117 / 118
最終章
【閑話】落ち着く -前編-
しおりを挟む閑話挿入にあたり、本編次話の冒頭部分を繰り上げて前話のおしりに挿入しました。
500文字とちょっと増えてます。
すみませんm(_ _)m
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
「お客さん、着きましたよ。」
運転手に声をかけられはっとして周りを見回すと、ほんの数秒目を瞑っていたと思っている間に、タクシーはいつの間にか俺の自宅マンションの前に停車していた。
料金を支払うと運転手は俺の座席横の扉を開け、そして、自分も下車をすると、荷降ろしを始めた。俺は眠ったままの香乃果を起こさないようにそっと抱き上げ降車すると、荷物を受け取って自宅へ向かった。
鍵を開け荷物を玄関に投げ捨て、そのまま香乃果をソファに横たえると、香乃果が身動ぎをした。
「…んっ、あれ?ここは……」
「起きた?まだゆっくりしてていいよ。」
俺は寝ぼけ眼の香乃果にそう告げると、香乃果の好きなカモミールティーを淹れる為キッチンへ向かった。
ケトルに残っていた水を捨てて新しい水と入れ替えるとスイッチをONにする。俺はその間に棚から茶葉取り出し、ティーポットに入れると、お揃いのマグカップを並べた。
やがてケトルからカチッとスイッチの切れる音がしたので、それぞれカモミールティーのお気に入りの飲み方があるので、その通り用意をすると、ケトルからティーポットへお湯を注いだ。
そのまま3分蓋をして蒸らし終えると、ティースプーン1杯の蜂蜜を掬ってそのままスプーンごと入れてあった香乃果のマグカップと、ほんの少しだけりんごジュースを入れてあった俺のマグカップへ注いで、ティースプーンでくるくると掻き混ぜる。
ふわりとカモミールのいい香りが漂い始めると、香乃果が漸くソファから身体を起こした。
俺はそのタイミングで、両手にマグカップを持ってソファに向かうと、ぼぅっと座っている香乃果の目の前にコトリと置いた。
「カモミールティー。気分が落ち着くから飲みなよ。」
俺はそう言うと、「よっこらしょ。」と香乃果の横に腰を降ろして手に持ったままのマグカップを口に運んだ。
「……ありがとう。」
香乃果はおずおずと目の前のマグカップを両手で包み込むように持ちそうポツリと言うと、そのまま熱いマグカップに口を付けた。
俺のはりんごジュースで少し冷めているけど、そっちはまだ淹れ立てで……
ゴクリとひと口飲み下しながら俺が心の中でそう思ったのとほぼ同時に、香乃果はマグカップから口をパッと離すと、「あちっ…!」っと声を上げた。
「あー……慌てて飲むから……」
それ見た事か、と呆れたような視線を送りながら香乃果を見ると、香乃果はふいと視線を逸らした。
「渉が普通に飲んでるから……こっちもそんなに熱いなんて思わなかったんだもん。てか、なんで渉のは冷めてんのよ。」
不貞腐れたように、不公平だ、そう言うと、香乃果はふぅふぅと一生懸命マグカップの中身を冷しながらちびちびと飲み始めた。
「不公平って……そりゃそうだよ。淹れ立てだし。俺のはりんごジュース入れてあるから初めから温くなってるの。香乃果も入れる?りんごジュース。」
そう言ってりんごジュースを取りに立ち上がろうとした俺の服の裾を、香乃果は咄嗟にきゅっと握って引っ張ると、上目遣いで一瞬恨めしそうな目で見た後、ふるふると首を振って言った。
「…いい。大丈夫。要らない。このままで十分美味しいし。」
「そ?ならいいけど。てか、入れても美味しいよ?」
「本当に大丈夫だから……ていうか、渉コレにいつも入れるよね。りんごジュース。最早、ティー要らなくない?もうりんごジュースだけでいい気がするんだけど。」
香乃果は呆れたようにそう言うと、早く冷ますためにスプーンでくるくると混ぜながら息を吹きかけた。
「っは。ていうかティー要らないとか酷くない?」
「いや、要らないでしょ?」
ティー要らなくない?の言葉が妙にツボに入り、思わず笑ってしまったそう言う俺を眉間に皺を寄せて苦い顔で見つめる香乃果に「飲む?」と持っているマグカップを差し出してみると、香乃果は差し出されたマグカップを片手で押し返しながら、溜息まじりに「理解できない」と一言漏らして苦笑した後、少し冷めて飲みやすくなったカモミールティーをコクコクと飲んだ。
「要るし。俺だってカモミールティー好きだから飲みたいし。だけど、猫舌で熱いの飲めないからさ。りんごと似たような香りしてるから風味邪魔しないし、手っ取り早く冷めるし美味いしで、メリットしかないし一石三鳥じゃんね?」
そんな俺の言葉を無視して美味しそうにカモミールティーを飲む香乃果の様子を、俺は目を細めて眺めながらマグカップの中身を一気に煽って飲み干すと、徐に立ちあがりキッチンへ向かった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ホストな彼と別れようとしたお話
下菊みこと
恋愛
ヤンデレ男子に捕まるお話です。
あるいは最終的にお互いに溺れていくお話です。
御都合主義のハッピーエンドのSSです。
小説家になろう様でも投稿しています。
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
幼馴染の許嫁
山見月あいまゆ
恋愛
私にとって世界一かっこいい男の子は、同い年で幼馴染の高校1年、朝霧 連(あさぎり れん)だ。
彼は、私の許嫁だ。
___あの日までは
その日、私は連に私の手作りのお弁当を届けに行く時だった
連を見つけたとき、連は私が知らない女の子と一緒だった
連はモテるからいつも、周りに女の子がいるのは慣れいてたがもやもやした気持ちになった
女の子は、薄い緑色の髪、ピンク色の瞳、ピンクのフリルのついたワンピース
誰が見ても、愛らしいと思う子だった。
それに比べて、自分は濃い藍色の髪に、水色の瞳、目には大きな黒色の眼鏡
どうみても、女の子よりも女子力が低そうな黄土色の入ったお洋服
どちらが可愛いかなんて100人中100人が女の子のほうが、かわいいというだろう
「こっちを見ている人がいるよ、知り合い?」
可愛い声で連に私のことを聞いているのが聞こえる
「ああ、あれが例の許嫁、氷瀬 美鈴(こおりせ みすず)だ。」
例のってことは、前から私のことを話していたのか。
それだけでも、ショックだった。
その時、連はよしっと覚悟を決めた顔をした
「美鈴、許嫁をやめてくれないか。」
頭を殴られた感覚だった。
いや、それ以上だったかもしれない。
「結婚や恋愛は、好きな子としたいんだ。」
受け入れたくない。
けど、これが連の本心なんだ。
受け入れるしかない
一つだけ、わかったことがある
私は、連に
「許嫁、やめますっ」
選ばれなかったんだ…
八つ当たりの感覚で連に向かって、そして女の子に向かって言った。
【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜
来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、
疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。
無愛想で冷静な上司・東條崇雅。
その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、
仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。
けれど――
そこから、彼の態度は変わり始めた。
苦手な仕事から外され、
負担を減らされ、
静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。
「辞めるのは認めない」
そんな言葉すらないのに、
無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。
これは愛?
それともただの執着?
じれじれと、甘く、不器用に。
二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。
無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる