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第二章
第30話 結論を出す時
しおりを挟む一瞬何が起こったのかわからず混乱して固まっていると、先程の噛み付くような激しさとは打って変わって、暖かくて柔らかい航くんの唇がふにふにと私の唇を優しく撫でるように触れてくる。静かな部屋に響くちゅっちゅっというリップ音が耳に入り、今自分の置かれている状況に気が付く。
え…これ、キス…されている?!
まさかと思い目をあけると、辛そうにギュッと目を瞑っている航くんの顔が目の前にあった。そこで漸くキスされている事実に意識が向くと、途端に顔に熱が集まりカッと熱くなった。
慌てて身を捩ろうとするも、航くんに両手をがっちりと縫い止められるように固定されている。それに、キスを降らせる航くんの顔が私の頭をソファの背もたれに押し付けている事もあって全く身動きを取る事が出来なかった。
「んんっ…こ、航…く、んっ……」
抗議の声をあげようと口を開くと、ぬるっと柔らかいものが捩じ込まれると同時に抗議の声は航くんに飲み込まれ、そのまま舌を絡め取られる。
航くんの舌が私の舌を航くんの口内へ導くとそのままぢゅっと舌を吸われた。そのまま、舌先ヌルヌルと舌の側面を刺激され、反射的にビクビクっと身体が跳ねる。
「っ…香乃果…香乃果……」
キスの合間にうわ言のように航くんは私の名前を紡ぐ。
私は必死に息を吸おうとはくはくと呼吸をするが、それすらも航くんの唇に阻まれてしまい、言葉にならない鼻にかかった声が洩れる。
「んっ……ふっ、あ……っん…」
「……苦しい?ごめん、ね……」
「…っ、こ……く、や……めっんっ……」
私の制止の言葉を飲み込むように、再度航くんは舌を捩じ込んで来ると、同時に大量の唾液を注ぎ込んできて、溺れそうになり無理矢理飲み込むと、苦しさから涙がポロリと零れ落ちた。
「…んっ……やぁ……も、やめ……」
「っは……ごめん。身体は、奪わないから……キスだけ、これだけは許して欲しい……」
口の端から溢れて零れた飲み込み切れなかった唾液を舐め取りながら辛そうに眉根を寄せそう言うと、航くんは私の涙を拭い、切なげな表情をして私を見下ろした。
「……こ、くん……なん、で…」
「こら、そんな目をしたらダメだよ。……このまま奪ってしまいそうになる……」
「そ、れは……」
未だ熱を灯した瞳で見つめられ、私はビクリと身を固くすると、航くんは名残惜しそうに私の唇に啄むようなキスを落とした。
「……ははは。冗談だよ。ちょっと頭冷やしてくるね。すぐ戻るからお茶でも飲んで待ってて。ね?」
そう言うと航くんは私の腕の戒めを外してゆっくりと身体を離して立ち上がると、私に背を向けてドアの方へ向かっていく。
その背中に、私は弾かれたようにぱっと身体を起こすと、乱れた息のまま航くんの背に向けて声を掛けた。
「…っ、航くん、私……」
「…香乃果、お願いだから……帰らないで?ほんとにすぐ戻ってくるから……だから待ってて。」
そう言った航くんの横顔があまりにも寂しそうで、私はどうしていいかわからずその場を動けずにいると、航くんは私を置いて部屋から出て行ってしまった。
◇◇◇
航くんが部屋を出てから既に小一時間程経った。
私はそのままソファから動くことが出来ず、主不在の広い部屋の中、呆けた頭で先程の事をグルグルと考えていた。
中途半端な状態でこれ以上先に進む訳にはいかないと航くんの胸を押し返した時の辛そうな顔と、部屋を出る間際の寂しそうな顔が脳裏から離れない。
あの時、私はどうしたら良かったのだろう……
思いっきり突き飛ばせば良かった?
受け入れてあげればよかった?
それとも、怒りをぶつけて詰れば良かった?
どれも本意ではないけれど……
そんな事考えても答えなんて出ないから、考える事自体が無意味で意味がないのに、必死にその答えを探しそうとして足掻いている自分がいる。
わかっている事は、このままではいけない、という事。
優柔不断な自分、航くんとの関係、そして、渉との関係……
全てを自分の思い通りに出来る訳では無いのだから、自分に向き合って取捨選択をしなければならないのだ。
だけど、どれも今すぐにどうこう出来るわけではない。
いや、やろうと思ったら出来るのかもしれないが、ここでも私の優柔不断さが仇になっている。
先延ばしにしてきた結論を出さないといけない時なのかも知れないな、と薄々感じていたのに、傷つきたくなくて目を逸らして逃げ続けてきたのは誰でもない自分だ。
どれかを選ばないといけないのであれば、いっその事全て捨ててしまえばいいのに、それすらもできない…そんな自分の弱さが嫌になる。
その弱さのせいで航くんを深く傷付けてしまった事がどうしても頭から離れなくて、その場から動くことができなかった。
カタンと音がしてハッと顔を上げると、航くんが部屋の扉を閉めている所だった。
「お待たせ。待っててくれたんだね。良かった。」
緊張が解けたようなホッとしたような柔らかな顔で微笑んだ航くんに、チクリと心が痛む。
私が帰らずにいた事で安心したのか、航くんは先程の件などなかったかのように私のいるソファ近くまでやってきて向かい側に腰掛けると、徐に口を開いた。
「話があるっていったでしょ。その話をしようか。」
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