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王国編
ビッグ・ママ
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アルベールは少し太陽が傾いた頃、城下町に出た。
宮殿から真っ直ぐ伸びる大通りを歩く。
馬車が絶え間なく行き来を繰り返している。
徒歩の人間にしても男も女も一様に飾り立てた紳士淑女ばかり。
それは子どもも同様。
「ねえ。アル。あれは~?」
イザベラが指さしたのは、尖塔が目に付く白亜の神殿。
「あれは魔術師の出張所だよ」
「へえ♪」
「お前も魔術師なんだろ。顔でも出したらどうだ? なくした記憶の手がかりが手に入るかもしれないぞ」
「誰も知り合いなんていないよぉ~♪ 何となくそう思うのぉ~」
「何となく、ね
「で、どこ行くの~?」
イザベラはまるで無邪気な子どものように、アルベールの周りをスキップしながら回った。
「もっとまともな街に行く」
「まとも~?」
「あれだ」
アルベールは城壁の向こうにある町を指さす。
王都ベルファストの城壁の内側にあるのは、貴族たちや大商人の邸宅、そんな貴族を客とする銀行や宝石店、服飾店など。
生まれた頃から王都を知っているアルベールからすれば、ここは人の住む場所ではないと思う。
何もかもが作り物めいて、まるで模型の世界に迷い込んだみたいだった。
しかし城外の町は違う。
ここは元々王都建造の職人たちの仮宿だった。
王都から多くの腕利きの職人が集まれば、当然それ相手の飲食店や夜の店などが集まり始め、他にも王都で一旗揚げようと言う素性の怪しい連中まで集まった。
最初こそこの辺りは掘っ立て小屋ばかりでだったが、次第にしっかりとした木造家屋が出来はじめた。
商店が並び、住宅ができる。
目と鼻の先には王都。しかし王都は貴族や大商人などの選ばれた者しか家を持てない。
それ以外の人々は外に住まう他はない。
こうして王都が建造された後も町そのものは残った。
いや、王都が完成したことで多くの人々が集まり、さらに発展した。
王は最初は景観を損ねると排除の動きを見せたが、そこは目端の利く者たちが集まれるだけあって付け届けを忘れず、高官や貴族たちの歓心を買った。
それどころか模型の王都をつまらないと貴族の子弟が、町の酒屋や見世物小屋、舞台に足繁く通うようになり、そういう有力者の黙認もあって、今はもう王都の一部と言って差し支えなかった。
アルベールもまた、この町の常連であった。
というのは、アルベールは公爵家の次男。
将来はフィオナーレンと結婚し、名ばかりの閑職につくことはあの時点で決定していた。
跡継ぎとして王を補佐する務めのある兄とは違って、町に通うことも黙認された。
とにかく王都では、やることがない。
だから町に何夜も宿泊することは珍しくなかった。
それに、父のウンベルトが町の人々を庇護をしたことで、アルベールは歓迎されてもいた。
(公爵家のアルベール様、か)
アルベールは溜息をつく。
町にいくたびそう言われ、うんざりしたものだ。
親のお陰で歓迎されている一方、『公爵家の次男』というのは一生ついて回るものなのか、と。
※
「う~~~わぁ~~~~~~♪」
道幅が狭いこともあるが、明らかに王都の大路よりも混み合っていて、所々から人々の喧噪や、漏れ聞こえるリュートやバイオリンの響きに、イザベラは昂奮していた。
店と店の間にはロープが渡され、ランタンがぶら下がって、温かな光を浮かべていた。
まるで祭りだ。
でもこれがこの街の日常なのだ。
イザベラは金色の瞳をキラキラ輝かせ、興味深そうにキョロキョロしている。
アルベールは苦笑する。
「おい、落ち着けって」
細い道には出店まで出て、脂の焼けるいい匂いが鼻をくすぐる。
「食べたぁ~い!」
昂奮したイザベラが指さす。
ヨダレが垂れていた。
「おい、ヨダレをふけって」
ハンカチを押しつけると、一つ一つが大きい肉の串を二本買う。
「ほら」
「んんん~! いいにおぉ~~~いっ!」
イザベラはハフハフ言いながら、かじり付く。
肉汁で口や手がたちまち、てらてらと脂まみれになる。
「ふふ♪ アルも、ふいてあげるぅ~♪」
「ん、す、すまん……」
(まあ、俺のハンカチだけどな)
「さ、いこいこっ♪ 次は何を食べようかなぁ~」
「おい、遊びに来たんじゃないぞ」
「え~! そうなの~?」
と、酔っ払い男がイザベラの右手を握る。
「おーい、姉ちゃん。えっへへっ! 俺たちと飲もうぜぇ」
同じような男があと二人やってくる。
「やめろよっ」
アルベールは割って入ると、イザベラの手を引っ張って背中にかばった。
「やぁ~ん♪ アルってば優し~っ!」
「黙ってろ」
背中に抱きつかれれば、大きな胸がむにゅむにゅと押しつけられる。
びくっとしながらも、イザベラは酔漢三人に「去れ」と言い放つが、そんなことで諦める連中ではない。
「何だとっ」
イザベラの腕を掴んでいた男が、ナイフを取り出す。
「おい、ガキがっ。イキがってんじゃねえ!」
(ったく。面倒だな)
男ののろい動きを避けると、ちょうど肉を食べ終えた串を男の左手の甲に思いっきり突き刺した。
「うぎゃあああああああああああああああああ……!!」
「逃げるぞっ」
アルベールは、イザベラの手を掴んで走り出す。
「あ~はぁ~♪ 楽しぃ~♪」
イザベラは全く緊張感がない。
「ねえ、なんで全員ぶっとばさなかったの~? 死んでもいいんだからさぁ、無茶しちゃえば良かったのに~♪」
「言い訳あるかっ! あんな連中の為にいちいち今日一日をやり直していられるかっ!」
入り組んだ路地に飛び込んで逃げる。
アルベールたちを探す男たちのわめき声が聞こえた。
アルベールが怖れるのは酔漢ではなく、憲兵たちだ。
面倒ごとは避けたい。
「アルベール! こっちっ!」
と、家の裏戸が開いて割腹のいい中年女性が呼びかけてきた。
アルベールは自然と笑顔になる。
「サンキュ、ビッグママ!」
「へえ、女連れかいっ。フィオナーレン様を泣かせたら殺すよっ!」
「これは事情があるんだよっ」
扉が閉められた。
※
そこは酒場だった。客の入りは六分ほど。
ビッグママは手を叩き、客たちに呼びかける。
「あんたら、ちょっと外に出といておくれっ! 臨時休業だよっ!」
無論、客からブーイングが怒るが、
「だまらっしゃいっ! 金は払わなくていいからねっ!」
ブーイングはたちまち喝采に代わり、男達は店を意気揚々と出ていった。
ビッグママは鍵を閉めるが、念の為にと閂《かんぬき》をする念の入れよう。
アルベールが手近なテーブル席に座ると、ビッグ・ママも一緒に座り、三つのグラスにワインを注いで配った。
「ビッグママ、悪い……。売り上げがなくなっちまって」
ビッグ・ママ。
この街の顔役の一人で、アルベールの町での知り合いだ。
この街がマフィアの支配に入らず、住民の自治で成り立っているのは、彼女のリーダーシップあってこそ。
「いいんだよ。それどころじゃないからねっ。――ところで可愛い子だねえ。お嬢ちゃん、名前は?」
「イザベラで~す♪ えへへ~♪ アルぅ~、可愛いだってぇ~」
「ああ、そうか」
アルベールは適当に聞き流す。
ビッグ・ママが身を乗り出した。
「アルベール。あんた、こんな時にここ遊びに来るなんて! ウンベルト様のことで、やけっぱちになってるんじゃないだろうねっ!」
「そんなことはない。父上は無実だ」
「それはちゃんと分かってて安心したよっ。当たり前さ。あの御方が謀反? 馬鹿言うんじゃないよ。あの御方が本当に謀反を起こすんだったら、城のド阿呆貴族になんざ嗅ぎつけら れる愚を起こすわけないんだからさっ」
「俺もそう思う」
「じゃあ、その子は一体何なんだい」
「あたしは、アルの手伝いしてま~す♪」
ビッグママは、イザベラの脳天気ぶりに溜息をつく。
「……まあいいけどね。それであんたの処分はどうなったんだい?」
「俺は庶民で、フィオナーレンとの婚約も解消らしい。でもこのままじゃすまさない。宰相や事績将軍にいいようにされてたまるかっ」
「よく言ったね! その通りさ! あたしら、あんたに協力するよっ。ウンベルト様にはあたしら全員世話になってるんだっ。輸送路の確保やら貧しい連中の税金の減免、何より病院さっ。あれで、どんだけここの貧しい連中が助かったか……」
「ビッグ・ママ。今日ここに来たのはそういう用件じゃないんだ」
「じゃあ、なんだい」
「今日ここに来たのは寝床が欲しいのと、調べて欲しいことがあるんだ」
「ウンベルト様の下手人のことかい?」
「二つのことだ。一つは侍従長のティンパが接触した奴のこと。もう一つは帝国の動きについて」
「帝国がやったのかい!?」
「可能性の話だ。実はティンパに接触した奴が金貨と一緒に、父上を貶《おとし》める手紙を用意したらしい」
「で、男の特徴は?」
「フードをかぶって、香水をつけてたらしい」
「それだけじゃあ、女だって証拠とは言えないね。分かった。調べてやるよ」
「で、調査費用のことなんだけど……」
「要らないよ。ウンベルト様のことだったら、みんな喜んでやるさ」
「……恩に着る、ビッグ・ママ」
「宿はここの二階を使いな。この店はしばらく休みにしとくから」
ビッグ・ママは店を出て行った。
※
「あの人、いい人だね~♪」
イザベラがのんきに言った。
「ああ、めちゃくちゃ頼り甲斐がある人だよ」
二階へ上がり、部屋に入る。
「……………」
そこには二つのベッドが置かれていた。
「ふふ♪ 二人きり~♪」
「っ!」
耳元で囁かれ、逃げた。
「……お、お前はここで寝ろ。俺はもう一つの部屋で寝る」
「え~っ! どうして~! 一緒に寝よ~よぉ~!」
「寝るか! そもそも男女が結婚もしてないのに一つの部屋で寝るなんてありえないだろ!」
「しょうがないな~。じゃあたしは消えてあげる♪」
「ね、寝なくていいのか?」
「だいじょ~ぶ~」
「だったら最初からそう言え!」
「えへへへ~♪」
イザベラは消えた。
(弄ばれた……)
がっくりとうなだれながらも、服を脱いで下着とシャツだけになってベッドに潜り込むとすぐに睡魔がやってきた。
宮殿から真っ直ぐ伸びる大通りを歩く。
馬車が絶え間なく行き来を繰り返している。
徒歩の人間にしても男も女も一様に飾り立てた紳士淑女ばかり。
それは子どもも同様。
「ねえ。アル。あれは~?」
イザベラが指さしたのは、尖塔が目に付く白亜の神殿。
「あれは魔術師の出張所だよ」
「へえ♪」
「お前も魔術師なんだろ。顔でも出したらどうだ? なくした記憶の手がかりが手に入るかもしれないぞ」
「誰も知り合いなんていないよぉ~♪ 何となくそう思うのぉ~」
「何となく、ね
「で、どこ行くの~?」
イザベラはまるで無邪気な子どものように、アルベールの周りをスキップしながら回った。
「もっとまともな街に行く」
「まとも~?」
「あれだ」
アルベールは城壁の向こうにある町を指さす。
王都ベルファストの城壁の内側にあるのは、貴族たちや大商人の邸宅、そんな貴族を客とする銀行や宝石店、服飾店など。
生まれた頃から王都を知っているアルベールからすれば、ここは人の住む場所ではないと思う。
何もかもが作り物めいて、まるで模型の世界に迷い込んだみたいだった。
しかし城外の町は違う。
ここは元々王都建造の職人たちの仮宿だった。
王都から多くの腕利きの職人が集まれば、当然それ相手の飲食店や夜の店などが集まり始め、他にも王都で一旗揚げようと言う素性の怪しい連中まで集まった。
最初こそこの辺りは掘っ立て小屋ばかりでだったが、次第にしっかりとした木造家屋が出来はじめた。
商店が並び、住宅ができる。
目と鼻の先には王都。しかし王都は貴族や大商人などの選ばれた者しか家を持てない。
それ以外の人々は外に住まう他はない。
こうして王都が建造された後も町そのものは残った。
いや、王都が完成したことで多くの人々が集まり、さらに発展した。
王は最初は景観を損ねると排除の動きを見せたが、そこは目端の利く者たちが集まれるだけあって付け届けを忘れず、高官や貴族たちの歓心を買った。
それどころか模型の王都をつまらないと貴族の子弟が、町の酒屋や見世物小屋、舞台に足繁く通うようになり、そういう有力者の黙認もあって、今はもう王都の一部と言って差し支えなかった。
アルベールもまた、この町の常連であった。
というのは、アルベールは公爵家の次男。
将来はフィオナーレンと結婚し、名ばかりの閑職につくことはあの時点で決定していた。
跡継ぎとして王を補佐する務めのある兄とは違って、町に通うことも黙認された。
とにかく王都では、やることがない。
だから町に何夜も宿泊することは珍しくなかった。
それに、父のウンベルトが町の人々を庇護をしたことで、アルベールは歓迎されてもいた。
(公爵家のアルベール様、か)
アルベールは溜息をつく。
町にいくたびそう言われ、うんざりしたものだ。
親のお陰で歓迎されている一方、『公爵家の次男』というのは一生ついて回るものなのか、と。
※
「う~~~わぁ~~~~~~♪」
道幅が狭いこともあるが、明らかに王都の大路よりも混み合っていて、所々から人々の喧噪や、漏れ聞こえるリュートやバイオリンの響きに、イザベラは昂奮していた。
店と店の間にはロープが渡され、ランタンがぶら下がって、温かな光を浮かべていた。
まるで祭りだ。
でもこれがこの街の日常なのだ。
イザベラは金色の瞳をキラキラ輝かせ、興味深そうにキョロキョロしている。
アルベールは苦笑する。
「おい、落ち着けって」
細い道には出店まで出て、脂の焼けるいい匂いが鼻をくすぐる。
「食べたぁ~い!」
昂奮したイザベラが指さす。
ヨダレが垂れていた。
「おい、ヨダレをふけって」
ハンカチを押しつけると、一つ一つが大きい肉の串を二本買う。
「ほら」
「んんん~! いいにおぉ~~~いっ!」
イザベラはハフハフ言いながら、かじり付く。
肉汁で口や手がたちまち、てらてらと脂まみれになる。
「ふふ♪ アルも、ふいてあげるぅ~♪」
「ん、す、すまん……」
(まあ、俺のハンカチだけどな)
「さ、いこいこっ♪ 次は何を食べようかなぁ~」
「おい、遊びに来たんじゃないぞ」
「え~! そうなの~?」
と、酔っ払い男がイザベラの右手を握る。
「おーい、姉ちゃん。えっへへっ! 俺たちと飲もうぜぇ」
同じような男があと二人やってくる。
「やめろよっ」
アルベールは割って入ると、イザベラの手を引っ張って背中にかばった。
「やぁ~ん♪ アルってば優し~っ!」
「黙ってろ」
背中に抱きつかれれば、大きな胸がむにゅむにゅと押しつけられる。
びくっとしながらも、イザベラは酔漢三人に「去れ」と言い放つが、そんなことで諦める連中ではない。
「何だとっ」
イザベラの腕を掴んでいた男が、ナイフを取り出す。
「おい、ガキがっ。イキがってんじゃねえ!」
(ったく。面倒だな)
男ののろい動きを避けると、ちょうど肉を食べ終えた串を男の左手の甲に思いっきり突き刺した。
「うぎゃあああああああああああああああああ……!!」
「逃げるぞっ」
アルベールは、イザベラの手を掴んで走り出す。
「あ~はぁ~♪ 楽しぃ~♪」
イザベラは全く緊張感がない。
「ねえ、なんで全員ぶっとばさなかったの~? 死んでもいいんだからさぁ、無茶しちゃえば良かったのに~♪」
「言い訳あるかっ! あんな連中の為にいちいち今日一日をやり直していられるかっ!」
入り組んだ路地に飛び込んで逃げる。
アルベールたちを探す男たちのわめき声が聞こえた。
アルベールが怖れるのは酔漢ではなく、憲兵たちだ。
面倒ごとは避けたい。
「アルベール! こっちっ!」
と、家の裏戸が開いて割腹のいい中年女性が呼びかけてきた。
アルベールは自然と笑顔になる。
「サンキュ、ビッグママ!」
「へえ、女連れかいっ。フィオナーレン様を泣かせたら殺すよっ!」
「これは事情があるんだよっ」
扉が閉められた。
※
そこは酒場だった。客の入りは六分ほど。
ビッグママは手を叩き、客たちに呼びかける。
「あんたら、ちょっと外に出といておくれっ! 臨時休業だよっ!」
無論、客からブーイングが怒るが、
「だまらっしゃいっ! 金は払わなくていいからねっ!」
ブーイングはたちまち喝采に代わり、男達は店を意気揚々と出ていった。
ビッグママは鍵を閉めるが、念の為にと閂《かんぬき》をする念の入れよう。
アルベールが手近なテーブル席に座ると、ビッグ・ママも一緒に座り、三つのグラスにワインを注いで配った。
「ビッグママ、悪い……。売り上げがなくなっちまって」
ビッグ・ママ。
この街の顔役の一人で、アルベールの町での知り合いだ。
この街がマフィアの支配に入らず、住民の自治で成り立っているのは、彼女のリーダーシップあってこそ。
「いいんだよ。それどころじゃないからねっ。――ところで可愛い子だねえ。お嬢ちゃん、名前は?」
「イザベラで~す♪ えへへ~♪ アルぅ~、可愛いだってぇ~」
「ああ、そうか」
アルベールは適当に聞き流す。
ビッグ・ママが身を乗り出した。
「アルベール。あんた、こんな時にここ遊びに来るなんて! ウンベルト様のことで、やけっぱちになってるんじゃないだろうねっ!」
「そんなことはない。父上は無実だ」
「それはちゃんと分かってて安心したよっ。当たり前さ。あの御方が謀反? 馬鹿言うんじゃないよ。あの御方が本当に謀反を起こすんだったら、城のド阿呆貴族になんざ嗅ぎつけら れる愚を起こすわけないんだからさっ」
「俺もそう思う」
「じゃあ、その子は一体何なんだい」
「あたしは、アルの手伝いしてま~す♪」
ビッグママは、イザベラの脳天気ぶりに溜息をつく。
「……まあいいけどね。それであんたの処分はどうなったんだい?」
「俺は庶民で、フィオナーレンとの婚約も解消らしい。でもこのままじゃすまさない。宰相や事績将軍にいいようにされてたまるかっ」
「よく言ったね! その通りさ! あたしら、あんたに協力するよっ。ウンベルト様にはあたしら全員世話になってるんだっ。輸送路の確保やら貧しい連中の税金の減免、何より病院さっ。あれで、どんだけここの貧しい連中が助かったか……」
「ビッグ・ママ。今日ここに来たのはそういう用件じゃないんだ」
「じゃあ、なんだい」
「今日ここに来たのは寝床が欲しいのと、調べて欲しいことがあるんだ」
「ウンベルト様の下手人のことかい?」
「二つのことだ。一つは侍従長のティンパが接触した奴のこと。もう一つは帝国の動きについて」
「帝国がやったのかい!?」
「可能性の話だ。実はティンパに接触した奴が金貨と一緒に、父上を貶《おとし》める手紙を用意したらしい」
「で、男の特徴は?」
「フードをかぶって、香水をつけてたらしい」
「それだけじゃあ、女だって証拠とは言えないね。分かった。調べてやるよ」
「で、調査費用のことなんだけど……」
「要らないよ。ウンベルト様のことだったら、みんな喜んでやるさ」
「……恩に着る、ビッグ・ママ」
「宿はここの二階を使いな。この店はしばらく休みにしとくから」
ビッグ・ママは店を出て行った。
※
「あの人、いい人だね~♪」
イザベラがのんきに言った。
「ああ、めちゃくちゃ頼り甲斐がある人だよ」
二階へ上がり、部屋に入る。
「……………」
そこには二つのベッドが置かれていた。
「ふふ♪ 二人きり~♪」
「っ!」
耳元で囁かれ、逃げた。
「……お、お前はここで寝ろ。俺はもう一つの部屋で寝る」
「え~っ! どうして~! 一緒に寝よ~よぉ~!」
「寝るか! そもそも男女が結婚もしてないのに一つの部屋で寝るなんてありえないだろ!」
「しょうがないな~。じゃあたしは消えてあげる♪」
「ね、寝なくていいのか?」
「だいじょ~ぶ~」
「だったら最初からそう言え!」
「えへへへ~♪」
イザベラは消えた。
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