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12 最後の最後にやらかしたこと
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すべてが真っ白になった。
私の頭も、近藤さんの実験データも。
今週は破壊が一つもなかったと安心してたのに。
最後の最後に一番ひどい。
去って行った近藤さんの背中を見てぼんやり立ち尽くしたまま。
坂井さんが腕を取って椅子に座らせてくれた。
「玉井ちゃん、大丈夫。期限には間に合うから。みんなで協力しよう。」
高階さんが慰めるように言ってくれる。
静かに立ち、皆に礼。
フラッと部屋を出て近藤さんを探す。休憩室にいない。
どこに行ったんだろう。
非常階段?社食?まさか外?
もしかしなくても今日から泊まりこみかも。
食事買いに行った?
休憩室前で呆然としてると廊下の向こうから高田さんがやってきた。
「玉井ちゃん?どうしたの?元気ないね?」
「あの、近藤さんを見ませんでしたか?」
「さっきどんよりとしていたけど、すぐに部屋に戻ったよ。」
それはその前の事だ。
「今出て行ったんです。どこに行ったんでしょうか?」
「何?会社で迷子?手がかかるね。」
高田さんが冗談を言いながらも私の表情に気がついたらしい。
「どうしたの?大丈夫?こっちに来て。」非常階段に連れていかれた。
「話があったんだけど、それより先に玉井ちゃんの話聞こうか?どうして近藤を探してるの?」
うつむいて正直に話した。
「う~ん、そうか。泊まり込みか。僕も手伝うから。ね。大丈夫だよ。あいつ暇だしさ。」
そんなことはないだろう。一応彼女・・・という人もいる。
約束があったかもしれない。
そんな事よりせっかく終わりかけで、まとめに入れる段階だったデータがきれいに消し飛んだ。データ記録はあっても続きがない、完成してないものは意味がない。
『無』になった、この数日の仕事が。
呆然としてる私の背中を撫でて励ましてくれる高田さん。
「うわ~ん。」声が出た。
しゃがみこむ前に背中を引き寄せられて慰められる。
高田さんにもたれて泣き出す私のしゃくりあげる声と鼻をすする音が非常階段に響く。
眼鏡を手に持ち酷い顔になってるだろう。
ハンカチはない。
何とか泣き止むと非常階段はまた静かでひんやりとした空気を取り戻した。
途中静かに上がってくる足音が聞こえたけど顔を見せずにやり過ごした。
高田さんには悪いことをしたかも。
意味深な二人がこんなところで抱き合って慰めてるなんて。
だってビクッとしてた。
上司だったりして、やばい、それはやばいよね。
急いで離れた。
「すみませんでした。私、社食と下の休憩室、探しに行ってきます。」
「俺も探してみるよ。あ、でも今はそっちの部屋、出禁になってるんだよね。」
「出禁?」思わず顔をあげた。
「そう、その話があったんだけど、また今度ね。」
ティッシュを渡された。いつもポケットに入ってるの?
ありがたく受け取り3枚抜いて返した。
「ありがとうございます。じゃあ探してきます。」
涙を拭き眼鏡をかけて非常階段を下りた。下の廊下に出て鼻をかむ。
途中の休憩室にはいなかった。ごみを捨て社食へ。
いない。
やっぱり、外?
勝手に出る訳にはいかない。研究室に戻ろう。
非常階段を上り廊下に出て部屋の前で深呼吸する。
中からドアが開いた。
「玉井!」
聞きなれた声がした。戻っていたらしい。
急いで席の前に行く。
「お前には責任の半分を取ってもらう。」
「はい、申し訳ありませんでした。」
「他のメンバーも手伝うと言ったがそれだとお前が心苦しいだろう、これから実験終了まで早出と残業をしろ。」
「はい。やります。なんでも。」
「今日は終わりでいい。来週から頼む。月曜日は一時間早く来い。」
「はい、分かりました。週末は?」
「来週からでいい。」
そんな・・・・週末は一人でやる気でしょう。
「手伝います。」
「いや、邪魔だ。」
そんな・・・・。
「冗談だ。」小さく言う。笑ってるし。
「手伝います。」もう一度行ってみた。
「いや、別に必要ない。月曜日からでいいから。もう帰れ。週末はゆっくり休めよ。」
「はい。」
トボトボと自分の席に戻る。
となりからメモが差し出された。
週末に一緒に買い物に行こうと言っていたのだ。
初給料で両親とお自分にプレゼントなどと言っていたのに。
『約束は延期にしよう。』
坂井さんを見てうなずく。
しばらくしてもう1枚メモが。
『週末一緒に差し入れに来る?徹夜の泊まりになるだろうって、成井さんが言ってた。』
『一人で大丈夫。ちゃんと謝って、もう一度手伝いたいという。明日の朝来る。』
『そう、無理しないでね。』
「ありがとう」と口パクで伝える。
「もう帰っていいぞ、むしろ帰れ。」
皆が帰り支度をする。
私は先週の頭に読んだ実験レポートを思い出す。
最初は2時間おきの観察だった気がする。
それが2日間、あとは6時間おき。
電源入れたのが5時ごろとすると・・・予定表を作る。
どこかで代われたらと思う。
せめて2時間の最後の方、6時間の1回。
土日は完全に会社から出れない。
せめて睡眠だけでもとって欲しい。
最初のデータと同じようなデータがとれるはずだ、それを参考に私が代わる。
変な数字が出たらすぐ起こす。
明日の朝まで12時間あまり。
今ここにいても絶対代わってはもらえない。明日の始発電車を狙おう。
ちゃんと寝よう。皆が気をつかって明るく声をかけて帰った。
「お前も帰れ。」冷たい声で言われた。
ハッと顔を上げる。
ガラスにはぼんやりと姿が映るけど、まだ闇が足りずにはっきりは表情は見えない。
怒ってるだろう?呆れてるだろう?許せないだろう?そうかも・・・・。
もう一度、席の前に行った。
「本当にすみませんでした。迷惑ばかりかけてます。本当に・・・・。」
「いいから。昨日付き合ってくれたから、チャラだ。早く帰って休め。月曜日遅刻厳禁。」
「はい。」顔を上げると思った以上に優しい顔をしていた。
涙腺が緩む。
「泣くな、帰れ。」
「はい。」
小さく返事して、お辞儀をして部屋を出る。
エレベーターの前でもうつむいたまま。
明日早起きしよう。
何か買って来よう。
私の頭も、近藤さんの実験データも。
今週は破壊が一つもなかったと安心してたのに。
最後の最後に一番ひどい。
去って行った近藤さんの背中を見てぼんやり立ち尽くしたまま。
坂井さんが腕を取って椅子に座らせてくれた。
「玉井ちゃん、大丈夫。期限には間に合うから。みんなで協力しよう。」
高階さんが慰めるように言ってくれる。
静かに立ち、皆に礼。
フラッと部屋を出て近藤さんを探す。休憩室にいない。
どこに行ったんだろう。
非常階段?社食?まさか外?
もしかしなくても今日から泊まりこみかも。
食事買いに行った?
休憩室前で呆然としてると廊下の向こうから高田さんがやってきた。
「玉井ちゃん?どうしたの?元気ないね?」
「あの、近藤さんを見ませんでしたか?」
「さっきどんよりとしていたけど、すぐに部屋に戻ったよ。」
それはその前の事だ。
「今出て行ったんです。どこに行ったんでしょうか?」
「何?会社で迷子?手がかかるね。」
高田さんが冗談を言いながらも私の表情に気がついたらしい。
「どうしたの?大丈夫?こっちに来て。」非常階段に連れていかれた。
「話があったんだけど、それより先に玉井ちゃんの話聞こうか?どうして近藤を探してるの?」
うつむいて正直に話した。
「う~ん、そうか。泊まり込みか。僕も手伝うから。ね。大丈夫だよ。あいつ暇だしさ。」
そんなことはないだろう。一応彼女・・・という人もいる。
約束があったかもしれない。
そんな事よりせっかく終わりかけで、まとめに入れる段階だったデータがきれいに消し飛んだ。データ記録はあっても続きがない、完成してないものは意味がない。
『無』になった、この数日の仕事が。
呆然としてる私の背中を撫でて励ましてくれる高田さん。
「うわ~ん。」声が出た。
しゃがみこむ前に背中を引き寄せられて慰められる。
高田さんにもたれて泣き出す私のしゃくりあげる声と鼻をすする音が非常階段に響く。
眼鏡を手に持ち酷い顔になってるだろう。
ハンカチはない。
何とか泣き止むと非常階段はまた静かでひんやりとした空気を取り戻した。
途中静かに上がってくる足音が聞こえたけど顔を見せずにやり過ごした。
高田さんには悪いことをしたかも。
意味深な二人がこんなところで抱き合って慰めてるなんて。
だってビクッとしてた。
上司だったりして、やばい、それはやばいよね。
急いで離れた。
「すみませんでした。私、社食と下の休憩室、探しに行ってきます。」
「俺も探してみるよ。あ、でも今はそっちの部屋、出禁になってるんだよね。」
「出禁?」思わず顔をあげた。
「そう、その話があったんだけど、また今度ね。」
ティッシュを渡された。いつもポケットに入ってるの?
ありがたく受け取り3枚抜いて返した。
「ありがとうございます。じゃあ探してきます。」
涙を拭き眼鏡をかけて非常階段を下りた。下の廊下に出て鼻をかむ。
途中の休憩室にはいなかった。ごみを捨て社食へ。
いない。
やっぱり、外?
勝手に出る訳にはいかない。研究室に戻ろう。
非常階段を上り廊下に出て部屋の前で深呼吸する。
中からドアが開いた。
「玉井!」
聞きなれた声がした。戻っていたらしい。
急いで席の前に行く。
「お前には責任の半分を取ってもらう。」
「はい、申し訳ありませんでした。」
「他のメンバーも手伝うと言ったがそれだとお前が心苦しいだろう、これから実験終了まで早出と残業をしろ。」
「はい。やります。なんでも。」
「今日は終わりでいい。来週から頼む。月曜日は一時間早く来い。」
「はい、分かりました。週末は?」
「来週からでいい。」
そんな・・・・週末は一人でやる気でしょう。
「手伝います。」
「いや、邪魔だ。」
そんな・・・・。
「冗談だ。」小さく言う。笑ってるし。
「手伝います。」もう一度行ってみた。
「いや、別に必要ない。月曜日からでいいから。もう帰れ。週末はゆっくり休めよ。」
「はい。」
トボトボと自分の席に戻る。
となりからメモが差し出された。
週末に一緒に買い物に行こうと言っていたのだ。
初給料で両親とお自分にプレゼントなどと言っていたのに。
『約束は延期にしよう。』
坂井さんを見てうなずく。
しばらくしてもう1枚メモが。
『週末一緒に差し入れに来る?徹夜の泊まりになるだろうって、成井さんが言ってた。』
『一人で大丈夫。ちゃんと謝って、もう一度手伝いたいという。明日の朝来る。』
『そう、無理しないでね。』
「ありがとう」と口パクで伝える。
「もう帰っていいぞ、むしろ帰れ。」
皆が帰り支度をする。
私は先週の頭に読んだ実験レポートを思い出す。
最初は2時間おきの観察だった気がする。
それが2日間、あとは6時間おき。
電源入れたのが5時ごろとすると・・・予定表を作る。
どこかで代われたらと思う。
せめて2時間の最後の方、6時間の1回。
土日は完全に会社から出れない。
せめて睡眠だけでもとって欲しい。
最初のデータと同じようなデータがとれるはずだ、それを参考に私が代わる。
変な数字が出たらすぐ起こす。
明日の朝まで12時間あまり。
今ここにいても絶対代わってはもらえない。明日の始発電車を狙おう。
ちゃんと寝よう。皆が気をつかって明るく声をかけて帰った。
「お前も帰れ。」冷たい声で言われた。
ハッと顔を上げる。
ガラスにはぼんやりと姿が映るけど、まだ闇が足りずにはっきりは表情は見えない。
怒ってるだろう?呆れてるだろう?許せないだろう?そうかも・・・・。
もう一度、席の前に行った。
「本当にすみませんでした。迷惑ばかりかけてます。本当に・・・・。」
「いいから。昨日付き合ってくれたから、チャラだ。早く帰って休め。月曜日遅刻厳禁。」
「はい。」顔を上げると思った以上に優しい顔をしていた。
涙腺が緩む。
「泣くな、帰れ。」
「はい。」
小さく返事して、お辞儀をして部屋を出る。
エレベーターの前でもうつむいたまま。
明日早起きしよう。
何か買って来よう。
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