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第三章
第50話 最悪の初体験……?
しおりを挟む「あー、やっと起きた。渉くん、おはよ。」
何が起こっているのかわからず頭が真っ白になって固まっている俺に、目の前にいるバスローブ姿の紗和さんが楽しそうにそう言った。
「うぇっ、あ……お、おはよう…ございま、す?」
「うん、おはよ。って、おはよって時間でもないけどね。」
紗和さんはクスクスと笑いながらベッドからするりと降りた。
時間……今何時だ?
俺は時計がないか視線を巡らせつつ、今いる部屋の確認をする。
「えと……あの…ここって……」
豪華な部屋ではあるが、先程までいたパーティルームではなさそうだ。頭の整理が追いつかず、周りを目をぱちくりさせながら周りを見回していると、紗和さんが当たり前でしょ、と言わんばかりの空気で俺の質問に回答した。
「ん?ここ?ホテルだけど。」
「ホ、ホ、ホ、ホ、ホテルっ?!?!……って、な、な、な、何で……うはっ!俺、服は?!は、裸っ?!?!」
自分の置かれている状況がイマイチ把握出来ずに戸惑っていると、ふいに自分が素っ裸な事に気が付き、慌ててリネンを手繰り寄せる。
え?!は?!何?!
なんで俺裸?!なんでこんなことになってるの?!
何故服を着ていないのか考えようと思ったが、酷い頭の痛みとパニックで思考が纏まらない。
グルグルと意味の無い言葉が頭を巡ってパンクしそうになっていると、紗和さんがふっと笑み零しながら、俺に水を差し出した。
「ふふふっ、まぁ、とりあえずこれ飲んで落ち着いて?」
言う通りに手渡された水を一気に飲み干して一息吐くと、冷えた水の喉越しのお陰か、気持ちも落ち着き少しだけ頭がクリアになった。でも、そうすると、目の前の紗和さんの胸元が気になって来る訳で……
チラリと紗和さんの方へ視線を遣ると、少し開けた胸元の赤い痕が目に入り、カアッと顔に熱が篭もる。
しかも、さっき一息吐いて冷静になったせいなのか、余計に恥ずかしさが増して居た堪れなくなって、俯く。
でも、俯いてばかりもいられないし……
確かめないと行けない事もあるし……
色んな思いがぐっちゃぐちゃになって頭がパンク寸前で思わず大きな声が出た。
「い、いや……これ、落ち着いて居られますっ?!ってか…もしかして……俺たち………しました?」
言いながら、恥ずかしさと居た堪れなさと焦燥感に襲われ、だんだんと声のボリュームが小さくなり、最後の方は聞こえるか聞こえないかの声になる。恐る恐る紗和さんに確認するように訊ねると、紗和さんはあっけらかんと即答する。
「うん。したよ。セックス?エッチ?同衾?今の子達はなんて言うのかしら?」
そう言いながら紗和さんは、ほら、と楽しそうにバスローブの襟を捲って情事の痕を見せつけてきて、俺は愕然とした。
あぁ…やっぱりヤッちゃったのか……
全く記憶にないが、状況として、俺が紗和さんを抱いたのは間違いないだろう。
なんという失態か……最悪だ……
香乃果に似た雰囲気の紗和さんに少し心が動いた事は否めないが、それだけでよく知りもしない人とまさかのワンナイトをかましてしまうとは思ってもいなくて、自分の節操の無さに幻滅した。
そして、自分の失態の結果である胸元の無数の痕を見て、気持ちのない女性に無体を働いた自分に自己嫌悪に陥るが、ヤッてしまった後では時過ぎ既に遅し……だけど、落ち込んでなんていられない。自分が悪いのだから。
兎に角、謝らないとと思い、ベッドの上で正座をすると、ガバッと額をベッドに打ち付けた。
「っ!すいません!!!あ、あの…よく覚えてなくて……言い訳かもしれないけど、記憶が……ないんで……どうしたら……」
慌てふためいて必死に土下座をする俺を、紗和さんは足を組んで黙ってじっと見つめた。
「えっ……と、あの……さ、紗和さ、ん……?」
暫く無言で見つめられて気まずさのあまり身動ぎすると、紗和さんは表情を崩してぷっと吹き出し楽しそうに声を上げて笑いだした。
「あははは、ごめん、冗談。何もしてないよ、私達は。」
「え?!で、でも……あの…それ……」
俺が戸惑いながら胸元の痕を指差すと、紗和さんはチラリと自分の胸に視線を落とすと、なるほど、と笑いながら言った。
「あぁ、これ?これは、さっき付けられた婚約者の痕。ていうか、第一、君、キスマークの付け方知ってるの?」
そこまで言われてはたと気が付く。経験のない俺はキスマークの付け方なんて知らない。
「…いや、ごめんなさい。未経験なので……」
「でしょ?だから安心して?君とは、してない。」
そう、優しく言われて、自分が相手に無体を働いていない事に安堵してホッと胸を撫で下ろした。
だけど、それと同時に、ふとある事を思った。
「それは、わかりましたけど……じゃあ、なん、で……」
紗和さんはバスローブを着ていて、俺は素っ裸なんだ?
そう言いたかったが、そうなると、やっぱりヤッてしまったんじゃないかと不安になる。
若干パニックになって言葉に詰まると、紗和さんは俺の言いたいことを汲み取ってくれたようで、俺の聞きたかった答えをくれた。
「うーん、どうやら渉くんが飲んだ最初のドリンク、お店の手違いで隣の部屋の間違えて持ってきちゃったやつみたいで。アルコール入ってたみたいなんだよね。で、渉くん、潰れちゃって……」
そう言うと、紗和さんは身振りでオエッという動作をした。
あぁ…なるほど……吐いたのか……俺。
ていうか、もっと最悪じゃないか……
ヤッてなかった事には心底安心したが、それはそれで情けなくて気分が落ち込む。俺は深い溜息を吐くと額に手を当てて、そのままバタンと仰向けにベッドに倒れ込んだ。
紗和さんはそんな俺を見て苦笑いを零すと、徐に俺の横に腰掛けて、俺の手を外して顔を覗き込んだ。
「それで、君の制服と私の服が……ぐっちゃぐちゃになっちゃってね。で、どうにもならなくてここに連れて来たって訳。」
「そうだったんですね……あぁ情けない…本当にすみません。クリーニング代は後で払いますので…」
「うん、それはいいんだ。でね、それで、さっき汚れた服がクリーニングから戻ってきたから起こしたんだけど…… なんか君が甘~い雰囲気で擦り寄ってくるじゃない?」
そう言って紗和さんはグッと顔を近づけて少し意地の悪い笑みを浮かべると、鼻と鼻がぶつかる位の距離まで近付いてきた。
俺は、キスされる!と思い、咄嗟にギュッと目を瞑って身構える。
「誰かと間違えてるのはわかってたんだけど……それが可愛かったし、楽しくなっちゃって…つい、ね?」
紗和さんは耳元でそう言うと、俺の鼻をぎゅむっと摘まんでパッと身を離した。
吃驚して紗和さんの方を見ると、紗和さんはペロリと舌を出して、ごめんね?と言い笑い、窓側に行くとタバコに火を着けた。
「あ、いや……なんか、こちらこそすみません。お世話かけてしまって……」
そこまで言ってハッとした。
そうだ、この人…紗和さんには婚約者が居るとか……
これ、不可抗力とはいえ、密室で男とふたりきりになったなんて婚約者にバレたら誤解されて大変な事になるのでは?
流れでそうなったとは言え、大事になったらどうしようと不安が募る。だが、こうなった以上、なるようにしかならない。どこまで責任取れるかわからないが、俺は覚悟を決める。
「すみません…俺のせいでもし、婚約者の方に誤解されたら俺、ちゃんと説明もします!何かあれば責任…だっ、て……」
そう口にした後で、もしかしたは場合によっては結婚だって破談になるかもしれないという事が脳裏をかすめると、また一気に血の気が引いた。
紗和さんは真っ青な顔をして俯く俺をチラリと見ると、タバコの煙を燻らせるながら苦笑いを浮かべた。
「ああ、いいのよ、気にしないで。婚約者もこの事知ってるし。」
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