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第一章 遭難編

第6話 言語理解 ピンター先生

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蒸し暑い夜、寝付かれず小屋の外へ出たところ、空には赤く大きな満月が存在感を自己主張するように輝いていた。

その右側には青い月があった。

小屋のすぐ近くにあった何かの施設の前でブルナが地面に跪き、両手を組んでいる姿が見えた。
ブルナは月の光に照らされて普段より更に美しさが増していた。

神秘的な美しさ、神々しいと表現したいほどだ。
ブルナの美しさに心ひかれつつブルナに近づくと、ブルナも俺に気が付き、こちらを見た。
俺がブルナに

「アパ?」

と尋ねたところ、ブルナは赤い月を指さしてから

「ブルドァ」

と言葉を発し、両手を組んで目を閉じた。
どうやら月に祈りを捧げているようだ。

ブルナは手招きをして俺を呼び、身振り手振りでブルナの横に座らせた。
そして俺を指さした後、また赤い月を指さし

「ブルドァ」

と微笑みながら言った。
どうやら、俺にも月に祈りを捧げてほしいようだ。

俺は何の宗教も持たないが、ブルナの勧めを断るのも悪いし、実際のところ神でも月でも俺を助けてくれる存在があれば、それにすがり付きたい気持ちだった。

ブルナを真似して月に向かって跪き、両手を組んで目を閉じた後

「どうか俺に力を貸して、ヒナ達に遭いたい。家に帰りたい。」

と本気で祈った。

すると

『受理しました。』

と、どこからか声がした。

(え?何?)

あたりを見渡したが俺とブルナ以外は誰もいなかった。

翌日、目が覚めて、いつものようにピンター先生に言葉を習っていたところ、背中の毛がゾワゾワ逆立つと同時に

『言語理解のスキルを獲得しました。』

との声が聞こえた。

昨日、月に祈った時に聞こえた声と同じ声だ。
すぐに周囲を見渡したが小屋の中には俺とピンターだけ、キョロキョロする俺を見て

ピンターが

「兄ちゃん、どうしたの?何しているの?」

と話しかけてきた。

ん?ピンター、今、日本語しゃべらなかった?

「ピンター?」

俺が不思議そうな顔をしていると、更にピンターが

「兄ちゃん、どうしたの?ピンター何か可笑しなことしたかな?」

ピンターの発音は現地語だが、意味は映画の字幕のようにはっきりと理解できる。

「ピンター、日本語しゃべってないよな?」

ピンターは首をかしげて

「日本語って何?それより兄ちゃん、言葉、上手になったね。」

と返事した。

俺は、日本語をしゃべっているつもりだったが、ピンターには現地語に聞こえるようだ。
さっき誰かが

「言語理解スキルを得ました。」

って言ってたけど、このこと?

夕方、家族全員が揃った。
俺が、まず家長のブラニに対して

「いろいろと、ありがとうございました。命を助けていただいて、心から感謝します。」

とお礼を言った。
ピンター以外が驚いていた。

皆の表情からしてピンター以外にも俺の言葉は通じているようだ。

ブラニさんが話しかけきた。

「どうした?急にしゃべれるようになったな?」


「えーと、ピンター先生のおかげです。」

言語理解スキルのことはうまく説明できそうになかったので、そう答えた。

「オイラが先生だからねーアハハ♪」

ピンターが嬉しそうに笑った。

俺は、改めて自己紹介をしたうえで、今までの経緯を話した。

話をしているうちに気が付いたのは

 飛行機、スマホ、電力、電波

等の言葉が理解してもらえないことだった。

それでも、俺が遭難者で、現在仲間と離れ離れになっていることなどは、理解してもらえた。

ブラニさんからも、俺を助けたいきさつを話してくれたが、それによると、ブラニさんが漁に出ている時に、流木に掴まって流れている俺を海上で見つけ、仲間と共に救助してくれたそうだ。

 現在俺がいる場所は、

『クチル』

という島で、飛行機が墜落したのは

『ブサラ』

という、比較的大きな島の南岸のようだった。

ブラニさんには、日本や、その他救助隊への連絡方法がないかどうか質問したが、日本という国のことは知らなかったし、電話や無線機の概念が全く通じなかった。

この村には電気も上水道設備もなかったし、いくら未開でもラジオくらいあるだろうと思ったが、俺の知る文明の利器は何もなかった。

 やはりここは異世界なのだろうか。

ブラニさんに救助されてから10日は経過していたが、俺の体は完治というには遠く、まだしばらくの間は、リハビリが必要らしい。

俺を治療してくれたマジナイ師は、隣の島から呼んでくれたそうで、今は他の患者を診るためにこの島にはいないそうだ。

「ブラニさん」

庭先で鳥の羽をむしっているブラニさんに話しかけた。

「なんだいソウ君」

「こないだお話しした通り、俺は仲間を追いかけようと思っています。俺を、ブサラ島まで連れてってくれませんか?」

ブラニさんは少し考えてこう言った。

「いいけど、今の季節はウララウトが多く出るから危険だよ。それに君の体力も十分じゃない。君の体力が回復したら連れてってあげるよ。」

それを聞いて少し安心した。
ウララウトというのは例の大ウミヘビのことらしい。

それにしてもヒナたちはどうしているのだろう、俺のこと心配してくれているだろうか。
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