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第三章
第55話 父娘の時間-前編-
しおりを挟むカナダに来てからもうすぐ2年、私はセカンダリーを無事に卒業して、大学の入学式を来週に控えた夏休みのある日の朝。
この日は、去年の年末からシアトル支社に赴任になった父と待ち合わせをしていた。
父もこちらに赴任してきて半年過ぎになる。
ここ、バンクーバーから父の住むアメリカのシアトルまでは車で約3時間程、国境を超えて行来ができる。
電車やバスでも行けるので、父が赴任してきたと聞いた時には少しばかりホームシックになり、一度会いに行こうと思ったくらいだ。
しかし、流石に赴任してきたばかりで、しかも父にとっても初海外勤務という事もあり、勝手もわからない異文化コミュニティの中、現地に慣れる事に必死だった父と会うことは叶わなかった。
そのまま6月のセカンダリーの卒業式で久しぶりに母と共に顔を合わせるまで会う機会もなく、しかも、その時にはその日しか休みが取れなかったようで、式が終わるとトンボ帰りでシアトルに帰って行ったので話らしい話も出来なかった。
それ以来、なかなか会う機会もなかったのだが、最近になって漸く父の仕事も生活も落ち着いたようで、なんと私の入学式に合わせて1週間の有給休暇を取ってくれたのだ。
という事で、今日から数日間、シアトルのお父さんのアパートメントで過ごした後、入学式の前日にまた一緒にバンクーバーに戻ってくる予定だ。
「おはよう香乃果!」
父が迎えの車から降り立つと、ニコニコしながらこちらに向かってくる。
卒業式の時はバタバタしていて気が付かなかったのだが、改めて会って近くでまじまじと見ると、数ヶ月前に会った時よりも少しばかりふっくらしたように見受けられた。
「お父さん、久しぶり。あれ?卒業式の時は気が付かなかったけど、なんか少し…太った?」
私が笑いながらそう言うと、父はバツの悪そうな顔をしてお腹を摩りながら、頭をガシガシと掻き苦笑いを浮かべた。
「参ったなぁ…そんなあからさまにわかる?いやぁ…こっちに来てからずっと外食でさ。もうさ、忙しいからハンバーガーばかり食べちゃって。しかもこっちのはさ、何もかもがデカくて多くて高カロリーっていうか…ねぇ?」
「そうそう!私も最初吃驚した!Mサイズが日本のLサイズ!」
「香乃果も?あれは吃驚するよね。でも、その割に香乃果は日本にいた時と変わらないっていうか……むしろ可愛くなっててお父さんは心配だなぁ……」
父はいじけたようにそう言うと、ジト目で私の事を見た。
「そんな事ないよ。こっち来たばかりの頃は、私も体重増えて大変だったんだよ?」
「本当に?全然そんな風にはみえないなぁ。あぁ、もう日本食が…というか、母さんのご飯が恋しいよぉ。」
そう言いながら、父は助手席の扉を開けて中へエスコートしてくれた。
父の車は会社から支給されている日本車のステーションワゴンで、実家で乗っていた車と色も形も同車種だった。不意に懐かしさが込み上げて、乗り心地は日本にいた頃とかわらないなぁ、と思い感慨にふけっていると、父がドアを閉めて運転席から車に乗り込んでくる。
私は鼻歌を歌いながらご機嫌にシートベルトを付けている父に徐に話し掛けた。
「そっかぁ…そしたら、向こう着いたらしばらくは私がご飯作ろっか?」
私がそう言うと、隣に乗り込んだ父の表情が途端にパッと明るくなった。
「本当に?でも、いいの?折角だから美味しい物でも、と思ってたんだけど。」
「ふふふ、美味しい物は楽しみにしてるけど、毎日外食じゃなくても良いでしょ?私もこっち来てから料理するようになって、だいぶ腕もあがったんだから、是非披露させて欲しいな。」
なんなら、1週間分くらいは作り置きもして行ってあげようかな?
そう思ってそれも併せて父に伝えると、父は感激の表情で目を見開いた後、眉根を寄せてくしゃくしゃっと泣きそうな表情を浮かべる。
「そ、そりゃあ楽しみだなぁ。ううっ…香乃果、しばらく見ないうちにすっかり大人になって…」
「やだ、お父さん泣かないでよ。」
「それは無理……だって、あんなに小さかった香乃果が……ぐすっ…」
「もう、お父さん。それ、いつの話よ…」
鼻を啜りだし本気で泣き出しそうな父に、私は苦笑いを浮かべながら背中を摩りハンカチを手渡すと、父はハンカチを受け取るとプルプルと震えながらポロポロと涙を流しながらポツリと呟いた。
「お父さんの中ではいつまでも小さな可愛い天使なんだよなぁ……」
そう言うと、受け取ったハンカチを目に当ててグズグズと泣き始めた。
普段から感情豊かで泣き上戸の父だが、よっぽど感情が昂っていたのか、今日はこれから運転もあって素面なはずなのに、何故か目の前で号泣し始める。
この状態で果たしてこれからの長距離運転は大丈夫なのか……
なんだかとっても不安になってきた。
相変わらずぐすぐすと泣いている父をチラリと横目で見て、ふっと嘆息すると、宥めるように父の背中を摩る。
「はいはい、わかったから……もういこ?家行く前にコスコに寄ってさ。沢山買い物して帰ろ?ね?」
「…うん、わかった……ぐすっぐすっ」
私がそう言うと、父はハンカチでゴシゴシと涙を拭いながらコクコクと首を縦に振った。
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