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最終章
第104話 染み渡る
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第100~102話
7/14改稿しましたm(_ _)m
結構手を加えてます……
勢い投稿ダメ絶対!( °×° )
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
そして、伝播した疑念はあっという間に俺の心を蝕んでいき、俺の全てを侵食していくと、思わず俺の中に燻っていた疑念の雫が言葉として零れ落ちた。
「香乃果は俺の事、好き?」
香乃果はパッと弾かれたように顔をあげると、テーブルに頬杖をついたまま胡乱な瞳で香乃果を眺めていた俺を、涙に濡れた瞳を見開いて見つめた。
「な、に……いって……」
「ねぇ、答えて?俺の事、好き?」
表情の変わらない俺の言葉に香乃果はひゅっと息を飲むと、絞り出すように答えた。
「……好き、だよ。大好き。」
そう言うと、言葉と共に香乃果の大きな瞳からはポロポロと涙が零れ落ちた。
咄嗟に俺は『あぁ、香乃果が泣いてる。』とか『その涙、拭ってやらなきゃ』と思った。
だけど、頭ではそんな事を思いながらも、その様子を猜疑心と疑念に濁った瞳で他人事のように眺めている自分がいて……
心と身体が一致しなくて何だか気持ちが悪かった。
そんな状態の俺でも香乃果の表情を見る限りでは、香乃果のこの言葉は真実なのだろうと感覚でわかった。
だけど、今日会ってからこれまでの香乃果の態度を鑑みると、それが本心なのかの判断がつかなくて、一瞬、嘘かもしれないという思いが頭を過ぎった。でも、同時に香乃果が嘘をつくはずがないとも思った。
揺れ動いて定まらない自分に対しても相当イラついていた事もあって、この時の俺は正常な考えができなかったんだと思う。
口に出してからしまった!と思ったが、時すでに遅し。
だけど、誓って…万に一つもそんな気持ちはなかったのだが、勢い余って香乃果に対してついつい試すような事を言ってしまった。
「香乃果は…もしかして、俺と別れたいと思ってるの?」
俺の言葉に、香乃果は涙を湛えた瞳を見開いて首を振りながら否定した。
「そんな事……嫌!別れたくない!絶対嫌!」
懸命にそう言う香乃果剣幕を見ても、一度抱いた疑念や猜疑心は直ぐに払拭はできず、残念ながら俺の心凍りついたように動かなかった。
だけど、反面、頭の片隅を過ぎった俺の直感は、この言葉は紛れもなく本心だと告げていて……
ここでも想いと思考が噛み合わず、あまりの気持ちの悪さに目眩がした。
信じたい気持ちと猜疑心の狭間で胸の奥がモヤモヤっとして気持ちが悪くて、心と身体だけでなく、何だか思考と想いまでもがチグハグで、自分でもどうしていいのかわからず混乱をきたしていた。
俺は一度頭を整理するために目を閉じると深呼吸をした。
嬉しいはずの香乃果の言葉が俺の心には全くと言っていい程響いてこなくて、逆にその言葉が胸に針のように刺さり、そこがジクジクと疼いたように痛かった。
叫び出したい気持ちを押し込めると、代わりに、俺は香乃果へ向けて再び試すような言葉を掛けた。
「ふぅん、なんで?」
泣いて縋る香乃果に対して、俺は表情を変えず首をコテリと傾げて訊ねた。
意地悪な事を言っている自覚はあった。
だけど、ちゃんと香乃果の気持ちを香乃果の口で言って欲しかった。
そうしたら、この胸の痛みと、俺の中にある猜疑心という得体の知れない感情が消えてなくなるかもしれない…
俺はそんな事を思いながら、目の前の香乃果を胡乱な瞳で見つめていた。
すると、香乃果は目を瞑り俯くと、やがて呟くような小さな声でポツリと俺の質問に答えた。
「だって…渉の事が好き…なんだもん。」
瞬間、コトリと何かが俺の中で音をたてた。
それはとても小さな音だった。
だけど、猜疑心に満たされている俺はそれを無視すると、感情の篭らない声で香乃果に訊ねた。
「好きだから?……それだけ?」
「そ、それだけじゃない!」
俺の言葉にパッと顔を上げた香乃果と俺の視線が一瞬絡んだが、香乃果はすぐに気まずそうに再び視線を落とすと、消え入りそうな声で言った。
「…これからも一緒に居たい……」
その言葉に再び俺の中で何かが音を立てた。
耳を澄ますと、その音はまるで閉ざしてしまった心の扉がコンコンとノックされているような…そんな感じで断続的に聞こえているような気がした。
さっきまで全く響いて来なかった香乃果の言葉が頑なになっている俺の心を少しずつ揺さぶり始めていたのだろうか、何だかそれまで感じていたよくわからない気持ちの悪さが和らいだ。
「今までだって、ほとんど一緒に居れなかったのに一緒に居たいの?なんで?」
気が付くと、俺は突き動かされるように香乃果に畳み掛けるようにそう言っていた。
俺の言葉に香乃果は瞠目すると、俯き肩を震わせ、そして絞り出すように言葉を漏らした。
「だって……」
「だって?」
その言葉の先はきっと本音だろう、と俺の直感が告げていた。俺は食い気味に言葉を被せた。
香乃果の本音が知りたくて、言葉に詰まって口篭る香乃果に、俺は無理矢理にこりと笑みを作って発言を促した。
香乃果は涙を拭うと、一度チラリと上目遣いでこちらの様子を伺うように視線を寄越した後、深く息を吸って吐き、そして、俺をしっかり見据えると、震える声で心の内を…俺の欲しかった言葉を告げた。
「愛…してる…の。私、渉の事、愛してる。だから……別れるのは嫌。」
しゃくりあげながら消え入りそうな声で告白する香乃果の言葉が、何故だか今度はすっと受け入れられて、黒く染った心に少しずつ染み渡っていった。
「ほんとうに…?」
俺は言いながら席を立ち香乃果の横に座り直し、香乃果の身体をこちらに向かせた。俯く香乃果の顎に指を添えて顔をクイと上向かせて覗き込むと、香乃果はゆっくりと逸らしていた瞳を俺に向けた。
そして、唇をキュッと噛み深く息を吐くと、震える声で言った。
「うん、本当にずっと、一緒に居たいから……先に籍だけでもって、思ったの。そうじゃないと、渉が、どっかいってしまいそうで……怖かったの。」
言い終わると香乃果の瞳から大粒の涙が溢れ、頬を濡らした。
涙が瞳から零れて落ちる度に、俺の中に芽生えた猜疑心はゆっくりと昇華するように消えていった。
そして、濁って淀んでいたいた視界がクリアにるように、心のフィルターが外れて、ストンと胸につかえていた何かが落ちると、香乃果の言葉が紛れもなく真実であると理解した。
「そっか……そうなのか。」
「渉……?」
得心したように呟く俺を香乃果は心配そうに覗き込んできた。
その香乃果の涙に濡れた瞳には、眉根を寄せて泣きそうな顔をした俺が映っていて、自分が泣きそうだった事を知った。
すると、張り詰めていた糸が切れたプツリと切れたのか、ポタリと涙が一粒こぼれ落ち、同時にゆるゆると愛おしさが大波のように押し寄せてきて、気が付くと香乃果を胸の中にかき抱いていた。
「うん、俺も。愛してるよ。俺だって、いつ香乃果に捨てられるかドキドキして過ごしてきたんだよ。」
震える声で耳元でそう囁くと、香乃果は一瞬、ビクリと身体を強張らせた。
落ち着かせるようにトントンと香乃果の背中を擦ると、おずおずと俺の背中に腕をまわして頬を胸に寄せた。
胸から香乃果の温かさがじんわりと広がっていき、やがてゆるゆると冷えていた心に温かさが戻ってきた。
そこで漸く俺も肩の力が抜けて、思わずはぁと深い溜息を吐くと、香乃果の温もりに陶酔していた。
どのくらいそうしていただろうか、暫くすると腕の中の香乃果が小さく呟いた。
「……私が渉を捨てるとか……そんなこと、しないよ……絶対。」
その言葉がどうしようもなく嬉しくて頬が緩んだ。
「うん…そっか。ならいいんだけど。今までは、いつだって香乃果は勉強に夢中で、俺ばかりが香乃果の事好きで好き過ぎて…本当はもっと沢山愛を伝えたかったけど、愛が重いとか束縛し過ぎとか、いつか嫌われるんじゃないかってずっと怖かった。」
そう言って苦笑いを零すと、腕の中の香乃果を見据えてそのまま言葉を続けた。
「社会人になって3年、己の不甲斐なさを痛感したというかなんというか……まぁ、俺にも色々あったからね。今はようやく落ち着いて来たけど、香乃果の話聞いて、正直、今の俺じゃ香乃果を支えきれないって思った。」
「…だから…だから、結婚延期するの?本当にそれだけ……?」
「うん。そ。他に理由なんてないよ。嫌?」
くすりと笑って言うと、香乃果は首が捥げてしまうのではないかと思う程、勢いよく首をブンブンと振った後、ポツリと小さな声で言った。
「嫌じゃない…けど……」
「けど?」
「…………不安…かな。」
「何が不安?」
顔を覗き込んで訊ねると、少し考えた後、香乃果は言いにくそうおずおずと口を開いた。
「この先が不確定な事が。だって、前回も今回も……結局は私の我儘を通してる。正直、いつ心変わりされてもおかしくないなって思ってる。」
なんだ、香乃果も俺と同じだったんだ……
不安げな香乃果を見て、俺はそれまでの気持ちが凪いでいくのを感じた。
「そっか。でも、それは俺だって不安。それに…我儘と言われればそうかもしれないけど、結婚も同棲も勢いとタイミングだってよく言うでしょ?で、どちらもたまたまタイミングが合わなかった。だから、前回も今回も…きっと俺達のタイミングじゃなかったんだよ。」
「で、でも……」
俺は尚も不安げに瞳を揺らして言う香乃果の頬を優しく撫でた。
確かに今の俺達は、お互いの住む国も違うし仕事の事もまだ見通しがついていない。
それに、先の約束もなければ許嫁で恋人あるという関係以上の物はないのだから、香乃果の不安ももっともだとおもうし、理解できた。
だけど、この先が見えない状況下でまた約束で縛ってしまうと、香乃果にとっても負担だろうし、俺だって今度こそはと期待だってしてしまう。
そう考えると、今までのようにゴールを決めて縛り付けるような約束は出来ないと思った。
そして、考えが纏まった俺は深呼吸をして、自分に言い聞かせる様に頷いた後、香乃果と視線を絡めた。
「うーん……それじゃあ、ひとつだけ。」
そう言うと、俺は香乃果の手をグイっと引っ張って抱きしめると、俺は香乃果の耳元で『俺の願い』を告げた。
「お願いだから、きっかり2年で戻ってきて。俺も、後2年で死にものぐるいで地盤固めるから。」
香乃果は『俺の願い』を聞くと、張り詰めていたものが切れたかの様に、眉根を寄せて涙を流した。
そして、俺の肩に額を押し付けで声を殺して泣きながら、何度も何度も頷いた。
「うん…うん……わかった。ごめん…ごめんなさい。」
我慢していた涙が堰を切ったように溢れて止まらない香乃果を
俺はぎゅうっと抱き締めると、一度身体を離し、両手で香乃果の顔を包み上を向かせた。
香乃果の涙で濡れた瞳を愛おしむ様に覗き込むと、頬をするりと撫で、安心させるようにゆっくり優しく伝える。
「違うでしょ?そこは『ごめん』じゃなくて『ありがとう』でしょ?」
そう言って唇に触れるだけのキスを落とすと、香乃果は大粒の涙をポロポロと零しながら頷き、そして破顔した。
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そして、伝播した疑念はあっという間に俺の心を蝕んでいき、俺の全てを侵食していくと、思わず俺の中に燻っていた疑念の雫が言葉として零れ落ちた。
「香乃果は俺の事、好き?」
香乃果はパッと弾かれたように顔をあげると、テーブルに頬杖をついたまま胡乱な瞳で香乃果を眺めていた俺を、涙に濡れた瞳を見開いて見つめた。
「な、に……いって……」
「ねぇ、答えて?俺の事、好き?」
表情の変わらない俺の言葉に香乃果はひゅっと息を飲むと、絞り出すように答えた。
「……好き、だよ。大好き。」
そう言うと、言葉と共に香乃果の大きな瞳からはポロポロと涙が零れ落ちた。
咄嗟に俺は『あぁ、香乃果が泣いてる。』とか『その涙、拭ってやらなきゃ』と思った。
だけど、頭ではそんな事を思いながらも、その様子を猜疑心と疑念に濁った瞳で他人事のように眺めている自分がいて……
心と身体が一致しなくて何だか気持ちが悪かった。
そんな状態の俺でも香乃果の表情を見る限りでは、香乃果のこの言葉は真実なのだろうと感覚でわかった。
だけど、今日会ってからこれまでの香乃果の態度を鑑みると、それが本心なのかの判断がつかなくて、一瞬、嘘かもしれないという思いが頭を過ぎった。でも、同時に香乃果が嘘をつくはずがないとも思った。
揺れ動いて定まらない自分に対しても相当イラついていた事もあって、この時の俺は正常な考えができなかったんだと思う。
口に出してからしまった!と思ったが、時すでに遅し。
だけど、誓って…万に一つもそんな気持ちはなかったのだが、勢い余って香乃果に対してついつい試すような事を言ってしまった。
「香乃果は…もしかして、俺と別れたいと思ってるの?」
俺の言葉に、香乃果は涙を湛えた瞳を見開いて首を振りながら否定した。
「そんな事……嫌!別れたくない!絶対嫌!」
懸命にそう言う香乃果剣幕を見ても、一度抱いた疑念や猜疑心は直ぐに払拭はできず、残念ながら俺の心凍りついたように動かなかった。
だけど、反面、頭の片隅を過ぎった俺の直感は、この言葉は紛れもなく本心だと告げていて……
ここでも想いと思考が噛み合わず、あまりの気持ちの悪さに目眩がした。
信じたい気持ちと猜疑心の狭間で胸の奥がモヤモヤっとして気持ちが悪くて、心と身体だけでなく、何だか思考と想いまでもがチグハグで、自分でもどうしていいのかわからず混乱をきたしていた。
俺は一度頭を整理するために目を閉じると深呼吸をした。
嬉しいはずの香乃果の言葉が俺の心には全くと言っていい程響いてこなくて、逆にその言葉が胸に針のように刺さり、そこがジクジクと疼いたように痛かった。
叫び出したい気持ちを押し込めると、代わりに、俺は香乃果へ向けて再び試すような言葉を掛けた。
「ふぅん、なんで?」
泣いて縋る香乃果に対して、俺は表情を変えず首をコテリと傾げて訊ねた。
意地悪な事を言っている自覚はあった。
だけど、ちゃんと香乃果の気持ちを香乃果の口で言って欲しかった。
そうしたら、この胸の痛みと、俺の中にある猜疑心という得体の知れない感情が消えてなくなるかもしれない…
俺はそんな事を思いながら、目の前の香乃果を胡乱な瞳で見つめていた。
すると、香乃果は目を瞑り俯くと、やがて呟くような小さな声でポツリと俺の質問に答えた。
「だって…渉の事が好き…なんだもん。」
瞬間、コトリと何かが俺の中で音をたてた。
それはとても小さな音だった。
だけど、猜疑心に満たされている俺はそれを無視すると、感情の篭らない声で香乃果に訊ねた。
「好きだから?……それだけ?」
「そ、それだけじゃない!」
俺の言葉にパッと顔を上げた香乃果と俺の視線が一瞬絡んだが、香乃果はすぐに気まずそうに再び視線を落とすと、消え入りそうな声で言った。
「…これからも一緒に居たい……」
その言葉に再び俺の中で何かが音を立てた。
耳を澄ますと、その音はまるで閉ざしてしまった心の扉がコンコンとノックされているような…そんな感じで断続的に聞こえているような気がした。
さっきまで全く響いて来なかった香乃果の言葉が頑なになっている俺の心を少しずつ揺さぶり始めていたのだろうか、何だかそれまで感じていたよくわからない気持ちの悪さが和らいだ。
「今までだって、ほとんど一緒に居れなかったのに一緒に居たいの?なんで?」
気が付くと、俺は突き動かされるように香乃果に畳み掛けるようにそう言っていた。
俺の言葉に香乃果は瞠目すると、俯き肩を震わせ、そして絞り出すように言葉を漏らした。
「だって……」
「だって?」
その言葉の先はきっと本音だろう、と俺の直感が告げていた。俺は食い気味に言葉を被せた。
香乃果の本音が知りたくて、言葉に詰まって口篭る香乃果に、俺は無理矢理にこりと笑みを作って発言を促した。
香乃果は涙を拭うと、一度チラリと上目遣いでこちらの様子を伺うように視線を寄越した後、深く息を吸って吐き、そして、俺をしっかり見据えると、震える声で心の内を…俺の欲しかった言葉を告げた。
「愛…してる…の。私、渉の事、愛してる。だから……別れるのは嫌。」
しゃくりあげながら消え入りそうな声で告白する香乃果の言葉が、何故だか今度はすっと受け入れられて、黒く染った心に少しずつ染み渡っていった。
「ほんとうに…?」
俺は言いながら席を立ち香乃果の横に座り直し、香乃果の身体をこちらに向かせた。俯く香乃果の顎に指を添えて顔をクイと上向かせて覗き込むと、香乃果はゆっくりと逸らしていた瞳を俺に向けた。
そして、唇をキュッと噛み深く息を吐くと、震える声で言った。
「うん、本当にずっと、一緒に居たいから……先に籍だけでもって、思ったの。そうじゃないと、渉が、どっかいってしまいそうで……怖かったの。」
言い終わると香乃果の瞳から大粒の涙が溢れ、頬を濡らした。
涙が瞳から零れて落ちる度に、俺の中に芽生えた猜疑心はゆっくりと昇華するように消えていった。
そして、濁って淀んでいたいた視界がクリアにるように、心のフィルターが外れて、ストンと胸につかえていた何かが落ちると、香乃果の言葉が紛れもなく真実であると理解した。
「そっか……そうなのか。」
「渉……?」
得心したように呟く俺を香乃果は心配そうに覗き込んできた。
その香乃果の涙に濡れた瞳には、眉根を寄せて泣きそうな顔をした俺が映っていて、自分が泣きそうだった事を知った。
すると、張り詰めていた糸が切れたプツリと切れたのか、ポタリと涙が一粒こぼれ落ち、同時にゆるゆると愛おしさが大波のように押し寄せてきて、気が付くと香乃果を胸の中にかき抱いていた。
「うん、俺も。愛してるよ。俺だって、いつ香乃果に捨てられるかドキドキして過ごしてきたんだよ。」
震える声で耳元でそう囁くと、香乃果は一瞬、ビクリと身体を強張らせた。
落ち着かせるようにトントンと香乃果の背中を擦ると、おずおずと俺の背中に腕をまわして頬を胸に寄せた。
胸から香乃果の温かさがじんわりと広がっていき、やがてゆるゆると冷えていた心に温かさが戻ってきた。
そこで漸く俺も肩の力が抜けて、思わずはぁと深い溜息を吐くと、香乃果の温もりに陶酔していた。
どのくらいそうしていただろうか、暫くすると腕の中の香乃果が小さく呟いた。
「……私が渉を捨てるとか……そんなこと、しないよ……絶対。」
その言葉がどうしようもなく嬉しくて頬が緩んだ。
「うん…そっか。ならいいんだけど。今までは、いつだって香乃果は勉強に夢中で、俺ばかりが香乃果の事好きで好き過ぎて…本当はもっと沢山愛を伝えたかったけど、愛が重いとか束縛し過ぎとか、いつか嫌われるんじゃないかってずっと怖かった。」
そう言って苦笑いを零すと、腕の中の香乃果を見据えてそのまま言葉を続けた。
「社会人になって3年、己の不甲斐なさを痛感したというかなんというか……まぁ、俺にも色々あったからね。今はようやく落ち着いて来たけど、香乃果の話聞いて、正直、今の俺じゃ香乃果を支えきれないって思った。」
「…だから…だから、結婚延期するの?本当にそれだけ……?」
「うん。そ。他に理由なんてないよ。嫌?」
くすりと笑って言うと、香乃果は首が捥げてしまうのではないかと思う程、勢いよく首をブンブンと振った後、ポツリと小さな声で言った。
「嫌じゃない…けど……」
「けど?」
「…………不安…かな。」
「何が不安?」
顔を覗き込んで訊ねると、少し考えた後、香乃果は言いにくそうおずおずと口を開いた。
「この先が不確定な事が。だって、前回も今回も……結局は私の我儘を通してる。正直、いつ心変わりされてもおかしくないなって思ってる。」
なんだ、香乃果も俺と同じだったんだ……
不安げな香乃果を見て、俺はそれまでの気持ちが凪いでいくのを感じた。
「そっか。でも、それは俺だって不安。それに…我儘と言われればそうかもしれないけど、結婚も同棲も勢いとタイミングだってよく言うでしょ?で、どちらもたまたまタイミングが合わなかった。だから、前回も今回も…きっと俺達のタイミングじゃなかったんだよ。」
「で、でも……」
俺は尚も不安げに瞳を揺らして言う香乃果の頬を優しく撫でた。
確かに今の俺達は、お互いの住む国も違うし仕事の事もまだ見通しがついていない。
それに、先の約束もなければ許嫁で恋人あるという関係以上の物はないのだから、香乃果の不安ももっともだとおもうし、理解できた。
だけど、この先が見えない状況下でまた約束で縛ってしまうと、香乃果にとっても負担だろうし、俺だって今度こそはと期待だってしてしまう。
そう考えると、今までのようにゴールを決めて縛り付けるような約束は出来ないと思った。
そして、考えが纏まった俺は深呼吸をして、自分に言い聞かせる様に頷いた後、香乃果と視線を絡めた。
「うーん……それじゃあ、ひとつだけ。」
そう言うと、俺は香乃果の手をグイっと引っ張って抱きしめると、俺は香乃果の耳元で『俺の願い』を告げた。
「お願いだから、きっかり2年で戻ってきて。俺も、後2年で死にものぐるいで地盤固めるから。」
香乃果は『俺の願い』を聞くと、張り詰めていたものが切れたかの様に、眉根を寄せて涙を流した。
そして、俺の肩に額を押し付けで声を殺して泣きながら、何度も何度も頷いた。
「うん…うん……わかった。ごめん…ごめんなさい。」
我慢していた涙が堰を切ったように溢れて止まらない香乃果を
俺はぎゅうっと抱き締めると、一度身体を離し、両手で香乃果の顔を包み上を向かせた。
香乃果の涙で濡れた瞳を愛おしむ様に覗き込むと、頬をするりと撫で、安心させるようにゆっくり優しく伝える。
「違うでしょ?そこは『ごめん』じゃなくて『ありがとう』でしょ?」
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