【R18】初恋やり直しませんか?

夢乃 空大

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第四章

第82話 チェックイン

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 13時半を過ぎた頃、兄と俺は宿泊していたホテルを出て、エントランスからタクシーに乗り込むと、扉が閉まりゆっくりと車が動き出す。

 あと数時間で香乃果に会えるんだ。

 そう実感すると今更ながら緊張してきて手が震えた。
 緊張でどうにかなってしまいそうな気を紛らわせる為、俺は頭を空っぽにして窓の外の流れる景色をぼぅと眺めていた。

「Excuses me Sir, we have arrived.」

「おぉい、渉?」

 不意に声を掛けられ、ハッとして隣の兄を見るとやれやれと肩を竦めている。そして、そのまま運転席に視線を移すと、ドライバーがにこやかな顔でこちらを見ていた。

 窓の外を見るといつの間にか車は目的地のホテルのエントランスに到着していたようで、タクシーは車寄せに停車していた。
ドライバーが目配せをすると、丁寧な挨拶と共に扉がベルボーイによって開かれる。


「Hellow, Welcome to our hotel. Please pay attention to your step and get out of the taxi.」


 俺はドライバーにお礼を言いタクシーを降車した。
 すると、兄はドライバーと何やら話をした後、エントランスに向かう俺に向かって言った。


「俺はタクシーで待ってるから、チェックインを済ませたら部屋の鍵持ってきてな。」


 俺は頷くと、車止めからベルボーイの立つ玄関口へ向かい、回転ドアを潜り抜け、ホテルへ一歩足を踏み入れる。

 今日の為に予約したホテルは、バイト先のホテルの支配人である梶原 賢太郎さんの学生時代の同級生が勤めているというホテルで、事情と予算を話した上で勧めてくれたのだが……

 着いてみて、勧められるがままに禄に下調べしていなかった事を激しく後悔した。

 吹き抜けのロビーやシースルーのエレベーター、そして屋内にある噴水など……思っていたよりも豪華でキラキラしていて、場違い感が半端ない。
 明らかに昨日泊まったホテルとは違い、どちらかというと俺がバイトしているホテルに近いハイグレードなホテルだった。

 よくあの予算で予約できたな、これは絶対に知人の特権とやらを使って安く手配してくれたのだろうと白目になる。

 とはいえ、既に賽は投げられた。もう後戻りは出来ない。
 俺は少し気後れしながらも、チェックインカウンターへ向かう。


「Please wait one moment while I locate someone to assist you.Thank you for your patience.」


 カウンターでバウチャーの画面を提示すると、対応した現地人ホテリエはにっこりと笑顔でそう言うと、一度奥へ下がって行った。

 暫くすると、奥から日本人ホテリエが出てきて、俺のいるカウンターへやってきた。


「大変長らくお待たせしました。担当変わらせていただきました。私、椎名と申します。」


 賢太郎さんの同級生の日本人ホテリエ…椎名さんは綺麗な笑顔でテキパキとチェックインの手続きの対応をしてくれたのだが……


「本日の瀬田様のお部屋はこちらになります。」


 そう言って椎名さんに案内された部屋番号を見て吃驚して瞠目する。


「えっと……これは…高層階…?」


 高校生のバイトで稼げる金額なんてたかが知れていて、恥ずかしながら予算の関係で俺が予約できたのは低層階だったのだが、渡されたルームキーは高層階用のものだった。
 俺は間違いではないか、とルームキーを2度見した後、椎名さんの顔を見ると、にっこりと笑顔を返される。


「瀬田様のご事情は梶原かじわらから伺っておりますので、大丈夫ですよ。」

「いや、でも……部屋が……」


 高層階だと、値段が倍くらい違うので、正直手持ちが俺は支払いが出来ない。間違いではないかと不安になった俺が言い淀むと、椎名さんは優しく微笑んだ。


「これは私共からお客様へのささやかなサービスでございますので、間違いではございません。」


 そう言うと、椎名さんは再度ルームキーを手渡してきた。
 その温かい笑顔に、不覚にもじわりと涙が滲んできた。

 俺の事情なんて知った事ないのに、今回の渡航の裏には聖兄やおじさん始め、賢太郎さんや椎名さん等、沢山の人の好意と優しさ、そして支えがある事に今更ながら気が付くと、胸がいっぱいになり涙で鼻の奥がツンとした。


「有難う、ございます。」


 滲む涙を拭い頭を下げてカードを受け取ると、椎名さんは優しい笑顔を浮かべてこう言った。


「We hope youどうぞ have a won素敵なderful ti一時をme.」



 ◇◇◇



 チェックインを済ませ兄にカードキーを渡した後、時間が空いてしまった俺は、ロビーのラウンジで時間を潰そうと思っていたのだが、先程対応してくれたホテリエが掛け合ってくれて、有難い事に少し早めに部屋に入れることになった。

 そのまま部屋に通されて、ドアを閉めた途端に遠い異国の地でひとりになった事に心細さを感じる。


 まだ兄から離れてほんの小一時間なのに……


 淋しさと情けなさで涙が滲んできた。
 男の俺でもこんなに不安で心細いと感じているのに、渡航前に穂乃果に俺の事で追い詰められて、そして傷付けられた次の日にたったひとりで渡加した香乃果は、どんな気持ちだったのだろうか想像してみる。

 ひとりで縁の無い外国にいくなんて、ただでさえ心細くて不安なはずなのに、どれだけ苦しくて辛かったのか……
 そんなの考えるまでもなく、相当キツかったに決まっているのに……

 少し考えればわかるはずの事なのに、自分がその立場になるまで思い至らなかった自分の浅慮さに嫌気がさして、罪悪感で胸がズキリと痛んだ。


「……それも全部俺のせいか。」


 嘆息してポツリと独り言ちるとベッドに仰向けに後ろから倒れ込んだ。


 どのくらいそうしていただろうか、いつの間にか日も落ちて灯りをつけていなかった部屋の中は薄暗くなっていた。
 気怠い身体をのろのろと起こし部屋の灯りをつけて時計をみると、間もなく17時。

 そろそろか……

 そう思うと居てもたってもいられず、ドアの方へ向かう。
 そのままウロウロとドアと部屋を行ったり来たりしていると、ふと、何となく外に人がいるような気配がした。

 誰かいる?

 俺は思わずドアスコープから外を覗いた。


「え……香乃果……?」


 そこには思い出の中の香乃果よりも随分と大人びた香乃果が立っていた。

 ドキリと心臓が跳ね上がり、咄嗟にドアを開けてしまいそうになった。だけど、流石にいきなり開けたら吃驚されるだろうと頭を過ぎる。
 それに、今ドアを開けて閉まったらきっと俺は香乃果を抱きしめてしまう。
 そんな事をして嫌われたら……そう思い、俺は拳を握りしめてどうにか思い止まった。

 気持ちを落ち着かせるように何度も深く深呼吸をする。

 そして、目を瞑ったままもう一度ドアスコープを覗き込む。

 夢ではないだろうか、ここにいる香乃果は本物の香乃果なのだろうか。

 そっと目を開けると、先程と同じ場所に香乃果は立っていた。
 緊張しているのか胸に手を当てて目を閉じた香乃果の顔はやや紅潮している。


 あぁ…本物だ。本物の香乃果だ。


 夢ではなかった事に思わず心の中で快哉を叫ぶと、同時にゆるゆると歓喜の波が押し寄せてくる。


 ドア1枚隔てただけの場所に恋焦がれた香乃果がいる……


 その事実に胸は早鐘を打ち、ドキドキと動悸が治まらない。


 もうこのままドアを開けて香乃果を部屋に引き摺り込んでしまおうか。
 そして、腕の中に抱き込んでその唇を塞いで、香乃果の甘い香りを胸いっぱいに吸い込みたい。

 そんな不埒な想いがムクムクと湧き上がってくる。

 だけど……

 香乃果の気持ちがわからない今、そんな無体な事をしてしまって香乃果に嫌われてしまったら、それこそ取り返しがつかない。

 
 とりあえず……落ち着け俺。

 深呼吸をして気持ちを落ち着ける。

 先にルームキーは渡してあるのだから、落ち着けばきっと香乃果はそれを使いドアをあけるだろう。それならば……と、俺の汚い欲望を必死で抑え込みながら、俺は香乃果がドアを開けるのを待つ事にした。

 しかし、10分経っても20分経ってもドアが開く様子はなく、ドアが開くのを今か今かと待ち侘びる俺の心臓がそろそろ持たなくなってきた。
 そして、更に数分待っていると、だんだんとマイナスな考えが浮かんできて不安になってくる。


「もしかして……帰っ、た…とか?」


 口に出すとサッと血の気が引き、俺は慌てて再度ドアまで転げるように向かった。
 そして、ふぅと一呼吸すると、意を決してドアスコープを覗き込んだ。

 そこにはドアの前をウロウロしたり、ドアベルに手を伸ばしては引っ込めたりを繰り返している香乃果の姿があり、俺は安堵の息を漏らす。

 しかし……
 香乃果は一体何をしているのだろう。

 俺はハラハラしながら暫く香乃果の様子を見ていると、どうやらドアベルを押そうと試みているが、あと一歩勇気が出ないのかなかなか押せずにいるようだった。

 片手にカードキーを握りしめながら……


「くくっ…テンパリすぎだろ。」


 きっとカードキーでドアが開けられる事に気が付いていないのだろうなと思わず忍び笑いが漏れた。


 続けてドアスコープを覗き込むと、今度は香乃果は深呼吸をしたかと思うと、赤くなったり青くなったり、天を仰いで震え出したり……

 その様子があまりにも悶絶する程可愛過ぎた。


「あぁ…もう、無理。我慢の限界。」


 俺はそう呟くと、意を決してドアノブに手を伸ばす。
 そして、ゆっくりとドアを開けると、ドアの外で目を見開いて真っ赤な顔をして立ち尽くす香乃果と視線がかち合う。


「……う、そ……なん、で……?」


 香乃果がそう呟くと同時に、大きく見開いた目から涙が一筋頬を伝って零れ落ちた。


┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

《意訳》

「Excuses me Sir, we have arrived.」
→着きましたよ。

「Hellow, Welcome to our hotel. Please pay attention to your step and get out of the taxi.」
→当ホテルへようこそお越しくださいました。足元に注意してタクシーをお降り下さい。

「Please wait one moment while I locate someone to assist you.Thank you for your patience.」
→わかるものを連れて参りますので、少々お待ち下さい。

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