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第五章 獣人国編

第101話 ホビット 妖精の命

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ライベルの下町で住民の水銀中毒を治療したところ、住民からは多大な感謝を受けたが、城の兵士達からは、「インチキまじない師」と誹られ、城まで連行された。

穏やかに話し合って解決しようとしたが、結局戦うことになった。
戦うと言っても多数の兵士と戦うのではない。
この国の風習、決闘裁判で決着をつけるということになったのだ。

戦う相手は大隊長のガラク、身長2メートルはあろうオーガだ。
俺が雷鳴剣で脅しをかけても一歩も引かなかった。
それどころか雷鳴剣を使ってもいいから戦えという。
よほどの自信があるのだろう。

しかし俺が決闘裁判で負ける要素は、ほとんど無い。
というのも俺は自分のスキル『鑑定』でガラクの能力は、把握していた。
体力も魔力も人並み以上に強かったが、俺に比べれば幼稚園児と大学生くらいの差がある。

スキルも
剣技 55
体力向上 51
魔力抵抗 34
自動治癒 52

くらいで、さほど脅威を感じるスキルは無い。

『重力操作 32』

というスキルが少し気になるくらいだ。
後は属性が『鬼人』というところも気になる。

一般にオーガの属性はそのまま『オーガ』と表示されるのが普通なのだがガラクの場合は『鬼人』と表示される。

アウラ様は元々龍族だが進化して龍神になったという。
そのことからすればガラクもオーガから進化した『鬼人』という上位種族なのかもしれない。

俺は、決闘裁判の前日になっても商工会館で次から次へとやってくる患者の治療を続けていた。

「ソウ。明日は決闘だろ?そろそろ休んだ方がいいのじゃないか?」

ドルムさんが心配して声をかけてくれた。

「ああ、大丈夫ですよ。一晩寝れば元に戻りますから、それに今日は遠くから来た子供や年寄りが多いです。この子達の治療を済ませなければ休めませんよ。」

商工会館の外にはボロ布をまとった、いかにも貧民街の住民といえる猫人やオーク族、それにこの街へ来て初めて見たホビット族の子供達が親に支えられながら列をなしていた。

外は雪だが商工会の前ではいくつものたき火がされていて、その火の上には大きな鍋が乗せられている。

鍋の中には、芋や他の雑穀、それに肉を入れた雑炊がぐつぐつと煮えている。
それを既に治療の終わった住民が椀によそおい、列をなす患者に配っている。
俺が用意した炊き出しだ。

雑炊を配る者は、それを誰かに与える際、必ずこう言う。

「神の使徒ソウ様からだ。遠慮無くいただけ。」

それを最初に言い出したのは、ライチの叔父「レンヤ」とレンヤの隣家に住む「シゲル」だ。
俺はこの二人の家族を治療して食事も与えたので感謝されるのは判るが、次第に神様扱いされるようになって

「神というのはやめてくれ、俺は神なんかじゃない。」

と言ったところ、

「そんなら、龍神様の使徒は間違いないので、神の使徒と呼ばせてくんろ」

という話になってしまった。
ま、別に呼び方なんてどうでもいいけどね。

俺の目の前にはホビットの親子がいる。
親の顔色も悪いが、子供も親の腕の中でぐったりしている。

本来ホビットは、森の奥深くに住む種族なのだが、父親の仕事でこの街に家族で来た際、母親の具合が悪くなり、その看病をしているうちに子供も父親も患って身動きがとれなくなったそうだ。

「神の使徒様、どうか、どうか、この子をお願いします。」

父親は涙ながらに訴える。

「ミユル!ミユル!しっかりしなさい・・今治してもらうから・・ミユル!」

ホビットの子供は女の子のようだが、見るからに重症だ。
父親の呼びかけにも反応できない。

俺がその子の手を取り鑑定したところ、わずかな生命反応を感じることができたが、ほぼ危篤状態だった。

「これは、まずいな・・・」

父親が俺を見た。

「駄目ですか?駄目なんですか?ミユルは?使徒様・・・使徒様!!」

「駄目じゃない。だがかなり危ない状態だ・・」

「お願いします、使徒様、お願いします神様」

父親は両膝をついててを合わせ俺を向いて頭を垂れる。

「ドルムさん。手伝って!!」

「おうよ。!!」

「メディを出せるだけのスペースを確保して。そしてカーテンか何かで仕切って。」

「よっしゃ。」

ドルムさんは集会所内にいる人々に声をかけてメディを展開できる場所を確保し、その場所を木の板で仕切ってくれた。

俺は、その場にメディを展開した。
その様子を見ていた何人かの住民は驚きを隠せないようだが、俺がやることには信用をおいてくれているらしく騒ぎ立てる人は居なかった。

「ホビットさん、貴方の名前は?」

「ボクの名前はエリオット、この子はミユルです。」

「わかった、エリオットさん。今からこの世界では誰も見たことのない治療をしますが俺のことを信用して任せてもらえますか?」

「も、もちろんです。先ほどまで貴方が他の患者に加護を施すのを何度も見ました。あんな行いができるのは神様以外に存在しません。神様を信用できなければ何を信用するというのでしょうか、なにとぞミユルを助けて下さい。」

「わかりました。それではミユルちゃんを、この台の上にのせて下さい。これは神器です。」

エリオットは指示通りミユルをメディに乗せた。

『メディ、ミユルを診察して。生存率が一番高くなる治療方法を選択、指示しろ。』

『了解しました。』

メディがミユルをスキャニングした。

「患者、ミユル、急性メチル水銀中毒、明日までの生存率0,2パーセント。最も有効な治療方法、キレート剤の点滴投与。」

生存率0、2パーセント、明日の朝には、おそらくこの子は死んでいる。
俺を手伝っているシゲルがレンヤに訪ねた。

「レンヤ、生存率0,2パーセントっちゃ、どういう意味ダブか?」

「100に一つも助からねぇっつうことだにや・・・」

レンヤは小声で返答したつもりだったが、その声はホビットの父親にも届いてしまった。

「100に一つも助からない?・・・そんな、そんな・・・・ミユルが・・」

ホビットの男はメディに横たわる子供に抱きつこうとした。

「まって。メディに触れたら駄目だ。治療ができなくなる。」

俺がホビットを制した。

「そんでも・・そんでも・・・」

ホビットの目は涙でクシャクシャだ。
俺はレンヤさん達にお願いして椅子を用意してもらいメディの前に置いてもらった。

俺はその椅子に腰掛け、少しの間、瞑想した。
そうやって精神を落ち着かせ、ほんの少しでもアイドリングすれば治療効果が上がることが、ここ数千回行ってきたヒールで経験則として判ってきていた。

俺は精神を集中しながら、俺の魔力を生命力に変換するようなイメージでホビットの子供に流し込んだ。

俺の体は最初、まばゆく青く輝き、次第にその輝きは金色へと変化し、その光が徐々にホビットの子供に流れ込んだ。

通常のヒールは一回10秒ほどだが、この時は30秒ほど念じ続けた。
ヒールが効果を発すればその手応えが俺に返ってくるはずだが、この時はその手応えが感じられなかったので長く発動させたのだ。

通常のヒールの3倍ほど疲れた。

「メディ、再診」

『了解』

メディが再度スキャニングした。

「再診結果、患者ミユル、重度のメチル水銀中毒、生存率4パーセント」

「おお!!」

レンヤが簡単の声を上げた。
シゲルがレンヤを見る

「どうしたぶ?」

「あの子供の生存率が20倍上がった。100に4つは助かるだによ。」

今度は普通の声でしゃべった。
ホビットの父親にも少し血の気が戻った。

俺は再度ヒールを施した。

「メディ再診」

『生存率5パーセントです。』

ヒールの効果が薄い。
原因はわかっている。
俺の疲労だ。
精神を集中できないほど疲労が蓄積されているのだ。
それでも何分か休んでヒールを繰り返した。
その間にもメディによる点滴治療を続けていた。

いつもなら帰宅するはずのレンヤさんやシゲルさん、商工会の会長、その他の会員も、おれの治療を見守っている。

神の行いを目に焼き付けようともいわんがばかりに、俺の一挙手一投足を見守っているのだ。

「ソウ大丈夫か?明日何の日か判ってるよな。」

ドルムさんが、俺を心配するが、明日の決闘より今の闘病だ。

「大丈夫ですよ。神の使徒の名に恥じないようにします。ここで俺がさじを投げるとアウラ様の名前まで汚れますからね。」

本当は目の前にいる小さな子供、命のかがり火が今にも消えそうな子供。

この子の周りに病魔という風が吹かないよう、かがり火が消えないように見守っていたいのだ。
俺自信の欲求から来る行為でもあるのだ。

(頑張れよ、これからの人生だ。楽しいことが沢山まってるからな。助かったら父親にも母親にも思いっきり甘えろ、生きているって楽しいことだと感じろ・・頑張れ)

そう思いながらヒールを続けた。

睡眠を取らず明け方まで、瞑想してはヒールを施す作業を繰り返したところ、鶏が鳴くようになった頃、ようやくメディから良い知らせが届いた。

『生存率100パーセント。後は点滴治療のみで治癒するはずです。』

俺は、その場に崩れ落ちた。

「神様!!」
「ソウ様!!」
「使徒様!!」
「ソウ!!」
「兄ちゃん!!」

様々な声が俺を呼ぶが、俺は反応したくなかった。
体はボロボロ、魔力は底をついた。
俺がメディに乗っかりたいくらいだ。
(誰も俺を起こすなよ・・・)

と思いながら深い眠りについた。


どれくらい眠っただろう?
俺の目の前に身長60センチくらいの妖精が居る。
いや正確には小さくて目鼻立ちが整ったホビット族の少女なのだが、どう見ても妖精に見える。

俺が幼い頃、外国のアニメで見たティンカーなんとかという妖精の女の子にそっくりなのだ。
羽こそ生えてないが・・(もしかしたら服でかくれているのかも)美しく長い金髪をポニーテールにして瞳は緑、肌は透き通るように白く、頬は少しこけているが唇は赤い。
妖精といっても過言ではない。
妖精は父親に抱かれたまま俺を見つめている。

「ミユル、この人がミユルを助けてくれた神様だ。お礼を言いなさい。」

「神様、ありがとう。ミユル歩けます。しゃべれます。ありがとう。」

俺は寝起きでうまい言葉が見つからない。
笑顔をミユルに返すのが精一杯だった。
いつの間にか俺は商工会議所の会長室に運ばれていて俺のベッドの周りには商工会長やドルムさん、ピンター、レンヤさん達が控えていた。

「ドルムさん、今何時ですか?」

「ああ、もうすぐ正午だ。」

「そんなに寝ていたのか・・確か1時でしたよね約束の時間。」

「うん。そうだが闘技場までは5分もかからん。もう少し休んでろ。徹夜でつかれているだろ?」

「そうだよ兄ちゃん、疲れてちゃ勝てないよ、あの鬼に。」

ピンターが心配そうな顔で俺をのぞき込む。

「大丈夫さ、俺が負けるものか。俺が負けたら、ルチアに会えなくなる。頑張るよ。」

俺はベッドから降りて着替えを済ませ建物の外に出た。

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