160 / 177
第五章 獣人国編
第160話 アキト
しおりを挟む
島田明人は、病院経営者の息子として生まれた。
両親共に医師だが、両親は仕事に没頭し、アキトは主に父親が雇った家政婦に育てられた。
家政婦は50歳過ぎの穏やかな性格の女性で、こまめにアキトの面倒を見てくれていた。
アキトは家政婦になつき、母親のように慕った。
アキトは両親よりも家政婦になつき、その当時の生活環境に何の不満もなかった。
家政婦さえいてくれたら、それで良かった。
アキトが幼少の頃、自分は他人と違っているということに気がついた。
遊びで虫や魚を殺すのが面白くて、その事を友達に告げるとアキトの周囲から友達がいなくなった。
虫や魚だけならまだしも、小学校低学年で野良猫を殺したことがあった。
猫を殺すことに、さほどの抵抗はなかった。
猫を殺しても自分の心の中では、面白半分、ただの遊びと言う気持ちが強かったが、猫を殺したことが周囲にばれるとアキトを見る周囲の視線があきらかに冷たくなった。
あれほど自分を可愛がってくれていた家政婦でさえ、アキトを見る目も態度も冷たくなった。
アキトは頭が良かった。
勉学もさることながら、処世術に長けていた。
(自分が敬遠されるのは動物を殺すからだ。)
と知ってからは人前で、その遊びをすることをやめたし、人から好かれるにはどうしたらよいか考えるようになった。
全ては家政婦に好かれたかったからだ。
アキトの両親はアキトの欲しがる物を全て与えることが親の愛情だと勘違いしていた。
アキトの周囲には物があふれた。
しかし、普通の人なら誰しもが持つ、親との楽しい思い出や、叱られて悲しい思いをした記憶がアキトには無かった。
あるのは家政婦との思い出ばかりだ。
アキトは両親の愛を知らない。
親の愛情を知らない。
それに代わるのが家政婦からの慈しみだった。
だからアキトは家政婦に好かれるためにどのように自分を律したら良いか考えるようになったのだ。
小学校一年生の時にテストで満点を取った。
すると家政婦はとても喜んでくれた。
アキトはそれ以来、一所懸命勉強をした。
おかげで高校生になった今でも学年トップの座は揺るいでいない。
ところが、アキトが小学校5年生の時、突然アキトの好きな家政婦がいなくなった。
父親に事情を尋ねたところ、家政婦は高齢のために退職したとのことだった。
しかしアキトは知っていた。
本当の理由は両親になつかずアキトの愛情を独占した家政婦のことをうとましく思った母親が家政婦を解雇したということを。
家政婦はアキトに何も告げず、どこか遠くの田舎へ去って行った。
アキトはその時に知った。
世の中は自分の思うようにはならない。
アキトは、この世界に来てから
「この世界で自分が一番強い。」と信じていた。
この世界に来て「神の加護」という特別な力を得て、元の世界ならスーパーマンと言えるほどの力を身につけていた。
100メートルを7秒ほどで駆け抜け、垂直ジャンプ10メートル、各種魔法に優れていて特に火属生の魔法は桁外れだった。
ゲラン軍兵士の中でもアキトほど高速で巨大な火球を作り出せる者は居なかった。
一度に3個の火球を生み出しコントロールできるのは、この世界ではアキトだけだった。
兵士訓練所で覚えた剣術も人並み以上に早く覚え、訓練期間中に師範代を打ち負かすほどに成長した。
アキトは類い希な能力を全て自分の為に使おうと決めていた。
最初、この世界に来た時には、同級生を生徒会長として守り、その凜々しい姿を女性徒に見せ、自分の肉欲の対象にしようと思っていた。
特にヒナに対する、その欲求が強かった。
だから、その欲求を邪魔するソウが憎くて、敵対視していたのだ。
その気持ちはいまでもくすぶっている。
この世界に来て自分がこの世界でも、まれな存在、強者だということに気がつくと、肉欲もさることながら、この世界に対する支配欲が膨れ上がってきた。
支配欲の裏側にはこの世界に対する復讐心も見え隠れしていた。
以前の世界でアキトは、いわゆる「イケメン」高身長で生徒会長、ジャニーズ系の面立ち、学園内で「彼氏にしたい男NO 1」を常時キープしていた。
その立場と名声を利用して肉欲の対象とした女子学生は数え切れないほどだ。
それが、この世界に来てからは、自分に対する評価が180度違った。
同級生内の評価は変わらないが、この世界の人々のアキトに対する評価は最低だった。
イケメンのはずの自分が、この世界では「醜男」としての扱いしか受けない。
そのことに初めて気がついたのは、ブテラで領主が開催するパーティーに参加したときだ。
領主の三女レイシア。
日本に居た時でも、これほどの上玉にであったことは無かった。
一目見て自分の物にしたいと思った。
心も体も。
アキトには独特の性癖があった。
対象の女性がアキトに心底惚れるのを待ち、その上で体を蹂躙し、最後にはあっけなく捨てる。
その時に泣き叫ぶ女性の姿を見るのが肉欲よりも大きな喜びだった。
レイシアに対しても同じ欲求を持ったし、それを果たす自信もあった。
ところがレイシアの反応は最悪で、おまけにクラスで最弱のイツキにレイシアをさらわれた。
その日から、この世界に対する憎悪が募り始めたのだ。
兵士訓練所で幹部候補生として暮らしている時、街へ何度か遊びに行った。
肉欲の対象を探すためにだ。
元の世界なら、ほぼ失敗することのなかったナンパが、この世界では成功率0だった。
夜の街でナンパしようとした時、飲食店員らしき女性に「あんた。その面でよく声をかけることができたわね。」とつばを吐かれたこともあった。
その、つばを吐いた女性は翌日、黒焦げの死体となって発見された。
アキトは、この世界が自分に反する態度を取るなら、この世界を支配して自分の思う世界に変えようと思い始めた。
アキトの力ならそれができると思っていた。
ヘレナに誘われ戦争に参加した。
戦場での戦闘は楽しかった。
虫や魚、猫を殺すように敵兵を切り刻んだ。
それでも以前のように誰かに咎められることは無い。
咎められるどころか、褒められる。
敵を殺せば殺すほど、軍人として評価が上昇するのだ。
自分の思うように事が運ぶと思っていたところへ、あいつが現れた。
「本田創」
この世界では自分が最強だと思っていたが、ソウもまたこの世界で実力を伸ばしてきた。
ブテラで戦った時には簡単に負けた。
しかしアキトは自信があった。
あの時より遙かに俺は強くなった。
というのもヘレナにもらった神石をいくつか使用していたからだ。
神石は人の命そのもの。
使用すれば使用者の魔力が回復する。
神石のレベルにもよるが、ヘレナのくれた神石は最上級のものだった。
生前、各種能力、魔力の高かった者の神石は使用者の基礎能力や魔力の総保有量、各種スキルが向上する。
ヘレナからもらった神石を使用したところ、アキトも驚くほどの効果があった。
魔力の総保有量が増加し、基礎能力も向上した。
特に敏捷性が増し、発射された弾丸をも掴めそうなほどに思えた。
また火力もあがって今までは最大3個までがせいぜいだった火球を、5個発生させコントロールできるようになった。
だから決してソウには負けない。
と思っていた。
ところがいざ戦場で対峙した時に思い知らされた。
上には上が居ると。
ソウと戦い始めたとき、俊敏性ではアキトが勝っていた。
このままならいずれアキトの刃がソウの喉元に届くだろうと思っていた。
アキトはソウを殺すことになんのためらいも無かった。
面倒な奴がこの世から消える。
それだけのことだった。
しかし、ソウは強かった。
ソウの操る剣はやっかいだった。
剣先から雷撃が打ち出される。
しかも自分が身をかわす先に落ちる。
まるで未来を予測するかのように。
アキトは冷静さを装っていたが、雷を避ける度に、ソウの魔法に抵抗する度に心と魔力を消耗していった。
アキトは自分の魔力保有量に自信をもっていたが、ソウの魔力はその上をいっていた。
いずれソウの魔力はつきると思い戦っていたが、魔力が先につきたのはアキトの方だった。
魔力量が底をつき、魔法防御の力が弱った。
麻痺系の魔法をくらって俊敏性が無くなったとき、ソウの剣が自分の腹を切り裂いた。
内臓までとどいているだろう。
アキトはこの時初めて知った。
(戦場というのは一方的に誰かを殺すだけの場所じゃないんだ。自分もまた殺される。)
生まれて初めて死に対する恐怖という感情を覚えた。
死ぬのが怖くなった。
死ねば肉欲を満たすことも、だれかをなぶることも出来ない。
ご飯も食べられないし、それに、それに、二度と家政婦に会うこともできない。・・
嫌だ、嫌だ。
アキトは剣を振りかぶるソウに言った。
「本田君。同級生を殺すのかい?日本人を殺すのかい?」
ソウの目を見て悟った。
(本田は僕を殺すつもりだ。)
目を閉じようとした時、アキトの視野に救世主の姿が写った。
ブラックドラゴンだ。
アキトはブラックドラゴンと、ドラゴンをあやつるエレイナを知っていた。
数日前、ヘレナに神石をねだりに行った時、ヘレナからエレイナを紹介された。
ヘレナはエレイナを自分の妹だと紹介してくれた。
ヘレナの神石収集を手伝いに来ているそうだ。
ヘレナと同じく
「集魂」
という加護の使い手らしい。
エレイナはドラゴンを使えるとも言っていた。
今は事情があってドラゴンを遠くに隠しているが場合によってはドラゴンも呼び寄せるとのことだった。
だから、ドラゴンと、ドラゴンの背に乗るエレイナを見た時、それが自分の危機を救いに来た仲間だとすぐに理解できた。
ドラゴンはブレスを吐く。
ソウがそれを盾でしのぐ。
その間にエレイナが動けなくなったアキトを抱えてドラゴンに乗る。
「ありがとう。エレイナさん。」
「話は後よ。」
その場から逃げ去ろうとするとき、エレイナを雷が襲った。
エレイナは魔法防御を施していたらしく、死を免れることはできたが、大怪我を負ったようだ。
ゲラン軍の駐屯地に着地すると同時にエレイナが気を失った。
アキトは大怪我を負ったものの意識はあり、近くの衛兵を呼び止めてヘレナを探した。
ヘレナはすぐにやってきた。
「エレイナ!エレイナ!だれが、エレイナを・・・」
「ソウです。ソウ・ホンダです。」
ヘレナはエレイナを担いで、その場を離れた。
(おい。俺はどうなる?)
アキトの腹部からは血がしたたり落ちている。
そうこうしているうちに魔獣が駐屯地を襲いはじめた。
アキトはサソリと戦いながら後退をした。
キノクニの半纏を着た男達が馬車を背に魔獣と戦っている。
アキトもその輪に入り、魔獣と戦った。
その時、球形の何かが飛来した。
その何かから出てきたのはソウだった。
アキトは慌てて馬車の下へ潜り込んだ。
ソウはキノクニの半纏を着た女性と話している。
やがてソウが何かを取りだし地面に設置した。
光るゲートが出現した。
ソウが離れた後、その女性が怪我人をゲートに運び込む。
アキトは馬車の近くに倒れている男から半纏を剥ぎ取り羽織った。
そして、怪我人に紛れてそのゲートをくぐった。
ゲートの先は見たことも無い建物の中だった。
建物に入った時、見慣れた人を見つけた。
「ミキ・・・」
同級生のミキだった。
「アキト君」
両親共に医師だが、両親は仕事に没頭し、アキトは主に父親が雇った家政婦に育てられた。
家政婦は50歳過ぎの穏やかな性格の女性で、こまめにアキトの面倒を見てくれていた。
アキトは家政婦になつき、母親のように慕った。
アキトは両親よりも家政婦になつき、その当時の生活環境に何の不満もなかった。
家政婦さえいてくれたら、それで良かった。
アキトが幼少の頃、自分は他人と違っているということに気がついた。
遊びで虫や魚を殺すのが面白くて、その事を友達に告げるとアキトの周囲から友達がいなくなった。
虫や魚だけならまだしも、小学校低学年で野良猫を殺したことがあった。
猫を殺すことに、さほどの抵抗はなかった。
猫を殺しても自分の心の中では、面白半分、ただの遊びと言う気持ちが強かったが、猫を殺したことが周囲にばれるとアキトを見る周囲の視線があきらかに冷たくなった。
あれほど自分を可愛がってくれていた家政婦でさえ、アキトを見る目も態度も冷たくなった。
アキトは頭が良かった。
勉学もさることながら、処世術に長けていた。
(自分が敬遠されるのは動物を殺すからだ。)
と知ってからは人前で、その遊びをすることをやめたし、人から好かれるにはどうしたらよいか考えるようになった。
全ては家政婦に好かれたかったからだ。
アキトの両親はアキトの欲しがる物を全て与えることが親の愛情だと勘違いしていた。
アキトの周囲には物があふれた。
しかし、普通の人なら誰しもが持つ、親との楽しい思い出や、叱られて悲しい思いをした記憶がアキトには無かった。
あるのは家政婦との思い出ばかりだ。
アキトは両親の愛を知らない。
親の愛情を知らない。
それに代わるのが家政婦からの慈しみだった。
だからアキトは家政婦に好かれるためにどのように自分を律したら良いか考えるようになったのだ。
小学校一年生の時にテストで満点を取った。
すると家政婦はとても喜んでくれた。
アキトはそれ以来、一所懸命勉強をした。
おかげで高校生になった今でも学年トップの座は揺るいでいない。
ところが、アキトが小学校5年生の時、突然アキトの好きな家政婦がいなくなった。
父親に事情を尋ねたところ、家政婦は高齢のために退職したとのことだった。
しかしアキトは知っていた。
本当の理由は両親になつかずアキトの愛情を独占した家政婦のことをうとましく思った母親が家政婦を解雇したということを。
家政婦はアキトに何も告げず、どこか遠くの田舎へ去って行った。
アキトはその時に知った。
世の中は自分の思うようにはならない。
アキトは、この世界に来てから
「この世界で自分が一番強い。」と信じていた。
この世界に来て「神の加護」という特別な力を得て、元の世界ならスーパーマンと言えるほどの力を身につけていた。
100メートルを7秒ほどで駆け抜け、垂直ジャンプ10メートル、各種魔法に優れていて特に火属生の魔法は桁外れだった。
ゲラン軍兵士の中でもアキトほど高速で巨大な火球を作り出せる者は居なかった。
一度に3個の火球を生み出しコントロールできるのは、この世界ではアキトだけだった。
兵士訓練所で覚えた剣術も人並み以上に早く覚え、訓練期間中に師範代を打ち負かすほどに成長した。
アキトは類い希な能力を全て自分の為に使おうと決めていた。
最初、この世界に来た時には、同級生を生徒会長として守り、その凜々しい姿を女性徒に見せ、自分の肉欲の対象にしようと思っていた。
特にヒナに対する、その欲求が強かった。
だから、その欲求を邪魔するソウが憎くて、敵対視していたのだ。
その気持ちはいまでもくすぶっている。
この世界に来て自分がこの世界でも、まれな存在、強者だということに気がつくと、肉欲もさることながら、この世界に対する支配欲が膨れ上がってきた。
支配欲の裏側にはこの世界に対する復讐心も見え隠れしていた。
以前の世界でアキトは、いわゆる「イケメン」高身長で生徒会長、ジャニーズ系の面立ち、学園内で「彼氏にしたい男NO 1」を常時キープしていた。
その立場と名声を利用して肉欲の対象とした女子学生は数え切れないほどだ。
それが、この世界に来てからは、自分に対する評価が180度違った。
同級生内の評価は変わらないが、この世界の人々のアキトに対する評価は最低だった。
イケメンのはずの自分が、この世界では「醜男」としての扱いしか受けない。
そのことに初めて気がついたのは、ブテラで領主が開催するパーティーに参加したときだ。
領主の三女レイシア。
日本に居た時でも、これほどの上玉にであったことは無かった。
一目見て自分の物にしたいと思った。
心も体も。
アキトには独特の性癖があった。
対象の女性がアキトに心底惚れるのを待ち、その上で体を蹂躙し、最後にはあっけなく捨てる。
その時に泣き叫ぶ女性の姿を見るのが肉欲よりも大きな喜びだった。
レイシアに対しても同じ欲求を持ったし、それを果たす自信もあった。
ところがレイシアの反応は最悪で、おまけにクラスで最弱のイツキにレイシアをさらわれた。
その日から、この世界に対する憎悪が募り始めたのだ。
兵士訓練所で幹部候補生として暮らしている時、街へ何度か遊びに行った。
肉欲の対象を探すためにだ。
元の世界なら、ほぼ失敗することのなかったナンパが、この世界では成功率0だった。
夜の街でナンパしようとした時、飲食店員らしき女性に「あんた。その面でよく声をかけることができたわね。」とつばを吐かれたこともあった。
その、つばを吐いた女性は翌日、黒焦げの死体となって発見された。
アキトは、この世界が自分に反する態度を取るなら、この世界を支配して自分の思う世界に変えようと思い始めた。
アキトの力ならそれができると思っていた。
ヘレナに誘われ戦争に参加した。
戦場での戦闘は楽しかった。
虫や魚、猫を殺すように敵兵を切り刻んだ。
それでも以前のように誰かに咎められることは無い。
咎められるどころか、褒められる。
敵を殺せば殺すほど、軍人として評価が上昇するのだ。
自分の思うように事が運ぶと思っていたところへ、あいつが現れた。
「本田創」
この世界では自分が最強だと思っていたが、ソウもまたこの世界で実力を伸ばしてきた。
ブテラで戦った時には簡単に負けた。
しかしアキトは自信があった。
あの時より遙かに俺は強くなった。
というのもヘレナにもらった神石をいくつか使用していたからだ。
神石は人の命そのもの。
使用すれば使用者の魔力が回復する。
神石のレベルにもよるが、ヘレナのくれた神石は最上級のものだった。
生前、各種能力、魔力の高かった者の神石は使用者の基礎能力や魔力の総保有量、各種スキルが向上する。
ヘレナからもらった神石を使用したところ、アキトも驚くほどの効果があった。
魔力の総保有量が増加し、基礎能力も向上した。
特に敏捷性が増し、発射された弾丸をも掴めそうなほどに思えた。
また火力もあがって今までは最大3個までがせいぜいだった火球を、5個発生させコントロールできるようになった。
だから決してソウには負けない。
と思っていた。
ところがいざ戦場で対峙した時に思い知らされた。
上には上が居ると。
ソウと戦い始めたとき、俊敏性ではアキトが勝っていた。
このままならいずれアキトの刃がソウの喉元に届くだろうと思っていた。
アキトはソウを殺すことになんのためらいも無かった。
面倒な奴がこの世から消える。
それだけのことだった。
しかし、ソウは強かった。
ソウの操る剣はやっかいだった。
剣先から雷撃が打ち出される。
しかも自分が身をかわす先に落ちる。
まるで未来を予測するかのように。
アキトは冷静さを装っていたが、雷を避ける度に、ソウの魔法に抵抗する度に心と魔力を消耗していった。
アキトは自分の魔力保有量に自信をもっていたが、ソウの魔力はその上をいっていた。
いずれソウの魔力はつきると思い戦っていたが、魔力が先につきたのはアキトの方だった。
魔力量が底をつき、魔法防御の力が弱った。
麻痺系の魔法をくらって俊敏性が無くなったとき、ソウの剣が自分の腹を切り裂いた。
内臓までとどいているだろう。
アキトはこの時初めて知った。
(戦場というのは一方的に誰かを殺すだけの場所じゃないんだ。自分もまた殺される。)
生まれて初めて死に対する恐怖という感情を覚えた。
死ぬのが怖くなった。
死ねば肉欲を満たすことも、だれかをなぶることも出来ない。
ご飯も食べられないし、それに、それに、二度と家政婦に会うこともできない。・・
嫌だ、嫌だ。
アキトは剣を振りかぶるソウに言った。
「本田君。同級生を殺すのかい?日本人を殺すのかい?」
ソウの目を見て悟った。
(本田は僕を殺すつもりだ。)
目を閉じようとした時、アキトの視野に救世主の姿が写った。
ブラックドラゴンだ。
アキトはブラックドラゴンと、ドラゴンをあやつるエレイナを知っていた。
数日前、ヘレナに神石をねだりに行った時、ヘレナからエレイナを紹介された。
ヘレナはエレイナを自分の妹だと紹介してくれた。
ヘレナの神石収集を手伝いに来ているそうだ。
ヘレナと同じく
「集魂」
という加護の使い手らしい。
エレイナはドラゴンを使えるとも言っていた。
今は事情があってドラゴンを遠くに隠しているが場合によってはドラゴンも呼び寄せるとのことだった。
だから、ドラゴンと、ドラゴンの背に乗るエレイナを見た時、それが自分の危機を救いに来た仲間だとすぐに理解できた。
ドラゴンはブレスを吐く。
ソウがそれを盾でしのぐ。
その間にエレイナが動けなくなったアキトを抱えてドラゴンに乗る。
「ありがとう。エレイナさん。」
「話は後よ。」
その場から逃げ去ろうとするとき、エレイナを雷が襲った。
エレイナは魔法防御を施していたらしく、死を免れることはできたが、大怪我を負ったようだ。
ゲラン軍の駐屯地に着地すると同時にエレイナが気を失った。
アキトは大怪我を負ったものの意識はあり、近くの衛兵を呼び止めてヘレナを探した。
ヘレナはすぐにやってきた。
「エレイナ!エレイナ!だれが、エレイナを・・・」
「ソウです。ソウ・ホンダです。」
ヘレナはエレイナを担いで、その場を離れた。
(おい。俺はどうなる?)
アキトの腹部からは血がしたたり落ちている。
そうこうしているうちに魔獣が駐屯地を襲いはじめた。
アキトはサソリと戦いながら後退をした。
キノクニの半纏を着た男達が馬車を背に魔獣と戦っている。
アキトもその輪に入り、魔獣と戦った。
その時、球形の何かが飛来した。
その何かから出てきたのはソウだった。
アキトは慌てて馬車の下へ潜り込んだ。
ソウはキノクニの半纏を着た女性と話している。
やがてソウが何かを取りだし地面に設置した。
光るゲートが出現した。
ソウが離れた後、その女性が怪我人をゲートに運び込む。
アキトは馬車の近くに倒れている男から半纏を剥ぎ取り羽織った。
そして、怪我人に紛れてそのゲートをくぐった。
ゲートの先は見たことも無い建物の中だった。
建物に入った時、見慣れた人を見つけた。
「ミキ・・・」
同級生のミキだった。
「アキト君」
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
78
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる