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第五章 獣人国編

第103話 未来予測 

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今、俺はインチキ呪い師の汚名を雪ぐべく闘技場で決闘裁判の相手、ガラクと戦っている。
日本風に言えばタイマンだ。

決闘の前にガラクの能力を俺のスキル『鑑定』で調査して、たいした相手ではないとたかをくくっていた。

俺はガラクの表面だけを眺めて勝っているように思っていたが、俺の鑑定はガラクに見透かされていて真の実力は恐るべきものだった。

身体能力はもちろんのこと、自由自在に変化する金棒と、おそらくガラクのスキル『重力操作』で衝撃波となってのしかかる重力、それに『未来予測』らしきスキルで俺は防戦一方だった。

油断していたせいで、初手を誤り腹部に一撃をくらって、そのダメージ回復もままならない状態だ。

そこで、頼りになる相棒に助っ人を頼んだ。

『マザー、何か解決策はあるか?』

俺はガラクの攻撃を避けながらマザーを頼った。

『はい。いくつかございます。まずはもう一度神経を集中して相手に鑑定を施して下さい。』

俺は、神経を集中しようとするが、腹部の痛みが邪魔をして思うように精神集中できない。
それでも、なんとか魔力をガラクに伸ばし、イソギンチャクが触手を伸ばすようにガラクをまさぐった。

ガラクは魔法防御に集中したようで思うように情報が手に入らない。
マザーの補助もあって、なんとか触手の数本がガラクを捕らえて、幾ばくかの情報を得た。

『マザーどうだ?』

『ガラクの情報を一部入手しました。ソウ様のお考え通り、ガラクには『未来予測』のスキルがありますね。ほんの数秒先の未来をのぞき見ることができるスキルです。』

(やはり、そうか)

俺の攻撃、特に雷鳴剣での電撃は光の速さと同等だ。
常人では雷から逃げることなどできない。
しかし、あらかじめ雷が落ちる場所を知っていれば、それを回避することも可能なのだ。

だから、ガラクは俺に対して『かまわんぜ、その武器つかいな』と言ったのだ。

ガラクにとってみれば俺が他の武器を使うよりも、性能が判っている雷鳴剣を使う方が対処しやすかったのだろう。
戦いの前、敵に対して、自分の持ち技を得意げに披露した俺は馬鹿野郎だ。

『で、マザーどうしたらいい?』

『はい。まずは相手の攻撃を避けることを容易にしましょう。』

『コピーする?』

『はい。戦いでは敵から教わることも多いですからね。』

マザーとはこの世界へ来て以来の付き合いだ。
考えていることはだいたいわかる。

マザーの優れたところはいくつもあるが、その中でも優れているのが、他者のスキルをコピーして俺に移植できる能力だ。

スキルには一般的なスキルと固有スキルがあって、例えば剣技、魔法攻撃の一部などは容易に複写できるが、アウラ様がもっている『龍化』やドルムさんの『悪魔化』などは個々の資質によるところが大きく、複写できない。

ガラクの持っている未来予測は一般スキルのようで、ある程度の資質がある者が修行すれば獲得出来るし、もちろんマザーによる複写、移植もできるようだ。

『それではソウ様。『未来予測』を移植しますよ。心は開いたままにしておいて下さい。』

『わかった。』

普段俺の魔力を行使する部分、つまり俺の『心』は、他者からの浸食、攻撃を受けないようにガードをしているが、今のようにマザーやドルムさん達と『遠話』をしているときは、出入力部分をある程度解放しなくてはならない。

平常時なら、どうと言うことはないが、誰かと戦いながら、心を開け閉めするのは至難の業だ。

心の開閉に気を取られると、ガラクの容赦ない攻撃をくらいそうになるし、攻防に気を取られると、マザーからの移植の為の信号を受け辛くなる。

ガラクが金棒を振りかぶりながら重力波を俺の頭上に落とし、俺が重力波を避けると、その逃げる先に金棒が降ってくる。
未来を予測しながら、俺の逃げる場所へ攻撃を仕掛けてくるのだ。

金棒は自由自在に伸びてくるので、龍神の盾で避けきれない場面も出てくる。
俺が体制を崩すと、重力波、金棒、蹴りの三段攻撃が襲ってくる。

いくつかの攻撃を身体に受けてしまい、ダメージが蓄積されてくる。

俺がガラクの攻撃をもらうたびに観客先から悲鳴と歓声が沸き上がる。
悲鳴は下町の住民から、歓声は兵士からだ。

「ドルムさん。兄ちゃんどうしたの?いつもより弱いよ?」

「ピンター、大丈夫だって。ソウがこれくらいの相手に負けやしねぇよ。なっドランゴ」

「そうでやんす。師匠はワッシと出会った頃より、はるかに強くなってるでやんす。今まであれだけ苦労をしたでやんすから、負けるわけねぇでがんす。」

「確かにソウは強くはなっとるが、どうしてなかなか、あのガラクっちゅうやつも、相当なもんやで、ま、ワシに比べたら屁みたいなもんやけどな。グハハ」

珍しくアウラ様が服を着て素面でいるようだ。

「そりゃ、アウラ様と誰かを比べようなんて、無理がありますよ。ま、酒の勝負なら俺も負けませんけどね。」

「お、ドルム、言うたな。じゃ今晩久しぶりに勝負したろやないかい。」

「あなた。ご迷惑ですよ。それに今はソウさんのこと、しっかり応援しなきゃ。」

イリヤ様の睨みが効いて、ドルムさんとアウラ様が大人しくなった。

「それにしても、ソウの奴、ふがいないな。ま、昨日徹夜で病人見てたから無理もないけど。」

「ドルム、心配あれへんて、苦労しとるようやが、ソウ、なんか新しいことやろうとしてるで、大丈夫やろ。それにいざとなったら、ワイが突入してうやむやにしてもええし。」

「あ、それだけはしない方がいいかと・・・」

ガラクの攻撃をかわしながら、マザーからの信号を受ける。
自分の中に新しいスキルが構築されていくのがわかる。

『現在87パーセント移植済み。もう少し耐えて下さい。』

『了解。』

攻防の間にガラクの表情を見たところ、ガラクはわずかに笑っているように見えた。
嘲り笑うのではなくて、「楽しくて仕方ない。」といった表情だ。
戦闘に喜びを感じるタイプなのだろう。

「ソウ、受けているだけじゃいずれ詰むぞ。何か他にないのか?フフフ」

ガラクが俺に声をかける。
俺も何か言い返したいが、俺には、その余裕がない。

「必死だな。フフフ」

とにかく今は時間を稼がなければならない。
『未来予測』を手に入れることが出来れば、攻撃回避が楽になるし回復するゆとりが生まれる。
ガラクの金棒をかわしながら、俺は防御に徹した。

「ほれみろ、一対一の戦闘でガラクにかなう者などおらぬわ。ライジン将軍と獅子王様をのぞいてはな。」
観客席の代官ヌーレイがほくそ笑んでいる。

「そうでございますな。しかし、下町の民どもは、どうしてあの呪い師を応援するのでしょうか?」

代官おつきの兵士の一人がヌーレイに問いかけた。

「知能の低い下民どもがマジナイでたぶらかされたのだろう。下民はやはり下民よ。おとなしく我らの指示に従っておれば良いものを。・・・そうだ。呪い師を殺した後に水の値段を上げよ。我らを疑った罰を下民どもにも与えるのだ。」

「はい・・・・」

ガラクの攻撃を防ぎ続けているが、攻撃の全てをかわせるわけではない。
少しずつダメージが蓄積されている。

元々体力も魔力も通常時の半分ほどしかないのに、この決闘に挑んだのは誤りだったかもしれない。
しかし、それは己の慢心から来たことだ。
誰にも文句は言えない。

ガラクの攻撃は俺が弱るほどに早さと激しさを増してきた。
後何分ももたないだろう。

『ソウ様、移植終了。新しくできた『未来予測』に神経を集中して下さい。』

『よし。』

俺は自分の心をのぞき込んだ。
確かに俺の心の中には新しい領域が出来ていて、そこに『未来予測』のスキルがある。

一般の人が新たなスキルを得るには、そのスキルを持つ人に師事して何年も修行をするか、その持ちたいスキルを何年もイメージして心の中でそのスキルを成長させるかしか無いのだが、俺の場合はマザーの手助けにより、そのイメージを育てるという部分を省略する事が出来る。

スマホにアプリをインストールするような感覚で自分の心の中に『スキル』を発生させ、アプリを使うように、そのスキルを行使することができるのだ。
これがゲームなら、かなりのチート行為だ。
俺は『未来予測』を発動させた。

すると、俺の心の中にもう一人の俺が現れた。
一人の俺は、今武器を手にガラクと戦っている俺、つまりリアルの俺だ。

もう一人は、0コンマ数秒後の俺。
0コンマ数秒後の俺は、リアルの俺が居る位置から右斜め前方でガラクの重力衝撃波を受けている。

つまり0コンマ数秒後俺が右斜め前方に移動すれば、そこでガラクが重力波を打ってくるという未来が見えたのだ。

試しに盾を頭上に掲げ右斜め前方に移動してみた。
すると先に見た未来のとおり、ガラクは重力波を打ってきた。

攻撃の種類と攻撃の方法がわかっていれば、避けるのにさほどのエネルギ-は必要ない。
楽に重力波を避けることが出来た。

そこから先は、未来の俺と会話しながら、ガラクの攻撃を予測してエネルギーを消費せずに防御に専念することができた。

防御が楽になれば、回復(ヒール)する余裕が生まれる。
魔力も残り少なかったが、自己ヒールするくらいの余力は十分にあった。
攻撃をかわしつつ身体回復に努めた。
何十回に一回は当たっていたガラクの攻撃が徐々にヒットしなくなった。

ガラクの眉間に皺がよった。

「何をした?」

ガラクが不機嫌になった。

「さぁな。自分の体で感じてみろよ。」

おれも返答する余裕が出てきた。
防御が容易になれば、今度は攻撃だ。

ダメージから回復した俺の攻撃は俊敏性と威力が増した。
雷鳴剣による大きなダメージは入れることが出来なかったが、雷鳴剣の合間に繰り出した蹴りや、盾によるぶつかりは、たまに当たるようになった。
もちろん攻撃にも『未来予測』を使っているのは言うまでも無い。

俺の主砲が当たらないのは、ガラクも未来予測を使っているからだ。
というか、未来予測というスキルにおいてはガラクの方が本家本元、俺の方が後進のテナントなのだ。

俺が攻勢に転じたのを見て観客席では俺の仲間や下町住民が歓声を上げている。

「ほれみろ。ソウのやつ、なんか新しいことはじめよったで。おもろいやっちゃなぁアハハ」

「アウラ様、新しい事って何ですか?俺にはソウの動きが速くなっただけのように見えますが。」

「ドルムにはわからんか?あのソウの魔力の流れ、なんかしらんが新しい加護をつこうてるんは間違いないで。相手の攻撃があたらへんし、逆にソウの攻撃が当たるようになったやろ。なんやしらんが、先の事が見えてるような感じやな」

「先の事って、未来が見えてるって事ですか?」

「そうとしか思えん動きや、今の動き」

決闘が始まって約30分、今は五分五分の戦いだ。
しかし、元々残量の少なかった俺の魔力が底をつき始めている。

魔力が底をつけば未来予測もヒールも出来なくなる。
そうなれば必然と敗退だ。
どうにかしなければ・・・

『マザー・・・・』

『はい、ソウ様、判っています。次の手を打ちましょう。』
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