36 / 177
第二章 奴隷編
第36話 魔道車 ウルフとナビ
しおりを挟む
朝早く、ドルムさん、ピンター、ルチアが隠れ家に到着した。
ドランゴさんは店番のようだ。
俺が玄関でピンター達を出迎えると
「兄ちゃん!!元気になった?」
「ニイニ!」
ピンターとルチアが飛びついてくる。
「お!ソウ、なんだか顔色がいいな。魔法が回復したか?」
ドルムさんが俺の顔を見て何かを感じ取ったようだ。
「完全回復とは言えませんが、かなり良くなりました。薬をもらったんです。」
俺は、昨日ドルムさん達が出て行ってからの出来事を説明した。
そしてタイチさん、正確に言えばタイチさんの記憶を持つAIにも引き合わせた。
「そりゃ、すげーな。で、その魔導車ってのは何だ?」
「俺もよくわかってないです。今から出してみます。」
俺は俺の体にまとわりつくルチアに視線を向けた。
「ルチア、周囲に人がいないか見てくれないか?」
ルチアには『遠視』というスキルがあって周囲数キロを見渡すことが出来る。
ルチアは湖と反対側、草原方向を何度か見渡す。
「ニイニ、だれもイナイ。」
俺はルチアの頭をなでる。
「そうか、ありがとうね。」
周囲に人がいないことを確認した俺は、地下室から持ち出したアタッシュケースを地べたに置き、ケースの蓋を開けてから魔力を流しこんだ。
すると
ブオン♪
と音がしてケースの30センチくらい前に10メートル四方のスクリーンが出現した。
ピンターとルチアが驚いて何歩か後ずさった。
「ドルムさん、ピンター達と、ここで待っていて下さい。中の様子を見てきます」
「中って・・・」
ドルムさんはこのスクリーンがゲートだとは知らない。
「ああ、心配ないです。このスクリーンは別の空間と繋がっていますが、安全です。前にも入ったことがありますから。」
「わかった・・」
俺は、ためらうことなくそのスクリーンを潜った。
スクリーンの中は閉ざされた空間で、その空間には自動車があった。
自動車と言うよりも装甲車に近いイメージだ。
四角い形状で、フロントガラス、ワイパー。4つのドア、8つのタイヤ。
室内は広く10人くらいなら余裕で入れそうだ。
元の世界の大型のワンボックスカーを横に1,5倍くらい、縦に2倍位大きくしたサイズ。
車の外郭はゴツゴツした感じで、装甲はかなり厚いようだ。
運転席に座ってみる。
車高が高いのでステップに足をかけて乗り込んだ。
ドアを閉めたら自動音声なのか女性の声でナビが流れた。
『ご乗車ありがとうございます。この車のユーザーはタイチ・ヤマトです。ゲスト登録もしくはユーザーの変更をなさって下さい。』
(ほう、セキュリティシステムがしっかり働いているな。)
(タイチさーん)
『なんじゃ?』
(車のユーザー登録、変更するか、ゲスト登録をお願いします。)
『ああ、いいぞ。ホリャ』
『ユーザー登録変更要請を確認しました。新規ユーザー登録のためスキャンニングを行いますが、よろしいですか?』
「ああ、よろしく頼む。」
『ハンドル前、右側のタッチパネルにどちらかの手を乗せてください。』
ナビ通り、ハンドル前右側に設置されているB5サイズくらいのタッチパネルに右手の平を乗せた。
『確認しました。ソウ・ホンダ様・人狼族・ユーザー条件を満たしました。只今よりこの車のユーザーはソウ・ホンダ様です。』
「質問がある」
『どうぞ』
「俺は車の運転方法を知らない。どうすればよい?」
『口頭の指示によるオート運転と、自ら操作するマニュアル運転がございますので、どなたがユーザーになられても、運転に不自由することはございません。』
「誰でもこの車の所有者、もしくは使用者になれるのか?」
『所有権限があるのは、人狼族の方々のみですが、使用権限は所有者が誰にでも付与できます。』
「わかった。それでは、ゆっくりとゲートから出て、停車してくれ。」
『了解しました。』
静かなエンジン始動音がして、ゆるりと車が発信した。
ゲートをくぐってすぐに車が停車した。
ピンターとルチアを庇うようにしてロングソードを構えているドルムさんが見えた。
運転席の窓ガラスを開けて俺の顔をのぞかせる。
「兄ちゃん喰われた。!!!」
「イヤー!!ニイニ」
ピンター達にはこの車が化け物で、それに俺が食われたように見えているらしい。
さすがにドルムさんは冷静で、おそるおそる車に近づき
「乗り物か?これ」
と俺の顔を見た。
その後ピンター、ルチア、ドルムさんを車に乗せ、そこいらをドライブしつつ、車の性能を確認した。
ナビゲーション機能を呼び出すのに名前が必要だったので
ナビゲーションシステムに
「ナビ」
という名前をつけた。
(安易だったかな・・・)
ナビによると、この車は人狼族専用の軍事用装甲車で、今から2万年前に製造されたとのこと。
車名は
ウルフ38型汎用装甲車
ということなので、この車の呼び名も
『ウルフ』
とすることにした。
ウルフはアタッシューケスに繋がった亜空間で時間の経過なく格納されていたので、新品同様だった。
ウルフはアクセル、ブレーキ、ハンドルを使う『ナビ』抜きの運転方法と、目的地と速度等を音声でナビに指示する『ナビ自動運転』があった。
『ナビ』抜きの運転は道路交通法も信号も無いこの世界では、遊園地のゴーカートを運転するようなものだった。
ナビにはレーダー機能が備わっていて、そのレーダーは周囲10キロ四方の人型生命体と魔力の大きな魔物を感知できた。
更にはマザーと通信可能で、周囲の地理情報、気象情報を受信し、モニターに反映させることが出来た。
ウルフの燃料は魔力で、自動的に充填されるようだ。
元の世界で言えばソーラー充電式の自動車といったところか。
「ソウ、これ、スゴイ乗り物だな。馬よりも早いぞ、乗り心地も良いし。」
ドルムさんが感心している。
「兄ちゃん、スゴイスゴイ。竹馬より面白いよ、これ。アハハー」
ピンターは大喜び、ルチアもピンターに合わせて後部座席で飛び跳ねている。
何分か周囲をドライブしていたところ
「ニイニ、ノド、カワイタ」
ルチアが水を求めた。
これが観光バスなら冷蔵庫完備なんだけどね・・・
(もしかしたら、あるかも・・・)
「ナビ、飲み物はあるか?」
『ございます。飲み物の種類は何ですか?』
(おお、やっぱりあった。)
「甘い炭酸飲料水があれば、それを」
『了解しました。』
運転席と助手席の間に60センチ四方のスペースがあったが、その床が青白く光ると四角い箱がせり出してきた。
箱の上部、中央にできた黒い点が全方向に広がるように開いて、ボトルタイプの飲料水の上部だけが見える位置まで上がってきた。
俺がそのボトルを手にすると冷たかった。
(やっぱり冷蔵庫付だったか)
俺はそのボトルキャップを外して少しだけ味見した。
飲み物はオレンジの炭酸飲料だった。
(新鮮な味わいだ。問題ない。)
おそらく亜空間に保存されていて、時間経過が無かったのだろう。
飲みかけのボトルをルチアに渡した。
「飲んでもいいよ。」
ルチアはおそるおそるボトルに口を付けた。
一口飲んで目を丸くした。
「オイシイ、ナニコレ?」
ピンターがそれを眺めているので、ナビに命じてもう一本出してピンターに与えた。
「ウワー、にいちゃん、口の中がシュワシュワしてる。甘いし美味しいよー。」
その様子を見ていたドルムさんが喉をならしていた。
(炭酸ジュースがあるなら、あれもあるかもしれないな。)
「ナビ、ビールあるか?」
『ございます。』
「一本出して。」
白い箱から、なつかしの
『缶ビール』
が出てきた。
350ミリリットルくらいの小さな缶だった。
ラベルにはオオカミの絵が描かれている。
銘柄は見た目のとおり「ウルフ」だ。
俺がプルトップを開いて、缶ビールをドルムさんに渡した。
よく冷えている。
「どうぞ、飲んでみてください。」
ドルムさんが恐る恐る一口、二口・・・一気に流し込む。
顔をしかめる。
目は >< こうなっている。
「う、うっめー。冷たくて苦くて心地よくて、おらぁ生まれてこのかた、こんなうまいもん、飲んだことないぞ。この乗り物最高だな!!!」
(車の性能とは関係ないと思うけど・・・)
「ナビ、飲料水やビールの在庫ってどのくらいあるの?」
『車載されている飲料水等は、次のとおりです。』
正面のモニターにリストが表示されていた。
飲料水 50万 タラル
清涼飲料水 300シリル瓶
17,480本
缶ビール 300シリル缶
12,017本
その他アルコール類
3、785本
(うひゃー 一つの街の備蓄分くらいあるな。)
「ずいぶん、アルコール類が多いね。」
『前オーナーが亜空間システムを搭載して備蓄されていました。』
(タイチさんもドルムさん系列の人だったのか・・・)
飲料水の単位がわからない。
「ナビ、タラルとシリルという単位がイメージできない。わかりやすく説明できるか?」
『先程お出ししました。飲料水とビールは一本300シリルです。1,000シリルで1タラルです。水の全備蓄量50万タラルは、この先の湖の全水量に近いです。』
(へー、湖一つ分を載せてるのか、この車)
「ナビ、武器は搭載しているか?」
俺は、首都へ旅するつもりだったので、武器も気になっていた。
『モニターにリスト表示します。』
モニターに車載武器の一覧が表示された。
前方銃機 2基
装填可能弾数 合計100万発
後部銃座 1基
装填可能弾薬数 50万発
ロケット発射管 左右2管
装填可能ロケット
クラスター 5、000
ナパーム 2、000
対空 3、000
投下型 時限地雷 1000基
偵察用ドローン 3機
(うわー、なんじゃこりゃ。どこかの国と戦争出来る程の兵器量だな。)
「これほど一度に搭載できるのか?」
『飲料水同様、亜空間弾薬庫と、武器の弾倉が繋がっていますから、実物さへ弾薬庫にあれば、ほぼ無限に装填可能です。』
「何やらわからんが、そんなにすごい武器なのか?」
ドルムさんが不思議そうにモニターを覗き込む。
「そうですね、この世界で例えるなら、正規兵10個師団を完全武装させて戦わせるのと同等、もしくはそれ以上の兵力がこの車に搭載されています。」
「10個師団と言えば、約8万人・・・・そんなに・・・」
ドルムさんはそれ以上しゃべらなかった。
隠れ家近くまで帰って来て車ウルフを収納した後、家へ入った。
ドライブをしてお腹がへってきた。
「そういえば、朝から何も食べてなかった。みんなは?」
ピンターとルチアが
「「ゴハン、ごはん♪」」
と踊っている。
「俺も腹が減ったな。でも何も買ってこなかった。」
(タイチさん、食料の備蓄、ないですか?)
『あるよ。台所に冷蔵庫があるから見てみな。』
台所のスペースには何もない。
床板を剥がしたら、れいによってスベスベの床が現れた。
魔力を流したら何もなかった台所にシステムキッチンと冷蔵庫のような箱があらわれた。
冷蔵庫のような箱には3つの区切りがついていて一番上の部分にはモニターが設置されている。
モニターには、おそらく在庫品と思われるメニューが表示されている。
冷凍食品だけだと思ったが新鮮野菜や作り立ての料理のメニューも表示されていた。
試しにパスタらしき食べ物をチョイスしてエンターすると。
箱の中段部分が、区切りの線からスライドして、開いた。
中には皿に盛られた湯気の立つパスタが入っていた。
それを取り出した後、もういちどメニューを見た。
なんだかわからない物もあったが、料理名を選んで詳細表示をタップすると、その料理の画像があらわれたので、困ることはなかった。
パンと、パスタ、ビール、ジュース、幾種類かの鶏肉料理、そして忘れてはならない『肉串』を冷蔵庫からと取り出した。
テーブルが無くて地べたにおいたが、貴族じゃないし、誰も気にしなかった。
みんなしゃべることを忘れて黙々と食べている。
「古代人は、こんなうまいもの毎日食ってたのか?」
ドルムさんがようやく話し始めた。
「そのようですね。」
(タイチさん、随分と多くの備蓄があるね。)
『・・・そりゃそうさ、俺と俺の妻、子供3人が10年はここで隠れ住むつもりだったからな。無駄になっちまったけど・・・』
(あ、すみません。残念でしたね・・その・・ご家族)
『いいさ、もう済んだことだ。俺の家族の分も君が生きて食べてくれたら嬉しいぞ。』
(はい。)
その日の夕方にはドランゴさんも、やってきた。
明日にはドランゴさんとの約束、魔剣造りのお手伝いをしよう。
仲間全員で超豪華な夕食を取って大騒ぎした後で雑魚寝した。
久しぶりに熟睡できそうだ。
ドランゴさんは店番のようだ。
俺が玄関でピンター達を出迎えると
「兄ちゃん!!元気になった?」
「ニイニ!」
ピンターとルチアが飛びついてくる。
「お!ソウ、なんだか顔色がいいな。魔法が回復したか?」
ドルムさんが俺の顔を見て何かを感じ取ったようだ。
「完全回復とは言えませんが、かなり良くなりました。薬をもらったんです。」
俺は、昨日ドルムさん達が出て行ってからの出来事を説明した。
そしてタイチさん、正確に言えばタイチさんの記憶を持つAIにも引き合わせた。
「そりゃ、すげーな。で、その魔導車ってのは何だ?」
「俺もよくわかってないです。今から出してみます。」
俺は俺の体にまとわりつくルチアに視線を向けた。
「ルチア、周囲に人がいないか見てくれないか?」
ルチアには『遠視』というスキルがあって周囲数キロを見渡すことが出来る。
ルチアは湖と反対側、草原方向を何度か見渡す。
「ニイニ、だれもイナイ。」
俺はルチアの頭をなでる。
「そうか、ありがとうね。」
周囲に人がいないことを確認した俺は、地下室から持ち出したアタッシュケースを地べたに置き、ケースの蓋を開けてから魔力を流しこんだ。
すると
ブオン♪
と音がしてケースの30センチくらい前に10メートル四方のスクリーンが出現した。
ピンターとルチアが驚いて何歩か後ずさった。
「ドルムさん、ピンター達と、ここで待っていて下さい。中の様子を見てきます」
「中って・・・」
ドルムさんはこのスクリーンがゲートだとは知らない。
「ああ、心配ないです。このスクリーンは別の空間と繋がっていますが、安全です。前にも入ったことがありますから。」
「わかった・・」
俺は、ためらうことなくそのスクリーンを潜った。
スクリーンの中は閉ざされた空間で、その空間には自動車があった。
自動車と言うよりも装甲車に近いイメージだ。
四角い形状で、フロントガラス、ワイパー。4つのドア、8つのタイヤ。
室内は広く10人くらいなら余裕で入れそうだ。
元の世界の大型のワンボックスカーを横に1,5倍くらい、縦に2倍位大きくしたサイズ。
車の外郭はゴツゴツした感じで、装甲はかなり厚いようだ。
運転席に座ってみる。
車高が高いのでステップに足をかけて乗り込んだ。
ドアを閉めたら自動音声なのか女性の声でナビが流れた。
『ご乗車ありがとうございます。この車のユーザーはタイチ・ヤマトです。ゲスト登録もしくはユーザーの変更をなさって下さい。』
(ほう、セキュリティシステムがしっかり働いているな。)
(タイチさーん)
『なんじゃ?』
(車のユーザー登録、変更するか、ゲスト登録をお願いします。)
『ああ、いいぞ。ホリャ』
『ユーザー登録変更要請を確認しました。新規ユーザー登録のためスキャンニングを行いますが、よろしいですか?』
「ああ、よろしく頼む。」
『ハンドル前、右側のタッチパネルにどちらかの手を乗せてください。』
ナビ通り、ハンドル前右側に設置されているB5サイズくらいのタッチパネルに右手の平を乗せた。
『確認しました。ソウ・ホンダ様・人狼族・ユーザー条件を満たしました。只今よりこの車のユーザーはソウ・ホンダ様です。』
「質問がある」
『どうぞ』
「俺は車の運転方法を知らない。どうすればよい?」
『口頭の指示によるオート運転と、自ら操作するマニュアル運転がございますので、どなたがユーザーになられても、運転に不自由することはございません。』
「誰でもこの車の所有者、もしくは使用者になれるのか?」
『所有権限があるのは、人狼族の方々のみですが、使用権限は所有者が誰にでも付与できます。』
「わかった。それでは、ゆっくりとゲートから出て、停車してくれ。」
『了解しました。』
静かなエンジン始動音がして、ゆるりと車が発信した。
ゲートをくぐってすぐに車が停車した。
ピンターとルチアを庇うようにしてロングソードを構えているドルムさんが見えた。
運転席の窓ガラスを開けて俺の顔をのぞかせる。
「兄ちゃん喰われた。!!!」
「イヤー!!ニイニ」
ピンター達にはこの車が化け物で、それに俺が食われたように見えているらしい。
さすがにドルムさんは冷静で、おそるおそる車に近づき
「乗り物か?これ」
と俺の顔を見た。
その後ピンター、ルチア、ドルムさんを車に乗せ、そこいらをドライブしつつ、車の性能を確認した。
ナビゲーション機能を呼び出すのに名前が必要だったので
ナビゲーションシステムに
「ナビ」
という名前をつけた。
(安易だったかな・・・)
ナビによると、この車は人狼族専用の軍事用装甲車で、今から2万年前に製造されたとのこと。
車名は
ウルフ38型汎用装甲車
ということなので、この車の呼び名も
『ウルフ』
とすることにした。
ウルフはアタッシューケスに繋がった亜空間で時間の経過なく格納されていたので、新品同様だった。
ウルフはアクセル、ブレーキ、ハンドルを使う『ナビ』抜きの運転方法と、目的地と速度等を音声でナビに指示する『ナビ自動運転』があった。
『ナビ』抜きの運転は道路交通法も信号も無いこの世界では、遊園地のゴーカートを運転するようなものだった。
ナビにはレーダー機能が備わっていて、そのレーダーは周囲10キロ四方の人型生命体と魔力の大きな魔物を感知できた。
更にはマザーと通信可能で、周囲の地理情報、気象情報を受信し、モニターに反映させることが出来た。
ウルフの燃料は魔力で、自動的に充填されるようだ。
元の世界で言えばソーラー充電式の自動車といったところか。
「ソウ、これ、スゴイ乗り物だな。馬よりも早いぞ、乗り心地も良いし。」
ドルムさんが感心している。
「兄ちゃん、スゴイスゴイ。竹馬より面白いよ、これ。アハハー」
ピンターは大喜び、ルチアもピンターに合わせて後部座席で飛び跳ねている。
何分か周囲をドライブしていたところ
「ニイニ、ノド、カワイタ」
ルチアが水を求めた。
これが観光バスなら冷蔵庫完備なんだけどね・・・
(もしかしたら、あるかも・・・)
「ナビ、飲み物はあるか?」
『ございます。飲み物の種類は何ですか?』
(おお、やっぱりあった。)
「甘い炭酸飲料水があれば、それを」
『了解しました。』
運転席と助手席の間に60センチ四方のスペースがあったが、その床が青白く光ると四角い箱がせり出してきた。
箱の上部、中央にできた黒い点が全方向に広がるように開いて、ボトルタイプの飲料水の上部だけが見える位置まで上がってきた。
俺がそのボトルを手にすると冷たかった。
(やっぱり冷蔵庫付だったか)
俺はそのボトルキャップを外して少しだけ味見した。
飲み物はオレンジの炭酸飲料だった。
(新鮮な味わいだ。問題ない。)
おそらく亜空間に保存されていて、時間経過が無かったのだろう。
飲みかけのボトルをルチアに渡した。
「飲んでもいいよ。」
ルチアはおそるおそるボトルに口を付けた。
一口飲んで目を丸くした。
「オイシイ、ナニコレ?」
ピンターがそれを眺めているので、ナビに命じてもう一本出してピンターに与えた。
「ウワー、にいちゃん、口の中がシュワシュワしてる。甘いし美味しいよー。」
その様子を見ていたドルムさんが喉をならしていた。
(炭酸ジュースがあるなら、あれもあるかもしれないな。)
「ナビ、ビールあるか?」
『ございます。』
「一本出して。」
白い箱から、なつかしの
『缶ビール』
が出てきた。
350ミリリットルくらいの小さな缶だった。
ラベルにはオオカミの絵が描かれている。
銘柄は見た目のとおり「ウルフ」だ。
俺がプルトップを開いて、缶ビールをドルムさんに渡した。
よく冷えている。
「どうぞ、飲んでみてください。」
ドルムさんが恐る恐る一口、二口・・・一気に流し込む。
顔をしかめる。
目は >< こうなっている。
「う、うっめー。冷たくて苦くて心地よくて、おらぁ生まれてこのかた、こんなうまいもん、飲んだことないぞ。この乗り物最高だな!!!」
(車の性能とは関係ないと思うけど・・・)
「ナビ、飲料水やビールの在庫ってどのくらいあるの?」
『車載されている飲料水等は、次のとおりです。』
正面のモニターにリストが表示されていた。
飲料水 50万 タラル
清涼飲料水 300シリル瓶
17,480本
缶ビール 300シリル缶
12,017本
その他アルコール類
3、785本
(うひゃー 一つの街の備蓄分くらいあるな。)
「ずいぶん、アルコール類が多いね。」
『前オーナーが亜空間システムを搭載して備蓄されていました。』
(タイチさんもドルムさん系列の人だったのか・・・)
飲料水の単位がわからない。
「ナビ、タラルとシリルという単位がイメージできない。わかりやすく説明できるか?」
『先程お出ししました。飲料水とビールは一本300シリルです。1,000シリルで1タラルです。水の全備蓄量50万タラルは、この先の湖の全水量に近いです。』
(へー、湖一つ分を載せてるのか、この車)
「ナビ、武器は搭載しているか?」
俺は、首都へ旅するつもりだったので、武器も気になっていた。
『モニターにリスト表示します。』
モニターに車載武器の一覧が表示された。
前方銃機 2基
装填可能弾数 合計100万発
後部銃座 1基
装填可能弾薬数 50万発
ロケット発射管 左右2管
装填可能ロケット
クラスター 5、000
ナパーム 2、000
対空 3、000
投下型 時限地雷 1000基
偵察用ドローン 3機
(うわー、なんじゃこりゃ。どこかの国と戦争出来る程の兵器量だな。)
「これほど一度に搭載できるのか?」
『飲料水同様、亜空間弾薬庫と、武器の弾倉が繋がっていますから、実物さへ弾薬庫にあれば、ほぼ無限に装填可能です。』
「何やらわからんが、そんなにすごい武器なのか?」
ドルムさんが不思議そうにモニターを覗き込む。
「そうですね、この世界で例えるなら、正規兵10個師団を完全武装させて戦わせるのと同等、もしくはそれ以上の兵力がこの車に搭載されています。」
「10個師団と言えば、約8万人・・・・そんなに・・・」
ドルムさんはそれ以上しゃべらなかった。
隠れ家近くまで帰って来て車ウルフを収納した後、家へ入った。
ドライブをしてお腹がへってきた。
「そういえば、朝から何も食べてなかった。みんなは?」
ピンターとルチアが
「「ゴハン、ごはん♪」」
と踊っている。
「俺も腹が減ったな。でも何も買ってこなかった。」
(タイチさん、食料の備蓄、ないですか?)
『あるよ。台所に冷蔵庫があるから見てみな。』
台所のスペースには何もない。
床板を剥がしたら、れいによってスベスベの床が現れた。
魔力を流したら何もなかった台所にシステムキッチンと冷蔵庫のような箱があらわれた。
冷蔵庫のような箱には3つの区切りがついていて一番上の部分にはモニターが設置されている。
モニターには、おそらく在庫品と思われるメニューが表示されている。
冷凍食品だけだと思ったが新鮮野菜や作り立ての料理のメニューも表示されていた。
試しにパスタらしき食べ物をチョイスしてエンターすると。
箱の中段部分が、区切りの線からスライドして、開いた。
中には皿に盛られた湯気の立つパスタが入っていた。
それを取り出した後、もういちどメニューを見た。
なんだかわからない物もあったが、料理名を選んで詳細表示をタップすると、その料理の画像があらわれたので、困ることはなかった。
パンと、パスタ、ビール、ジュース、幾種類かの鶏肉料理、そして忘れてはならない『肉串』を冷蔵庫からと取り出した。
テーブルが無くて地べたにおいたが、貴族じゃないし、誰も気にしなかった。
みんなしゃべることを忘れて黙々と食べている。
「古代人は、こんなうまいもの毎日食ってたのか?」
ドルムさんがようやく話し始めた。
「そのようですね。」
(タイチさん、随分と多くの備蓄があるね。)
『・・・そりゃそうさ、俺と俺の妻、子供3人が10年はここで隠れ住むつもりだったからな。無駄になっちまったけど・・・』
(あ、すみません。残念でしたね・・その・・ご家族)
『いいさ、もう済んだことだ。俺の家族の分も君が生きて食べてくれたら嬉しいぞ。』
(はい。)
その日の夕方にはドランゴさんも、やってきた。
明日にはドランゴさんとの約束、魔剣造りのお手伝いをしよう。
仲間全員で超豪華な夕食を取って大騒ぎした後で雑魚寝した。
久しぶりに熟睡できそうだ。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
78
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる