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第五章 獣人国編
第159話 悲報
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アヤコとケンタをオオカミの病院へ送り届けた後、ライベルへ戻った。
城壁では少数の魔物とゲラン兵が攻撃をしかけていたが、未だに城壁内への侵入は許していない。
しかし、敵にはブラックドラゴンが控えている。
ブラックドラゴンに攻撃されれば、こちらに多大な被害がでることは間違いない。
俺とウルフなら、あるいは防御できるかもしれないが、戦闘に勝つのは不可能に近い。
「イツキ聞こえるか?」
「はいはい。ソウ君。感度良好。」
「ナビのレーダーで敵ドラゴンの位置を確認してくれ。」
「すでに確認済み。敵ドラゴンはゲラン駐屯地の後方、作戦指揮本部にいるよ。ここへミサイルを打ちこむかどうか伺いを立てようと思っていたとこ。」
「さすが、イツキ。打つ手が早い。」
俺は迷った。
今ならブラックドラゴンを攻撃できる。
ただしゲラン兵士にも大量の死者が出る。
ゲラン兵士にはゲランで知り合った多くの人の知人や縁者がいるだろう。
ラジエル侯爵の部下もいるはずだ。
ラーシャと戦うと言ったものの、ゲラン軍とはできるだけ戦いたくなかった。
「イツキ、敵ドラゴンの周囲にゲラン兵はいるか?」
「えーとね。殆ど居ない。ゲラン兵は暴走した魔物に追われて散り散りバラバラだよ。」
「よっしゃ。そんなら撃とう。巡航速度の速い対空ミサイルなら追尾装置もあるから当たるだろう。ダメージがとおるかどうかわからんけどね。」
以前フォナシス火山でブラックドラゴンをミサイル攻撃したことがあったが、あまり効果はなかった。
ブラックドラゴンは物理耐性が強いのだ。
それでも黙って襲撃を待つよりましだろうと、先手を取ることにした。
うまくいけばエレイナやヘレナを始末できるかも知れない。
この戦場の最高指揮官はレギラだ。
俺はレギラに伺いを立てた。
「レギラ、先に手を出すぞ。いいか?」
「ああ、頼む。」
「イツキ、対空ミサイルを可能な限り、連続で発射。おもいきりやってくれ。」
「ガラモン、らじゃ。ドドンゴと共に。」
イツキの言葉はレンと3人でやっていたネットゲームの口調にかわっている。
ガラモンはイツキのキャラ、ドドンゴは俺のキャラ名だ。
城門内に停車しているウルフから次々にミサイルが発射された。
数秒後、ゲラン軍駐屯地に何発か着弾。
敵ドラゴンに命中したかどうかは確認できない。
なおもミサイルは発射される。
ウルフに搭載のミサイルは約、一万発。
亜空間の武器庫とミサイル発射管が繋がっている。
俺がミサイルの着弾地点に目をこらすと、爆煙の中からブラックドラゴンが飛び立った。
ドラゴンは上空に急上昇した後、ミサイルから逃げるように急降下や旋回を繰り返した。
ウルフから発射された対空ミサイルはいわゆるホーミングミサイルだ。
ドラゴンを追尾してドラゴンのあちこちに命中する。
ドラゴンは被弾しながらも、こちらライベルめがけて飛行を続ける。
ドラゴンの口からは青い炎が漏れている。
ブレスを発射するつもりだろう。
ドラゴンは数秒でライベル上空に至り、狙いも定めず、街に向けてブレスを発射した。
一回のブレスで周百メートル範囲がガレキになる。
ドラゴンのブレスが城壁にいる俺達に向かって来た。
俺は龍神の盾を上空にかざす。
城壁の上空に透明なシールドが出来る。
ドラゴンのブレスはそのシールドに当たり、拡散する。
拡散したブレスは離れた場所にいるジュベル兵士や周囲の建物に当たる。
建物は壊れ、あちこちから火の手が上がる。
何人か負傷者が出たかも知れない。
シールド内に居るウルフから更にミサイルが発射される。
ミサイルの効果は目に見えてはないが、ドラゴンの表情は苦しそうだ。
嫌がっているが、命令に逆らえず仕方なく、こちらを攻撃しているようにも見える。
何度目かにライベル上空を通り過ぎようとしたとき、レギラが雄叫びを放った。
ドラゴンの飛行速度が少し落ちた。
そこへミサイルが数発もろに命中する。
ドラゴンはバランスを失い。
ライベルの擁壁に激突して墜落した。
そこへすかさず俺とレギラ、ガラク、リュウヤが駆け寄り、一斉に攻撃をした。
レギラの高速かつ固い正拳がドラゴンの腹部にめり込む。
ガラクの金棒がドラゴンの脳天を直撃した。
一瞬、ドラゴンの目が飛び出たように見えた。
リュウヤはドラゴンの左アキレスめがけて魔法剣を振るう。
切断は出来なかったが、大きな傷ができてそこから出血した。
俺はジャンプしてドラゴンの左目に雷鳴剣を突き刺す。
ドラゴンの体は硬い鱗でおおわれているが、目はその限りではない。
俺の雷鳴剣は雷を刀身にまとい、ドラゴンの左目に突き刺さった。
「ギュオアーン!!」
ドラゴンが悲鳴を上げる。
ドラゴンは苦し紛れにブレスを吐き続ける。
俺はレギラ、ガラク、リュウヤを龍神の盾で庇いながら後退した。
ドラゴンはブレスを吐きながら体制を立て直し、上空へ羽ばたいた。
そこへミサイル。
防御魔法が間に合わなかったのか、ドラゴンの左翼が燃え上がる。
俺もドラゴンを魔法攻撃。
精神系の魔法は効果が無かったが、炎属性、風属性、重力属性、それぞれの魔法を撃った。
いずれもダメージが通った。
一番効果があった魔法は風属性の魔法だった。
俺は城壁にいる兵士に向かって大きな声で叫んだ。
「風属性の魔法で攻撃だ!!」
城壁の上に居るライベル守備隊から「ウインドジャベリン」が一斉に撃たれた。
ドラゴンは城壁に一度向き直ってブレスを放とうとしたが龍神の盾が放つシールドを見てあきらめた。
ドラゴンの飛行速度は著しく低下している。
ミサイルと魔法の一斉攻撃を受けて、空中に浮かんでいるのがようやくといったところだ。
「ギュオアーン!!」
恨めしげな声を上げてドラゴンが逃げ出した。
逃げ出したドラゴンをミサイルが追撃するが、ドラゴンは墜落することなくラーシャ方向へ飛行を続けた。
「「「「「おぉぉ~」」」」」」
ライベルのあちこちから歓声が上がる。
その歓声と共にゲラン軍も撤退しはじめた。
後退するゲラン軍を魔物の群れが襲う。
ゲラン軍にしてみれば撤退時に友軍の攻撃をうけているようなものだ。
他にも多くの魔物が生き残ったが、魔物使いを殲滅したためか、ほとんどの魔獣がラーシャ方向、魔獣地帯へと逃げ出した。
ライベルから敗走するゲラン軍を追撃する部隊が出ようとしたが、俺がそれを止めた。
「まだ魔物が多い。深追いをするな。」
レギラも同意した。
レギラが俺の肩を叩く。
「やったな。兄弟。全てお前のおかげだ。ドラゴン相手にここまで戦えるとは、思ってもみなかったよ。」
セトが俺の前にかしずく。
「全て龍神様の使徒様のおかげ。改めて礼を言います。ありがとうございました。ソウ様。」
「やめろよ、セト。俺はライベルの友人を守っただけだ。」
セトは黙って頭を下げる。
「その友人の中に、お前も入っているんだぜ。セト。」
セトが頭を上げて俺を見る。
セトの目から涙がこぼれた
レギラが俺に近づく。
不意にレギラが俺に抱きついた。
「兄弟になってよかった。・・・」
「やめろ。レギラ。男と抱き合う趣味はねぇぞ。」
それでもレギラは俺を離さない。
俺はレギラの背中を軽く叩いた。
ゲラン、ラーシャ軍とジュベルの戦いは一応幕を下ろしたようだ。
幸いなことにジュベル側の被害は戦争規模から言えば軽微と言える。
ライベルの町並みはドラゴンのブレスで半壊していたが人的被害は最小限で抑えられた。
人的被害が少なくてすんだのは、予めの避難とオオカミに開設した病院のおかげだろう。
同級生の女性には「ヒール」のスキルを持つ者が多く居た。
ウタもその一人だ。
それに自動診療マシンーン「メディ」の存在も大きかった。
この世界では治療できなかった怪我もメディなら治療できる。
そのメディの操縦者は、我がピンター院長だ。
帰って褒めてやらないといけない。
オオカミの様子も気になるが、まずはライベル守備隊の救助が先だ。
ドラゴンのブレスにより、怪我人が多く出ている。
建物の倒壊や火災により街は半壊状態。
消火と救助が賢明に行われている。
俺は魔法を使って火災を鎮火したり、負傷者を救助したりとめまぐるしく働いていた。
リュウヤやガラクと共に消火活動をしている時、ドルムさんから遠話が入った。
『ソウ・・』
ドルムさんの声はいつになく暗い。
俺はとても嫌な予感がした。
『はい。ドルムさん?』
『ドランゴが・・・ドランゴが死んだ。』
俺の勘は良く当たる。
城壁では少数の魔物とゲラン兵が攻撃をしかけていたが、未だに城壁内への侵入は許していない。
しかし、敵にはブラックドラゴンが控えている。
ブラックドラゴンに攻撃されれば、こちらに多大な被害がでることは間違いない。
俺とウルフなら、あるいは防御できるかもしれないが、戦闘に勝つのは不可能に近い。
「イツキ聞こえるか?」
「はいはい。ソウ君。感度良好。」
「ナビのレーダーで敵ドラゴンの位置を確認してくれ。」
「すでに確認済み。敵ドラゴンはゲラン駐屯地の後方、作戦指揮本部にいるよ。ここへミサイルを打ちこむかどうか伺いを立てようと思っていたとこ。」
「さすが、イツキ。打つ手が早い。」
俺は迷った。
今ならブラックドラゴンを攻撃できる。
ただしゲラン兵士にも大量の死者が出る。
ゲラン兵士にはゲランで知り合った多くの人の知人や縁者がいるだろう。
ラジエル侯爵の部下もいるはずだ。
ラーシャと戦うと言ったものの、ゲラン軍とはできるだけ戦いたくなかった。
「イツキ、敵ドラゴンの周囲にゲラン兵はいるか?」
「えーとね。殆ど居ない。ゲラン兵は暴走した魔物に追われて散り散りバラバラだよ。」
「よっしゃ。そんなら撃とう。巡航速度の速い対空ミサイルなら追尾装置もあるから当たるだろう。ダメージがとおるかどうかわからんけどね。」
以前フォナシス火山でブラックドラゴンをミサイル攻撃したことがあったが、あまり効果はなかった。
ブラックドラゴンは物理耐性が強いのだ。
それでも黙って襲撃を待つよりましだろうと、先手を取ることにした。
うまくいけばエレイナやヘレナを始末できるかも知れない。
この戦場の最高指揮官はレギラだ。
俺はレギラに伺いを立てた。
「レギラ、先に手を出すぞ。いいか?」
「ああ、頼む。」
「イツキ、対空ミサイルを可能な限り、連続で発射。おもいきりやってくれ。」
「ガラモン、らじゃ。ドドンゴと共に。」
イツキの言葉はレンと3人でやっていたネットゲームの口調にかわっている。
ガラモンはイツキのキャラ、ドドンゴは俺のキャラ名だ。
城門内に停車しているウルフから次々にミサイルが発射された。
数秒後、ゲラン軍駐屯地に何発か着弾。
敵ドラゴンに命中したかどうかは確認できない。
なおもミサイルは発射される。
ウルフに搭載のミサイルは約、一万発。
亜空間の武器庫とミサイル発射管が繋がっている。
俺がミサイルの着弾地点に目をこらすと、爆煙の中からブラックドラゴンが飛び立った。
ドラゴンは上空に急上昇した後、ミサイルから逃げるように急降下や旋回を繰り返した。
ウルフから発射された対空ミサイルはいわゆるホーミングミサイルだ。
ドラゴンを追尾してドラゴンのあちこちに命中する。
ドラゴンは被弾しながらも、こちらライベルめがけて飛行を続ける。
ドラゴンの口からは青い炎が漏れている。
ブレスを発射するつもりだろう。
ドラゴンは数秒でライベル上空に至り、狙いも定めず、街に向けてブレスを発射した。
一回のブレスで周百メートル範囲がガレキになる。
ドラゴンのブレスが城壁にいる俺達に向かって来た。
俺は龍神の盾を上空にかざす。
城壁の上空に透明なシールドが出来る。
ドラゴンのブレスはそのシールドに当たり、拡散する。
拡散したブレスは離れた場所にいるジュベル兵士や周囲の建物に当たる。
建物は壊れ、あちこちから火の手が上がる。
何人か負傷者が出たかも知れない。
シールド内に居るウルフから更にミサイルが発射される。
ミサイルの効果は目に見えてはないが、ドラゴンの表情は苦しそうだ。
嫌がっているが、命令に逆らえず仕方なく、こちらを攻撃しているようにも見える。
何度目かにライベル上空を通り過ぎようとしたとき、レギラが雄叫びを放った。
ドラゴンの飛行速度が少し落ちた。
そこへミサイルが数発もろに命中する。
ドラゴンはバランスを失い。
ライベルの擁壁に激突して墜落した。
そこへすかさず俺とレギラ、ガラク、リュウヤが駆け寄り、一斉に攻撃をした。
レギラの高速かつ固い正拳がドラゴンの腹部にめり込む。
ガラクの金棒がドラゴンの脳天を直撃した。
一瞬、ドラゴンの目が飛び出たように見えた。
リュウヤはドラゴンの左アキレスめがけて魔法剣を振るう。
切断は出来なかったが、大きな傷ができてそこから出血した。
俺はジャンプしてドラゴンの左目に雷鳴剣を突き刺す。
ドラゴンの体は硬い鱗でおおわれているが、目はその限りではない。
俺の雷鳴剣は雷を刀身にまとい、ドラゴンの左目に突き刺さった。
「ギュオアーン!!」
ドラゴンが悲鳴を上げる。
ドラゴンは苦し紛れにブレスを吐き続ける。
俺はレギラ、ガラク、リュウヤを龍神の盾で庇いながら後退した。
ドラゴンはブレスを吐きながら体制を立て直し、上空へ羽ばたいた。
そこへミサイル。
防御魔法が間に合わなかったのか、ドラゴンの左翼が燃え上がる。
俺もドラゴンを魔法攻撃。
精神系の魔法は効果が無かったが、炎属性、風属性、重力属性、それぞれの魔法を撃った。
いずれもダメージが通った。
一番効果があった魔法は風属性の魔法だった。
俺は城壁にいる兵士に向かって大きな声で叫んだ。
「風属性の魔法で攻撃だ!!」
城壁の上に居るライベル守備隊から「ウインドジャベリン」が一斉に撃たれた。
ドラゴンは城壁に一度向き直ってブレスを放とうとしたが龍神の盾が放つシールドを見てあきらめた。
ドラゴンの飛行速度は著しく低下している。
ミサイルと魔法の一斉攻撃を受けて、空中に浮かんでいるのがようやくといったところだ。
「ギュオアーン!!」
恨めしげな声を上げてドラゴンが逃げ出した。
逃げ出したドラゴンをミサイルが追撃するが、ドラゴンは墜落することなくラーシャ方向へ飛行を続けた。
「「「「「おぉぉ~」」」」」」
ライベルのあちこちから歓声が上がる。
その歓声と共にゲラン軍も撤退しはじめた。
後退するゲラン軍を魔物の群れが襲う。
ゲラン軍にしてみれば撤退時に友軍の攻撃をうけているようなものだ。
他にも多くの魔物が生き残ったが、魔物使いを殲滅したためか、ほとんどの魔獣がラーシャ方向、魔獣地帯へと逃げ出した。
ライベルから敗走するゲラン軍を追撃する部隊が出ようとしたが、俺がそれを止めた。
「まだ魔物が多い。深追いをするな。」
レギラも同意した。
レギラが俺の肩を叩く。
「やったな。兄弟。全てお前のおかげだ。ドラゴン相手にここまで戦えるとは、思ってもみなかったよ。」
セトが俺の前にかしずく。
「全て龍神様の使徒様のおかげ。改めて礼を言います。ありがとうございました。ソウ様。」
「やめろよ、セト。俺はライベルの友人を守っただけだ。」
セトは黙って頭を下げる。
「その友人の中に、お前も入っているんだぜ。セト。」
セトが頭を上げて俺を見る。
セトの目から涙がこぼれた
レギラが俺に近づく。
不意にレギラが俺に抱きついた。
「兄弟になってよかった。・・・」
「やめろ。レギラ。男と抱き合う趣味はねぇぞ。」
それでもレギラは俺を離さない。
俺はレギラの背中を軽く叩いた。
ゲラン、ラーシャ軍とジュベルの戦いは一応幕を下ろしたようだ。
幸いなことにジュベル側の被害は戦争規模から言えば軽微と言える。
ライベルの町並みはドラゴンのブレスで半壊していたが人的被害は最小限で抑えられた。
人的被害が少なくてすんだのは、予めの避難とオオカミに開設した病院のおかげだろう。
同級生の女性には「ヒール」のスキルを持つ者が多く居た。
ウタもその一人だ。
それに自動診療マシンーン「メディ」の存在も大きかった。
この世界では治療できなかった怪我もメディなら治療できる。
そのメディの操縦者は、我がピンター院長だ。
帰って褒めてやらないといけない。
オオカミの様子も気になるが、まずはライベル守備隊の救助が先だ。
ドラゴンのブレスにより、怪我人が多く出ている。
建物の倒壊や火災により街は半壊状態。
消火と救助が賢明に行われている。
俺は魔法を使って火災を鎮火したり、負傷者を救助したりとめまぐるしく働いていた。
リュウヤやガラクと共に消火活動をしている時、ドルムさんから遠話が入った。
『ソウ・・』
ドルムさんの声はいつになく暗い。
俺はとても嫌な予感がした。
『はい。ドルムさん?』
『ドランゴが・・・ドランゴが死んだ。』
俺の勘は良く当たる。
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