恋は秘密のその先に〜番外編〜

葉月 まい

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I love you.

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12月20日。
AMAGIコーポレーションのニューヨーク支社のメンバーが移住する日がやって来た。

カレンは空港まで迎えに行く。

今回は妊娠中の真里亜と文哉は同行せず、移住メンバーだけとのことだった。

「カレンさん! お久しぶりです」
「皆さん、ニューヨークへようこそ」

藤田たちメンバーと、2カ月ぶりの再会を笑顔で喜ぶ。

と、最後に住谷の姿を見つけてカレンはハッとした。

「ちょっと、どうしてあなたがいるのよ?」
「おいおい、久しぶりに会って第一声がそれ?」
「当たり前でしょ! 2カ月も音沙汰なしだったんだから。約束した日本語の資料もメールで送られてこないし、電話でレッスンしてくれる話も……」
「俺はいつでもかけてきてくれてよかったのに。はい、資料」

そう言って住谷は、無造作にA5サイズの冊子を差し出す。

「こんなところで渡さないでよ」
「そう? じゃあ、あとで君のうちまで届けに行く」
「いい! 今もらう」

パッと奪い取ると、住谷はクスッと笑った。



アパートに着くと、カレンは皆に説明する。

「では、こちらが皆さんのお部屋の鍵です。既に水道や電気なども通ってますから、まずはゆっくり休んでくださいね。冷蔵庫に、ミネラルウォーターや食料品も少し入れておきました」
「なにからなにまで、ありがとうございます、カレンさん」
「いいえ。困ったことがあれば、いつでも私の携帯電話にご連絡ください。明日からは移住に関しての手続きなどを始めますね」
「分かりました、よろしくお願いします」

藤田たちメンバーはカレンに頭を下げてから、それぞれの部屋に入っていった。

「カレン、ちょっといいかな?」

最後に住谷が呼び止める。

「なによ? 馴れ馴れしく呼ばないでちょうだい」

ジロリと横目で睨むと、住谷は肩をすくめた。

「ビジネスの話だよ。これ、副社長の文哉から。今回君にコーディネートを頼んだことに関しての謝礼の明細。既に君の銀行口座に振り込んである」
「え? そんな、いいのに」
「それからこれは、真里亜ちゃんから預かったクリスマスプレゼント。結城紬のショールだって」
「ありがとう。あとでお礼のメッセージを送っておくわ」

紙袋を受け取ると、住谷は黙ったまま笑みを浮かべている。

「……まだなにか?」
「いや、なにも?」
「そう。じゃあ、私はこれで。あなたはホテルに滞在するの? 帰国はいつ? 皆さんの状況が落ち着いたら帰るんでしょ」
「ああ、以前と同じホテルに泊まる。帰国は決めてないな」
「そうなの……」

ひょっとしたら、クリスマスホリデーを一緒に過ごせる?と、心の片隅で期待する。

だが慌ててその考えを打ち消した。

「それじゃあ」

立ち去ろうとすると、またしても「カレン」と呼び止められる。

「もう、なんなの? まだなにか?」
「あと1つだけ頼みがある。不動産屋を紹介してくれないか?」
「えっ、まだ部屋を探すの? 誰の?」
「俺の」
「…………は?」

もはやカレンはポカンとしたまま立ち尽くす。

「どうして住谷がニューヨークで部屋を探すのよ」
「あ、これを渡しそびれてた」
「ちょっと、聞いてる?」
「はい、これ」
「なによ、名刺? それならもう持って……」

カレンの言葉が途切れる。

信じられないとばかりに目を見張り、名刺に書かれた文字を見つめた。



「こ、これって、どういう……?」
「あ、英語が分からない? AMAGIコーポレーション、ニューヨーク支社の」
「分かるわよ! そうじゃなくて。あなたが支社長? ニューヨーク支社の?」
「そう」
「どうして?」
「ん? 優秀だからかなあ。社長と副社長から直々にご指名されてね」

ははっ!と軽く笑う住谷を、カレンはまじまじと見つめる。

やがてじわりと涙が込み上げてきた。

「……ずっと、こっちにいるの?」
「そうだよ」
「ニューヨークに住むの? 住谷が」 
「ああ。できれば君のうちの近くにね」
「私の、近くに?」
「そう。その為に来たんだから」
「嘘。さっきは社長とフミヤに頼まれたって言った」 
「それも本当。最初は断ってたんだ、俺には荷が重すぎるってね。だけど君と出逢って決めた。AMAGIのニューヨーク支社を背負って立ち、必ず君のそばで君を守ると」

ついにカレンの瞳から涙がこぼれ落ちる。

「住谷が支社長なんて、力不足じゃない?」
「そのうち『役不足だね』って言わせてみせるよ。意味分かる?」
「分かる。でもクレイジーね」
「それは否定できないな。Because I'm crazy for you.」
「バカ!」

カレンは両腕を伸ばして住谷に抱きついた。

住谷はそんなカレンをしっかりと抱きしめて、耳元でささやく。

「 How about you ? 」

カレンが涙声で答える。

「 I love you.」

ふっと笑みをもらして、住谷はカレンの頭を抱き寄せた。

「 I love you too.」

カレンも涙目のまま笑みを浮かべる。

二人で見つめ合うと、ゆっくりと顔を寄せ、想いのこもったキスを交わした。



「カレン、朝だよ。いい加減に起きて」

二人で新居に住み始めて早3カ月。

明るい朝の陽射しが差し込む寝室で、住谷はカレンを揺すり起こす。

「んー、もうちょっとだけ」
「まったくもう。そう言っていつも遅刻ギリギリになるんだから」

住谷は呆れたようにため息をつくとキッチンに行き、トレーにコーヒーとスクランブルエッグ、クロワッサンを載せてベッドに戻った。

「ほら、食べて」
「わー、いい香り」

住谷は、ベッドに半身を起こして朝食を食べ始めたカレンを、後ろから抱きしめる。

「美味しい?」
「うん。今まで朝はコーヒーオンリーだったけど、住谷の朝食を食べるのがすっかりお気に入りになっちゃった」

ふふっと笑みを浮かべるカレンの頬に、住谷はチュッとキスをする。

「可愛いな」
「え、私が?」
「もちろん」
「そんなふうに言われたことない」
「可愛いって言われるの、嫌?」

カレンは顔を赤くしてうつむいた。

「……ううん。嫌じゃないけど、慣れてなくて」
「ふっ、ホントに可愛い」

住谷は今度はカレンの耳元に口づけた。

「ひゃ、くすぐったいから!」
「カレン、ここ弱いもんな」

そう言って何度もキスを繰り返す。

「住谷! もう、コーヒーがこぼれちゃう。それにほら、そろそろ支度しないと遅刻しちゃうわ」
「アメリカなら、彼女といちゃついて遅刻しても許されるだろ?」
「許されません! それに住谷は、日本企業の支社長でしょ?」
「確かに。でも社員に残業だけは禁止してるんだ。カレン、今夜は外でディナーを食べようか」
「えっ、いいの? 嬉しい!」

明るいその笑顔に見惚れてから、住谷はカレンの唇に優しくキスをした。



「じゃあね、カレン。行ってらっしゃい」

朝食を終えると、二人で一緒に歩いて会社に向かった。

まずはキュリアスUSAのオフィスに着き、住谷はカレンを見送る。

「仕事が終わったらロビーで待ってて。迎えに行く」
「うん、分かった。住谷も行ってらっしゃい」

チュッとキスをしてから、住谷は口元に笑みを浮かべて呟く。

「アメリカっていいな。どこでもカレンにキスできる」
「ふふっ、気に入った?」
「ああ。ずっとこっちに住みたい」
「え……」

それって、じゃあ?とカレンがうつむいて考え始めると、住谷は腕時計に目をやった。

「いけね! ホントに遅刻しそう。じゃあな、カレン」

もう一度優しくカレンにキスをしてから、住谷は手を挙げて去っていった。
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