩らすと、スタスタと小上がりの方に向かいドカッと腰掛け、天井に向かって大きく溜息を吐いた。
「ははは、まーそういうなって。ほい、これ原稿返すな……って、アレ?」
俺はそんな梶原に苦笑いを零しながら原稿を手渡すと、梶原も苦笑しながら俺から原稿を受け取る。
「まぁもう憶えたからこれは要らないけどね。」
そう言って梶原が原稿を横に置いた時、特に何か変わった事をした訳では無いのに、ほんの少しだけ違和感を感じた。
この違和感は何なのだろうか……
突如感じた違和感の正体に心当たりがあるようなないような……
それが何だか分からないが、とにかく何かが引っ掛かって、若干胸の辺りがモヤモヤする。だけど、そのモヤモヤの正体が分からない。
俺は少し考えてそれならばと、一旦この違和感を流すことにして話題を変える事にした。
「梶原…そう言えばクラス分け見てきた?」
「見てきたよ。俺A組だったわ。お前もだろ?」
「うん、そうそう。よっしゃ!同クラだな。ってか……え?A組?」
能天気な俺はいつもならそれで納得する所なのだが、先程感じた違和感といい、何故かこのことも引っ掛かった。
俺はさっき見たクラス分けの掲示を頭に思い浮かべてみるが、そこにはA組に梶原の名前なんて無かったはずだ。俺の見落としだろうか。代わりに、猫実の名前があって「どんなやつなんだろうなぁ。」と思った事を思い出すと同時に、今朝の兄との会話が頭に浮かんできた。
―そういえば、新入生代表で挨拶する猫実?ってやつ。珍しく中等部からの持ち上がりらしいんだけど……
新入生代表
猫実
持ち上がり
兄に言われていたキーワードを思い出すと、先程まではほんの少しだけだった違和感が急激に膨れ上がってきて、 なんだか心がザワザワと落ち着かない。
俺はどうにもザワつく気持ちの悪さに耐えられず、堪らず梶原に訊ねた。
「あのさ、ちょっと聞きたいんだけど……」
「ん?何?」
俺は梶原の横までいって腰掛け、俺が感じた違和感を確認をするように梶原にぶつけた。
「確認なんだけど…今年の新入生代表ってお前で間違いない?俺の兄貴、生徒会長でさ。兄貴から猫実って奴知らない?って聞かれたんだけど…お前知ってる?挨拶もお前じゃなくて、猫実がって聞いてるんだけど……それ変わったの?」
俺がそう訊ねると梶原は少しだけ何かを考えるような表情をした後、にっこりと綺麗な笑顔を作って俺の質問に回答した。
「いや、変わってないよ。ずっと俺だけど。」
「え?お前なの?ずっと?」
「はは、うん。そうだね。変わってないよ。」
梶原から返ってきた答えに戸惑いを隠せず、若干パニックになっている俺を見て梶原は何故か楽しそうに笑いだす。
余計に頭が混乱してきた。
「え?どういうこと?だって、代表は猫実で…お前、梶原だろ?名前違っ……」
混乱してアワアワしている俺を、梶原は片口角を上げて悪戯っぽい表情で見て楽しそうにくつくつと笑うと、次の瞬間、梶原は目玉と心臓が飛び出るような発言をぶち込んできた。
「てか、まだ気が付かないの?猫実は俺だよ。」
「梶原?何言って……」
「んーと、俺さ、実は戸籍上の名前は猫実なんだよね。梶原は父親の姓。」
「は?え?んッ?!」
「だから、猫実は俺だって。」
「えぇっ?!?!?」
梶原いわく、梶原が猫実で、猫実が梶原……
あまりに衝撃的過ぎて俺の頭の理解が追いつかない。キャパオーバーだ。俺がパニックで目を白黒とぱちくりしていると、梶原は心底可笑しそうに声を上げて笑った。
「ははははは、なかなかいいリアクションだな。」
あーおかしい、と言いながら笑い過ぎて目尻に滲んだ涙を拭う梶原を見て、俺は盛大にツッコミを入れる。
「いやいやいやいや、そんっ、聞いてって、おまっ、どういう事だよ?!」
もう吃驚し過ぎて何が何だかわからない。とにかくちゃんと理由を説明してもらないと困る!と鼻息荒く捲し立てたは良いが、言いたい事もちゃんと言えてないし噛みまくりだしで散々だった。
その俺の様子に、最初こそ唇を噛んで笑いを堪えていた梶原だが、俺が噛み噛みした辺りで、とうとう我慢できずに盛大に吹き出しお腹を抱えて楽しそうに笑いだす。
「はははっ、う~ん…話すと長くなるから、それはおいおい話すとして。」
「おぉい!そこ端折るなよ!」
「とりあえず家も出たし、親父の姓を名乗るメリットもあんまりないし、高校からは元々の姓を名乗ろっかなって。」
うえっ?!軽ッ!!!!
何だそのよく分からん理由は……
そういえばさっき引越ししたって言ってたな、とふと考えてはみるが、梶原名乗るメリットがないって……
いや、十分あるだろ?!政治家の息子ってステータスが!!!
頭のいい人の思考が凡庸な俺にわからな過ぎて辛い……
梶原のぶっ飛んだ思考と激軽な理由に若干呆れて遠い目になる。
「てなわけで、これからは猫実って事でよろしく。」
遠い目になっている俺を横目に、梶原、改め、猫実はまたくつくつと楽しそうに笑ってそう宣った。
✩ ⋆ ✩ ⋆ ✩ ⋆ ✩ ⋆ ✩ ⋆ ✩ ⋆ ✩
梶原くん、改め、猫実くん。
もう気づいていたが方多いかと思いますが……
第一話にも出てきました猫実くんは梶原くんでした!
弦って名前でわかりますよね苦笑
ネタばらしにもならないorz
そして、猫実くんは『黒猫は月を愛でる』のヒーローです(´ ˙꒳˙ `)
よろしければこちらもチラリしてみてくださいませ。
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いつもありがとうございます!
読んで頂けるだけでも感謝です♡
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