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王国編
フィオ
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「んっ……んん……っ」
ベッドに面した窓から差し込む朝日の感触に、身動ぐ。
と、柔らかな感触を背中で覚えた。
「ん……?」
身動ぐ。
やっぱり弾力感のある感触。
振り返ると、そこには。
「!!!!!!!???????」
がばっと起き上がった。
「イザベラ! 何してるんだ!?」
生まれたての姿になったイザベラが、のんきな大欠伸をした。
「なぁ~~にぃ~~?」
イザベラは目を擦る。
彼女は身体の線の透けたあられもない姿が露わなまま。
アルベールは顔を背けた。
「そんなぁ~嫌がらなくていいのにい~」
「い、嫌がってるんじゃなくって非常識だろ! そもそも、眠る必要はないって言ってただろ! 何をしてるんだっ!」
「眠る必要はなくても、娯楽として眠ることは出来るからね~。ふっふ~。アルだって喜んでたくせに~」
「喜んでない! さっさと服を着ろっ!」
「……着たよ~」
振り返ると、やっぱり生まれたままで胸を強調してみせたイザベラが。
「……っ!」
すぐに前を向く。
(こんな女に弄ばれるなんて……!)
※
「何だい。アルベールっ。昨日は眠れなかったのかいっ?」
ビッグママが、朝っぱらから憔悴しているアルベールを前に不思議そうな顔をする。
「……そんなことはないけど、まあ、確かに色々あったかもな。で、帝国の情報は何か分かった?」
「焦るんじゃないよ。そんなすぐには分からないしね」
「……まあな」
それでもやっぱり心は焦る。
しかし一週間後、ビッグ・ママの情報網に重大事が引っかかったのだ。
※
「帝国が我が国の砦を!?」
深夜。
アルベールをたたき起こすと、ビッグ・ママは情報を告げたのだ。
帝国軍が国境線を突破、王国の砦を次々陥落させている――と。
それは王国の守護神、ウンベルトが死んだことを知っているような迅速さだった。
「フードの奴のことは? やはり帝国か?」
「悪いね、それはまだ分かってないんだ……。何せ手がかりがあんまりにも少ないからね。……でも帝国の動きを見ると、無関係とは思えないね」
「いや、こんな重要な情報を取ってきてくれて感謝してるっ。ありがとう、ビッグ・ママ!」
アルベールは立ち上がり、頭を深々と下げる。
「構わないさ。こんなことしたってウンベルト様から受けた恩は返しきれないくらいだからね」
「でも王都の動きを考えると早馬はまだ来てないよな?」
「行く鯖からの早馬はそのうち王都に届く。届けば、大混乱だろうね。もう町の何人かは逃げる準備を始めているよ」
アルベールは二階へ向かう。
「ちょっと! 寝直すつもりかいっ!」
「違う。王国を守るっ!」
何を言っているのか理解できてないビッグ・ママを置き去りに、部屋に入った。
部屋に入るなり、アルベールは短剣を握った。
「死ぬの?」
いつの間にか、イザベルが姿を現していた。
相変わらずウサギ耳がふわふわ揺れている。
「今日の朝に戻る」
「それで?」
「早く準備を整えれば、迎撃がしやすくなる」
「ん~? どうやって~? だってお城に入れないだよ~?」
「分からないなら見てろ」
迷うこと無く心の臓に刃を突き立てた。
※
朝霧の漂う早朝。
アルベールたちは王都近くの湖に来ていた。
霞が辺りを覆っている。
馬のいななきがひっそりと響きわたっていた。
アルベールは馬と、馬の持ち主に静かに近づいていく。
朝露に濡れた草を踏んだ瞬間。
「はあああああああ!!」
電光石火の刺突を、フィオナーレンは繰り出してきた。
剣先は胸元をかすめる。
危うく殺されるところだった。
「お、おい、落ち着けよ……」
「あ、アル!?」
「よぉ」
アルベールは苦笑する。
「普通の人間は女性に背後から迫らないものよ!」
フィオナーレンは頬を膨らませ、剣を鞘に収めた。
「アル。今までどこにいたの? 服も身体も綺麗みたいだから、野宿じゃないみたいだけど」
「人の身体、嗅ぐなよっ! 犬じゃあるまいし……!」
「ごめん。つ、つい……」
フィオは頬を染めた。
「今はビッグ・ママのところに厄介になってる」
「……やっぱりそうか。あそこはウンベルト様を崇めてるから」
「ああそうなんだ……って、そうじゃない! こんなことを話す為に来たんじゃない! 大事な話があるんだっ!」
「ど、どうしたの?」
「帝国が、王国に攻撃を開始した」
フィオナーレンは目を瞠った。
「どこでそんなことを?」
「ビッグ・ママの情報網に引っかかった」
「でも早馬は届いてないし……」
「帝国の連中が早馬を出させないよう妨害してる可能性だってある。頼むっ。叔父上に取り次いでくれっ」
「……分かった。来てっ!」
フィオナーレンが馬に乗ろうとするのを、止める。
「俺が前に乗る。いいか?」
「え、ええっ」
馬に乗ると、手を伸ばす。
フィオナーレンの手を引き、馬にまたがった。
「しっかり掴まれよ」
「んっ」
フィオナーレンの両腕が、アルベールのお腹に回された。
温かな感触が背中で感じると、ドキッと鼓動が高鳴る。
「はっ!」
ムチを入れて、馬を飛ばした。
※
「父上っ!」
朝議の席上に、フィオナーレンとアルベールは乗り込んだ。
「痴れ者を捕らえよ!
首席大将であるロッソが叫べば、衛兵がアルベールに向かってくる。
しかし。
「近づくなっ!」
アルベールを、フィオが庇った。
「お、おい、フィオっ!?」
「黙っててっ」
フィオナーレンの迫力に、アルベールは引き下がった。
フィオナーレンは衛兵たちを見回す。
「私の声が聞こえるのならば、下がりなさい」
怒鳴る訳ではない冷静な訴えかけに、衛兵たちは下がる。
「何をしているっ! 俺が命じているのだぞっ!」
ロッソが叫べば、
「やめよ。ロッソ」
王が言えば、全員が膝を折ってかしづく。
「フィオ。いくらお前が我が娘であっても何をしてもいいという訳ではないのだぞ」
「父上、申し訳ありません。しかしこの国に危機が及ぼうとしております」
「危機?」
「……アルベールがそう申して下ります」
アルベールは、王の前でかしづく。
「お騒がせして申し訳ありません、叔父上。しかしこれは伝えねばとならぬと思いまして。帝国が国境を突破し、我が国の砦を次々と落としておりますっ」
「何!? ――宰相っ!」
宰相のガリバルディは首を横に振った。
「そのような報告はございませぬ」
「叔父上! 早馬が届くのはいつになるか分かりません。そこで動いても遅いのです!」
「庶民アルベール。そんな情報をどのようにして手に入れた? 帝国にでも聞いたか?」
宰相が聞いてくる。
周りから忍び笑いが響く。
わざとアルベールを挑発しているのだ。
事実、はらわたが煮えくりかえりそうになったが、あの男を殺した時のことを考えて、こらえた。
あの男は無様に許しを乞うた。
つまり、その程度の奴に過ぎないのだ。
そんな奴相手にわざわざ腹を立てるのは時間の無駄。
そう思うと、頭はスッキリ。
冷静になれた。
実際笑いかけると、宰相のほうがたじろいたほど。
「町の有力者より聞きました」
「町? ふっ。あんな下賤の者らの情報を信じているのか?」
「父はそのようにして情報を集めておりました。市井《しせい》の者たちほど、耳の早い者たちはおりませんっ。戦に巻き込まれれば全てを失うのですから」
「お前の話は聞いた。後は我々で……」
王は宰相の言葉を遮る。
「待てっ。確かにウンベルトは不思議と情報を多く所持していた。だからこそ帝国に対して常に優位を維持できた。何故そのように様々なことを知っているのかと聞いたら、人々に耳を向けた、とそう言っていた……」
王の揺れる心を見抜いた宰相が、一歩踏み出した。
「陛下っ。ウンベルトは謀反人でございますぞっ」
「……謀反人だとしても、ウンベルトがこれまで連戦連勝無敗であったことは事実だ」
「とにかく! 早馬の到着を待つべきです!」
宰相の言葉を、アルベールが遮る。
「叔父上、早馬が届いてからでは遅いのです!」
宰相が鼻で笑う。
「さっきから色々とご託を並べているが、根拠がないではないかっ! 帝国がやってくる? お前が手引きをしたのではないだろうな?」
「そんなことをするか! 父も謀反人ではない! ――叔父上、父が率いた雷竜騎士団をお貸し下さいっ!」
「残念だな。雷竜騎士団はすでに解体され、存在していない」
首席大将のロッソが笑った。
「何だと!?」
ロッソに近づこうとすると、衛兵に阻《はば》まれてしまう。
「叔父上! お願いします! 兵をお貸し下さいっ!」
「アルベール。少し考える。下がれ」
「叔父上! 間に合わなくなります!」
「父上! お願いします! アルを信じて下さいっ! アルは自らの身の危険も顧みず、来たのですよ!?」
フィオナーレンも訴えかけてくれる。
宰相が言う。
「フィオナーレン様。あなたとその男とはもう何も関係ないのですぞ……」
「宰相、黙りなさい! 私は婚約解消を飲んではいません! 父上、失礼いたします! ――アル、来て!」
「うわ!」
フィオナーレンは、アルベールの手を引いて謁見の間を後にした。
※
謁見の間を出ると、フィオナーレンとアルベールは向き合った。
「仕方ないわ。一緒に行きましょう。私の兵を連れて行くっ」
フィオナーレンは盗賊退治の為に三百人ほどの兵を与えられている。
「駄目だ! 危なすぎるっ! 俺の為なんかに……」
「悪いけど、そうも言ってられないわ。だってあなたの言葉が本当で、帝国が攻めてきたとすれば、民が一番苦しむことになるわ。そうなれば、これはもうこの国の全ての民の問題よ」
フィオナーレンの言葉に、アルベールは励まされた。
このまっすぐさを、アルベールは愛した。
「……そうだったな。でもフィオ。お前が来るのは駄目だ。ここに残れ。俺が――」
「それこそ駄目よ。兵の中にはあなたを謀反人を思ってる者もいる。覚えてる? 医務室から出て来た時にアルを暗殺しようとしてた男。彼は兵士だったの」
「分かった。お前のことは俺が絶対に守るっ」
「それはこっちの台詞。でも本当は兵をもっと欲しいけど……」
「それなら何とかなるかもしれない」
「どうするの?」
「恐らく前線から撤退してくる兵士もいるだろう。それをフィオナーレンの名前の元に接収して、数を揃える」
「分かったわ」
※
間もなく正午というところで、アルベールとフィオナーレンは三百人の兵を率いて、国境線に向かって出立した。
ベッドに面した窓から差し込む朝日の感触に、身動ぐ。
と、柔らかな感触を背中で覚えた。
「ん……?」
身動ぐ。
やっぱり弾力感のある感触。
振り返ると、そこには。
「!!!!!!!???????」
がばっと起き上がった。
「イザベラ! 何してるんだ!?」
生まれたての姿になったイザベラが、のんきな大欠伸をした。
「なぁ~~にぃ~~?」
イザベラは目を擦る。
彼女は身体の線の透けたあられもない姿が露わなまま。
アルベールは顔を背けた。
「そんなぁ~嫌がらなくていいのにい~」
「い、嫌がってるんじゃなくって非常識だろ! そもそも、眠る必要はないって言ってただろ! 何をしてるんだっ!」
「眠る必要はなくても、娯楽として眠ることは出来るからね~。ふっふ~。アルだって喜んでたくせに~」
「喜んでない! さっさと服を着ろっ!」
「……着たよ~」
振り返ると、やっぱり生まれたままで胸を強調してみせたイザベラが。
「……っ!」
すぐに前を向く。
(こんな女に弄ばれるなんて……!)
※
「何だい。アルベールっ。昨日は眠れなかったのかいっ?」
ビッグママが、朝っぱらから憔悴しているアルベールを前に不思議そうな顔をする。
「……そんなことはないけど、まあ、確かに色々あったかもな。で、帝国の情報は何か分かった?」
「焦るんじゃないよ。そんなすぐには分からないしね」
「……まあな」
それでもやっぱり心は焦る。
しかし一週間後、ビッグ・ママの情報網に重大事が引っかかったのだ。
※
「帝国が我が国の砦を!?」
深夜。
アルベールをたたき起こすと、ビッグ・ママは情報を告げたのだ。
帝国軍が国境線を突破、王国の砦を次々陥落させている――と。
それは王国の守護神、ウンベルトが死んだことを知っているような迅速さだった。
「フードの奴のことは? やはり帝国か?」
「悪いね、それはまだ分かってないんだ……。何せ手がかりがあんまりにも少ないからね。……でも帝国の動きを見ると、無関係とは思えないね」
「いや、こんな重要な情報を取ってきてくれて感謝してるっ。ありがとう、ビッグ・ママ!」
アルベールは立ち上がり、頭を深々と下げる。
「構わないさ。こんなことしたってウンベルト様から受けた恩は返しきれないくらいだからね」
「でも王都の動きを考えると早馬はまだ来てないよな?」
「行く鯖からの早馬はそのうち王都に届く。届けば、大混乱だろうね。もう町の何人かは逃げる準備を始めているよ」
アルベールは二階へ向かう。
「ちょっと! 寝直すつもりかいっ!」
「違う。王国を守るっ!」
何を言っているのか理解できてないビッグ・ママを置き去りに、部屋に入った。
部屋に入るなり、アルベールは短剣を握った。
「死ぬの?」
いつの間にか、イザベルが姿を現していた。
相変わらずウサギ耳がふわふわ揺れている。
「今日の朝に戻る」
「それで?」
「早く準備を整えれば、迎撃がしやすくなる」
「ん~? どうやって~? だってお城に入れないだよ~?」
「分からないなら見てろ」
迷うこと無く心の臓に刃を突き立てた。
※
朝霧の漂う早朝。
アルベールたちは王都近くの湖に来ていた。
霞が辺りを覆っている。
馬のいななきがひっそりと響きわたっていた。
アルベールは馬と、馬の持ち主に静かに近づいていく。
朝露に濡れた草を踏んだ瞬間。
「はあああああああ!!」
電光石火の刺突を、フィオナーレンは繰り出してきた。
剣先は胸元をかすめる。
危うく殺されるところだった。
「お、おい、落ち着けよ……」
「あ、アル!?」
「よぉ」
アルベールは苦笑する。
「普通の人間は女性に背後から迫らないものよ!」
フィオナーレンは頬を膨らませ、剣を鞘に収めた。
「アル。今までどこにいたの? 服も身体も綺麗みたいだから、野宿じゃないみたいだけど」
「人の身体、嗅ぐなよっ! 犬じゃあるまいし……!」
「ごめん。つ、つい……」
フィオは頬を染めた。
「今はビッグ・ママのところに厄介になってる」
「……やっぱりそうか。あそこはウンベルト様を崇めてるから」
「ああそうなんだ……って、そうじゃない! こんなことを話す為に来たんじゃない! 大事な話があるんだっ!」
「ど、どうしたの?」
「帝国が、王国に攻撃を開始した」
フィオナーレンは目を瞠った。
「どこでそんなことを?」
「ビッグ・ママの情報網に引っかかった」
「でも早馬は届いてないし……」
「帝国の連中が早馬を出させないよう妨害してる可能性だってある。頼むっ。叔父上に取り次いでくれっ」
「……分かった。来てっ!」
フィオナーレンが馬に乗ろうとするのを、止める。
「俺が前に乗る。いいか?」
「え、ええっ」
馬に乗ると、手を伸ばす。
フィオナーレンの手を引き、馬にまたがった。
「しっかり掴まれよ」
「んっ」
フィオナーレンの両腕が、アルベールのお腹に回された。
温かな感触が背中で感じると、ドキッと鼓動が高鳴る。
「はっ!」
ムチを入れて、馬を飛ばした。
※
「父上っ!」
朝議の席上に、フィオナーレンとアルベールは乗り込んだ。
「痴れ者を捕らえよ!
首席大将であるロッソが叫べば、衛兵がアルベールに向かってくる。
しかし。
「近づくなっ!」
アルベールを、フィオが庇った。
「お、おい、フィオっ!?」
「黙っててっ」
フィオナーレンの迫力に、アルベールは引き下がった。
フィオナーレンは衛兵たちを見回す。
「私の声が聞こえるのならば、下がりなさい」
怒鳴る訳ではない冷静な訴えかけに、衛兵たちは下がる。
「何をしているっ! 俺が命じているのだぞっ!」
ロッソが叫べば、
「やめよ。ロッソ」
王が言えば、全員が膝を折ってかしづく。
「フィオ。いくらお前が我が娘であっても何をしてもいいという訳ではないのだぞ」
「父上、申し訳ありません。しかしこの国に危機が及ぼうとしております」
「危機?」
「……アルベールがそう申して下ります」
アルベールは、王の前でかしづく。
「お騒がせして申し訳ありません、叔父上。しかしこれは伝えねばとならぬと思いまして。帝国が国境を突破し、我が国の砦を次々と落としておりますっ」
「何!? ――宰相っ!」
宰相のガリバルディは首を横に振った。
「そのような報告はございませぬ」
「叔父上! 早馬が届くのはいつになるか分かりません。そこで動いても遅いのです!」
「庶民アルベール。そんな情報をどのようにして手に入れた? 帝国にでも聞いたか?」
宰相が聞いてくる。
周りから忍び笑いが響く。
わざとアルベールを挑発しているのだ。
事実、はらわたが煮えくりかえりそうになったが、あの男を殺した時のことを考えて、こらえた。
あの男は無様に許しを乞うた。
つまり、その程度の奴に過ぎないのだ。
そんな奴相手にわざわざ腹を立てるのは時間の無駄。
そう思うと、頭はスッキリ。
冷静になれた。
実際笑いかけると、宰相のほうがたじろいたほど。
「町の有力者より聞きました」
「町? ふっ。あんな下賤の者らの情報を信じているのか?」
「父はそのようにして情報を集めておりました。市井《しせい》の者たちほど、耳の早い者たちはおりませんっ。戦に巻き込まれれば全てを失うのですから」
「お前の話は聞いた。後は我々で……」
王は宰相の言葉を遮る。
「待てっ。確かにウンベルトは不思議と情報を多く所持していた。だからこそ帝国に対して常に優位を維持できた。何故そのように様々なことを知っているのかと聞いたら、人々に耳を向けた、とそう言っていた……」
王の揺れる心を見抜いた宰相が、一歩踏み出した。
「陛下っ。ウンベルトは謀反人でございますぞっ」
「……謀反人だとしても、ウンベルトがこれまで連戦連勝無敗であったことは事実だ」
「とにかく! 早馬の到着を待つべきです!」
宰相の言葉を、アルベールが遮る。
「叔父上、早馬が届いてからでは遅いのです!」
宰相が鼻で笑う。
「さっきから色々とご託を並べているが、根拠がないではないかっ! 帝国がやってくる? お前が手引きをしたのではないだろうな?」
「そんなことをするか! 父も謀反人ではない! ――叔父上、父が率いた雷竜騎士団をお貸し下さいっ!」
「残念だな。雷竜騎士団はすでに解体され、存在していない」
首席大将のロッソが笑った。
「何だと!?」
ロッソに近づこうとすると、衛兵に阻《はば》まれてしまう。
「叔父上! お願いします! 兵をお貸し下さいっ!」
「アルベール。少し考える。下がれ」
「叔父上! 間に合わなくなります!」
「父上! お願いします! アルを信じて下さいっ! アルは自らの身の危険も顧みず、来たのですよ!?」
フィオナーレンも訴えかけてくれる。
宰相が言う。
「フィオナーレン様。あなたとその男とはもう何も関係ないのですぞ……」
「宰相、黙りなさい! 私は婚約解消を飲んではいません! 父上、失礼いたします! ――アル、来て!」
「うわ!」
フィオナーレンは、アルベールの手を引いて謁見の間を後にした。
※
謁見の間を出ると、フィオナーレンとアルベールは向き合った。
「仕方ないわ。一緒に行きましょう。私の兵を連れて行くっ」
フィオナーレンは盗賊退治の為に三百人ほどの兵を与えられている。
「駄目だ! 危なすぎるっ! 俺の為なんかに……」
「悪いけど、そうも言ってられないわ。だってあなたの言葉が本当で、帝国が攻めてきたとすれば、民が一番苦しむことになるわ。そうなれば、これはもうこの国の全ての民の問題よ」
フィオナーレンの言葉に、アルベールは励まされた。
このまっすぐさを、アルベールは愛した。
「……そうだったな。でもフィオ。お前が来るのは駄目だ。ここに残れ。俺が――」
「それこそ駄目よ。兵の中にはあなたを謀反人を思ってる者もいる。覚えてる? 医務室から出て来た時にアルを暗殺しようとしてた男。彼は兵士だったの」
「分かった。お前のことは俺が絶対に守るっ」
「それはこっちの台詞。でも本当は兵をもっと欲しいけど……」
「それなら何とかなるかもしれない」
「どうするの?」
「恐らく前線から撤退してくる兵士もいるだろう。それをフィオナーレンの名前の元に接収して、数を揃える」
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