恋は秘密のその先に〜番外編〜

葉月 まい

文字の大きさ
8 / 11

たった一日だけの恋人

しおりを挟む
次の日。
住谷はカレンの部屋まで迎えに来た。

「カレン、どこに行きたい?」
「私はここに住んでるのよ? もう行ったことない場所なんてないわ。住谷こそ、どこに行きたい?」
「じゃあ、ベタなデートでもいい?」
「ふふっ、いいわよ。今日だけは特別なカップルなんだから」
「ああ」

二人で自然と手を繋ぐ。
そのままニューヨークの街に出かけた。

ハイラインと呼ばれる、かつての鉄道の線路を再利用した高架の歩道を歩き、チェルシー マーケットでショッピングを楽しむ。

ロックフェラーセンターやメトロポリタン美術館を訪れ、夕方になると自由の女神像を眺められるサンセットクルーズを満喫した。

ディナーはハイクラスのホテルに行き、ブティックでフォーマルな装いに着替えてからディナーを味わう。

最後にエンパイアステートビルも見えるルーフトップバーで、美しい夜景に酔いしれながら乾杯した。

ずっとずっとこの時間が続けばいいのに……

今夜限りと分かっているから、こんなにも特別な気持ちになるのだろうか。

明日には別れると分かっているから、こんなにもこの時間が愛おしいのだろうか。

それは違う。

互いに求め合っているから、離れたくない。

温もりを忘れたくなくて、強く抱きしめ合う。

どうすればこのキスを永遠に残しておける?
どうすれば二人の身体は溶け合ってくれる?

どうすればこの愛を届けられるだろう。

どんな時も、どこにいても、いつまでもずっと……

二人は言葉にできない想いを胸に、ひと晩中、互いの温もりを確かめ合っていた。



翌日、いよいよ帰国の日。
見送りに来たジョン・F・ケネディ空港で、カレンは真里亜や文哉とハグをする。

「じゃあね、マリア。会えて嬉しかった。またいつでも来てね。フミヤも」
「はい。カレンさん、今回も本当にありがとうございました。これからもよろしくお願いします。ニューヨークの冬は寒いので、お身体大切にしてくださいね」
「ありがとう。マリアたちもね」

他のメンバーとも笑顔で握手を交わした。

「皆さんが移住される日を、楽しみに待っています」
「ありがとうございます、カレンさん」

最後にカレンは、住谷と向かい合う。

「それじゃあ。身体に気をつけて」
「ああ、カレンも」

カレンが差し出した手を、住谷は強く握る。
そしてそのままグッと引き寄せて、腕の中に抱きしめた。

「カレン、これからも恋人でいてくれないか?」

耳元でささやかれた言葉に、カレンは息を呑む。

けれど、静かに首を横に振った。

「私、遠距離恋愛は無理なの」
「……ああ、そうだね。カレンはしっかり者に見えて、実は寂しがり屋だ」

言い返そうとしても、なにも言葉が出てこない。

口を開けば涙がこぼれそうだった。

「じゃあね、カレン」

くるりと背を向けて、住谷が去っていく。

(……待って、行かないで!)

そう言って手を伸ばしそうになり、懸命にこらえた。

涙で滲んだ視界から、住谷の背中が消える。

カレンは気持ちを振り切るように、踵を返した。

(こんなの、私は慣れっこよ。いつもドライなつき合い方をしてきたんだもの。今からだって、誰か適当に誘って、軽く遊ぶんだから)

自分に言い聞かせると、ショルダーバッグからスマートフォンを取り出した。

と、なにかがヒラリとバッグから落ちて宙に舞う。

〔なにかしら。名刺?〕

拾い上げると、カレンは目を見開いた。

 



〔は? なにこれ〕

まじまじと見つめてから、呆れたようにため息をつく。

「なにが 『 I love you ! 』よ。まったく……。日本人なのにキザなんだから」

言葉とは裏腹に、ぽろぽろと涙がこぼれ落ちた。

名刺をギュッと胸に抱きしめて、小さく呟く。

「 I love you too…… 」

切なさにかすれたその声は、人々のざわめきにかき消されてしまった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ウインタータイム ~恋い焦がれて、その後~

さとう涼
恋愛
カレに愛されている間だけ、 自分が特別な存在だと錯覚できる…… ◇◇◇ 『恋い焦がれて』の4年後のお話(短編)です。 主人公は大学生→社会人となりました! ※先に『恋い焦がれて』をお読みください。 ※1話目から『恋い焦がれて』のネタバレになっておりますのでご注意ください! ※女性視点・男性視点の交互に話が進みます

村娘あがりの娼婦ですが、身請けされて幸せです

春月もも
恋愛
村を飛び出して王都に来たリリアは、いまは高級娼婦として生きている。 ここは通過点のはずだった。 誰かに選ばれて終わる物語なんて、わたしには関係ないと思っていたのに。 触れない客。 身体ではなく、わたしの話を聞きに来るだけの商人。 「君と話す時間を、金で買うのが嫌になった」 突然の身請け話。 値札のついた自分と向き合う三日間。 選ばれるのではなく選ぶと決めたとき、 通過点は終わりになる。 これは救いではなく対等な恋の話。

君は恋人、でもまだ家族じゃない

山田森湖
恋愛
あらすじ 同棲して3年。 毎朝コーヒーを淹れて、彼の寝ぼけた声に微笑んで、 一緒に暮らす当たり前の幸せを噛みしめる——そのはずだった。 彼女は彼を愛している。 彼も自分を愛してくれていると信じている。 それでも、胸の奥には消えない不安がある。 「私たちは、このまま“恋人”で止まってしまうの?」 結婚の話になると、彼はいつも曖昧に笑ってごまかす。 最初は理由をつけていたのに、今では何も言わなくなった。 周囲の友人は次々と結婚し、家族を持ち始めている。 幸せそうな写真を見るたび、彼女の心には “言えない言葉”だけが増えていく。 愛している。 でも、それだけでは前に進めない。 同棲という甘い日常の裏で、 少しずつ、確かにズレ始めているふたりの未来。 このまま時間に流されるだけの恋なのか、 それとも、家族へと歩き出せる恋なのか——。 彼の寝息を聞きながら、 彼女は初めて「涙が出そうな夜」を迎えていた。

リフェルトの花に誓う

おきょう
恋愛
次期女王であるロザリアには、何をどうやったって好きになれない幼馴染がいる。 その犬猿の仲である意地悪な男の子セインは、隣国の王子様だ。 会うたびに喧嘩ばかりなのに、外堀を埋められ、気付いた時には彼との婚約が決まっていた。 強引すぎる婚約に納得できないロザリアは……? ※他サイトで掲載したものの改稿版です

課長と私のほのぼの婚

藤谷 郁
恋愛
冬美が結婚したのは十も離れた年上男性。 舘林陽一35歳。 仕事はできるが、ちょっと変わった人と噂される彼は他部署の課長さん。 ひょんなことから交際が始まり、5か月後の秋、気がつけば夫婦になっていた。 ※他サイトにも投稿。 ※一部写真は写真ACさまよりお借りしています。

【完結】灰薔薇伝 ― 祈りは光に還るー

とっくり
恋愛
  「灰が散っても、祈りは光に還る」 戦で傷ついた騎士と、彼を救った修道女。 罪と祈りの十日、孤独の十年―― 灰薔薇の咲く風の丘で、 二人の想いは時を越えて静かに息づく。 滅びゆく国、信仰と禁忌の狭間で、 一人の女が“赦し”を信じ、 一人の男が“生きる”ことを選んだ。 灰薔薇の香りは、愛でも奇跡でもなく、 祈りそのものだった。 彼らに下される運命は――。

遺産は一円も渡さない 〜強欲な夫と義実家に捨てられた私、真の相続人と手を組み全てを奪い返す~ (全10話)

スカッと文庫
恋愛
「お前の価値なんて、その遺産くらいしかないんだよ」 唯一の肉親だった祖父を亡くした夜、夫の健一と義母から放たれたのは、あまりにも無慈悲な言葉だった。 四十九日も待たず、祖父が遺した1億2000万円の遺産をアテに贅沢三昧を目論む夫。だが、彼には隠し通している「裏切り」があった――。 絶望の淵に立たされた由美の前に現れたのは、亡き祖父が差し向けた若き凄腕弁護士・蓮。 「おじい様は、すべてお見通しでしたよ」 明かされる衝撃の遺言内容。そして、強欲な夫たちを地獄へ叩き落とすための「相続条件」とは? 虐げられてきた妻による、一発逆転の遺産争奪&復讐劇がいま幕を開ける!

【完結】黒の花嫁/白の花嫁

あまぞらりゅう
恋愛
秋葉は「千年に一人」の霊力を持つ少女で、幼い頃に龍神――白龍の花嫁として選ばれていた。 だが、双子の妹の春菜の命を救うために、その霊力を代償として失ってしまう。 しかも、秋葉の力は全て春菜へと移り、花嫁の座まで奪われてしまった。 それ以来、家族から「無能」と蔑まれながらも、秋葉は失われた力を取り戻すために静かに鍛錬を続けていた。 そして五年後、白龍と春菜の婚礼の日。 秋葉はついに霊力が戻らず、一縷の望みも消えてしまった。 絶望の淵に立つ彼女の前に、ひとりの青年が現れる。 「余りもの同士、仲良くやろうや」 彼もまた、龍神――黒龍だった。 ★ザマァは軽めです! ★後半にバトル描写が若干あります! ★他サイト様にも投稿しています!

処理中です...