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第二章
第39話 覚悟の出国
しおりを挟む「Bonsoir!こんばんは、香乃果ちゃん!久しぶりー、大きくなったねぇ。」
翌々日の深夜、フライトから帰ってきた叔父から深夜に似つかわしくない程テンションの高いSkype電話がかかってきた。
現在の時刻は23時を少し過ぎた所。
叔父の住むカナダのバンクーバーと東京の時差は17時間なので、あちらは早朝6時。
叔父は前日フランス(シャルル・ド・ゴール)からモントリオールを経由してバンクーバーへの復路便でお昼頃空港に帰着して、ブリーフィングを終え帰宅したとの事。
長いフライトを終えてクタクタなはずなのに、時差を考えてわざわざ早朝のこの時間に掛けてきてくれたようだ。
フライト中、フランス語圏が多く、機内アナウンスから何からずっとフランス語だったらしく、フランス便に乗るとフランス語が抜けなくて困ると冗談っぽくボヤいた所から始まり、海外の生活の事や、聞きたかった留学エピソードなど、話は尽きる事がなく、気が付くと時計は4時を回っていた。
叔父はこの日と翌日はお休みらしく、時間は気にしないと言っていたが、流石に私が寝不足で使い物にならなくなりそうなので、お礼を言って惜しみながらも通話を終える事にした。
「叔父さん、為になる話をありがとう。色々な話が聞けてますます気持ちが固まったよ。」
「そか。それは良かった。ところで、やりたいのは英語?どこの大学かはもう決めたのかな?
「何となくだけど、カナダかイギリスにしようかなって……」
「ふぅ~ん……実際に大学とか見てみたくない?バンクーバーにちょうど香乃果ちゃんの進路にピッタリの大学が近所にあるし。ね?一度こっちにおいでよ。」
そう叔父から現地視察を兼ねて遊びにおいでと誘われてから、数週間であれよあれよとあっという間にフライトの日程が決まっていた。
「急なんだけど、明日12月25日18:00の成田からの直行便。僕がキャプテンを務める便で、僕の持ってる枠でいい席取れたから。」
◇◇◇
そして、今、私は空港のチェックインカウンターで搭乗手続きをしている。
海外には幼い頃に行ったっきり、それもこれから行く叔父の所だ。
久しぶりの飛行機、それもひとりで乗るので色々とわからない事が多くて緊張したけど、グランドスタッフの方が親切に教えてくれてなんとかなった。
搭乗手続きを終えて出国検査と保安検査を終えると、これから飛行機に乗って海外に行くんだと気持ちが昂ってくる。
時計を見ると、搭乗まではまだ1時間弱あるので、搭乗口に行く前にカフェに寄る事にした。
ココアラテを注文してカウンターで受け取ると、飛行機の見える窓側の席に座る。
冬の空は暗くなるのが早くまだ17時だと言うのに既に辺りは真っ暗で、滑走路の誘導灯と飛行機を照らす照明がキラキラと光っていた。
その光景が幻想的で何処か非現実的に思えて、私はマグカップを啜りながらそれをぼぅっと眺めていると、何だか胸が切なくぎゅうっと締め付けられて、涙が一筋溢れた。
私は涙を拭うと、手元のボーディングパスに書かれている時間を確認する。
渉の家のクリスマスパーティが始まっている頃には、私はきっと空の上にいる。
今日、あの事を伝えるのかな?それとも後日?
何れにしても私が帰国する前には渉にあの事は伝わっているだろう。
これでよかったんだ、と私は心の中で呟いた。
だって、私はこれから新しい世界へ足を踏み出すのだ。
両親に留学を承諾してもらい環境も整いつつあるし、後は進学先が決まれば私は留学をする事になる。
今までの環境には居られなくなるのだから。
航くんと一緒に行かないと決めた時、もしも、留学出来る事になったら言おうと決めていた事があった。
それは、渉と私の許嫁関係を解消する事。
海外に留学するとなると、学年は9月始まりになる。高校を卒業して、直ぐに渡航しても半年間遅れるので、順調に行っても卒業まで5年。卒業後、院に行ったり場合によってはビジネススクールに行ったりするかもしれない。そうなると、帰国するまでどれくらいかかるかわからないし、もしかしたら叔父のようにそのまま向こうで就職して帰国しないかも知れない。
そんな不確定な状態で、許嫁という関係に渉を縛り付けて置くことはできないし、途中での解消も考えたが、その間、渉は自由になれないのだから、やはり行く前に解消すべきだろう。
「留学するなら、わっくんを解放してあげて。」
叔父と話をして、バンクーバーに行く事が決まった時、穂乃果にも留学の件を報告をした。
その時、穂乃果に言われた言葉だ。
その言葉を聞いて、わかっていたけれど認めたくなくて目を逸らしていた事実を突きつけられたような気がして絶望した。
その事実とは、渉が好きなのは私ではなくて、妹の穂乃果なのだという事。
渉は穂乃果の事が好き、それは薄々私だって勘付いてはいた。
いつだって渉は穂乃果を目で追っていたから。
渉の愛おしそうな優しい目線の先にはいつだって穂乃果がいた。
それはずっと渉を見ていた私だからわかること。
だけど、どんなに私が渉を想っても渉は穂乃果の事を想っていて、私に向ける目はいつだって冷たかった。
幼い頃のなんて事ない約束なんて、渉は覚えていないかもしれないけれど、私はずっとそれを支えにやってきた。
私に気持ちが無いことくらいわかっていたのに、それにずっと縋ってきたのは、いつか約束を思い出してくれるのではないかという淡い期待から。
だけど、穂乃果と話をして、そんな期待は綺麗さっぱり砕け散った。
であれば、尚更これから海外へ行くのに私にこれ以上縛り付けておいていいわけがない。
あの時、渉が私に別離を告げただけで許嫁の解消をしてこなかったのは、私から許嫁解消をされるのを待ってくれていたんだと思う。
渉は優しいから……
傷つけないようにしてくれたんだよね。
きっと。
でも、私は渉の事が好きで、例え形だけの関係でもそれに縋って今日までこのままにしていた。
これは完全に私のエゴだ。
だから、もう解放してあげないと…いつまでも形だけの許嫁でいてはいけない。
想いあっているふたりの間に、私が許嫁として割り込んだ挙句、許嫁という関係だけで渉を縛り付けていたのだと気が付いて胸が張り裂けてしまいそうな程悲しかった。
だから、私は自分の想いに蓋をして、渉を解放してあげようと、許嫁の解消を決めた。
解消する事を決めた日、私は初めて心から泣いた。
泣いて、泣いて、涙が空っぽになるまで泣いたら、未練なんて無くなるんじゃないかって思って一晩中泣いた。
その後も胸の痛まない日はなかったけれど、見ないふりしてカナダへの渡航や学校見学の事に目を向けて気を逸らしてみたりしてみたけれど、それでも胸の奥で渉への思いはチリチリと燻っていて、夜ベッドに入ると自然と涙が溢れた。
でも、私から渉に伝える勇気も機会もなくて、ズルズルと迷っている間にフライトが決まってしまった。
このまま何も言わずに行ってもよかったのだが、この渡航で私は自分の覚悟を決めてこようと思っていたので、このまま行ってしまうと自分の中の迷い…渉への未練を捨てきれなくなりそうだった。
だから、フライト直前の昨日の夜、両親に許嫁の解消と渉の気持ちを打ち明けて、許嫁の交代を渉へ伝えて貰えるようにお願いをしてきた。
それが、渉を意に沿わない関係へ縛り付けてしまった、私からのせめても罪滅ぼしだった。
これで、晴れて想いあっているふたりが許嫁になれるのだ。
だから、これでよかったのだ。
納得したようにそうやって自分に言い聞かせると、ズクリと胸が痛んだ。
だけど、私はその痛みを見ないふりをした。
想いに蓋をする事を決めたのは自分自身なのだから。
ふと窓の外を見ると、飛行機の大きな機体がボーディング・ブリッジに連結が完了した所だった。
手元の時計を見ると、フライト時間まであと20分程、そろそろ搭乗口へ向かおうと思っていた時、ちょうどグランドスタッフの搭乗アナウンスが流れた。
私はカップを手に席を立つと、大きく息を吐いて、搭乗待合室へ歩を進めた。
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