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第四章:ゼス一行、教会の支援の下サム病撲滅のため旅立つのこと。(前)
第七節:レイス、ルーチェの爆発を誘発させるために道化役を買って出るのこと。(仮題)
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「ただいまー。……あれ、レイスちゃんは?」
客室にゼスが戻って来た。どうやらこの前の盗賊始末人こと護衛である槍の使い手と手合わせでもしていたのか、かなり汗だくで、クヴィェチナが渡した手拭に礼を言いながら、客室にいるはずの人影がいないことに気が付いた。だが、クヴィェチナは不快そうな口調で、ゼスが想像もしないことを告げた。
「……遊びに行ったわ、ルーチェほっといて」
「えー……」
……昨日の今日である、さすがにゼスも、レイスの無責任的な態度に、何らかの思うところが芽生え始めていた。漫画ならば、顔に縦線やジト汗でもついて口の片方がひくついていただろう。
とはいえ、そもそもいかな客船とはいえ遊具などあるものなのか。もちろん、エレメカの類があるわけでもなく、客船とはいえカジノが存在するような豪華客船でもない。レイスが遊びに行った「遊び」、それは……。
「あっはは、お嬢ちゃん強いねえ!」
笑う船乗り。彼らにとっては男むさい環境に突如としてうら若き乙女が参戦してきたのは歓迎すべきことであった。ましてや、相手は乗客である。接待プレイ、とまではいかなくても、若干気付かれないように、あるいは無意識的に手を抜いていたかもしれなかった。だが、そもそも……。
「で、どうするの、今度は」
……レイスは、なんというか勝負事に強かった。かれこれ、何連戦はしただろうか、だが、彼女は最初に少し負けただけで、後は勝ち通しだった。
「半! 今度こそ当ててやる!」
もう、彼らが何をしていたのか勘づいただろう。レイスが参戦した遊びとはようするに。
「ふっふーん、当たるといいわね」
……博奕であった。
船乗りは、当然ながら命がけの職業である。ゆえに、この手の賭博道具は非常に多種多様に備えていた。いわば、カジノ施設がないだけで、カジノ同然の行為はできたわけだ。
「だあーっ、また丁かぁ!」
「これ、イカ賽じゃないよな……?」
イカ賽、つまりはイカサマサイコロであることを疑う船乗り。とはいえ、そもそもである。
「あら、貴方方から借りた賽よ。イカ賽ならむしろ私が負けると思わない?」
……そもそも、このサイコロの持ち主は船乗りたちの物である。ゆえに、レイスが使ってイカサマだったとしたら、彼らは見抜けなければおかしいというものであった。
「そいつぁ手厳しいな! 今度は丁だ!」
「そう、じゃあ私は半にしようかしら」
「レイスちゃん!」
そして、レイスが賽を投げ、またしても出目を当てたところで、ゼスがレイスを見つけ𠮟りに来た。
「あら、ゼスじゃない」
涼しい顔でゼスを今気づいたかのようにふるまうレイス。若干の青筋の立ったゼスに対して、それは非常に対照的であった。
「なんだ、嬢ちゃんのツレかい」
意外そうな顔でレイスを見る船乗り。とはいえ、別段ゼスはレイスの彼氏というわけではなかったのだが、レイスはかもそうであるかのようにふるまい、客室に帰ることにした。
「ええ。ツレが呼んでるから、帰ってもいいかしら」
「しゃーねぇなあ。勝ち逃げはらしくないが、事情アリみたいだしな、許す!」
そして、船乗りは若干の残念そうな顔をした後に、親指を上に立ててにこやかに見送った。
「ありがと」
客室にゼスが戻って来た。どうやらこの前の盗賊始末人こと護衛である槍の使い手と手合わせでもしていたのか、かなり汗だくで、クヴィェチナが渡した手拭に礼を言いながら、客室にいるはずの人影がいないことに気が付いた。だが、クヴィェチナは不快そうな口調で、ゼスが想像もしないことを告げた。
「……遊びに行ったわ、ルーチェほっといて」
「えー……」
……昨日の今日である、さすがにゼスも、レイスの無責任的な態度に、何らかの思うところが芽生え始めていた。漫画ならば、顔に縦線やジト汗でもついて口の片方がひくついていただろう。
とはいえ、そもそもいかな客船とはいえ遊具などあるものなのか。もちろん、エレメカの類があるわけでもなく、客船とはいえカジノが存在するような豪華客船でもない。レイスが遊びに行った「遊び」、それは……。
「あっはは、お嬢ちゃん強いねえ!」
笑う船乗り。彼らにとっては男むさい環境に突如としてうら若き乙女が参戦してきたのは歓迎すべきことであった。ましてや、相手は乗客である。接待プレイ、とまではいかなくても、若干気付かれないように、あるいは無意識的に手を抜いていたかもしれなかった。だが、そもそも……。
「で、どうするの、今度は」
……レイスは、なんというか勝負事に強かった。かれこれ、何連戦はしただろうか、だが、彼女は最初に少し負けただけで、後は勝ち通しだった。
「半! 今度こそ当ててやる!」
もう、彼らが何をしていたのか勘づいただろう。レイスが参戦した遊びとはようするに。
「ふっふーん、当たるといいわね」
……博奕であった。
船乗りは、当然ながら命がけの職業である。ゆえに、この手の賭博道具は非常に多種多様に備えていた。いわば、カジノ施設がないだけで、カジノ同然の行為はできたわけだ。
「だあーっ、また丁かぁ!」
「これ、イカ賽じゃないよな……?」
イカ賽、つまりはイカサマサイコロであることを疑う船乗り。とはいえ、そもそもである。
「あら、貴方方から借りた賽よ。イカ賽ならむしろ私が負けると思わない?」
……そもそも、このサイコロの持ち主は船乗りたちの物である。ゆえに、レイスが使ってイカサマだったとしたら、彼らは見抜けなければおかしいというものであった。
「そいつぁ手厳しいな! 今度は丁だ!」
「そう、じゃあ私は半にしようかしら」
「レイスちゃん!」
そして、レイスが賽を投げ、またしても出目を当てたところで、ゼスがレイスを見つけ𠮟りに来た。
「あら、ゼスじゃない」
涼しい顔でゼスを今気づいたかのようにふるまうレイス。若干の青筋の立ったゼスに対して、それは非常に対照的であった。
「なんだ、嬢ちゃんのツレかい」
意外そうな顔でレイスを見る船乗り。とはいえ、別段ゼスはレイスの彼氏というわけではなかったのだが、レイスはかもそうであるかのようにふるまい、客室に帰ることにした。
「ええ。ツレが呼んでるから、帰ってもいいかしら」
「しゃーねぇなあ。勝ち逃げはらしくないが、事情アリみたいだしな、許す!」
そして、船乗りは若干の残念そうな顔をした後に、親指を上に立ててにこやかに見送った。
「ありがと」
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