【R18】初恋やり直しませんか?

夢乃 空大

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最終章

【閑話】落ち着く -後編-

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 キッチンに立ち、ソファに座る香乃果に目を遣ると、温かくて甘いものを摂取したからなのか、先程まで青い顔をしていた香乃果の頬に心做しかうっすらと色が戻っていた。

 よかった。

 ホッとひと息吐くと、突如として先程まで感じていなかった空腹感を感じた。

 そういえば、今日は何としても定時にあがりたかったから、摂るものも摂らず、お昼も携帯食のゼリードリンクで済ませ早々に切り上げて仕事をしていたので、当然胃の中は空っぽである。

 俺はふぅと短く嘆息すると、空になったマグカップをシンクに置き、ワイシャツの袖をまくってスポンジを泡立てながら、冷蔵庫の中身と棚の中を確認しようと、スポンジをマグカップに突っ込んで冷蔵庫の方へ移動する。

 さて、夕食には何を作ろうか…そんなことを考えながら、冷蔵庫を開けると、概ね予想通り。

 基本的に夕食は外食と自炊の半々でやりくりしているので、食材ストックについてはある程度は把握していたが、週の中日、後2日程度で休日となる今日、冷蔵庫には晩酌の為に常備しているビールと生ハムやチーズ、漬物等の多少のツマミの他に辛うじてたまごとベーコン、常備している玉ねぎと一昨日使ったしめじの残りがあるくらいで、わかっていたがろくな物は残っていなかった。

 後は、戸棚にはインスタントラーメンにレトルトカレー、ツナや鯖の味噌煮等の缶詰、それから朝食用のブリオッシュとパスタがあったはずだが、この材料で一体何が作れるだろうか。


 ブリオッシュは明日の朝に取っておくとして……


 と、なると、夕食はパスタか米のどちらかだろう。
 それに、俺の腹の空き具合はかなりのものなので、ここは無難に米だろうなと思ったところで、ふと思い出した。

 そういえば、米は一昨日使い切ってしまって既に切れていたな、と。

 俺は、しまったな、と独り言ちると、いつもなら…と少し考える。

 いつもであれば、米がなければインスタントラーメンを食べればいいし、最悪、飲むだけ飲んで寝てしまえば……となるのだが、流石に香乃果が居るのにそれはない。

 であればもうパスタ一択。そして、今作れるパスタとなると有り合わせのもので作れるツナと玉ねぎとしめじで和風パスタだろう。

 材料と工程が頭の中でかちっと噛み合う。

 うん、そうしよう。

 俺はマグカップとティーポットを洗いながら方針を決めると、徐にソファでカモミールティーを飲んでいる香乃果へ声を掛けた。


「香乃果、冷蔵庫見てみたけど、メシ、パスタでいい?直ぐに食べられるのはツマミとビールしかなくてさ。」


 洗い終わった茶器を水切り籠に入れながらそう言うと、香乃果はこちらを見て少し考える素振りをすると、そのままマグカップをくーっと煽り、ソファから立ち上がり、俺のいるキッチンへやってきた。


「えっと……私は軽く機内食食べたからビールとおつまみだけでも大丈夫だけど、渉はしっかり食べたいでしょ?」


 香乃果はマグカップを持って俺にぴったりと身体を寄せながら、スポンジ置きから泡立ったスポンジを取り、マグカップを洗いながらそう言った。

 久しぶりの香乃果のぬくもりに心臓がきゅうっとなった。
 そして、同時に理性のタガがパチンと弾けた。

 俺はツナとパスタを取り出す為に戸棚を開けようとした手を止めると、そのまま香乃果を後ろから抱きしめた。


「俺は…俺もそうでもないかな。」


 思っていた事と真逆の言葉が口から飛び出して自分でも吃驚した。

 咄嗟にああは言っては見たものの、本音で言うとヘトヘトでペコペコではあったが、それよりも香乃果をもっと感じたかった。

 平たく言えば、ぶっちゃけメシを食うよりもイチャつきたかったのだ。

 すると香乃果はくるりと振り返り俺の顔を食い入るようにじっと見つめると、次の瞬間盛大に溜息を吐いた。


「嘘だね。」


 ズバリと言われて瞠目する俺を尻目に、香乃果は言葉を続けた。


「普段終電で帰ってくる人が今日に限ってこんなに早く仕事を切り上げて帰ってくるなんて、絶対どこかで無理してるに決まってる。…大方、昼とか抜いてるんじゃないかな?だとしたら、お腹空いてるんじゃない?」


 隠すまでもなく的確に状況を言い当てられて、俺は絶句すると共に見透かされていた事に苦笑いが零れた。


「あー…まぁ、そう、だねぇ。うん、お腹ペコペコだ。」


 最早取り繕ってもしかたないと俺が本音を口にすると、香乃果はニヤリとドヤ顔をして、するりと俺の腰に手を回した。

 ぐぅ…可愛い。


「ほら、やっぱり。そうじゃないかと思ったよ。ていうか、明日も仕事だよね?なら、ちゃんと食べた方がいいんじゃない?」


 ドヤりながらも心配そうにそう言う香乃果の腰に手を回すと、上目遣いで俺を見る香乃果に俺は熱の篭った視線を送った。


「明日は休み取った。明日休めば3連休になるしな。それに、急に帰国するくらい大事な話があるんだろ?」


 俺の言葉に香乃果は目を丸く見開くと、サッと顔色を悪くして気まずそうに視線を泳がせた。


「あ、う、うん……そうだね……あの…じゃあ、今から、話しても…?」

「いやいや、帰りは日曜日だろ?そんなに急がなくてもよくない?長時間のフライトで疲れてるだろうし、話は明日起きてからにしよ?」


 質問に言葉を詰まらせながら答えた香乃果に俺がそう言うと、香乃果は小さく頷いて言った。


「うん…うん。そう…だね……」


 香乃果は言い終わると同時に、ホッとしたように強ばらせていた表情を緩め、俺の腕の中で安心したように深く息を吐いた。


「うん、だからさ……」


 そう言いながら緊張の解れた香乃果の背中をするりと撫でると、香乃果はぴくりと身を震わせた。

 堪らなくなった俺は一旦言葉を切り、香乃果の手を引いてソファへといざなうと、戸惑う香乃果をそのままソファへ座らせた。
 そして、俺も香乃果の横に腰掛けると、ふわりと香乃果を抱きしめ、耳朶をはむっと食んだ。


「っ、渉っ…!!!」

「メシ食って、ゆっくり風呂入って、それから……久しぶりに会えたから香乃果の事、めいっぱい感じたいんだけど……」


 そう耳元で囁きながら香乃果の首や頬にキスを落として行くと、香乃果はぴくぴくと身体を跳ねさせた。

 そして、ぢゅっと項に強く吸い付くようにキスをした後、蕩けて始めた香乃果の顔を覗き込みながら、コテリと首を傾げて提案したずねした。


「……ダメ?」


 途端に香乃果の顔が真っ赤になった。


「あらら、香乃果。顔真っ赤。かーわい。」


 俺が紅潮した頬をつつきながら意地悪い笑みを浮かべて言うと、香乃果は潤んだ瞳で俺を見詰めたかと思うと、今度は何か物言いたげにもじもじとし始めた。

 何だろうなぁ、と思い、笑みを崩さずにただ黙って見詰めていると、チラチラとこちらの様子を見ていた香乃果が、意を決したように急にぱっと顔をあげた。


「ん?なぁに?」


 艶然と笑みを浮かべて俺が訊ねると、更に香乃果の顔が赤くなった。


「渉っ…私も……」

「うん、香乃果。なぁに?」

「…あの………じゃない。」

「うーん、よく聞こえないなぁ。いいの?ダメなの?」


 ニヤリと方口角を上げてそう挑発すると、香乃果は瞠目した後、ぎゅっと目を瞑り勢いに任せて俺の挑発にのった。


「だ、だからっ、嫌じゃないってば!!!……ていうか、私だって渉に…ふ、触れたい……」

「はい、よくできました。」


 同じ気持ちでいてくれた事が嬉しくて、思わず頬が緩み笑みが零れた。
 しまった!と言う顔をして固まっている香乃果を抱き寄せると、宥めるように頭をぽんぽんしながら、香乃果に耳元で囁く。


「なーんだ、香乃果もしたいんじゃん。セックス。」

「…っなんっ……」


 途端に香乃果は俺の胸を押して身体をばっと離すと、茹でダコのような真っ赤な顔で口をパクパクとさせながら絶句している。

 可愛い。

 俺はもう一度、香乃果を抱き寄せるとあわあわと慌てふためく香乃果の顔を覗き込み、情欲をたっぷりとのせた甘い声で香乃果に言い聞かせるように言った。


「それならそうとちゃんと言ってくれないと。ね?」

「…ち、違っ……」

「へぇ?違うの?…じゃあ、しない?」


 頭を振りながら真っ赤になって否定する香乃果に、少しばかり意地悪く訊ねると、香乃果は潤んだ瞳で俺を見つめると、小さく、いや…と呟いた。


「ははっ。俺も嫌。てか、もう限界。ベッドいこ?」


 香乃果に唇にちゅっとキスを落としながらそう言うと、香乃果は俺の提案に小さく頷き、消え入りそうな声で、だけどハッキリと是と返事をした。
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みんなの感想(20件)

kuroro
2022.06.13 kuroro

今までなら向き合わずにすれ違ってた所をきちんとお互い向き合ってからのタイトル回収最高でした!

2022.06.26 夢乃 空大

ありがとうございます♡
この作品を描き始める前から、タイトル回収のシーンは決めていたので無事に回収できて良かったです(´ ˙꒳˙ `)

そして、舞台は最終章。
長い遠距離恋愛時代はまたもや焦れ焦れなので、さっくりと割愛して社会人編に突入です。
黒猫との絡みも多く出てきますので、知ってる名前が幾つかでてくるかと……
それでは最後までよろしくお願いしますm(_ _)m

解除
kuroro
2022.05.12 kuroro
ネタバレ含む
2022.05.13 夢乃 空大

この後暫くはふたりのイチャイチャが続きますので、今のうちに堪能しておいて頂けますと嬉しいです(´ ˙꒳˙ `)

解除
kuroro
2022.05.10 kuroro
ネタバレ含む
2022.05.11 夢乃 空大

感情移入して頂いてありがとうございます(≧∇≦)
ほんとそうですね。
私も渉の気持ちになってちょっとウルッとしました笑

もうちょいイチャラブ続きますよ笑
どうぞよろしくお願いします!

解除

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