恋は秘密のその先に〜番外編〜

葉月 まい

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真里亜の体調不良

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それから1カ月後。
真里亜は日本からニューヨークのカレンと、電話で打ち合わせをしていた。

「カレンさん、うちの社員の渡米が12月20日に決まりました」
『あら、クリスマス前なのね? そのままお正月もニューヨークで?』
「そうなんです。みんな独身で身軽だし、せっかくだからクリスマスとカウントダウンをニューヨークで過ごしたいって」
『へえ、そうなのね。ぜひ楽しんでもらいたいわ』
「ありがとうございます。カレンさんは年末年始、一時帰国されますか?」

すると電話の向こうでカレンは押し黙る。

「もしもし? カレンさん?」
『……ねえ、マリア。住谷は元気?』
「は? 住谷さんですか? 元気ですよ」
『あら、そう! それはそれは、よろしゅうございましたこと』

え、あの?と真里亜は戸惑った。

「カレンさん、どうかしましたか?」
『いいえ、どうもしませんことよ。住谷によろしくお伝えくださいませ』
「は、はい……」
『それでは、マリア。ごきげんよう!』
「ご、ごきげんよう」

プツリと電話が切れたあとも、真里亜はしばし固まる。

「真里亜、どうかしたか?」

文哉が怪訝そうに聞いてきた。

「いえ、あの……」

そこまで言った時、急にめまいと胸焼けがして真里亜は顔をしかめる。

「真里亜?」

文哉がすぐさま駆け寄って来た。

「どうした? 大丈夫か?」
「はい。最近少し体調が悪くて……。季節の変わり目だからかな?」

文哉はじっと真里亜の顔を見つめてから、内線電話をかけ始める。

「智史、俺だ。このあとのスケジュール、全てリスケしてくれ。これから真里亜を病院に連れて行く」

文哉さん!と真里亜が声を上げるが、文哉はそのまま続けた。

「あとで連絡を入れる。社長にもそう伝えてくれ。……ああ、頼む」

電話を切ると、文哉はすぐに帰り支度を始めた。

スーツのジャケットを着て、パソコンをシャットダウンする。

「真里亜、荷物はこれだけか?」
「あの、文哉さん。本当に大したことないの。だからこのまま仕事を……」
「それは病院で判断してもらう。行くぞ」

有無を言わさず、文哉は真里亜を連れて近くの総合病院へ向かった。



「つわりでしょうね」

ドクターの言葉に、真里亜と文哉は「は?」と声をうわずらせた。

「詳しいことは、産婦人科で診てもらってください」
「……え?」
「このあとそのまま受診されますか?」
「……はい」
「では診察券を回しておきます。2階の産婦人科へお越しください」
「……分かりました、ありがとうございます」

二人でお辞儀をして、内科の診察室を出る。

「次は、2階か」
「そうです、ね」
「産婦人科って……」
「つわりって……」

するといきなり文哉がハッとして、真里亜を振り返った。

「真里亜、転ぶなよ。絶対に俺から離れるな」

そう言って真里亜の肩を抱き寄せる。

「いいか? ゆっくりな」
「は、はい」

寄り添いながら階段を上がり、産婦人科と書かれた待合室でドキドキしながら呼ばれるのを待つ。

「天城 真里亜さん」
「はい!」
「診察室へどうぞ。よろしければご主人も」
「ありがとうございます」

緊張の面持ちで顔を見合わせ、二人は診察室に入った。



「おめでとうございます。妊娠6週目ですね。出産予定日は、来年の7月7日。あら、七夕ね」

隣の部屋で内診を済ませた真里亜が、文哉の待つ診察室に戻ると、女性医師がにこやかに告げた。

「に、妊娠……。私と文哉さんの、赤ちゃんが、ここに?」

真里亜がお腹に手を当てて呟くと、文哉は目を潤ませて懸命に唇を噛みしめながら、真里亜の手を握る。

「真里亜、ありがとう……」
「文哉さん」

真里亜の目にも涙が込み上げてきた。

「これが初めての赤ちゃんのエコー写真よ。まだ小さな粒だけど、ちゃんと心臓も動いてる。これからお二人で大切に見守ってね」
「はい」

しっかり頷いてみせた二人の表情は、既にパパとママの顔だった。



『マリアー、おめでとう!』
「ありがとうございます、カレンさん」

妊娠を知らせると、カレンは電話の向こうで声を弾ませた。

『あーもう、嬉しくてたまらない。私、赤ちゃんが生まれたら、絶対に日本に会いに行くからね』
「えっ、本当に?」
『もちろん! プレゼントたーくさん持ってね。いい? マリア。くれぐれも身体に気をつけるのよ? まあ、あのフミヤがいるから大丈夫でしょうけど』
「はい。それが、早速仕事をセーブするように言われてしまって……。ニューヨーク支社の立ち上げの大事な時期なのに。カレンさんとも詳細をマメに打ち合わせしたかったのですが、すみません」
『そんなこと! 赤ちゃんの命に比べたらどうってことないわ。今のマリアの仕事は、ゆっくり休んで赤ちゃんを守ることよ。分かった?』
「はい。ありがとうございます、カレンさん」

真剣に心配してくれるカレンに、真里亜の胸はジンと温かくなる。

住谷を初め、藤田も、人事部や秘書課の先輩たちも、そして社長も、誰もが妊娠を喜んでくれていた。

(大切に守っていこう。私と文哉さんの赤ちゃんを)

真里亜はお腹にそっと手を当てて、無事に生まれてきますようにと祈った。
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