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第五章 獣人国編

第102話 マザー ヘルプ

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ホビットの子の治療を済ませ、一眠りした後、商工会議所の外へ出たところ、大勢の住民が会議所前の通路に集まっていた。

「ソウ様頑張って。」
「ソウ様ご武運を」
「ソウ様負けないで」

今までに俺が治療を施してきた住民が俺に声をかけた。
俺が、インチキ呪い師としという濡れ衣を晴らすため決闘裁判に臨むことを知っているようだ。

その住民達をかき分けるように兵士達が俺の前に立ち塞がった。

「逃げなかったようだな。」

ルステ小隊長だ。

「わざわざ迎えに来てくれたのか。ご苦労様。」

俺は嫌み交じりにルステ小隊長に目を向けた。
ルステは少したじろいだが、隊員の手前虚勢を張ったのか

「迎えじゃない。連行だ。」

と言ったところ、

「神様を連行とは何事だ。!!」
「地獄に連行されるのはお前達だ!!」

住民が口々に騒ぎ立て始めた。

兵士は30名ほどだが、ルステほど馬鹿ではないようで、皆ルステから離れて静観を決めている。

騒ぎが大きくなるのが面倒で、俺はルステに言った。

「面倒だから、さっさと連行しろよ。」

「よ、よし」

ルステが隊員に命令をして俺を取り囲んだ。

「ドルムさん、後をよろしくお願いします。」

「よっしゃ。時間になったら俺も闘技場に行くよ。」

「いいですけど、ドルムさんの出番はないですよ。ハハ」

「わかっているよ。あ、そうそう。決闘裁判の事、アウラ様に話したら見物に来るそうだ。ドランゴも見に来るってよ。アハハ」

(ええー・・アウラ様に話しちゃったの?・・・まっいいかハハ)

決闘裁判は、裁判の一種だが、公平性を期するためと言う名目で一般大衆の面前で行われる。
この地方での娯楽の一つになっているようだ。

俺はルステ達に取り囲まれ、闘技場に向かった。

闘技場は古代ローマの闘技場に似た造りだ。
石造りの円形をしていて、大きさは甲子園球場程、個人戦も行われるが城内で模擬戦争も行えるような広い造りになっている。

闘技場中央にフィールド、その周囲を観客席が取り囲んでいる。
観客席の一部は中央方向にせり出している。
せり出した部分は貴賓席のようで、貴族や裁判官が座って闘技を観戦するようだ。

闘技場に到着し、観客席下の控え室に通された。
控え室では裁判の補助官が決闘裁判の概要を説明してくれた。

補助官の説明によれば決闘は基本的に1対1で行われるが、裁判官が認めた場合、助っ人を一人つけることができる。
勝敗はどちらかが動けなくなるか死亡する、若しくは降参をするまで時間無制限で行われる。

武器は自由に使えるが、手に持てるだけの武器でマジックバッグや他者からの補給は不可。
魔法攻撃も可能。
ということだった。

補助官が最後に訪ねた。

「助っ人を申請しますか?」

「いや、いらない。ガラク隊長は助っ人を呼ぶのか?」

「私はガラク様の情報を貴方にお伝えする立場にはないです。」

「そうか。いいよ。相手がどう出ようと俺は一人で行く。」

ガラクについては昨日、俺の『鑑定』スキルを使って、ある程度の情報を得ている。

ガラクの身体能力はずば抜けていて常人なら到底太刀打ちできないだろうが、今の俺ならさほど、問題は無い。
以前戦ったことのあるワイバーンという竜より少し劣るくらいの戦闘能力だろう。

それよりも問題は今の俺の体力だ。
昨日、ほぼ一睡もせずにホビットの看病をしたために体力も魔力も平常時の半分程度しか回復していない。
少し不安な要素ではある。

「それでは、お時間です。」

補助官に促されて控え室を出た。
補助官を前に、暗く長い廊下を歩いて日の光が漏れている方向へ歩いていた時、後ろから殺気がした。

「パン」

小さな炸裂音がすると同時に俺は背中と頭を『堅固』のスキルで守った。

「チン♪」
と音がして俺の背中の剛毛が何かをはじいた。
俺の足下にはベアリング程度の鉄球が落ちていて、その鉄球からは5センチ程度の繊毛が伸びてウネウネしていた。

見覚えがある物体だ。
アウラ様の奥様、イリヤ様の背中に埋没していた球と同じ物だ。

長い廊下の奥で走り去る足音がしたが、俺は追わなかった。
今にも決闘が始まるのだ。
今、敵を追いかければ

「逃げた。」

と言われかねない。
ガラクが仕掛けたとは思えない。

(ここにも神族の手が伸びているようだな・・・)

フィールドへの入り口が開き、まばゆい光の中へ出た。

「「「「「「うおぉぉぉぉぉ」」」」」」」
「「「「「「「ソウ様ぁぁぁぁぁぁぁ」」」」」」」

地響きのような歓声が響き渡る。
俺を応援してくれているのは、下町の住民だ。
レンヤ一家、シゲル一家が見える。
商工会館の人々や今まで俺が治療を施した数千の患者や、その家族も俺を応援してくれているようだ。

補助官に付いてフィールドを歩いていると、俺が入ってきた出入り口と反対方向の出入り口が開いてガラクが入場してきた。

「「「「「「「ガラク隊長ォォォ」」」」」」」」」

兵士達の大歓声が上がる。
ガラクは兵士達に人気があるようだ。

補助官に促されてフィールドを進み、貴賓席の前に出た。
隣にはガラクが居る。
ガラクが貴賓席に対して兵士の礼を取ったが俺は、この国の裁判官や貴族に何の義理もなかったので突っ立ったままだった。

補助官が

「礼をして」

と言ってきたが無視した。
すると貴賓席から

「代官様の御前だ無礼は許さんぞ。」

と声をかけてきた者が居た。
服装からして裁判官の一人かもしれない。

「俺をインチキマジナイシと冤罪をかけてきた者達に対する礼式を俺は知らん。」

とすっとぼけてやった。

「何を、無礼者!!」

とその裁判官が言ったが、それを中央の席に座ったままで俺を見下している男が左手で制した。

「よいわ。どうせ死にゆく者。無様な死に様を眺めてやろうではないか。」

その男は煌びやかな服を身にまとい、全身を装飾品で飾り立てていた。
顔つきはオーク族のようだ。

「しかし、代官様・・・」

裁判官が更に口出しをしようとしたが

「よいと言うておろうが。」

と右手に持った錫杖を「カツン」と地面に打ち鳴らした。

「ははっ」

裁判官は腰を曲げて後ろに下がった。

「お前が呪い師のソウか?」

俺は代官を見上げた。

「呪い師じゃねぇよ。ただの人狼ソウだ。」

「肩書きなどどうでも良い。お前は、このライベルの窮状に付けいり、さもしい小銭稼ぎをしているそうだな。しかも、疫病の原因が城の水にあると。その弁、死罪にあたるぞ。よいか?」

小銭稼ぎなんてしてない。
庶民を騙してあくどく儲けているのはお前じゃないか。

「だから、何度も水に毒が混ざってるっていってるだろう。城の水だけじゃない。城下町のほとんどの井戸が汚染されているんだよ。」

「ざれごとを申すな。疫病は貧民街から広がったもの。水が原因ではないわ。調査はとうに終わっておる。問答無用に死罪にするのも良いが、騙された住民の嘆願も届いておることだしガラクの願い出もある。決闘裁判としてやること、そしてライベル一番の戦士の鉄槌を受けて死にゆく栄誉をありがたく思え。」

死なねぇよ。フン

補助官がガラクを向いた。

「ガラク様、用意はよろしいか」

「ああ、いつでもいいぜ。」

補助官に誘われて貴賓席下から中央方向へ移動した。
ガラクも移動して俺とガラクはフィールド中央で10メートルほどの距離をおいて対峙した。
ガラクは手に自分の身の丈ほどある堅そうな棍棒・・・いや、金棒を持っていた。

(鬼に金棒ってか?しゃれかよ?)

俺は右手に雷鳴剣Ⅱ左手に龍神の盾を持っている。

「それでは決闘裁判開始!!」

補助官のかけ声で決闘がはじまった。

「「「「「ウォォォォォッ!!!!」」」」」」

観客は5、000人くらいだろうか、地鳴りのような歓声が闘技場に響き渡る。
ガラクは金棒を右下に下ろし、地面を引きずりながら用心深く俺の右側に回り込もうとしている。

俺は雷鳴剣を上段に構えてその場で時計回りに動き、ガラクの隙を伺う。

俺は日本に居る頃、クラブ活動もしていなかったので何かの試合に出たことはないが

(試合に出場する時の気分というのはこんな感じかな?)

等と変なことを考えていた。
少し緊張している。

ガラクは、俺を中心として右回りに動き、俺との距離を少しずつ詰め始めている。
ガラクの隙をついて雷鳴剣を振り下ろそうと考えているが、ガラクには隙が無い。

不用意に剣を振り下ろせば、その隙に距離を詰められて一撃を食らいそうな気がする。
接近戦でも負ける気はしないが、せっかくの遠距離武器があるのだから、それを有効利用しない手はない。

ガラクが俺の周囲を一周した時、俺は試しに「パラライズ」を撃ってみた。
ガラクは無表情で俺との距離を少し縮める。
やはり魔法抵抗が強い。

ガラクが動きながらゆっくりと金棒を振りかぶる。
もう少しでガラクの射程距離なのかもしれない。

ガラクの金棒が最上段に持ち上がった時、俺は少し後ろに下がりながら雷鳴剣を振り下ろした。
剣が届く距離ではなかったが、雷鳴剣の発する電撃がガラクに命中する距離だ。

『ズダーン!!』

という音と共に、ガラクがいる場所に雷が落ち土煙が舞った。
「当たったか?」

と思った瞬間、頭上から何か落ちてくる気配を感じて、俺は『堅固』のスキルを発動しながら龍神の盾で自分の頭を守った。

『ドゴーン!!』

龍神の盾にものすごい衝撃が加わるが盾には何も当たっていない。

上空から巨大な岩が降ってきたような衝撃なのに物理的な物は何も接触していないのだ。
衝撃を受けて俺の足が地面に少しめり込んだ。
常人ならば、この一撃で命を失うか気絶していただろう。

上に気を取られていたところ、突然ガラクが俺の背後に現れた。

俺は盾を向ける暇も無くガラクがなぎ払った鉄棒の直撃を受けてしまった。
「バキボキ」
と俺の体内から音がした。
あばらを何本か持って行かれたようだ。
堅固のスキルを腹部に集中していなければ死んでいたかもしれない。
俺はガラクから受けた打撃を受け流す要領で被弾しながらも横っ飛びにその場を離脱した。

なめていた・・・ガラクを

その場から離れてガラクを見ると、そこには俺の知っているガラクとは別人のガラクが居た。

身長は、そのままだったが、かなりスリムな体型で、贅肉がなく引き締まった筋肉で、体全体が少し輝いているように見えた。

敏捷性が高いことは見た目だけでもわかる。
更にガラクの持っていた金棒が細長くなっている。
孫悟空の持つ如意棒のように伸縮自在の武器のようだ。
ガラクは牙を覗かせながら少し笑っているように見える。

「ソウ。なめていただろう。俺の事。鑑定で俺のうわべだけを見て安心し、勝ったも同然というような顔をしてたよな。フフフ」

図星だった、ガラクは俺が『鑑定』スキルを使ったことも承知していた。
というより、今のガラクの話しぶりでは、あえて俺の『鑑定スキル』をスルーして上辺の情報を握らせたようだ。
真のガラクは上辺の能力以上の力を体の奥底に隠していたようだ。

ちょっとヤバイかも・・・

自己治癒しようとするが、ガラクの動きが速すぎて防御するだけで手一杯。
ヒールをするための精神統一が出来ないのだ。

俺は盾で金棒による攻撃を防ぎながら、なんとかガラクに一撃を加えてヒールするための隙を作りたいのだが、防御は出来ても攻撃は全く当たらない。

俺の撃つ魔法や雷鳴剣の雷撃よりも早くガラクが移動するのだ。
というよりは、将来の攻撃着弾地点を知っていて、その場所を避けているようにも思える。
もしかしたら短時間の未来予測ができるのかもしれない。
困った・・・

困った?
困った時の・・・・

『マザー』

『はい。ソウ様。お久しぶりですね。』

どことなく嬉しそうなマザーの声が帰って来た。

『マザー・・・ヘルプ』

『かなり、苦戦されているようですね。お手伝いいたします。ウフフ』
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