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第五章 獣人国編
第163話 闘う覚悟
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ヒナはヒュドラ教国のヒュドラ教会本部、教皇の部屋に居た。
「ヒナちゃん。どう?美味しい?」
ヒナの目の前のテーブルには紅茶とシフォンケーキが置かれている。
ヒナはテーブルの向かいに座る教皇に視線を移した。
「はい。とても美味しいです。バニラの香りを楽しむのは久しぶりです。」
教皇ヒミコは満面の笑みを浮かべる。
「でしょ、でしょ。この味にたどり着くのに何年もかかったのよ。でもこのバニラの香りを一緒に楽しむ人が居なくて。・・・やっぱりお茶とケーキを楽しむ秘訣はおしゃべりよねぇ。うふふ。」
「はい。そうですね。私も楽しいです。」
ヒミコは紅茶を一口すすった。
「こんな楽しい時間に無粋だけど。ヒナちゃん。うまくいったんだって?」
ヒナの表情が少し曇る。
「はい。先日、ようやく一人の女性を蘇生させることができました。」
ヒナがヒュドラ教国へ連れてこられた理由は『蘇生』スキルを成長させ、どこかにあるヒュドラの遺体を蘇生させることにある。
「うわー、やったじゃないの。それで、その蘇生は無条件に発動できるの?」
「いえ、まだ完全ではありません。蘇生できたのは、その女性一人だけで、他の何人かは失敗しています。」
「成功と失敗を分ける条件は何だと思うの?」
「詳しくはわかりませんが、蘇生できた女性と蘇生できなかった他の方との条件の違いはありました。」
「なになに?」
「蘇生できた女性は、幼い子供を持つ母親で、夫の暴力による死でした。方や蘇生できなかったのは、その女性を殺害した夫と、その他の死刑囚の方々です。つまり・・」
「つまり?」
「私がその女性や残された子供に対する哀れみが蘇生に作用したのでは無いかということです。」
「なるほどねぇ。でも言い方を変えればヒナちゃんの心の持ちようで何とでもなるってことよねぇ。」
「はい。確かにその通りですが、その心のコントロールがとても難しいのです。」
「そうよねぇ。全然知らないおっさんを生き返らせるのと、幼い子供の母親を生き返らすのでは、やりがいというか、はりきりようが違うもんねぇ。ヒュドラのおっちゃんを生き返らせなさいって言われても、全く知らない人だし、ヒナちゃんからすればヒナちゃんに害を与えた人だもんねぇ。そりゃ無理ないわね。」
「私に害を与えたというのは?」
「ん?ああ。ヒナちゃんやヒナちゃんの友達をこの世界へ引っ張ってきたのおっちゃんだし。ヒナちゃんを軍事裁判にかけて死刑囚にしようとしたのもおっちゃんだからねぇ。」
「そう・・なんですか?」
「うん。そうだよ。ヒナちゃん達がこの世界へ来てからの行動は全ておっちゃんが見ているよ。そしてヒナちゃんがここまでたどり着いたのも偶然じゃ無いの。全ておっちゃんのもくろみ。もっとも私もそれを手伝ったけどね。」
「教皇様もですか・・・」
「だ~か~ら~。ヒミコって呼んでって言ってるでしょ。」
「あ、はい。ヒミコ様。」
「ヒナちゃんも努力してくれているようだから、ある程度のことは話してもいいようね。」
ヒナがティーカップを置いてヒミコを見つめ直した。
「前にも話したとおり、おっちゃんの肉体は死んでいるけど、精神というか魂は生きているの。おっちゃんの肉体がある場所は秘密だけど、精神、魂のある場所はヒナちゃんも何度か見ているはずよ。」
「え?」
ヒミコはテラスへ出てヒナを手招きした。
「あそこ。」
ヒミコは青い月を指さした。
「青い月にいるんですか?」
「うん。あの月におっちゃんの記憶というかデータが保管されているの。」
「月にデータを保管?」
「そうよ。あの月は人工物。おっっちゃん達が作った人工衛星。中身はほぼコンピュータ。おっちゃん以外にも沢山の人のデータが保管されているらしいの。詳しくは私もしらない。」
「それではヒミコ様は、どうやってヒュドラ様と連絡を?」
「この世界には『遠話』というスキルがあるの。日本で言えばテレパシーね。つまり私はただのラジオ。おっちゃんの意思を信者に伝えるだけの道具よ。自らの意思で何かを信者に伝えたり指示したりすることは無いの。だから私が私でいられるのは、自分の意思でおしゃべりできるのはヒナちゃんだけなのよ。」
ヒミコは振り返ってヒナの手を取った。
ヒナのヒミコに対するイメージが少し違ってきた。
親近感が湧いてきたのだ。
その心は雰囲気としてヒミコにも伝わったようだ。
「だからね。もっと仲良くしましょ。ヒナちゃん。」
「はい。」
「他にも教えてあげたいことはあるけど、私自身もおっちゃんに見張られているから、全部は話せないの、許してね。」
「いいえ。ここまで話してくださって。ここまで信用していただいてありがとうございます。」
ヒナは頭を下げた。
「お礼なんてしないで。友達でしょ?」
「はい。」
「それで、これからのことなんだけど。・・」
「はい。」
「もしヒナちゃんが、おっちゃんの蘇生に成功すれば、奴隷からは解放されるそうよ。」
ヒナは椅子から立ち上がった。
側に居た衛兵が身構えたが、ヒミコがそれを手で制した。
「本当ですか?」
「うん。おっちゃんが約束してくれた。でも完全に自由というわけでは無いみたい。ヒュドラ教に帰依してヒュドラ教国に留まることが条件みたいね。」
ヒナの笑顔が少し陰った。
「そうですよねぇ・・」
「でもね、でもね、そうなればずっと私といられるのよ。何不自由なく、・・そうだわ、ヒナちゃんもここで住みなさい。そうすれば毎日おしゃべりできるわよ。ね、ね。」
ヒナはヒミコのことが嫌いでは無かった。
それでもヒュドラ教に帰依し、このヒュドラの国を出ることが出来ないのであれば、今の生活とさほど変わりは無い。
ヒナが今一番望むことは、ソウ達と合流すること。
ソウ達と一緒に日本へ帰ることなのだ。
ヒミコはヒナの心を探ったわけではなかったが、ヒナの表情でヒナの心を読み取った。
「うん。わかるわよ。ヒナちゃん。帰りたいんでしょ。」
ヒナは少し驚いてヒミコを見る。
「私だってそうよ、日本へ帰りたいの。だから今、ヒュドラ教の・・・・・」
ヒミコは言葉を途中で飲み込んで少し考えた。
「詳しいことはまだ言えないけど、私やヒナちゃんが日本へ帰るにはヒュドラのおっちゃんの蘇生が絶対条件なのよ。だからね。苦しいのはわかるけど、今は頑張ってね。いずれ全てを話せる時がくるわ。それに私が日本へ帰ると時には、かならずヒナちゃんも一緒に連れて行くから。ね。だから今は何も言わず、私を信用して。ねっ」
ヒミコはヒナに近づきヒナの手を取った。
ヒミコの手は小さいが暖かかった。
ヒナはヒミコの手を握り返した。
「はい。頑張ります。」
俺は、ドランゴさんをメディの格納庫に納めた後、うなだれるブンザさんの肩を抱いた。
「ブンザさん。まだ希望はある。」
目を真っ赤にしたブンザさんが俺を見つめる。
「希望とは?」
俺は、側にいたイツキを指さした。
「こいつは俺の親友でイツキ。先日、アキトに剣で刺し殺された。そうだよな。イツキ。」
イツキはうなずきながらシャツをはだけて胸の傷跡を見せた。
「はい。僕は一度死にました。間違いなく死にました。でも生き返りました。」
ブンザさんが目を見開く。
俺がイツキに続けてしゃべった。
「その死んだイツキがこうしてしゃべっているのは、俺の・・・友達。ヒナという友達が「蘇生」という加護を持っているからなんです。」
「そんな・・それが出来るなら。本当の神様ですよ。」
「ええ、ヒナは神に近づいているかも知れません。でも事実なんです。ヒナが死者を蘇らすのは。」
「それじゃ・・・ドランゴも?」
「はい。そのつもりです。蘇生の詳しい内容はわかりませんが、死んで時間が経過した場合より、死んですぐの方が蘇生しやすいはずです。この格納庫の中は時間が経過しません。」
ドルムさんがうなずいた。
「だから、ドランゴをここへ入れたんだよな。」
「はい。」
「ヒナを探し出してドランゴさんの蘇生を試みます。」
ブンザさんが俺を見る。
「それじゃ、まだ・・・」
「ええ、まだ諦めるべきでは無いです。まだです。泣くのは。」
ブンザさんが涙を拭って頭を下げた。
「お願い。ソウさん。」
「わかりました。」
ピンターが歩み寄る。
「兄ちゃん。お願い。」
「わかってる。今回は、お留守番だ。ピンター」
「うん。」
「ドルムさん。」
「おう。」
「後をお願いします。このオオカミを守ってください。またアキトが来るかも知れない。」
「そうだな。あいつにここを知られたのはまずかったな。でも、まかせとけ。留守はしっかり守るよ。」
イツキ達から得た情報ではヒナはヒュドラ教関係者に連れ去られたという。
行き先はラグニアというゲラニ在住のヒュドラ教の枢機卿の元だ。
となれば行き先はゲランのヒュドラ教会本部か、ヒュドラ教国だろう。
俺はまず枢機卿ラグニアの情報から集めることにした。
何事においても、餅は餅屋、ラグニアの情報はキノクニ情報部に集めてもらうことにした。
その結果、ラグニアは2週間ほど前に帰国したそうで現在の枢機卿はグンターという男だ。
「グンター」この名前を忘れることは無い。
クチル島で平和に暮らしていた島民を襲い俺やピンター、ブルナを奴隷にした張本人だ。
しかし今はグンターに関わっている暇は無い。
ラグニアが本国へ帰ったとすれば、おそらくヒナもヒュドラ教国へ連れて行かれたのだろう。
イツキ達の話を総合すれば、ヒュドラ教がヒナに求める物は「蘇生」のスキル。
ヒュドラ教の本願であるヒュドラの復活にヒナを利用するつもりなのだろう。
念のためにゲラニにあるヒュドラ教会本部を自分自身で探ったし情報部にも動いてもらったがゲラニの教会本部にヒナの気配はなかった。
やはりヒナはヒュドラ教国に居る。
俺はヒュドラと戦う覚悟を決めた。
「ヒナちゃん。どう?美味しい?」
ヒナの目の前のテーブルには紅茶とシフォンケーキが置かれている。
ヒナはテーブルの向かいに座る教皇に視線を移した。
「はい。とても美味しいです。バニラの香りを楽しむのは久しぶりです。」
教皇ヒミコは満面の笑みを浮かべる。
「でしょ、でしょ。この味にたどり着くのに何年もかかったのよ。でもこのバニラの香りを一緒に楽しむ人が居なくて。・・・やっぱりお茶とケーキを楽しむ秘訣はおしゃべりよねぇ。うふふ。」
「はい。そうですね。私も楽しいです。」
ヒミコは紅茶を一口すすった。
「こんな楽しい時間に無粋だけど。ヒナちゃん。うまくいったんだって?」
ヒナの表情が少し曇る。
「はい。先日、ようやく一人の女性を蘇生させることができました。」
ヒナがヒュドラ教国へ連れてこられた理由は『蘇生』スキルを成長させ、どこかにあるヒュドラの遺体を蘇生させることにある。
「うわー、やったじゃないの。それで、その蘇生は無条件に発動できるの?」
「いえ、まだ完全ではありません。蘇生できたのは、その女性一人だけで、他の何人かは失敗しています。」
「成功と失敗を分ける条件は何だと思うの?」
「詳しくはわかりませんが、蘇生できた女性と蘇生できなかった他の方との条件の違いはありました。」
「なになに?」
「蘇生できた女性は、幼い子供を持つ母親で、夫の暴力による死でした。方や蘇生できなかったのは、その女性を殺害した夫と、その他の死刑囚の方々です。つまり・・」
「つまり?」
「私がその女性や残された子供に対する哀れみが蘇生に作用したのでは無いかということです。」
「なるほどねぇ。でも言い方を変えればヒナちゃんの心の持ちようで何とでもなるってことよねぇ。」
「はい。確かにその通りですが、その心のコントロールがとても難しいのです。」
「そうよねぇ。全然知らないおっさんを生き返らせるのと、幼い子供の母親を生き返らすのでは、やりがいというか、はりきりようが違うもんねぇ。ヒュドラのおっちゃんを生き返らせなさいって言われても、全く知らない人だし、ヒナちゃんからすればヒナちゃんに害を与えた人だもんねぇ。そりゃ無理ないわね。」
「私に害を与えたというのは?」
「ん?ああ。ヒナちゃんやヒナちゃんの友達をこの世界へ引っ張ってきたのおっちゃんだし。ヒナちゃんを軍事裁判にかけて死刑囚にしようとしたのもおっちゃんだからねぇ。」
「そう・・なんですか?」
「うん。そうだよ。ヒナちゃん達がこの世界へ来てからの行動は全ておっちゃんが見ているよ。そしてヒナちゃんがここまでたどり着いたのも偶然じゃ無いの。全ておっちゃんのもくろみ。もっとも私もそれを手伝ったけどね。」
「教皇様もですか・・・」
「だ~か~ら~。ヒミコって呼んでって言ってるでしょ。」
「あ、はい。ヒミコ様。」
「ヒナちゃんも努力してくれているようだから、ある程度のことは話してもいいようね。」
ヒナがティーカップを置いてヒミコを見つめ直した。
「前にも話したとおり、おっちゃんの肉体は死んでいるけど、精神というか魂は生きているの。おっちゃんの肉体がある場所は秘密だけど、精神、魂のある場所はヒナちゃんも何度か見ているはずよ。」
「え?」
ヒミコはテラスへ出てヒナを手招きした。
「あそこ。」
ヒミコは青い月を指さした。
「青い月にいるんですか?」
「うん。あの月におっちゃんの記憶というかデータが保管されているの。」
「月にデータを保管?」
「そうよ。あの月は人工物。おっっちゃん達が作った人工衛星。中身はほぼコンピュータ。おっちゃん以外にも沢山の人のデータが保管されているらしいの。詳しくは私もしらない。」
「それではヒミコ様は、どうやってヒュドラ様と連絡を?」
「この世界には『遠話』というスキルがあるの。日本で言えばテレパシーね。つまり私はただのラジオ。おっちゃんの意思を信者に伝えるだけの道具よ。自らの意思で何かを信者に伝えたり指示したりすることは無いの。だから私が私でいられるのは、自分の意思でおしゃべりできるのはヒナちゃんだけなのよ。」
ヒミコは振り返ってヒナの手を取った。
ヒナのヒミコに対するイメージが少し違ってきた。
親近感が湧いてきたのだ。
その心は雰囲気としてヒミコにも伝わったようだ。
「だからね。もっと仲良くしましょ。ヒナちゃん。」
「はい。」
「他にも教えてあげたいことはあるけど、私自身もおっちゃんに見張られているから、全部は話せないの、許してね。」
「いいえ。ここまで話してくださって。ここまで信用していただいてありがとうございます。」
ヒナは頭を下げた。
「お礼なんてしないで。友達でしょ?」
「はい。」
「それで、これからのことなんだけど。・・」
「はい。」
「もしヒナちゃんが、おっちゃんの蘇生に成功すれば、奴隷からは解放されるそうよ。」
ヒナは椅子から立ち上がった。
側に居た衛兵が身構えたが、ヒミコがそれを手で制した。
「本当ですか?」
「うん。おっちゃんが約束してくれた。でも完全に自由というわけでは無いみたい。ヒュドラ教に帰依してヒュドラ教国に留まることが条件みたいね。」
ヒナの笑顔が少し陰った。
「そうですよねぇ・・」
「でもね、でもね、そうなればずっと私といられるのよ。何不自由なく、・・そうだわ、ヒナちゃんもここで住みなさい。そうすれば毎日おしゃべりできるわよ。ね、ね。」
ヒナはヒミコのことが嫌いでは無かった。
それでもヒュドラ教に帰依し、このヒュドラの国を出ることが出来ないのであれば、今の生活とさほど変わりは無い。
ヒナが今一番望むことは、ソウ達と合流すること。
ソウ達と一緒に日本へ帰ることなのだ。
ヒミコはヒナの心を探ったわけではなかったが、ヒナの表情でヒナの心を読み取った。
「うん。わかるわよ。ヒナちゃん。帰りたいんでしょ。」
ヒナは少し驚いてヒミコを見る。
「私だってそうよ、日本へ帰りたいの。だから今、ヒュドラ教の・・・・・」
ヒミコは言葉を途中で飲み込んで少し考えた。
「詳しいことはまだ言えないけど、私やヒナちゃんが日本へ帰るにはヒュドラのおっちゃんの蘇生が絶対条件なのよ。だからね。苦しいのはわかるけど、今は頑張ってね。いずれ全てを話せる時がくるわ。それに私が日本へ帰ると時には、かならずヒナちゃんも一緒に連れて行くから。ね。だから今は何も言わず、私を信用して。ねっ」
ヒミコはヒナに近づきヒナの手を取った。
ヒミコの手は小さいが暖かかった。
ヒナはヒミコの手を握り返した。
「はい。頑張ります。」
俺は、ドランゴさんをメディの格納庫に納めた後、うなだれるブンザさんの肩を抱いた。
「ブンザさん。まだ希望はある。」
目を真っ赤にしたブンザさんが俺を見つめる。
「希望とは?」
俺は、側にいたイツキを指さした。
「こいつは俺の親友でイツキ。先日、アキトに剣で刺し殺された。そうだよな。イツキ。」
イツキはうなずきながらシャツをはだけて胸の傷跡を見せた。
「はい。僕は一度死にました。間違いなく死にました。でも生き返りました。」
ブンザさんが目を見開く。
俺がイツキに続けてしゃべった。
「その死んだイツキがこうしてしゃべっているのは、俺の・・・友達。ヒナという友達が「蘇生」という加護を持っているからなんです。」
「そんな・・それが出来るなら。本当の神様ですよ。」
「ええ、ヒナは神に近づいているかも知れません。でも事実なんです。ヒナが死者を蘇らすのは。」
「それじゃ・・・ドランゴも?」
「はい。そのつもりです。蘇生の詳しい内容はわかりませんが、死んで時間が経過した場合より、死んですぐの方が蘇生しやすいはずです。この格納庫の中は時間が経過しません。」
ドルムさんがうなずいた。
「だから、ドランゴをここへ入れたんだよな。」
「はい。」
「ヒナを探し出してドランゴさんの蘇生を試みます。」
ブンザさんが俺を見る。
「それじゃ、まだ・・・」
「ええ、まだ諦めるべきでは無いです。まだです。泣くのは。」
ブンザさんが涙を拭って頭を下げた。
「お願い。ソウさん。」
「わかりました。」
ピンターが歩み寄る。
「兄ちゃん。お願い。」
「わかってる。今回は、お留守番だ。ピンター」
「うん。」
「ドルムさん。」
「おう。」
「後をお願いします。このオオカミを守ってください。またアキトが来るかも知れない。」
「そうだな。あいつにここを知られたのはまずかったな。でも、まかせとけ。留守はしっかり守るよ。」
イツキ達から得た情報ではヒナはヒュドラ教関係者に連れ去られたという。
行き先はラグニアというゲラニ在住のヒュドラ教の枢機卿の元だ。
となれば行き先はゲランのヒュドラ教会本部か、ヒュドラ教国だろう。
俺はまず枢機卿ラグニアの情報から集めることにした。
何事においても、餅は餅屋、ラグニアの情報はキノクニ情報部に集めてもらうことにした。
その結果、ラグニアは2週間ほど前に帰国したそうで現在の枢機卿はグンターという男だ。
「グンター」この名前を忘れることは無い。
クチル島で平和に暮らしていた島民を襲い俺やピンター、ブルナを奴隷にした張本人だ。
しかし今はグンターに関わっている暇は無い。
ラグニアが本国へ帰ったとすれば、おそらくヒナもヒュドラ教国へ連れて行かれたのだろう。
イツキ達の話を総合すれば、ヒュドラ教がヒナに求める物は「蘇生」のスキル。
ヒュドラ教の本願であるヒュドラの復活にヒナを利用するつもりなのだろう。
念のためにゲラニにあるヒュドラ教会本部を自分自身で探ったし情報部にも動いてもらったがゲラニの教会本部にヒナの気配はなかった。
やはりヒナはヒュドラ教国に居る。
俺はヒュドラと戦う覚悟を決めた。
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