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第二章
第23話 片付け
しおりを挟む走り去る女子生徒の後姿を、楽しそうにくつくつと笑いながら眺めていた猫実を俺が睨めつけると、猫実はまるで悪戯が見つかった子供のような表情でポツリと呟いた。
「ははは、見られてたか。」
「見られてたかじゃねーよ。ったく……優等生サマがなにやってんだか。」
俺がそう言うと、猫実は俺の手からボールの入ったバケツをひったくるように受け取り、ドカッとマットの上に腰掛けた。
「で、これは?何すればいいの?」
猫実はバケツのボールを取り出すと、ぽんぽんと放るように手で弄びながら、俺に作業手順を訊ねてくる。
「とりあえず、軽く拭いてゴミ落としてそっちの籠に入れるんだけど…」
「ふぅん、OK。」
猫実は振り返りラックの下段にあったクロスを2枚取ると1枚を俺の方へ放りボールを拭き始めた。
どうやら手伝ってくれるようなのだが、直前までの事を気にする様子もない猫実は鼻歌を歌いながらボールを拭いている。
全く一体なんなんだ?と猫実の変わり身の速さに呆気に取られつつも、先程の件についてだんだんムカムカしてきた。
「てかさ、お前、こんな所でサカってんなよな。」
「んー、別にサカってなんていないけどさ、据え膳食わぬはなんたらっていうじゃん?」
俺は猫実に苦言を零すと、猫実は全く悪びれる事もなくそう言う。
「さようですか。」
うぅむ、何だか頭が痛くなって来た。
まぁ色々思うところはあったものの、当の猫実はこんな調子なので、俺はそれ以上首を突っ込むことを諦め片付けに集中する事にした。
とりあえず、このバケツいっぱいのボールの汚れを落としたら、ラケットとポールとネットを運ばないといけない。サッサと終わらせないと昼メシを食いっぱぐれるので、正直猫実が手伝ってくれて有難かった。
俺が無心でボールをゴシゴシ拭いていると、不意に猫実から話しかけられた。
「ていうか、瀬田さ。この片付け、ひとりじゃ無理じゃない?他の奴らどうしたの?」
「あー……なんかジャンケンで負けて押し付けられた。まぁ、後で牛乳奢ってくれるっていってたし……」
確かに先生に指名されたのは俺を含めて3人だったので、ボールを拾ってラケットを集める所までは3人でやった。
その後は何故かジャンケンになって、俺はひとり負けだったのだ。
それを猫実に伝えると、猫実は心底呆れた様な顔をして拭き終わったボールを投げてきた。
「はぁ……お前、馬鹿だなぁ。それ、牛乳だけじゃ絶対割に合わなくない?そうだな、焼きそばパンもないとな。それから、手伝ってる俺の分の焼きそばパンも追加して貰わないと。」
「はぁ、お前が勝手に手伝ってるだけじゃね?便乗すんなよ。」
「ははは、まーいいじゃん。」
そう言うと、猫実はポケットからケータイを取り出しすぐさま奴らのうちの誰かに電話を掛けると、あっという間に自分の分も含めて牛乳と焼きそばパンをゲットしていた。
「すげー……しっかり自分の分もゲットしやがった……」
「まぁね、こういう交渉は得意だからね。で?後は?これだけじゃないんだろ?全く… ていうか、瀬田はお人好し過ぎるんだよ。」
「お人好しって……悪かったな、お人好しで。あー、あとラケットとネットとポールがあるな。」
ドヤ顔で言う猫実をジト目で見つつ残りの体育用具を伝えると、猫実はボールを全て籠に戻してこちらを言った。
「了解。じゃあそれ一緒に取りに行こう。」
結局片付けにかなりの時間を要したた為、制服に着替える時間が勿体ないとの事で、ジャージのまま教室に戻ることにして、一旦更衣室の制服を部活の更衣室へ移動させる事にした。
ロッカーに服を掛けながら俺は先程見た事をふと思い出し、隣の猫実にチラリと視線を移す。
当の猫実は何事もなかったかのように振舞っているが、あの女子生徒との事は一体どうするつもりなのか俺は疑問に思い、横の猫実に訊ねてみた。
「なぁ猫実。」
「んー、何?」
「ちょっと聞きたいんだけどさ……さっきの子と付き合うのか?」
「さっきの子?」
「ほ、ほら…体育倉庫で……」
「あー、あの子か。まさか。だって、誰だかわかんないし。」
俺の疑問に猫実はこちらを一瞥もせずに笑いながら答えた。
いや、こっちがまさかだわ。
あれだけの事して付き合わないとか…
それより、相手の事誰だかわからないって……
そんな事あるのか?
俺はまさかの猫実の答えに遠い目になる。
「わかんないって……名乗ってなかった?名前聞いただろ?てかお前誰だかわかんないやつとヤるのかよ?」
「う~ん…好きとかよくわかんないし、名前言ってた気がするけど、興味ないし聞いてなかった。」
パタンとロッカーの扉を閉めると、猫実はゆっくりとこちらを向いて、驚きの一言を発した。
「それに……後腐れなくて、気持ち良ければ誰でもよくない?」
にっこり綺麗な笑顔を向ける猫実に、俺は若干の違和感を感じ得ずには居られなかった。
「うへぇ…お前、そういう奴だっけ?」
「……割と?」
猫実は綺麗な笑顔を崩すことなくそう答えると、くるりと踵を返して更衣室の出口に向かって歩き出した。
「……あっそ。なら、俺には理解できねぇわ。」
「……ははは、いいんだよ。お前は…こんな狂気理解なんてしない方が幸せだから。」
俺が猫実の後姿に向かってそう言うと、猫実は扉の前で俺に聞こえるか聞こえないかの声で呟いた。
「ん?なんか言ったか?」
聞き取れなくて聞き返すと、猫実はこちらに顔を向けて綺麗なアルカイックスマイルを浮かべて壁の時計を指差した。
「なんでもないよ。そんな事より早く教室戻らないと昼休みなくなるな。」
そう言われて時計に視線をやると13時少し前だった。
「げ、マジかよ。やっべ。もうこんな時間?飯食えねーじゃん。」
俺は慌ててロッカーを閉めると、猫実と共に更衣室を後にした。
◇◇◇
更衣室のある地下から教室へ戻るために階段を昇り、1階の中庭の前を通りかかると、数組のカップルがベンチでお弁当を食べていた。
中庭の時計台をチラリと見ると予鈴までまだ15分あったので、何とか昼メシは食べられそうだとホッと胸を撫で下ろす。
そのまま何となく時計台の下のカップルに視線が移ると、俺はそこで足が止まった。
「瀬田……?」
横の猫実が怪訝な顔で俺に声を掛けるが、俺の目はそのカップルから目を逸らすことが出来なかった。
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