異世界の片隅と彼らの物語

立花 Yuu

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第三章~フレイヤ国、北東領地エルム~

第三話

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「ここが北東領地の総督府領エルムか」

 アンドラス機のコックピットから、渓谷に挟まれた小さな町が眼下に見えた。緩やかな勾配が広がる土地のようで、遠目には海岸線が陽射しを反射させていた。
 総督府領エルムに馴染みはないが、ヴァジ村もフレイヤ北東領地に存在するので、エルムを知らないながらも、懐かしさは感じられた。風景もどことなく似ている。
 町の中心に建つ時計塔と、褐色煉瓦作りの総督府が際立って、巨大に見えた。

 輸送機率いるアンドラス機が、町の外れに設けられた小さな滑走路に着地した。
 滑走路にだけ地肌が見え、後の周りは若草色の丈の短い雑草が一面を覆っていた。
 周りを切り立った岩山に囲まれたエルムは、葡萄畑と田畑を主体とした田舎町だった。
 遠目からでも、葡萄の実が紫色に色付いている様子が分かる。

 住民が穏やかに農業を営んでいる町に、飛行船が落ちたのは一週間前だった。飛行船が落ちた発端はさらに時を遡る。
 セイヴァ本部の特務第二艦隊の隊員数名がフレイヤ支部に派遣された理由は、『妖源力』に関わっているからだそうで、ヴレイ含め末端の搭乗者には詳しく伝えられていない。

 アンドラスから降りると、渇いた藁の香りが鼻から抜けた。眠気も覚めるような清々しさに、何度も深呼吸をした。
 フレイヤ国のジェムナス都から北東領地まではさほど距離はないが、山々の景色を眺めながらただただ飛行する時間は、眠気に襲われても仕方がない。
 輸送機からは整備班員が数名降りてきた。誰もが山に囲まれた田舎の空気を胸いっぱい吸い込んで、目を覚まそうとしていた。

「妖源力が関わってるからって、即アンドラス機が必要になるとは思えませんけどねぇ」

 とヴレイは凝り固まった肩、腕、指の関節をバキバキ鳴らしながら伸びをした。

「やけに固まって飛んでたし、何かを警戒する感じでしたよ」

 眠いながらも、違和感を覚える飛行形態だったので、若干気を張っていた。

「良い勘してんじゃねえか、たぶんベフェナの残存部隊に警戒してたんだろ。うちの艦に叩かれたからなぁ」

 オッサンは無精髭を掻きながら、しゃきっとしない声で呟いた。もしや輸送機で寝てやがったな。

「そうそれ! うちの第一、第二艦がベフェナ軍と交戦したって。何か話し合いが縺れてって噂で聞いたけど。ベフェナの同盟国はロマノだよな、ヴィリッツ鉱山の国境ではいまだにピリピリしてるのに、どうかしてる」

 そもそも参加命令がなかった特務第二艦隊には何の情報も渡さなかったくせに、事後処理係みたいな扱いは何だと、抗議したいぐらいだ。話し合いの縺れが原因で交戦とか、短気過ぎるだろとヴレイは心中で文句をぶちまけた。

「お前はいつから、いっちょ前に口を挟めらる立場になったんだ。セイヴァに入りたての頃は、俺に何でも習ってたくせになぁー」

 大欠伸を見せ付けられ、これはもう間違いない。搭乗者は寝たくても寝られない状態だけに、腹立たしい。

「何が原因で話し合いが縺れて、ジルニクスがベフェナに侵攻したかは今に分かる」

 オッサン含め、特務艦の整備班も今回の派遣には数名同行していた。
『妖源力』が関係しているのでアンドラス部隊が数機同行することになり、有事な自体が起こらないとも限らないので、整備部隊も同行していた。

「話変わるけど、もうすぐ、隊長の一周忌だ」
「もうそんなになるのかぁ、墓参り、行くんだろ」

 陽射しを背に立ち並ぶ人たちが見えて、話す声を落とした。

「ああ。だから嫌なんだよ、戦闘なんて」
「ガキみたいなこと言ってんなよ、大前提にお国を守る使命があんだろ」

 エルム総督府の人間が直ぐそこまで近づいていたので、ヴレイは反論できなかった。
 オッサンが目頭に細かい皺を寄せて、見据えている先には、黄金色の短髪が目立つ女と、傍らにはこちらも金色の長い髪に長身な女が立っていた。二人の後ろには黒基調の軍服に身を包んだ護衛が並ぶ。
 こちら側には、二十人ほどの隊員が並ぶが、出迎えが王族だと思うと、数は勝っても嫌でも相手の威圧感に尻込みしてしまう。たぶん王族に対して免疫がないだけなんだろうが。

「お初お目に掛かります、エルム総督。この度は、ベフェナ飛行船墜落現場の立ち入りに許可をいただき、感謝いたします」

 派遣隊員の一人が、一歩前に出て、黄金色の短髪少女にお辞儀をした。帽子を脱ぎ、右足を少し下げた紳士的なお辞儀だった。見知らぬ隊員なんて大勢いるが、制服が戦闘員とは違ったので、おそらく外交関係の人間だろうなと予想は付く。

「これはまた大勢でお越しになったな。ゆっくりしていけと言うのもおかしいが、物々しくされると、市民が怯えてしまう。配慮しておくれ」

 黄金色の短髪少女がエルム総督だというが、ヴレイは自分と同い年ぐらいではないかと、顔を集中的に確認した。同じだとすれば十八歳の総督だ、王族貴族文化では当たり前の地位なのだろうか。にしても貴族の話し方は皆ああなのかと、呆気にとられた。

「そこはもちろん配慮致します、穏便に終わられて退散いたします」

 こちらの外交官はあくまで接待スマイルを貫いていた。
 同い年と言えば、十三の時に出会った少女も同い年ぐらいだった。エルムに越すと言っていた、言葉遣いの変わった金髪少女だ。顔までは思い出せないが、ヴレイは必死に記憶を捻り出す。待てよ、確か――。

「なあオッサン、総督って確か、十三の時にエルムに来たんだよな。ちなみに本国の姫だよな」

 ヴレイは小声でオッサンに訊ねた。

「そうだが、それがどうしたこんな時に。可愛すぎてビビってんのか」
「違うって、こんな時に何言ってんだよ、――てことは、名前は――、ルピナ!」

 ヴレイの張り上げた声に、全員の視線がヴレイに集中した。
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