お前らの目は節穴か?BLゲーム主人公の従者になりました!

MEIKO

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第一章・最愛の坊ちゃま

1・僕の不幸

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 僕エリオットは、アノー伯爵家の嫡男として生まれた。伯爵家の一人娘だった母が、男爵家の三男で騎士であった父を配偶者として迎え入れたんだ。
 僕という子供にも恵まれ、伯爵を継いだ母が事業を発展させる。その手腕は女だてらにも中々のものだったらしい。父は騎士団の一員として王都勤めで、領地の僕らとは離れて暮らしている。だから寂しい面もあったけれど、長期の休みがあれば真っ先に帰って来てくれる。だけど僕にはちょっぴり遠慮がち?将来伯爵を継ぐことになるからかな。それでも貴族としては決して裕福ではないけれど幸せを感じる。そんな家庭に育って、それがこの先も続く…って疑わなかったよね。だけどそんな幸せはある日突然崩れた…

 僕が十歳の時、母が病に倒れる。それからはあっという間さ…約半年の闘病の後、呆気なく亡くなってしまったんだ。騎士として王都で名を馳せていた父は退団を余儀なくされ、アノーの領地に戻り臨時の伯爵となった。慣れないなか懸命に働く父…それでも引き継いだものが何とか形になった時、突然アノー家に衝撃が走る!

 父が後妻と隠し子を伯爵家に迎え入れた。元男爵令嬢で美人だが気難しそうな後妻と二人の息子…上は何と僕とは一つしか歳が違わない。父はずっと母を裏切っていた…
 おまけに僕は、母親似の為茶色い髪に菫色の瞳。なのに異母兄弟達は父そっくりの火のような紅い髪に力強い漆黒の瞳で。それを見て僕は物凄くショックを受けた…何故なの?って。

 後で聞いたところによると、元々後妻の方が父の婚約者だったそう。なのに母に一目惚れされて、父である男爵から伯爵家の令嬢と結婚するようにと命令されたらしい。これで納得がいった…父は無口なんだと思っていたけど、この結婚自体が本意じゃなかったのだと。だから家にもなかなか帰って来なかったし、僕に対して興味を持ってくれなかったんだ。それから僕の、本当の意味での地獄が始まる…

 継母からは疎まれ、異母兄弟からは虐められる日々。だけどそんな僕が腐らずにいられたのは、いずれこの伯爵家を継ぐのは自分だと確信していたから。
 母が死ぬ前にそっと手渡してくれたプロミスリング。このリングを持つ者が伯爵家を継ぐのは決まっている。
 男爵家出身の父や義母は、そもそもそんなリングの存在さえ知らないだろう。だけどそれは王家によって定められている。伯爵家以上の上位貴族家には、それぞれの家の後継の印であるプロミスリングというものが存在する。
 厚みのある地金に真ん丸い石が留められ、その石が実は家紋が彫り込まれた魔法石で、血に反応して血筋でなければリングを嵌めることさえ出来ない。父は臨時という立場なので重要視されなかったが、正式な任命式となればこのプロミスリングが絶対に必要。だから父の血を引いているとしても、異母兄弟達は後継なり得ない。だからどんなに僕を酷く虐めたとしても、君達は後を継げないんだよ?そのことだけを励みにして、耐え抜いていたある日のこと…

 父が他国での商談を終え、二ヶ月ぶりに本邸に帰って来ることを知らせられると、嬉しさで湧き立つ家族達。僕はといえば、父の前では行われ無かった虐めも、父が他国に行ってからは格段に酷いものになっていて…
 勉強することも禁止され、使用人のようにこき使われる日々。着る物もまるで平民で、薄汚れて食事さえも僅かしか与えられない。ああ…やっと父が帰って来て、僕を助けてくれるに違いない!と涙する。

 義母は悔しそうな顔をしながら、僕を風呂に入れて綺麗な服を着せるように使用人に命令していると、予想に反して父が帰ってくる。突然の帰宅に義母は、マズい!と思ったのだろう、顔を引き攣らせながら慌てて父を迎える。久しぶりに見る父は、少し疲れた様子だったが、それでもホッとしている様子だった。それを逸る気持ちで見つめる僕。

 ──僕を見て…この憐れな姿を。早く助けて!

 玄関の隅っこに佇む僕はそう一心に願った。それから父は、チラッと僕を見る。見ただったのに…

 父はそのまま何事もなかったかのように、義母と弟達だけを連れてリビングの方へと去って行く。その時、ショックを受けて固まる僕の目の端には、義母のホッとした笑いと嘲りが見える。

 ──違う、違う!余りの僕の変わりように、気付かなかっただけだよ。直ぐに僕が居ない事に気付いて、声を掛けに来てくれるに違いない!
 
 僕は震える心でそう願った。だけど夕食の時間が過ぎても、僕が呼ばれることは無い…
 僕はやっと現実を理解したんだ。自分だって父の子だ…母をどう思っていたのかは知らないが、息子である僕を嫌っている筈がないだろう?そう思っていた。だけどそうじゃなかったんだね…

 僕の父を愛する心は、ガラガラと音を立てて崩れた。もう限界だったんだ…心も身体も。
 僕はその夜、弟から取り上げられて僅かしか残っていない私物を古ぼけたカバンに詰めた。そしてこれだけは取られまいと、紐に通して首にぶら下げていた母の形見…プロミスリングを取り出して握りしめる。
 これだけは絶対に渡してはならないと、ワザと薄汚れた紐で首に掛けていた僕唯一の…大事なもの。そしてこの非情な家族達に反撃をする上で重要なものだ。もう家族とも言えないのかもね?父が弟を後継にしようとした時にやっと気付くだろう…思い知るがいい!
 
 その夜皆が寝静まった後、そっと屋敷を出た。僕なんかをもはや気にする人なんておらず、簡単に抜け出すことに成功する。物悲しい気持ちで闇夜に紛れて歩きだそうとした時、突然物音がして振り向くと…

 「エリオット坊ちゃま、こ、これを!」

 ずっと以前からアノー家の執事を務めるジョナサンが、何故か封筒を手にそこに立っている。それに驚いていると…

 「本当に申し訳ありません!私に出来ることなどこれくらいしかありませんが…。少しですがお金と手紙をしたためてあります。王都にあるガドリン公爵家の執事は私と従兄弟で、この手紙を見せればきっと保護して貰える筈です。後生ごしょうですからお持ち下さいませ」

 ジョナサンは今では唯一、祖父の代からの使用人だ。後は父と義母によって都合のいいように替えられてしまっている。ジョナサンがいなければ事業が立ち行かなくなる為に、一人だけ残されていた。僕にジョナサンを恨む気持ちは一切ない。臨時とはいえ当主の命令は絶対で、執事と言えども使用人…逆らえる筈もないし。

 おまけに父と共に他国に行っていた為に、さっきは僕のこの有り様を見て驚愕の表情をしていた。ジョナサンが屋敷に残っていてくれていたら、ここまで酷い状態にはならなかったかも…とは思うけど、父が義母と同じ考えな以上、遅かれ早かれこうなっていただろう。

 「ありがとうジョナサン…いただくよ。そして僕が居ない間、アノー伯爵家を守って欲しい。いつか僕は戻って来る!」

 そう伝えてその手紙を受け取る。それからジョナサンは涙を拭って「その時をお待ち申し上げております」と力強く答えてくれる。それから泣き腫らしたジョナサンの顔をしっかりと見つめて大きく頷く。

 「では暫しの間、サヨナラだ」

 僕は涙をこらえて再び歩き出し、後ろ髪ひかれる思いだったけど二度と振り返ることはなかった。

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