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第五章 獣人国編

第119話 迫る戦火

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セトの用意してくれた宿でライジンの帰りを待っていたところ、国王の弟レギラから招致された。

しかし俺はセトからの連絡を待つために宿で留まりたかったし、レギラの不躾な呼び出しが気に食わなかったので、使者に対して「用があるならそっちから来い」と伝えさせた。

するとレギラが怒り心頭で宿に現れ、いきなりパンチを見舞ってきた。
俺は応戦し、レギラが獣人化しようとした時セトがやってきた。

「おやめ下さい。若」

上半身裸のレギラがセトの方を向く。
俺も戦闘状態を維持したままセトに視線をやった。

レギラが戦闘態勢を緩めた。

「セト」

「おやめ下さい。若、何事ですか?」

「何事って・・・見ての通りだ。俺の呼び出しを無視したこの野郎に鉄拳制裁を加えているところだ。」

「それだけのことで?」

「いや、それだけじゃないさ。このクソ野郎は俺の領地に毒を振りまいて多くの領民を病気にしやがった。それどころか治療と称して困窮している領民から金銭を巻き上げたそうだ。そんなくずを領主である俺が放っておけるか?」

話が180度違っている。
レギラの態度に少し怒りを覚えていた俺は、その話を聞いて更に腹が立ってきた。

まだ精神的には余裕があるが、もう少し進展すると怒気を感情のままに解き放ってしまいそうだ。

「おい、レギラ。お前馬鹿だろ?」

俺が一国の王族を馬鹿呼ばわりしことでお供の兵士の表情が変わった。
もちろん当の本人は顔を真っ赤にしている。

「なんだと?誰のことを馬鹿って言ったんだ?」

「お前に決まっているだろレギラ。誰からそんな与太話を聞いたのか知らないが、何も裏付けを取らず、確かめもせず、怒りにまかせて自分より強い奴に殴りかかるなんて馬鹿以外の何ものでも無いさ。」

「裏付けだと?裏付けならあるさ。現地の代官と守備隊長が、ソウ・ホンダという男が犯人だと言ってきたんだ。これ以上確実なことはないだろう。」

代官はヌーレイ。
守備隊長はサルディア将軍のことだ。
ヌーレイ達は故意では無いかもしれないが毒水を領民に販売していた。

そのミスを誤魔化すため、俺を犯人仕立て上げて領主であるレギラに報告したのだろう。

俺はヌーレイにはライベルを出るとは言っていたがオラベルへ行くとは言っていない。

だから、まさか俺がオラベルでレギラと出くわすとは思わず、急場しのぎの嘘を報告したのだろう。

「その件なら俺の無罪は証明されているぜ。お前達の国の法律でな。お前は無実の者にさしたる理由もなく制裁を加えようとしたんだ。それがこの国のやり方。王族のやり方なんだな。他国が言うようにジュベルという国は、感情が法を上回る野蛮人の国なんだな。」

俺の虫の居所の悪さが、とても嫌みな表現になって表れた。

俺の言葉が終わるか終わらないうちにレギラが獣人化して音速に近い早さで俺に襲いかかった。

今度は俺も身構えていたのでレギラの火の玉のような拳を受け止めることが出来た。

ドガーン!!!

俺の顔面を狙って来たレギラの拳を俺が両肘に堅固を使ってガードしたところ衝撃波が発生して大きな音と共に周囲の家具や壁を破壊した。

レギラは更に蹴りや拳を繰り出し俺を攻撃する。
俺は未来予測でレギラの攻撃を難なく避ける。
俺も獣王化すれば、レギラに反撃できるのだが、今はまだ獣王化したときの実力を見せたくなくて防御に徹した。

「若!若!」

セトが俺とレギラの間に身を入れてレギラを止めようとする。

「止めるな、セト。この無礼者は、この国を、このジュベル国を馬鹿にしたのだぞ。それだけで死刑に値する。」

「若の気持ちはわかります。しかし、このソウが『この国の法律で無罪だと証明されている。』と言っているんです。その言い分を先に聞いてからにすればいいのでは?

その上でお腹立ちが収まらないのであれば、止め立ていたしません。まずはソウの話を聞きましょう。このままではこの宿が崩壊しますよ。」

レギラは改めて周囲を見回した。
宿の1階ロビーは、俺とレギラの戦いの余波で半崩壊だ。

「ふぅぅぅ・・・良いだろう。おいクソ野郎。言い訳してみろ。」

「言い訳じゃないぞ。事実だ。俺は、流行病で苦しむライベルの住民を俺の力で治癒した。そして流行病の原因も突き止めた。

ところが代官のヌーレイが俺にインチキマジナイ師だと言いがかりをつけたので、俺は決闘裁判で無実を証明し、更に残りの住民も治療してやった。それが真実だ。この国では一度無罪になった者を感情のみで二度裁くのか?街を救った者に対する礼が鉄拳か?」

レギラはいぶかしそうな顔をした。

「決闘裁判だと?相手は誰だ。」

「俺ですよ。若」

不意にガラクが現れた。
レギラが振り向く

「ガラク・・・お前がなぜここに?ライベルの守備はどうした?」

「クビになりました。」

「え?なぜ?」

「そこに居るソウ・ホンダに負けたからです。」

周囲に居る兵士もセトもレギラも驚いている。

「俺は決闘裁判でソウに負けました。たった一発のボディで俺は意識を刈り取られました。
そこに居るソウ・ホンダは本物です。そしてライベルの住民と俺の命を救いました。戦士の名にかけて嘘は申しません。」

「そんな、ガラクほどの男が一発で沈んだだと?信じられるか、そんなこと。お前は三大英雄の一人、ガラクだぞ。この国では兄者に次ぐ実力者だ。それが・・・・それが・・・」

セトがガラクに続く

「若、ガラクの言うことは本当だろうと思います。私もソウの実力をこの目で見ています。ソウはたった一人でドラゴンのブレスを防ぎきりました。ガラクが負けてもおかしくはありません。おそらく私でも勝てないでしょう。それにソウ殿は龍神様の使徒でもあります。嘘はつかないでしょう。」

「龍神様の使徒・・・」

レギラの獣化が解けた。

「いったいどういうことだ・・・いったい・・・」

俺も戦闘態勢を解いた。

「どういうことだも。こういうことだも無いよ。ガラクの言ったとおりだ。俺がライベルの流行病を防ぎ、民を治療し、決闘裁判でガラクと戦った。それが真実だ。俺の言うことに耳を塞ぎたいのならそうすればいい。しかし真実は一つしか無い。」

レギラは自分の部下の言葉の方を信じるかもしれないが、レギラ自身がライベルへ行けば、いずれ真実が明らかになる。
俺が詳しく説明する必要もないだろう。

「セト、ライジン将軍はまだか?」

「まだだ。」

「ガラク後は任せた。」

「ああ」


俺はレギラ達をその場に残し自室へ戻った。
しばらくして自室のドアがノックされた。

コンコン

「誰だ?」

「俺だ。ガラクだ入るぞ。」

「ああ、入れ。」

ガラクが俺の部屋に入ってきて椅子に腰掛けた。

「レギラは帰ったか?」

「ああ、ライベルでの経緯を俺が話した。納得してはいないが、とりあえず矛を収めて帰っていったよ。」

「そうか。あのレギラと言う男。馬鹿だけど力はあるな。まだ腕がしびれている。」

俺は獣人化したレギラのパンチを両腕で受け止めたが、その時の衝撃が今も腕に残っている。

人狼Ⅱの『堅固』でガードしている俺の腕にダメージを残す程のパンチだ。
並外れた攻撃力と言える。

「ああ、獅子王様の弟だからな。実力はライジン将軍と並ぶんじゃないかな。それにしてもソウ、よく我慢してくれたな。お前ならレギラ様を倒すことは難しくなかっただろうに。」

ガラクは俺が獣王化した時の実力を知っている。

「まぁな。レギラの態度にはむかついたが、あれでもルチアの伯父だからな。怪我をさせるわけにもいかんだろう。」

「レギラ様は気が短く怒りっぽいが、悪い人では無い。むしろ領民思いの優しいお方だ。勘弁してやってくれ。」

「わかっているよ。ところでガラク。どこへ行っていたんだ?」

「ああ、昔の仲間何人かと会ってきた。情報収集だよ。まもなく大規模な戦争が始まるらしい。」

「ゲランとか?」

「そうだ。ゲランから宣戦布告の文書がとどいたらしい。正式な戦争だ。」

俺はこの世界の戦争について詳しくは無い。

「宣戦布告がなされるとどうなる?」

「現実的には雪解けの始まる来月初旬頃からだろうが、国境付近では小競り合いがもう始まっているかもしれない。いつどこで火の手が上がってもおかしくない状態だ。」

「戦争が終わる条件・・・戦争を終わらせるにはどうしたらいい?」

「国と国との戦争だから、どちらかが敗北を認めるか滅びるまではおわらないだろうな。もしくは両国の利益になる大きな条件が提示されれば停戦させることは可能かも知れない。」

俺はゲランにもジュベルにも被害を受けて欲しくない人々がいる。

今の俺の力では戦争を止めさせる力はないだろうが、できるならば俺と親しい人達を戦火から守りたいのだ。

「これは元守備隊長としての考えだが、ゲラン軍は最低でもライベルまでは攻め入って来るだろう。ライベルは要塞都市で簡単には落とせないだろうが、国境からライベルまでは容易に進軍できる。

本来ならライジン将軍率いる部隊が国境まで出向くのだが、いまは頼みのドラゴンがいない。それをゲランが知ったら、間違いなく進軍速度が速まるだろう。ソウ、お前どうする?」

ガラクが言いたいのは、今のジュベルの状況、つまり戦力にあのドラゴンがないことをゲランに伝えるかどうかということだ。

「俺はゲラン国に何人か大切な人がいるし、ゲラン国側の交渉人をしているのも事実だ。しかし、お前も知っての通り、俺の家族とも言えるルチアはこの国の王族だし、ここまで旅する途中、親しい人も多く出来た。自分で治療した人々を再び辛い目に遭わすようなことはしないよ。できれば戦争を止めたいんだ。」

ガラクはニヤリと笑った。

「そう言うだろうと思ってたよ。実はセトから頼まれていたんだ。お前の本心がどこにあるのか見極めてくれと。セトからの依頼をだまっていたのは悪かったが悪意は無い。俺自身もお前の本心が知りたかったんだ。礼を欠いたかも知れないが許してくれ。」

「いいよ、そんなこと。」

ガラクと話しているとドルムさんからの『遠話』が入った。

『ソウ、ちょっと帰ってこれるか?』

『ええ。帰れますけど何か急用ですか?』

『うん。ちとまずい。こっちへ来てから話すよ。』

『はい。すぐ帰ります。』


「ガラク、すまん。留守番していてくれ。キューブへ帰ってくる。」

「ああ、いいぜ。何か問題か?」

「よくわからんけど、トラブル発生のようだ。」

俺はガラクを宿に残しゲートをくぐってキューブへ帰った。
キューブに戻り居間へ行くと、そこにはブンザさんが居た。
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