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第二章
第33話 バレてる
しおりを挟む兄と共に帰宅して玄関のドアを開けると、ふわりと室内の空気が美味しそうな匂いを伴って流れてきた。
これは多分ターキーを焼いているのだろう。部活終わりのペコペコの腹から音が鳴る。
「ただいまー。」
兄に続いて玄関に入るとサンタ帽を被って母親が待ち構えていた。
「はいおかえり。部活終わりで汗臭いからふたりともシャワー浴びて着替えておいで。」
にっこり笑顔でそう言われてさっさと部屋に追い立てられる。
買い食いする間もなく、半ば拉致されるように連れ帰られたのに酷い言い草だなと思ったが、おっしゃる通りで、激しい運動後なので汗臭いし、ついでに言うと防具臭い。腹が減ったので、何か食べるものを…とも思っていたが、長年の経験上ここは大人しく言う事を聞いた方がいい気がして、俺は黙ってそのまま階段を上がっていった。
階段の横からちらりと見えたリビングには今朝まではなかったオーナメントやチカチカと点灯しているクリスマスツリーが飾られていた。それに、出迎えた母親のサンタ帽…今回のパーティに対しての母親の本気度が垣間見えて少々ゲンナリする。
「うわー、母さん随分気合入ってるねぇ。いつもは誰かさんがバックれるからだと思うけど、こんなちゃんとしたクリスマスいつぶりだろうねぇ、渉?」
階段を上がりながら横目でリビングをチラ見した兄は楽しそうに嫌味を言ってきたが、残念ながら朝から緊張しっぱなしでどころではない俺は返す言葉がでてこなかった。
意図せずスルーしたようになってしまったが、いつもなら言い返してくる俺が何も言い返さない事に肩透かしを食らったのか、それとも俺の唯ならぬ雰囲気を察したのか、兄はそれ以上何かを言ってくる事はせず、しばらく立ち尽くすと、黙って俺の後から階段を上がってきた。
そんな事よりも……
俺は先程見えたリビングで、今日がパーティ当日だということを意識していまい、緊張が最高潮に達してしまっていて頭の中が若干パニック状態になっていた。
これから始まるパーティは正直どうってことない…くはなかったな。
香乃果との久しぶりの顔合わせになる。それももちろん緊張はするのだが、どちらかというとその後の告白がメインイベントになる訳で……
と言うよりも、あれから挨拶ずらしてないし一度も口を聞いていない、2年も没交渉だった香乃果にどうやって声を掛けたらいいのかとわからないのに、告白までの流れを作るなんて至難の業だと思う。
それに加えて、ハッキリと気持ちを自覚してしまっているのだ。
なんとも思っていない相手ならこんなに緊張する事もなかっただろうが……
この1ヶ月、上手く誘い出す方法をあれこれ考えていたのだが、残念な事に、今日の今日まで全く思いつかず……このままだと告白自体がお流れになってしまう可能性も出て来た。
それは困る。非常に困る。
こんな時、聖兄だったら、きっとスマートにやるんだろうけど……ヘタレ過ぎる自分には荷が重い。
本当にどうしたらいいのだろうか。
今日は朝からそればかりが頭の中をグルグルと回っていたが、結局答えは見つからない。
これ以上考えると吐きそうなので、最悪、成り行きに任せて当たって砕けろ的な?
無計画にも程があるが、もう他に打つ手がなくて致し方がないと諦めて腹を括る。俺は緊張を振り切るように軽く嘆息して、階段を上りきった先の部屋に歩を進めた。
踏み出す1歩1歩がカウントダウンの始まりだと思うと、あまりの緊張に1秒が数分に感じる程長く感じた。
そして、漸く部屋の前に着いてドアに手をかけると、先程から俺の方を後ろからじっと眺めていただけだった兄が、追い越し際に不意に声を掛けてきた。
「渉、さっきからうわの空だけど、何?緊張してるの?」
まさか声を掛けられるとは思っていなくて不意だった事と、まさに核心を突くような兄の言葉に一瞬ドキリと心臓が跳ねた。
す、鋭過ぎるんですが……
流石俺の心の機微に敏い兄だと少しの感心とかなりの恐怖を感じつつ、この短時間で俺の思考の状況把握が出来る兄はエスパー何じゃないか、と最近本気で思い始めている。
…冗談はさておき。
「た、多少……ね。」
先程から背中に刺さる視線が怖くて後を振り返ることが出来ない俺は内心のドキドキを悟られないように、背を向けたまま小声でそう言うと、部屋に入ってしまえばこっちのものだと言わんばかりにさっさと自室に退避するべくドアを開けた。
それで諦めてくれると思っていたが、甘かった……
突然、背中にドンという衝撃を感じると同時に、気が付くと俺はベッドに顔から突っ込んでいた。
「ぶっ……痛え……って?!聖兄?!なんで俺の部屋に入ってくんの?!」
ベッドから起き上がってドアの方に視線をやると、ニッコリと綺麗な笑顔を浮かべた兄が部屋の中に居た。
しかも、きっちりと部屋のドアを閉めた状態で……
あ、これ……俺、逃げ道を塞がれてる?
気が付いたが既に後の祭り状態で、腕を組んでドアに寄りかかる兄の顔は完全にハンターモードだ。
やばい。
本能的にそう感じると同時に背中に冷たい汗が流れる。
「ふぅん。もしかしてさ、今日香乃果に告白でもするつもりなの?」
兄の言葉に絶句して思わず兄を凝視すると、兄はしてやったりと片口角を上げてニヤリと意地悪く笑った。
「はっ?!え?!な、な、なななななんで?!」
目を見開いて口をパクパクさせる俺の表情で全てを悟った兄は、先程からの表情を崩さず相変わらず楽しそうに、そして逃げ道を塞ぐように畳み掛けてくる。
「母親に言われていたからと言っても、お前なら当日バックれる事も出来ただろうに……それなのに、今日は随分と大人しく付いてきたもんだからさ。逃げ続けてきたパーティに参加するなんて何かあるとしか思えないよね。…で?どうなの?」
ば、バレてる……?
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