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最終章
第105話 不測の事態?それとも……
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「――〇〇〇便がただいま到着いたしました。
―Air ××× flight 〇〇〇 from ―― has now arrived.」
空港ロビーに響き渡る到着アナウンス。
その音に急激に意識が引き戻された俺は、ハッとして辺りを見回して自分の置かれた状況を理解する。
おっと……いかんいかん。
どれだけ意識を飛ばしていたのか…
ついつい感傷に浸り過ぎてどっぷりと回想に耽ってしまっていたが、それもいつもの事と言えばいつもの事だ。
こうなった俺の集中力は凄まじく、気が付くと何時間も経ってしまっていたり、夜中中耽っていて朝を迎えている事もしばしば。
ある意味長所と言えば長所なのかもしれないのだが、気になる事や考え事をし始めると一点集中、没頭し過ぎてしまうのは、俺の昔からの悪い癖だ。
しかも、この集中力の厄介な所は、試験前やここぞという時に限って発揮してくれた事がない。寧ろ、こういった回想や妄想にばかり向いてしまうという……
如何せん、この集中力の向き先は自分の意思でどうにかなるものでもないので余計に厄介でタチが悪い。
俺は自嘲を零すと、呆けた頭をゆるゆると振って、手元のスマホ画面に視線を落とした。
例の如くかなりの時間を費やしてしまったかと思っていたが、物の5分程度しか時間は過ぎていなかったようで、ホッと安堵の息を漏らすと、先程の香乃果のメッセージに『了解。待ってる。』と返信した。
送信ボタンを押した後、スマホを一旦胸ポケットにしまい壁に寄りかかると、ふぅと深く呼吸をしながら俺は考えた。
2度目のあの時、既に1度約束を反故にした前科があるあの状況……普通だったら怒り狂ってもおかしくなかったし、最悪、破局も致し方ないような状況にも関わらず、何故、1度目の時とは違って心穏やかに香乃果を送り出す事が出来たのだろうかと。
冷静に第三者視点であの時の事を分析して見えてきた事は、1度目の時の俺はまだ学生で世間を知らなかった甘ちゃんだったと言う事だ。
まぁ、要するに1度目の時の俺がただただ子供だっただけという事なのだが……
その後の俺は、就活や研修で酷い挫折も味わい、社会の荒波に揉まれて……
そうやって迎えた2度目の時の俺は、1度目の時よりも格段に視野も器も広がっていた。
だからこそ、若くて視野の狭かった1度目の時よりも、ひと皮もふた皮も剥けた2度目の時には、ただ単に怒りをぶつける事をするのではなく、冷静に状況を判断してふたりで今後の方針を決める事が出来た。
なんだかんだ、結局2度目も俺が折れた事になるけれど、きっかり2年で帰って来るという香乃果の言葉を信じられたし、結果、帰国は先延ばしになったけれど、お互いの気持ちもきちんと確かめあえたので、俺はあの時、ふたり一緒の未来への希望も持つ事が出来たから、香乃果の希望を素直に受け入れられたのかもしれない。
だから、この時の俺に後悔は一切なかった。
遺恨なく前向きな気持ちでちゃんと送り出せたおかげで、その後の2年間は、香乃果との生活基盤を整える為にも、とにかく我武者羅に仕事を頑張る事が出来たのだと、ふとそう思った。
それからの俺は、学生の頃はほぼ毎日、社会人になってからも頻度こそ減ってはいたものの、週末には欠かした事はなかったSkype通話も、それすら出来ない程仕事に打ち込んだ。
そして、時を同じくして、香乃果の方も助手の仕事の他に、大学院時代アルバイトとしてやっていた学会資料の翻訳も引き続きやる事になり忙しくなり、直接の連絡を取る機会が格段に減っていった。
その分、ちょっとした出来事や気持ちの共有だけは欠かさずに、こまめにメッセージを送り合って、そうやってきちんとお互いの状況や気持ちを言葉にして伝えるようにした。
一緒の時間を共有する事はあまり出来なかったけれど、今まで以上に心の距離は縮まって密度の濃い2年間を過ごす事が出来たと思う。
だからこそ、流石に3度目はないだろうと思っていた。
それなのに……
2度あることは3度あるというか、不測の事態というのか起こるべくして起こったというのか。
それとも、ここぞという時に引いてしまうのが俺の運命なのか。
無情にもその俺の心がボッキリと折れてしまう3度目が起ってしまったのだ。
ただ、その3度目の理由は、今までとは違って俺や香乃果にはどうにもならない理由で……
最初に話を聞いた時、なんでこのタイミング?と天を仰いだ。
なんで俺ばかり……
世界に何か影響を及ぼすような…例えば勇者とか…そんな大それた人間でもない、取るに足りないようなちっぽけな人間に対して、そんなものが働くとは考えにくいが、何か人知を超えた何かが働いているとしか考えられなかった。
そして、同時に俺はいるかどうかもわからない運命の神様に恨みを募らせた。
◇◇◇
『大事な話があるから今から日本に帰ります。今回は弾丸なので3日間の滞在予定。どこかで時間作って貰えますか?夜には東京に到着するけど、迎えは要らないし、家で待ってるのでいつも通りお仕事してきて。』
突如忙しいはずの香乃果がなんの前触れもなく、休みでもなんでもない日に、急に一時帰国をすると連絡をしてきたのは、ちょうど就業開始時間直前。
吃驚して速攻で返信すると、フライトチケットの写真と共にもう飛行に乗ると返信があった。
迎えは要らないと言われたが、急とはいえ愛する香乃果の帰国だ。そういう訳にはいかないので、俺は急いで便名から到着時間を確認すると、すぐにグループウェアを開いてその日の自分の予定の確認と仕事の調整を始めた。
そうして、なんとか定時に仕事を終えると、本部長に香乃果の帰国と翌日の有給取得の旨を伝えて、会社を飛び出し、空港へ向かった。
俺が空港へ到着するのとほぼ当時に飛行機が到着。
まさか俺が迎えに来ていると思っていなかった香乃果は、到着口を出るや否や俺を視界に捉えると目をまん丸に見開いて固まり、そして次の瞬間泣き崩れた。
俺は弾かれたように香乃果の元へと駆け出すと、泣き崩れて涙でぐしゃぐしゃの香乃果を抱き抱えた。
「へ?わ、わた……」
「ちょっと急ぐから。落ちないように捕まってろよ?」
俺はにやりと笑みを浮かべてそう言うと、吃驚して声を上げた香乃果を抱き抱えたまま、躊躇する事なくさっさとロビーの出口へ歩を進め、タクシー乗り場を目指した。
本当なら空港から自宅まではタクシーよりも電車の方が格段に早く着くのだが、この状態の香乃果の事を考えると、タクシーを使うのが最善だった。
エントランスを出るとすぐ目の前は高速バスの乗り場、車道を渡り、大きな駅のバスターミナルのようにバス乗り場や送迎の為の車止めが浮島のように幾つか島のように連なっていて、その一番奥にタクシー乗り場がある。
遠目に見ただけでもその島に停車しているタクシーは全て荷積みをしていたので、俺は車の往来がない事を確認しながら、足早に横断歩道を渡り、目的地のタクシー乗り場へと急いだ。
島に着くと、ちょうど少し後方にいるタクシーが荷積みを終え発進した。そこに新たに横付けしたタクシー捕まえると、扉が開くと同時に香乃果を先に乗車させた。
そして、降りてきた運転手に行先を告げ、香乃果のスーツケースを託した後、俺もタクシーに乗り込んだ。
扉が閉まり、ふぅと息を吐き横の香乃果は見ると、窓に寄りかかりながら眠そうに目をしぱしぱとしていたので、俺は香乃果の肩を抱き寄せ、頭を俺の肩に凭れ掛からせた。
「疲れてるだろうから、寄りかかって。」
「ん…ありがと。」
俺がそう言うと、香乃果は素直に俺に身体を預け目を瞑った。
そして、荷物を積み終えタクシーが発進した頃には、長時間のフライトの疲れもあってか、香乃果は俺の肩に頭を預けてこっくりこっくりと船を漕ぎながらそのまま眠ってしまった。
俺は香乃果の泣き腫らした顔をするりと撫でると、ぎゅっと目を閉じ深く息を吐いた。
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