【完結】シルビア・アノンは悔恨の念を抱く。この結婚は失敗だったと…

MEIKO

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第二章・夫婦の危機?

10・忙殺される日々

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 それから私達は、甘い新婚生活…なんてものは一切なく、いきなり現実に戻された。クリスティンは父親から引き継いた商団の経営にあたり、同時に侯爵としての責務も重く伸し掛かった。それから私も侯爵夫人として慣れない社交や、家業についての膨大な勉強も始める。おまけにお義父様達は引き継ぎを終えて、さっさと領地の方にと引っ込んでしまう。私達に気を遣わせないようにという配慮だと言っていたが、どうもそれだけではないのかもと思われて…
 そんな疑問はあるものの、私達がすべきことは変わらない。私だってガセルダムスの卒業生…能力は人並みにはあるつもりだ。ただ、一つ一つに真摯に向かい合うのみだわ!そう思って一心に励んでゆく。そして…

 気が付くとあっという間に二年以上の月日が経ち、最近では忙しさで夫婦としての会話も減ってしまっていて…
 元々ビジネスライクな関係性を求められていたもの…同士みたいな?そう思って自分を慰めてみる。侯爵家のことや社交もそつなくこなせるようになったことで、そろそろ跡継ぎのことも考えないといけないのだけど…
 私達は惚れた腫れたの関係ではなかったし仕方がないのかも知れないが、夫婦としての触れ合いも少なくなっていることに焦る私。クリスティンはそんな状況をどう思っているんだろうか…

 相変わらず忙しくあちこち飛び回っていて、アノン邸に帰らないことも多い夫。私だけが焦ってもどうにもならないことだし、だけどそれを相談するタイミングもない。どうにもならない思いを抱えて、月日だけがどんどん過ぎていく現実。一人吐く溜め息だけが増えていく…

 「シルビア様、王太子妃殿下から手紙が届いております」

 アノン家の家令であるドミニクの、そんな声にビクッと現実に戻される。

 「フェリシア様から?どうぞ入って」

 私に与えられた居室の扉を開け、頭を下げながら入ってくる家令。そしてうやうやしく手紙を渡してくる。それを「ありがとう」と受け取ると、それ以上何かを言う訳でもなくスッと出て行った。それからフッ…と緊張を解く。

 私はあの家令が苦手だ。仕事が出来て、この家になくてはならない人材なのは分かっている。まだ四十前ほどの、家令としては若い年齢なのだが隙が全くない。だから話そうとすると何故か緊張してしまって…
 
 気を取り直そうと、フェリシアからの手紙を開いてみる。中には綺麗な文字で書かれた手紙と、花の押し花が同封されている。こういうところが私とは違って愛される理由なんだろうな。そんなことを思いながら手紙を読んでみると…妃殿下主催のお茶会の招待状? 
 
 ──いきなりね…それに誰が招待されているのかしら?何か話したいことがあるのかも…

 妃殿下主催のお茶会となると、かなり大掛かりになる。よっぽどの理由がなければ断れないからだ。だからもちろん、私だって予定を変えてでも行くことになる。貴族特有の取り留めのない会話に付き合うのは苦手だけれど、これも侯爵夫人としての務め…そう割り切って行かなければ!何か重大な発表があるのかも知れないし…

 「ケイト、そこにいる?」

 「はーい!少しお待ち下さいませ」

 クローゼットの奥で片付けをしていたケイトが、慌ててこちらに駆け付ける。それに「急に呼んでごめんなさい」と謝りながらケイトを見つめる。

 「二週間後に王太子妃殿下主催のお茶会があるの。ドレスを用意しないといけないんだけど…」

 「はい。それではブティックの予約をお取り致しますね。ですが余り時間がありませんね。お急ぎでしょうし、どうにか致します!明日にでも叶うと思いますが?」

 「それでお願いね!」

 二週間後となると期間がないし、急いだほうがいいだろうと思う。いつもはクリスティンに理由を話してからブティックに行くのだが、今夜帰って来るのかも分からない。後で知らせるからそうして大丈夫よね?そんな不安はあるものの、ぼうっとしている時間はない。早速その準備に取り掛かることにする。


 「それでは行って来ます」

 そう伝えてケイトと一緒に家を出た。やはりというか、クリスティンは昨日帰って来なかった。仕立ての日数を考えると、今日頼むのがギリギリだと思うし仕方がない。そう自分に言い聞かせるようにして馬車に揺られ、久しぶりに街までやって来た。繁華街の一画にある、先代夫人からの馴染みのあるブティックに向かう。こちらはアノン家のお抱えとも言える店だ。だから優先して仕立ててくれる筈だわ!そう思いながら店に入ると…

 「い、いらっしゃいませ…アノン侯爵夫人。ようこそいらっしゃい…ました」

 店に入るなり、そう声を掛けられる。声の主はデザイナーでもあり、店のオーナーでもあるミッシェル。平民でありながら独学でデザインを学び、ここまで店を大きくした女傑だ。私はこの女性のことを凄い人だと尊敬している。そんな方だけど、今日は元気がないのかしら?それに歯切れが悪いように感じる。目だって泳いでいるように見えるけど…どうしたのだろう?

 具合が悪いのかしら?と心配になるが、他のスタッフの「こちらにどうぞ」と言われがるまま奥の個室に通される。いつもは手前の方の大きな個室だけど…どなたか高位貴族家の方が来ているのかも?きっとそれに気を取られているのだと理解する。身分によって差を付けられるのは正直面白くはないが、理解は出来る。ましてや平民がオーナーのこの店では特に。

 「申し訳ありません。すぐ参りますので、暫くお待ち下さいませ!」

 そういうオーナーの言葉を信じて、違うスタッフにお茶会用のドレスが欲しいのだと伝える。それからソファに座って待っている間、お茶を出されたりお菓子を持ってこられたりしたが、オーナーが戻ってくる様子はない。するとケイトが…

 「シルビア様が来ているのに、こちらを優先しないなんて…失礼過ぎます!ちょっと抗議して参ります」

 いつもは温厚なケイトも、流石にこの扱いには怒り心頭で…
 ケイトは私が止める間もなく、あっという間にこの部屋から出て行く。それを唖然として見送る私…

 「大丈夫かしら?だけど予約はしたのよね…放ったらかしになっている理由だけでも分かれば、それによっては待ってあげられるけど…」

 そう独り言を呟いて、取り敢えずはケイトが戻るのを待つことにした。それから五分くらい経ってからだろうか、顔色を悪くしたケイトが慌てて戻って来る。

 「ど、どうしたの。何かあった?誰かに叱られでもした!?」

 ケイトが文句を言ったことで、どなたかの機嫌を損ねたのかと不安になる。それによってケイトが叱責されでもしたのかと…
 もしもそうだったら、私だって侯爵家の夫人だ。理不尽な叱責であれば、毅然とした態度でいなければ…と。

 「いいえシルビア様、何でもありません。オーナーには会えませんでした。後でもう一度行って参りますので…」

 顔を白黒させて、そう私に伝えるケイト。それにどうにも歯切れの悪さを感じる…先程のオーナーと同じだわ!

 「分かったわ。私がオーナーに会ってくる!」

 そう言ってスクッと立ち上がると、私の行動が予想外だったようでケイトは慌てふためいて…

 「あっ、お止め下さい!このままここでお待ちになって下さいませっ」

 普段はこのようなことは決してしないが、ケイトは私の腕を掴もうとまでする。これはいくら何でも…おかしくない?

 「正直に言ってちょうだいケイト。何かあったのね?私は大丈夫だから…包み隠さず言ってほしいわ」

 私はじっと正面から見据えてそう言った。するとケイトは、大きな目をウルウルとさせながら…

 「坊ちゃまが…クリスティン様が、こちらに来られています!」

 ──な、何ですって!クリスティンが…この店に?
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