堕ちた貴族の復讐譚~バニーガールな魔術師から与えられた能力は、何度もで生き返る力だった

101

文字の大きさ
6 / 20
王国編

犯人捜し

しおりを挟む
 庶民になろうが、アルベールにはどうでもいいこと。
 アルベールには人智を超えた力がある。

(こんな魔法が使える魔術師がいるなんて聞いたことはないが、便利だ)

 それにしても、行動を共にしているイザベラとは何者なのか。
 あの空間から出られなかったということは囚われていたのか。
 でもどうして?

(考えても仕方ないよなー。実際、この力があればこそ、俺は城の中で死なずに住んだんだから)

「にひひ。な~に考えてるのぉ?」

 イザベラが顔を覗き込んでくる。

「何でもねえよ」

「イジワルなんだからぁ~♪」

 イザベラを無視して向かったのは後宮。
 最初は拒絶されたが、「それでも叔父上に一目だけでもっ!」と祈るように願えば、対面を許された。
 さすがに一対一という訳にはいかない。
 兵士たちが揃い、机を挟んでの対面だった。

「……許せ、アルベール。だがな、お前を庶人に落とすというのは方便にすぎん……。少し間を置き、宮廷の者たちの疑念が消えてから、お前には再び爵位を授けるつもりだ」
「では父の名誉回復はどうなるのでしょうか?」
「……それは無理だろう。ウンベルトは優秀だった。だがその優秀さ故、おごった……」
 その言葉を聞いた瞬間、アルベールは机に脚をかけ跳躍し、王の背後にいた。
 ナイフを取り出し、首筋にあてがう。
 素早い一連の動きに、兵士たちは一歩も動けない。
「お前ら、下がれ。俺を王と二人きりにしろっ」
 しかしすぐには兵も動かない。
 王が喉の奥から声を絞り出す。
「みな、アルベールの申す通り、下がれ……。朕は問題ない」
 兵士たちは部屋を出ていった。
「あ、アルベールよ……。軽挙妄動で己の未来を潰す真似はするな……」
「叔父上。私の未来は父が謀反人という汚名を着て、兄や母、使用人たちが皆殺しにされてから潰えたも同然っ。――叔父上。父の謀反を訴える手紙は誰が献上したのですか?」
 王の喉が大きく波打った。
「……さ、宰相だ」
「ガリバルディですか……。それで、叔父上は何の疑いもなく納得した?」
 うるさいくらいの足音が部屋の外から聞こえていた。
 部屋を一歩でも出れば、アルベールは死ぬだろう。
 だが今のアルベールにはどうでもいい。
「そんなことあるわけがないっ。だが証拠も出たと言われて……」
「なぜ突然、乳が叔父上を殺そうと考えたのですか? 捕まえて、事情聴取をするという考えはなかったのですか?」
「朕はもちろんそのつもりであった……。しかし宰相から思った以上にことが進んで、留めるまでもなく火の手が上がったがために被害が出てしまった、と」
「それなら当然、近衛騎士の誰かは罰せられたのでしょうね。勅命に背いたのだから」
「……」
 王は冷や汗を浮かべたまま、うつむく。
「叔父上!」
 王は肩をびくっと震わせた。
 小刻みに身体が震えている。
「叔父上は、あなたの弟が死んでも構わないと思ったのでは? だから手違いで亡くなったことを内心、喜んでいたのでは?」
「馬鹿を言うな……!」
 王は嘘がつけないようだった。
(残念です。叔父上……)
 いくら無かったことに出来るとはいえ、フィオナーレンの父を殺すのは出来なかった。
 刃をノドから遠ざけ、王を解放する。
「ひいいいいいいいい……!!」
 王は腰が抜けて四つん這いの格好で扉まで逃げる。
「兵よ! 賊を始末せよっ!」
 大勢の兵が部屋に飛び込んでくると同時に、アルベールは自らの心臓に刃を突き立てた。
「――――っ!」

 アルベールは飛び起きた。
 そこはもう何度見たか分からない医務室。

(ここからやり直し、か)

「どぉ~? 自殺する気持ちは?」
「最悪に決まってるだろ。胸がなんだか痛いぞ」
「それはそうだよぉ~。だって~本当に刺してるんだからぁ~」
 胸をさする。
 傷はないにもかかわらず、確かに刺された感触があった。
「変な気持ちだ。心臓の鼓動が止まった感触が分かるのに、今じゃ元気なんだからな。でもお前の記憶は持ち越されるんだな」
「うん。で~、次はどうするの?」
「宰相が手紙を持って来たというからな。次は宰相だ」
「その前に王様に会うとかしいとね~♪」
「あ~……全部やり直しか……」
 仕方ないと腹を決め、フィオナーレンがやって来るのを待った。

 アルベールが謁見を終えた後に向かったのは、王城内の西にある宰相の執務室。
 さすがは宰相。警備は厳重だ。
 アルベールの姿を認めるなり、衛兵が五、六人は集まって来た。
「何のご用ですか?」
 言葉こそ丁寧だが、早く消えろとでも言わんばかりに威圧してくる。
「宰相に話がある。知っていると思うが、私はアルベール。ウンベルトの息子だ」
 衛兵たちはぎょっとするが、それでも道を通すつもりはないらしい。
(――悪いな)
 アルベールは真ん前にいた衛兵の顎を蹴りつけた。
 衛兵は白目を剥いて倒れた。
 怯んだ他の衛兵に体当たりを食らわし、豪奢な装飾のほどこされた扉を蹴破った。
 背後から衛兵の怒鳴り声を聞きながら部屋に押し入れば、宰相がくつろいでいた。
「き、貴様!」
 宰相は迫ってくるアルベールから逃げようとするが、
「悪いなっ」
 太りすぎてのっそりした宰相の背後に回るや、その首にナイフの刃を突きつける。
「ひいい!!」
 衛兵が飛び込んできた。
「宰相閣下から離れろ!」
「もう袋の鼠だぞっ!」
 口々に衛兵達が叫ぶが、アルベールは構わず宰相に耳打ちする。
「こいつらを下がらせろ。さもなければお前を殺す」
「フ、フフフッ……。そんな虚仮威し……。あ、諦めろ。もうお前は終わり……イタァッ!」
 宰相は大袈裟に叫ぶ。
(おいおい。ちょっと刃でつっついただけだろ)
 アルベールは呆れたが、宰相の態度は激変する。
「お前たち、下がれ! 早う下がれっ!」
 すごい剣幕に衛兵たちは引き下がった。
 宰相は声を震わせる。
「き、貴様、何の真似だ……。こんなことをするなんて……」
「父について聞きたいだけだ。王は、お前に手紙を見せられたと言っていた。王は疑っていたが、お前が証拠品が見つかった、と。それに本来、王は父上を捕らえるよう命じたにもかかわらず、手違いで火の手が上がってしまい失敗したと、お前から報告されたと言っていたぞ。どうだ? 本当か?」
「!」
 宰相の顔色がはっきりと変わった。
(叔父上に負けないくらい分かりやすい奴だな)
「……ほ、本当に陛下が、そのようなことを……?」
「そうでなかったら、どうして今のことを知ることが出来たと思っている? ――お前が父をハメたんだろ!」
 ナイフの切っ先に力を入れれば、宰相は「違います!」と叫ぶ。
「何が違う? 説明してくれ」
 切っ先が皮膚を傷つけ、かすかに血がにじんだ。
「手紙は、侍従長から渡された……っ」
「そいつは手紙をどうしたと?」
「き、聞いていません」
「出所不明の手紙を鵜呑みにしたのか? ……お前は父を失脚する好機と見たということか」
「お許し下さいぃ! あなたのお父上が邪魔だったのです……!」
 宰相は涙を流し、ついに失禁してしまう。
「――また会おう」
 喉笛を斬り裂く。
「ぎぇええええ……」
 宰相は血が溢れる喉を押さえ、咳き込みながら血だまりに倒れた。
 初めて人を殺したが、しかしそれに対する恐怖心や後悔の念は不思議と無かった。
 やり直せるから、という訳でもない。
 王を殺せなかったのだから。
「豚野郎がっ」
 宰相の死体に唾を吐き、廊下に出た。
「放て!!」
 次の瞬間、無数の矢が飛び、アルベールの身体を貫いた。

「自分から殺されにいくんだぁ~♪」
 イザベラはクスクスと笑った。
「自分で死ぬか、殺されるか、どっちがマシかなって思って試したんだ」
「で、結果は~?」
「どっちもどっち。自分で死ぬ方が自分のタイミングで死ねるから、多少はマシかも。ま、どっちにしても、死んだと自覚した瞬間、生き返るんだからな」

 今日一日だけで十回前後は死んでることを考えると、動きがどんどん大胆になっていく。
 次は侍従長。
 こいつはわざわざ部屋まで行かなくても、城内を歩いているところを拉致して人気の無い場所まで連れて行く。
 壁に押しつけ、ナイフを喉元へ。

「ひいいいい!!」
「よお、ティンパっ。元気にしてるか?」
「あ、あ、あ、あ、……」
「お前に聞きたいことがある。それを聞いたら解放してやる。分かったか?」
 ティンパはこくこくとうなずいた。
「宰相から、お前のことを聞いた。お前が手紙を持ち込んだそうじゃないか」
 ティンパは目を大きく見開いた。
「そうだ。残念だったな。お前はあいつから切られたんだよ」
「お、お許し下さい……!」
「許して欲しかったらその手紙を誰から受け取ったか話せ。お前にそんな策謀を練るほどの度胸も頭もないのは分かってるんだ」
 ナイフの刃の平で、ノドを撫でる。
「……フードをかぶった奴から受け取りました。そいつから、き、金貨を受け取って、この手紙を宰相へ届けるよう言われまして……」
「いつのことだ?」
「い、一週間前、です……」
「そいつは誰だ? 王国の人間か?」
「わ、分かりません……」
「そいつは男か?」
「筆談だったので分かりません……!」
「おい、お前! いい加減にしろよっ! 知らない知らないで俺から逃げられると思ってるのか!」
「い、いい香りがしました! 香水のにおいが!」
「相手は女か……って、知らないんだよな」
 ティンパはこくこくとうなずく。
「役立たずが」
 舌打ちをすると、アルベールはティンパのケツを蹴り、逃がす。

 と、イザベラが姿を見せる。

「どうするぅ~? 王様に今の教えるぅ~?」
「宰相に問い詰めても口は割らないだろうし、ティンパだっていざ王の前でも何も話さないさ」
「もう死なないの~?」
「手紙を受け取ったのはもう
「あんな小物。どうでもいい。城を出るっ」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

幽閉王女と指輪の精霊~嫁いだら幽閉された!餓死する前に脱出したい!~

二階堂吉乃
恋愛
 同盟国へ嫁いだヴァイオレット姫。夫である王太子は初夜に現れなかった。たった1人幽閉される姫。やがて貧しい食事すら届かなくなる。長い幽閉の末、死にかけた彼女を救ったのは、家宝の指輪だった。  1年後。同盟国を訪れたヴァイオレットの従兄が彼女を発見する。忘れられた牢獄には姫のミイラがあった。激怒した従兄は同盟を破棄してしまう。  一方、下町に代書業で身を立てる美少女がいた。ヴィーと名を偽ったヴァイオレットは指輪の精霊と助けあいながら暮らしていた。そこへ元夫?である王太子が視察に来る。彼は下町を案内してくれたヴィーに恋をしてしまう…。

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

冷遇王妃はときめかない

あんど もあ
ファンタジー
幼いころから婚約していた彼と結婚して王妃になった私。 だが、陛下は側妃だけを溺愛し、私は白い結婚のまま離宮へ追いやられる…って何てラッキー! 国の事は陛下と側妃様に任せて、私はこのまま離宮で何の責任も無い楽な生活を!…と思っていたのに…。

3点スキルと食事転生。食いしん坊の幸福無双。〜メシ作るために、貰ったスキル、完全に戦闘狂向き〜

幸運寺大大吉丸◎ 書籍発売中
ファンタジー
伯爵家の当主と側室の子であるリアムは転生者である。 転生した時に、目立たないから大丈夫と貰ったスキルが、転生して直後、ひょんなことから1番知られてはいけない人にバレてしまう。 - 週間最高ランキング:総合297位 - ゲス要素があります。 - この話はフィクションです。

処理中です...