堕ちた貴族の復讐譚~バニーガールな魔術師から与えられた能力は、何度もで生き返る力だった

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王国編

攻城戦

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 急行したアルベールたちは退却してくる兵士たちを接収しながら、どんどんと進んで行き、やがて帝国に占拠されている砦を目の前にした。
 フィオナーレンたちのお陰で、前線崩壊だけはどうにか防げている。
 兵士たちはおよそ二万。
 数は多いが、烏合の衆であることには変わりはなく、統一して敵に当たるのはかなり難しい。
 それでも帝国軍の進撃を一時中止させることに成功した。

 夕暮れ時。
 早速、軍議となった。
 しかし帝国軍が占有している砦は小山を背に、さらに右脇には河が流れ、要塞を囲んでいる塀は高く、鉄で出来た城門は頑強。
 味方が籠もるのならば心強いが、敵の手に落ちた今は百万の見方を喪ったかのような喪失感を覚えてしまう。
 砦の頂きで翻る、帝国の赤い旗が士気の落ちた兵士たちの不安をいやおうなく煽った。

 本陣の幕舎には、アルベールやフィオナーレン、他の部隊の指揮官たちが六人ばかり集まり、この辺りの地図を囲んでいた。

 一人の指揮官が言う。
「フィオナーレン殿下。この砦は攻略にかなり手間がかかりますぞ」
 別の指揮官が言う。
「力攻めで無理、ですな……。ここは王都からの援軍を……」
 アルベールは首を横に振った。
「駄目だ」
「何故だ!」
 将軍たちが一斉に反発する。
 フィオナーレンに対しては恭しくとも、謀反人の息子であるアルベールには厳しい。
「援軍が到着するのは向こうも同じだから、だ」
「っ」
「あちらの士気は高く、我が国の深い場所にまで進出している。そんな状況でいたずらに援軍を待つ為に日を費やすのは馬鹿げている。何が何でも連中の士気を挫《くじ》く為にも、今の戦力で砦を攻略するっ」
 フィオナーレンはアルベールを見る。
「アルには策があるのね」
「ああ。俺が砦に侵入し、火薬庫を爆破する。それに乗じて、お前らは一気に攻勢に出ろ。連中は今援軍を待つ為に亀みたいに引っ込んでるからな。火薬庫を爆発させれば、大混乱になるっ」
「そんなのは無理だ! あまりに無謀すぎる!」
「無謀は承知。それでもやらなきゃならない。それとも、他に何か名案でもあるか?」
「私も行くわ!」
 フィオナーレンが名乗りをあげるや、将軍たちが口々に反対する。
 それはアルベールも賛成だ。
 婚約者としてもこの場の指揮官としても、フィオナーレンを失う訳にはいかない。
「お前にはこの軍がバラバラにならないよう、しっかりと目を光らせて欲しい」
「駄目。そんなの認められないっ。あまりに賭け過ぎるっ! 許可できないわ!」
 フィオナーレンは、将軍たちに下がるよう言う。
 指揮官たちは戸惑うが、すごすごと出て行った。

 アルベールは、フィオナーレンと向きあう。
「フィオ、すまん。馬鹿げてるかもしれないが、これしか方法はないんだ」
「どうして? もっと考えれば別の方法があるはずよ! とにかく認めない! 私はこの軍の総大将として絶対に――」
 アルベールは、フィオナーレンをぎゅっと抱きしめた。
 フィオナーレンの温もりを感じる。
「……あ、アル……?」
「絶対に生きて戻って来るからっ」
 小刻みに震えるフィオナーレンの背中を優しく撫でながら、囁く。
 フィオナーレンの手が、アルベールの肩をぎゅっと強く握った。
 ぐずぐずと、フィオナーレンが鼻を鳴らす。
「約束よ……。絶対にっ」
「もちろん」
 そっと離れる。
 フィオナーレンは赤くなった目を見せまいと、くるっと後ろを向いてしまう。
「ぜ、絶対に戻って来なさい! これは私の命令よ! アルは私の許嫁なんだから! それはアルが庶民だろうがなんだろが関係無いからっ!
「もちろん。――行ってくる」
「……無事で」
 アルベールは歩き出す。
 嘘は言っていない。
 正確に言えば何百回アルベールが死んだとしても、フィオナーレンがそれを知ることはない。
「かっこつけちゃって~♪」
 いつの間にか姿を現したイザベルが、囃《はや》し立てた。
「うるさいぞ」
「勝算はあるの空?」
「あるか。でも何百回も死ねば、どうにかなるだろ。しらみ潰しだっ」

 アルベールが向かったのは、砦の背後にある小高い山。
 その頃には日が暮れて、周囲は夜の闇に沈んでいる。
 そこ伝いに砦へ侵入すれば、敵の警戒網に引っかからないと思ったのだ。

(我ながら単純だが、やってみるにこしたことは無いっ)

 木々を目隠しにしながら、侵入しやすい場所を探す。
 しかし砦の背後を守るだけあって、絶壁ばかり。
 シカでも躊躇うだろう。

「イザベルっ。どこか下りられそうな場所はありそうか?」
「ん~。分かんない~い」
「おい、真剣に答えてくれ」
「本当にわかんないのぉ~。とりあえず進めば何か見つかるんじゃない?」
「魔術師らしい行動を期待したんだけどな」
「えへへ~。お役に立てず申し訳な~いっ!」
「元気よく言うことかよ」
 がっくりきながらもアルベールは夜陰に紛れ、頂き目指すが、「おい! そこにいる奴、誰だ!」という罵声と共に、カンテラの明かりを向けられた。

(こんなところに哨戒兵っ!?)

 眩しさに目がくらんだ瞬間、腹に重たい一撃を受けた。
 敵の槍だ。
「がは……ぁっ!」
 鉄の穂先が身体から飛び出す衝撃に、意識が真っ黒に塗り潰された。

「はぁ~い、一回目~♪」
 目を覚ますと、頭の上でイザベルが歌うように言った。
「楽しそうに言う奴だな……」
 運がいいことに、目覚めはおそらくフィオナーレンと別れた直後らしい。
「まさか山に哨戒兵がいるなんてな……。あっちが油断してると思ったけど、こっちが動かないと分かっている分、巡回を強化してるのかもな……」
 だったらどうするべきか。
 山を登ったところで絶壁では下りようがない。

(騒ぎを起こしておびき寄せるか)

 アルベールは陣内にあるダイナマイトを拝借すると、再び山へ。
 前回同様、その頃には日がとっぷり暮れている。
 出来るだけ木々の多い場所めがけ、火を付けたダイナマイトを投げつけ、退避する。

 ドドオオオオオオオオオンン……!!

 身体に響くような音に、覚悟していたとはいえ、ふらつきながら、その場を急いで離れる。
 しきりに大人数のわめき声が交錯するのを背に感じながら、闇の中を泳ぐように移動し、砦を一望出来る地点に行く。
 兵士たちが次々と砦を出てきた。
 不意打ちを食らってかなり混乱しているらしい。

(よしっ!)
 山へと向かう大勢の兵士たちをやり過ごし、砦へ。
 息を殺し、身を屈め、砦に向かう。
(火薬庫は確か地下だったよな)
 足音が聞こえ、びくっとして物陰に隠れた。
「うっふっふ~♪ 楽しそう~♪」
「そう思うんだったら、手伝え。地下に下りる階段を探してるんだっ」
「りょ~かぁ~いっ♪」
 ウサギ耳をぴょこぴょこさせて、珍しく受け入れたイザベラにかなりの不安を覚えながら、一つ一つ部屋を検める。
 上の階からは人の気配を濃厚に感じた。
 足音一つに、首をすくめた。
「きたよ~♪」
「は!?」
 瞬間、扉が開いて兵士と目が会う。
「教えるなら早く言え!」
「いやぁ~ん♪」
 ニコニコしながらイザベラが姿を消した。
 兵士がぎょっとする。
「うらああああああ!!」
 アルベールは体当たりを食らわせ、揉み合うように廊下に出た。
 どうにか組み合った相手を始末したが、もう駄目だった。
 騒がしさに兵士が次から次へと現れ、あっという間に囲まれた。・
「くそっ!」
 短剣を首に当てた。

 アルベールが目覚めれば、相変わらずの夕暮れ。

「はあぁはぁ……。イザベル、今何回目だっ?」
「うーん……三十回くらい~?」
「だいぶやったな。どうりで疲れるわけだ……」
 疲労を覚えているのは肉体がではなく、心だ。
(三十回も心臓が止まるのを味わえば、誰だってこうなる……)
 そう自分に言い聞かせて、自分をねぎらう。
 ダイナマイトの手法でおびき出すまではいいが、一向に火薬庫を見つけられない。
 そうこうするうちに兵士と出くわして自害、または殺される。
 砦は全部で三階建て。
 全部の階をくまなく探したつもりだ。
 何せ約三十回は同じ事をやり続けたのだから。
「火薬庫なんて、ないんじゃないの~?」
「そんなことはない。砦なんだぞ。大砲の弾やダイナマイトは絶対にあるっ」
 少し休憩するために陣内に留まった。
 兵士たちは異様に疲れているアルベールを不思議そうな顔で見ていた。
 そんな折、兵士たちが手にしたバケツを出来るだけ自分から離して、歩いている。
 他の兵士たちも彼らを遠巻きにしている。
 そばにいた兵士を捕まえる。
「おい、あれは何を運んでるんだ?」
「排泄物ですよ」
「なるほど」
 父から軍のことはよく聞いていたが、一番辛いというのはいわゆる排泄物の処理だ。
(そうか!)
 アルベールは飛び起きた。

 もう何十回繰り返したフィオナーレンたちへの説得を終え、砦に向かって出発する。
 目指すのは山ではなく、河沿い。
 そこを進めば、砦を支えている地面に横穴があった。
 自然では無く、人工的だ。
 坑道みたいにしっかりと木枠で補強されている。
 穴は奥行きがありそうで、しんと静まりかえっている。
 アルベールはその出入り口で待機していると、しばらくして男のぼやき声が聞こえてくる。
「くっそっ。何で俺がこんなことしなきゃならねえんだよっ! 先輩も手伝ってくれりゃ良かったのに……」
「仕方ねえよ。俺たちみたいなペーペーにはこんな役回りしか回ってこねえんだから」かやらせてくれねえんだって」
 二人のはアルベールに気付くことなく、ぼやいた。
「よお」
 声をかけると、男たちがはっとして振り返る。
 蹴りを見舞って河に叩き落とせば、兵はみるみる流されていった。
「いくぞっ」
 アルベールは排泄物の入ったバケツを両手に持ち、穴へと入る。
「くっさぁ~い~っ」
「……分かってる」
 そこそこ長い通路を抜けた先に人の気配。
 出口から覗くと、四人の兵士たちが気怠そうにカードゲーム興じている。
「暇だなぁ」
「まあ楽な任務だよな。敵はこっちには仕掛けてこられねえし。援軍を待てばいいんだからさ」
「全くだ。俺はレイズ」
「おいおい無理すんなよ」
 四人がカードに集中したその時、アルベールは部屋に飛び込むや、兵士たちめがけバケツをぶんなげた。中身がぶちまけられる。
 兵士たちがひるんだ次の瞬間には、アルベールの体術によって全員、気絶した。
 アルベールはその部屋にある扉を片っ端から開ければ、そのうちの一つが火薬庫だった。
「アル、よく気付いたねっ♪ どうして~?」
「これまで何度も砦を見回ったよな?」
「も~見飽きちゃったよ~」
「でも一度も排泄物を捨てる兵を見なかった。この辺りでそれを捨てるのにこの川がちょうどいいにも関わらず、な」
「それだけで~?」
「当たり前のことが行われていないなら疑え――父上がそう言ってたんだ。だから、もう一つ、排泄物を捨てる河沿いに砦へ出入りできる通路があると思ったんだ。砦を放棄する際の隠し通路を兼ねてな」
「やっぱりアルは、あたしが見込んだだけのことはあるわ~!」
「――さっさとやるぞっ」
 アルベールはダイナマイトの導火線を伸ばすと着火させ、飛び出す。

 ズウウウウウウウウウウウン!!

 地響きが伝わると同時に、砦の方の空が真っ赤に染まった。

(アル……)
 彼の提案を飲んだ。
 いや、飲んでしまったと言ったほうがいい。
 でもそれが国にとって必要なんだから、と。
 そう自分を無理矢理納得させた。
 あの厳重な砦の火薬庫を爆発させるのはたとえ、アルベールであったとしても至難の業だ。
 それこそ、命と引き替えにしなければいけないほどに。

 信じているとアルベールに言ったが、不安と恐怖心は止まらない。
 アルベールと二度と会えないかもしれない。
 そんなことばかり考えて落ち着かず、本陣の中を絶えず歩き回ってしまう。

「殿下!」

「どうしたの?」

 顔を出したのは将軍の一人。

「砦が炎に包まれています!」

「何ですって!?」

 はっとして幕舎を出れば、確かに砦が炎と黒煙に呑み込まれていた。
 辺りが昼間のように明るい。

(アルがやった……!)

 フィオナーレンはすぐに命じる。

「全員出陣! 敵の混乱を突くっ!」

「おおおおおおおおおおお!!」

 兵士たちが雄叫びを上げた。
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