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第四章~フレイヤ国、北東領地、ヴァジ村、再び~
第三話
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ヴレイとルピナは同時に振り返り声の主を、首を伸ばして探した。
店内の客たちの声が賑やか過ぎて、どこから聞こえてきたのかさえ、あやふやだ。
「そっちじゃないわよ、こっちなんだけどな」
「あっ」とルピナが口を半開きかけた先に、長い黒髪が印象的な女性がカウンターから軽く手を振っていた。
叫んでみるもんだなと、掴み取った幸運に感謝した。
「貴女が祭司様ですか?」
「はい、といっても仮だけどね。本当の祭司じゃないわ」
女は返事をしながら、グラスを片手に、カウンター席から立って、ヴレイたちのテーブル席に移動してきた。
ポンチョに身を包み、大判ポンチョに隠れた短パンからは白い脚が伸びていた。思わず眼が奪われそうになってサッと視線を逸らした。
既に瞼がとろんと眠そうに瞬きしていた。頬も薄っすら紅をのせたように染まっていた。
幸運かと思ったが、大丈夫か? と疑心が湧いてしまう。
「ん? あなたの顔どこかで、――もしかして、ルピナこう――」
ルピナ王女と言おうとしたらしく、女はハッと言葉を止めた。
まぁ、言ってしまっても、目の前の人の声すら聞き取りにくい状況なのだから、大丈夫ではないかと思った。
「御察しの通りじゃ。ルピナで良い。こいつも知らん顔で呼び捨てにしておるからな」
やっぱり気付いていたか。まあ本人が良いと言っているので遠慮なく呼び捨てにしよう。
「うわぁ、ビックリ、まさかこんな間近で拝見できるなんて。総督に就かれた時の演説を、遠くから見えただけだから。噂に勝る才色兼備だわ」
「口が上手い。だが私を褒めるのはこれからの情勢が安寧に築き上がってからじゃ」
飄々と言ってのけたルピナは湯気の立つ茶を軽く啜った。
「ご謙遜を。自己紹介が遅れました、私は考古学者兼ヴァジ村祭司代理、ソラです。お見知りおきを。前祭司とは何度か会ったことがあるんです、ヴァジ村には魔獣族の遺跡があるりますから、調査で何度か滞在したんです」
ヴレイは店員に温かい果実酒を注文し、ルピナにも勧めた。体が温まるからと。
湯気の立つ果実酒を喉に流し込むと、体の内側から熱がこもった。
「ソラは先ほど、祭司代理と言っていたが、なにゆえ何故、考古学者の傍ら祭司業を引き受けておるのじゃ」
木製カップを両手で包み込んでいるルピナが凛と訊ねた。
話す前にソラは長く息を吐いた。碧空と同じ色の瞳が、暗い影を落としてヴレイを見据えた。
見つめられる理由が分からず、恥ずかしさを感じたヴレイは「あのぉ」と声が出そうになった時、ソラが口を開いた。
「君ってもしかして、ヴレイ君?」
「えっ、そうだけど、どうして分かったんですか」
ふふんと上機嫌に笑ったソラは、肘を突いた手の上で、極上の笑みを作った。
「ザイド君がヴレイ君の話を良くしていたからよ。話の中のヴレイ君と、今目の前にいるヴレイ君がぴったり重なって、もしかしてって。話で聞いたとおりだわ」
どういう話を聞いたのか、すごく気になった。
ザイドの顔をふと思い出した。もし生きていれば、記憶にある顔とは違うんだろうなと思った。それでも会えは一目で分かる自信はある。
「ところで私に何か用だったみたいだけど」
ここまで来た趣旨を忘れるところだった。まず支部と総督府に連絡を入れて――
「五年前、ここで何が起きたのか知りたいのじゃ」
「ちょっルピナ、今はそれどころじゃないだろ、先ず連絡だろ」
まさかの科白に驚かされ、しかも断固としてルピナは意志を曲げようとしない。
「ルピナ王女のお頼みとあれば話させていただきます。ですがヴレイ君には辛い話になるかもしれない。寧ろ聞かなかった方が良かったと、思うかもしれない」
ルピナが横目でこちらを窺った気配を、視界の隅で感じた。
せめてルピナを巻き込む事態だけは避けなくてはと、正面を向いた時だった。
「私の存在は気にするな、もしかしたら私にも重要な話が混ざっているかもしれぬ」
意味不審すぎる。何故、ルピナにも関わるのか見当もつかない。
「俺は何も知らずにここまで生きてきた、ザイドの行方際も知らないまま。だから少しでも当時のことを知りたい」
内面まで見据えようとするソラの視線に気圧されながらも、知りたいという意志は伝えたつもりだ。
「なら場所を変えましょう。今日の寝床はあるのかしら?」
ヴレイとルピナは目を合わせて、首を横に振った。
「案内するわ。落ち着いた場所のほうが良いでしょ、私もよくお世話になった宿だから。お勧めするわ」
ウィンクしたソラに続いてヴレイも立ち上がったが、重大な事実に気が付いた。
「俺ーー、財布置いて来てたんだ。こんなことになるとは思わなかったし、畏れ多いですが、ルピナ様は?」
まだ席に座っていたルピナはカップを両手で包んだまま、ほのかに笑んだ。
「身の周りは側近に任せていたゆえ、同じく無一文じゃ」
「ちょっと待って、あなた達どうしてヴァジ村に?」
「一言では説明できないくて、要は、色々ありましてーー」
今度こそ、胸の奥から息を押し出したソラは、二人の食事代を支払って、ニコリと笑った。
「取り合えず、一緒に行きましょうか」
店内の客たちの声が賑やか過ぎて、どこから聞こえてきたのかさえ、あやふやだ。
「そっちじゃないわよ、こっちなんだけどな」
「あっ」とルピナが口を半開きかけた先に、長い黒髪が印象的な女性がカウンターから軽く手を振っていた。
叫んでみるもんだなと、掴み取った幸運に感謝した。
「貴女が祭司様ですか?」
「はい、といっても仮だけどね。本当の祭司じゃないわ」
女は返事をしながら、グラスを片手に、カウンター席から立って、ヴレイたちのテーブル席に移動してきた。
ポンチョに身を包み、大判ポンチョに隠れた短パンからは白い脚が伸びていた。思わず眼が奪われそうになってサッと視線を逸らした。
既に瞼がとろんと眠そうに瞬きしていた。頬も薄っすら紅をのせたように染まっていた。
幸運かと思ったが、大丈夫か? と疑心が湧いてしまう。
「ん? あなたの顔どこかで、――もしかして、ルピナこう――」
ルピナ王女と言おうとしたらしく、女はハッと言葉を止めた。
まぁ、言ってしまっても、目の前の人の声すら聞き取りにくい状況なのだから、大丈夫ではないかと思った。
「御察しの通りじゃ。ルピナで良い。こいつも知らん顔で呼び捨てにしておるからな」
やっぱり気付いていたか。まあ本人が良いと言っているので遠慮なく呼び捨てにしよう。
「うわぁ、ビックリ、まさかこんな間近で拝見できるなんて。総督に就かれた時の演説を、遠くから見えただけだから。噂に勝る才色兼備だわ」
「口が上手い。だが私を褒めるのはこれからの情勢が安寧に築き上がってからじゃ」
飄々と言ってのけたルピナは湯気の立つ茶を軽く啜った。
「ご謙遜を。自己紹介が遅れました、私は考古学者兼ヴァジ村祭司代理、ソラです。お見知りおきを。前祭司とは何度か会ったことがあるんです、ヴァジ村には魔獣族の遺跡があるりますから、調査で何度か滞在したんです」
ヴレイは店員に温かい果実酒を注文し、ルピナにも勧めた。体が温まるからと。
湯気の立つ果実酒を喉に流し込むと、体の内側から熱がこもった。
「ソラは先ほど、祭司代理と言っていたが、なにゆえ何故、考古学者の傍ら祭司業を引き受けておるのじゃ」
木製カップを両手で包み込んでいるルピナが凛と訊ねた。
話す前にソラは長く息を吐いた。碧空と同じ色の瞳が、暗い影を落としてヴレイを見据えた。
見つめられる理由が分からず、恥ずかしさを感じたヴレイは「あのぉ」と声が出そうになった時、ソラが口を開いた。
「君ってもしかして、ヴレイ君?」
「えっ、そうだけど、どうして分かったんですか」
ふふんと上機嫌に笑ったソラは、肘を突いた手の上で、極上の笑みを作った。
「ザイド君がヴレイ君の話を良くしていたからよ。話の中のヴレイ君と、今目の前にいるヴレイ君がぴったり重なって、もしかしてって。話で聞いたとおりだわ」
どういう話を聞いたのか、すごく気になった。
ザイドの顔をふと思い出した。もし生きていれば、記憶にある顔とは違うんだろうなと思った。それでも会えは一目で分かる自信はある。
「ところで私に何か用だったみたいだけど」
ここまで来た趣旨を忘れるところだった。まず支部と総督府に連絡を入れて――
「五年前、ここで何が起きたのか知りたいのじゃ」
「ちょっルピナ、今はそれどころじゃないだろ、先ず連絡だろ」
まさかの科白に驚かされ、しかも断固としてルピナは意志を曲げようとしない。
「ルピナ王女のお頼みとあれば話させていただきます。ですがヴレイ君には辛い話になるかもしれない。寧ろ聞かなかった方が良かったと、思うかもしれない」
ルピナが横目でこちらを窺った気配を、視界の隅で感じた。
せめてルピナを巻き込む事態だけは避けなくてはと、正面を向いた時だった。
「私の存在は気にするな、もしかしたら私にも重要な話が混ざっているかもしれぬ」
意味不審すぎる。何故、ルピナにも関わるのか見当もつかない。
「俺は何も知らずにここまで生きてきた、ザイドの行方際も知らないまま。だから少しでも当時のことを知りたい」
内面まで見据えようとするソラの視線に気圧されながらも、知りたいという意志は伝えたつもりだ。
「なら場所を変えましょう。今日の寝床はあるのかしら?」
ヴレイとルピナは目を合わせて、首を横に振った。
「案内するわ。落ち着いた場所のほうが良いでしょ、私もよくお世話になった宿だから。お勧めするわ」
ウィンクしたソラに続いてヴレイも立ち上がったが、重大な事実に気が付いた。
「俺ーー、財布置いて来てたんだ。こんなことになるとは思わなかったし、畏れ多いですが、ルピナ様は?」
まだ席に座っていたルピナはカップを両手で包んだまま、ほのかに笑んだ。
「身の周りは側近に任せていたゆえ、同じく無一文じゃ」
「ちょっと待って、あなた達どうしてヴァジ村に?」
「一言では説明できないくて、要は、色々ありましてーー」
今度こそ、胸の奥から息を押し出したソラは、二人の食事代を支払って、ニコリと笑った。
「取り合えず、一緒に行きましょうか」
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