46 / 118
第二章
第40話 渡航前夜-前編-
しおりを挟む前夜の姉妹の会話からの~です(´-ω-`)
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
「え……留学?お姉ちゃんが?」
夕食後、明日で2学期も終わるという事で、学校から持ち帰ってきた学用品の整理をしていると、お珍しく姉ちゃんが話があると部屋を訪ねて来たと思ったら、第一声が「私、留学する事にしたの。」だ。
そして、冒頭の私の台詞に至る。
「留学って、どういう事なの?それから明日から伊織叔父さんの所に行くって……」
留学だけでなく、現地視察で叔父の住むバンクーバーへ行く?
何もかも初めて聞いた事で理解に頭が追いつかず、私は目をぱちくりさせながらお姉ちゃんに聞き返した。
「うん、現地を見に行った方がいいってアドバイス貰って。それに留学するって言ってもこれから準備しないとだから、まだわからないよ?落ちたら浪人生だしね。だから穂乃果にも迷惑かけちゃうと思うけど…」
そう申し訳なさそうお姉ちゃんは言った。
話を聞きながらふと思ったのだが、留学って言ったら海外に行くという事になる訳で、おいそれと戻っては来れないはず。
この話、許嫁のわっくんにその話はしているのだろうか。
ただの視察かもしれないけれど、妹の私に対してすら渡航の前日報告なのだから、これは留学寸前まで話をしない可能性がある。
あれ?これもう既に迷惑かけられている?
お姉ちゃんのいう迷惑は恐らく、物理的な迷惑なんだろうけど、そんな迷惑なんてどうってことない。
だって留学するのはお姉ちゃんで私じゃない。
少しばかり天然でお姉ちゃんの抜けてる所のフォローだったら、そんなのずっと迷惑かけられている私からしたら、何を今更だけど、色恋関係は勘弁願いたい。
そんな事を思っていたらだんだんムカムカしてくる。
「いやいや、そんな事よりも!何よ、留学って。聞いてないんだけど?!」
「うん…言ってない。っていうか、ギリギリまで進路悩んでて、それで航くんのアドバイス貰って、留学したいなって。」
私の剣幕をものともせず、いつもの調子であっけらかんとそう言うお姉ちゃんに少しばかり頭が痛くなるが、次の瞬間、疑問符が頭に浮かんだ。
「航くん……あぁ、深澤先輩ね。ていうか、お姉ちゃん、深澤先輩とまだ付き合ってるの?」
わっくんという許嫁がいるにも関わらずお姉ちゃんは今深澤先輩と付き合っている。
校内でも知らない生徒はいないくらい仲良しで有名なカップルなので、流石の私も知っているが正直心中穏やかではない。
「う…ん……いや、別れた?あれは別れ話?どっち?」
私の質問に何だか不穏な呟きをするお姉ちゃん。
これだから天然って嫌だ。
「……もうどっちでもいいよ。ていうか、お姉ちゃん、それよりもちゃんとしないといけない事あるよね?留学する前にちゃんと身辺整理しないといけないんじゃない?」
深い溜息を吐くと、オロオロするお姉ちゃんにキツい口調でそう言った。
"身辺整理"という言葉を使ったが、私が言いたい事はわっくんの事だ。
留学に行く事を伝えるのもそうだが、深澤先輩の事もわっくんとの許嫁の事も、何もかもそのまま投げ出して行くのだけは勘弁して貰いたい。
「そう、だね……」
この反応からすると、私の言いたい事は何となく伝わったようだ。
そして、多分お姉ちゃんはわっくんにまだ何も言えてないと言う事も理解した。
そりゃ言えないよね。
というか、お姉ちゃんはわっくんに隠し事をしている訳だし。
というか、知られていないと思っているのはお姉ちゃんだけだと思う。
わっくんという許嫁がいるにも関わらず深澤先輩とも付き合っていることは、お姉ちゃんの口から伝えなくても、校内でも知らない生徒はいない程なのでわっくんの耳には入っているだろう。
それなのに、この後に及んでまだ何もかも言ってないって……
お姉ちゃんさえ、彼氏の事をちゃんと伝えてくれたら……
呆れを通り越して、ふつふつと怒りに近い感情が湧き上がってくると、感情を抑える事が出来なくなって、前から思っていた事をお姉ちゃんにぶつけてしまった。
「あのさ、前から聞きたかったんだけど、わっくんと許嫁になった事どう思ってるの?」
「どうって……嬉しかったよ、とても。だけど、渉はそうじゃなかったみたいだね。」
「そりゃそうだよ。だってわっくんは私と想いあってるんだもん。」
これは半分本当で半分は嘘。
私がわっくんを勝手に想ってるだけで、わっくんは昔も今もお姉ちゃんの事が好きなんだと思う。
途中、私が卑怯な事をして強引にわっくんを振り向かせたけれど、わっくんは完全には私の方を向いてくれなかった。
そして、多分だけど、わっくんはその事に気が付いている。
わっくんがずっと通学カバンに付けていたお揃いイルカのキーホルダーが、ある時から付いてなかったから。
◇◇◇
わっくん、私の初恋の人でお姉ちゃんの許嫁。
私がわっくんの許嫁になりたかったのに、いつの間にかお姉ちゃんが許嫁の座に納まってた。
幼い頃の私は我儘で自分勝手で、世界は自分が中心に回っているって信じて疑わなかった。
欲しいものは何でも手に入ったし、周りのみんなも何でも言う事を聞いてくれたけど、たったひとつだけ手に入らなかった物があった。
それが、わっくん。
わっくんは、お姉ちゃんが初等部に上がるまでずっとお姉ちゃんにが大好きでべったりだった、というか依存していたのかもしれない。
だけど、一度だけお姉ちゃんがわっくんを拒絶してから、わっくんは以前よりもっと依存が強くなって姉を求めてよく泣いていた。
そこに私は付け込んだ。
元々おっとりしていて少し抜けてるお姉ちゃんだけど、学校ではそんな事ないみたいで、色々と頼られる姉御キャラだった。
だからなのか、向いてないのにクラス委員やそれを纏める委員長を任されたりして、学年が上がる度にどんどん忙しくなっていったお姉ちゃんは、そんなわっくんの変化に気が付かなかった。
だから、私がお姉ちゃんの替りにわっくんの傍にいて、お姉ちゃんの格好を真似してお姉ちゃんのように振る舞い、そして、わっくんが求めていたお姉ちゃんとの思い出を語った。
たったそれだけの事で、塞ぎ込んで泣いて憔悴し切ったわっくんの心間に容易く入る事が出来て、あっという間にお姉ちゃんを押しのけてわっくんは私のわっくんになった。
裏を返せば、わっくんはそれだけお姉ちゃんの事が好きで、お姉ちゃんの事をを求めていたのだろう。
私がやった事はそれだけ。
難しい事をしたわけでもなく、ただ傍にいただけ。
漸く欲しかった物が手に入って嬉しかったし、その後は私もわっくんにべったりになった。
わっくんはいつも優しくて、何でも私を優先してくれたから、私はますますわっくんが好きになった。
だけど時折、ふとした瞬間に、本当はこの優しさも笑顔も私のものではなくて、本来はお姉ちゃんのものだったのに…という罪悪感みたいな感情が首を擡げる事があった。
わっくんと一緒にいるのは楽しかったし幸せだと思う反面、家に帰ってお姉ちゃんの姿を見ると胸が痛くて苦しくなる。
私はそれら全てを見ない振りをして、鍵付きの箱の中に閉じ込め、見えない所にしまう。
見てしまえば、途端に押し潰されてしまいそうだったから。
見えなければ、わっくんの優しさも思い出も全部私の物で、私は幸せでいられると思っていた。
だけど、人生はそんなに甘くはなかった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ホストな彼と別れようとしたお話
下菊みこと
恋愛
ヤンデレ男子に捕まるお話です。
あるいは最終的にお互いに溺れていくお話です。
御都合主義のハッピーエンドのSSです。
小説家になろう様でも投稿しています。
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
幼馴染の許嫁
山見月あいまゆ
恋愛
私にとって世界一かっこいい男の子は、同い年で幼馴染の高校1年、朝霧 連(あさぎり れん)だ。
彼は、私の許嫁だ。
___あの日までは
その日、私は連に私の手作りのお弁当を届けに行く時だった
連を見つけたとき、連は私が知らない女の子と一緒だった
連はモテるからいつも、周りに女の子がいるのは慣れいてたがもやもやした気持ちになった
女の子は、薄い緑色の髪、ピンク色の瞳、ピンクのフリルのついたワンピース
誰が見ても、愛らしいと思う子だった。
それに比べて、自分は濃い藍色の髪に、水色の瞳、目には大きな黒色の眼鏡
どうみても、女の子よりも女子力が低そうな黄土色の入ったお洋服
どちらが可愛いかなんて100人中100人が女の子のほうが、かわいいというだろう
「こっちを見ている人がいるよ、知り合い?」
可愛い声で連に私のことを聞いているのが聞こえる
「ああ、あれが例の許嫁、氷瀬 美鈴(こおりせ みすず)だ。」
例のってことは、前から私のことを話していたのか。
それだけでも、ショックだった。
その時、連はよしっと覚悟を決めた顔をした
「美鈴、許嫁をやめてくれないか。」
頭を殴られた感覚だった。
いや、それ以上だったかもしれない。
「結婚や恋愛は、好きな子としたいんだ。」
受け入れたくない。
けど、これが連の本心なんだ。
受け入れるしかない
一つだけ、わかったことがある
私は、連に
「許嫁、やめますっ」
選ばれなかったんだ…
八つ当たりの感覚で連に向かって、そして女の子に向かって言った。
【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜
来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、
疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。
無愛想で冷静な上司・東條崇雅。
その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、
仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。
けれど――
そこから、彼の態度は変わり始めた。
苦手な仕事から外され、
負担を減らされ、
静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。
「辞めるのは認めない」
そんな言葉すらないのに、
無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。
これは愛?
それともただの執着?
じれじれと、甘く、不器用に。
二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。
無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる