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第四章
第74話 幼馴染
しおりを挟む「久しぶり。香乃果、元気してた?」
以前と変わらない笑顔を向けてそういったのは、疎遠になっていた隣に住む1つ違いの幼馴染の彼だった。
「えっ?!どうして……何でここにいるの?!」
私の素っ頓狂な第一声に彼は嫌な顔をするどころか、いつもと同じようににっこり艶然と微笑むと、呆然と立ち尽くす私の方へ歩いてくる。
「んー、そりゃあ、可愛い可愛い香乃果の顔が見たかったからに決まってるでしょ?」
「へぇ、そうなんだぁ……ってそんな訳ないよね?流石にそんな話には騙されないからね!」
目の前まできて悪戯っぽくいう彼をキッと睨めつけると、彼は目を見開きくつくつと喉を鳴らして笑った。
「ははは、可愛い妹兼幼馴染殿は相変わらず手厳しいねぇ。」
楽しそうにそう言うと、彼は私の頭をガシガシと捏ねくり回した。
「っちょ、や、辞めて……」
「いーや、辞めない。久しぶりなんだからさ、堪能させてよ。」
「こ、子供扱いしないでよ!第一妹って何よ?!学年が違っても、歳は1ヶ月しか変わらないじゃないの!」
「あ、そういえばそうだね。はははは。」
「はははは、じゃなーい!!!」
私が反論すればする程、目の前の幼馴染は楽しそうにするのは、小さな頃から変わらずずっとこの調子だ。それが、何だか癪に触る。
上目遣いで睨んでいるにも関わらず、嬉しそうにわしゃわしゃと私の髪を乱す幼馴染の事を、これからどうしてくれようかと思案していると、突然轟音が鳴り響き、ふたりしてくるりと父の方を振り返った。
「聖くんに香乃果、じゃれつくのはそれくらいにして……とりあえず、ご飯にしない?パパ、もうお腹ペッコペコでさ。このままだとお腹と背中がくっついちゃいそうなんだけど?」
先程の轟音はどうやら横の父のお腹の音だったようで、父はバツが悪そうな顔で悲壮感を漂わせながらそう言いながら、こっちに来てから立派に育ったお腹をするりするりと撫でた。
それを見て思わずふたりで同時にツッコミを入れる。
「「それはない。」」
「えー?何かそれ、酷くない?」
私達の見事なシンクロに父は、相変わらず仲がいいね、と言い楽しそうに声をあげて笑った。
「それはさておき……お腹が空いてるのは本当。香乃果も聖くんもお腹すいてるでしょ?さぁさぁ?ほら、早いとこレストランにいこう。ね?」
一頻り笑った後、父は追い立てるようにそう言いながら私と聖の背中を押して、予約したシーフードレストランに向かって歩を進めた。
しかし、何とも情けない横槍が入ったが、そのおかげで出来た隙に、パッと聖から身体を離し反対側に逃げ簡単に髪を整えた。
歩く事数分、目の前に赤い屋根と白い壁の木造の大きな建物が見えてくる。
「ここが今日の目的のレストランだよ。」
そう言って父は入り口の扉を開けると迎えに出てきたウエイトレスに予約してた事と名前を伝える。
暫くして戻ってきたウエイトレスの案内で向かった先は港町の様子が一望できる海沿いのテラスの席だった。
朝ごはんをしっかり食べていたとはいえ、15時過ぎまで何も食べていなかったので、父ではないが私もお腹はペコペコだった。
席に着くとすぐに、ウニ、甘エビとボイルされたエビ、ホタテにハマグリ、ムール貝、サーモンのお刺身、そして山のようなカニの足等、氷の上に沢山のシーフードが載った大きなプレートと大きなカゴにいっぱいの熱々のフィッシュアンドチップスが運ばれてきた。
それらをテーブルの中央に置くと、手際よく目の前に取り分ける為のお皿、ディップソース、レモンやライム、それから薬味が並べられていく。
「わぁ!凄い凄い!何これ?!」
興奮して声を上げると、父の顔が綻んだ。
「パパも今日初めて見たけど凄いね。せっかくだから美味しいシーフードをおなかいっぱい食べさせてあげようと思って予約しておいたんだよ。他にボイルロブスターも来るからね。」
笑顔で父はそう言うと、私と聖にドリンクのメニューを手渡してきた。その中から、私と父はスパークリングウォーター、聖はコーラを注文すると、すぐにドリンクが運ばれてきた。
「さぁ!いただこうか。香乃果、いっぱいお食べ。でも、大食漢の聖くんは少し遠慮してね?」
父は冗談ぽく茶目っ気たっぷりにそう言うと、早速シーフードモリモリのお皿に手を伸ばした。
◇◇◇
「美味しかったぁ!でも、もう何も入らない……」
お皿に残っていたボイルロブスターの最後の一欠片を口に運ぶと、私はカトラリーを置いた。
運ばれてきた料理はどれも新鮮で美味しくて手が止まらず、つい限界を超えて食べ過ぎてしまったのだが……なにぶん量が半端なく多くて、3人でお腹いっぱい食べても、まだまだテーブルには成人男性が満たされる位の料理が残っている状況だ。
シーフードプレートの魚介が美味しいのはもちろん、揚げたてのフィッシュアンドチップスに、タルタルをたっぷりのせてバンズに挟んだフィッシュバーガーは、もう悶絶するくらい絶品だったし、それから、ロブスターの身に溶かしバターとレモンを絞って、ちょっぴりエビ味噌を乗せて食べると、口の中が幸せ過ぎて気を失うかと思った。
あぁ、もっと食べたい……だけどもう無理……
目ではまだまだ食べたいのに流石に限界を迎えた私の胃は、パンパンでもう飲み物すら受け付けられなそうな雰囲気の為、目の前に並ぶ美味しい料理を諦める事にして、デザートのジェラートを口に運ぶ。
冷たいジェラートが口の中に広がりさっぱりとすると、思わず声が洩れた。
「んぅ~美味しい!」
「ぶっ……もう入らないとかいいながら、アイス食べてるじゃん。」
デザートのジェラートを口に運びながらそう言う私を見て、聖はくつくつと楽しそうに笑った。
「むっ、デ、デザートは別腹だもん!」
「あーはいはい。しかし……くくくっ。」
聖をじろりと睨めつけつつもジェラートを食べる手が止まらない私を見て、聖はお腹を抱えて大笑いをし出す。
若干イラッとしながらも、そういえば聖ってこういう奴だったよなぁと昔の事を思い出すと、諦めが先にやってきて一気に怒りのボルテージが下がる。
もういいや、と聖からジェラートへ視線を戻し黙々と口に運んでいると、目の前の聖から突然声を掛けられた。
「ところでさ……」
どうせまた揶揄うような事を言われるだろうと思った私は、すぐには顔を上げず、ジェラートの最後の一口まで堪能してから顔をあげた。
すると、先程とは打って変わって真剣な顔をした聖がいて、ドキリと心臓が跳ね上がり思わず手に持ったスプーンを取り落としてしまった。
「な、何?」
慌てて落としたスプーンを拾ろおうと立ち上がるが、ひと足早く動いていた聖が先にさっと拾い上げ私に手渡すと、そのまま私に問い掛ける。
「うん…あのさ、気にならないの?」
「何が?」
「俺が何でここにいるか、って事。」
「え?だってさっき、私に会いに来たって……違うの?」
さっき自分でそう言ってたはずなのに……
私が怪訝な視線を聖に向けると、聖は苦笑いを浮かべながら少し考えるような素振りをした後、徐に組んだ手をテーブルの上に置くと、一呼吸置いて口を開いた。
「あー…まぁ、それもあるにはあるんだけど…半分は違うんだよね。」
半分は違う……
言われたことが理解出来ず頭がフリーズした私に、聖はにっこりと綺麗な笑みを向けて言葉を続ける。
「あのね、この後、凄く大事な話があるんだけど……ここじゃあゆっくり話せないし、おじさんの車で移動しながら話そうか。」
私と聖が話している間に、いつの間にか父は会計を済ませていたようで、聖は立ち上がると私の傍に来てエスコートしてくれる。
聖に手を引かれ出口向かうと、これもいつの間に注文していたのか新たに注文したサンドイッチと先程のテーブルの上の料理を詰めたドギーバッグをウエイトレスに手渡された。
朝車を停めた駐車場はどうやら店の近くだったようで、店を出て数分歩くとすぐに車に到着した。
助手席に乗り込もうとした私を止め、後ろのスライドドアを開けて乗車を促した聖は、私を先に乗せると続いて自らも後部座席に乗り込み扉を閉めた。
そして、車に乗り込むや否や、聖はくるりとこちらに向き直りると、すぐに話を始めた。
「香乃果、落ち着いて聞いてね。話と言うのは、穂乃果の事なんだ。」
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