精一杯背伸びしたら視界に入りますか?

羽月☆

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52 黒豆のアートでハート

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次の朝まで近藤さんが部屋に来ることはなく、部屋の隅っこには畳まれたままのお布団一式。朝になって和室を覗くと、ふたりともまだ良く寝ているみたいで。

おせちを完璧にして蓋をして。

「ね、茜。着物着て初詣する?」

「え~、大変じゃない。歩きにくいし。」

「近藤さん、喜ぶんじゃない?近藤さんにはお父さんの袴を着せて。」

お母さんが一応風に当てて着れるようにしてると言った。

「喜んでくれるかな?」

「もちろんよ。着物姿、お父さんも見たいって言ってたし。」

「お母さんは?」

「もちろん出してるわよ。」

たまにはいいじゃないと言われて近藤さんに聞いてみると返事した。

「早く起きないかなあ?」

「今日も泊まっちゃえばいいのにね。」

軽くそういうお母さん。

どうだろう、疲れるかな、昆虫話。それだけだとさすがにね。



起きだしてきた近藤さんは大分申し訳なさそうな顔をしていて。
お父さんも一緒につぶれたから大丈夫なのに。

洗面所に案内した。
3人でお父さんが起きるのを待つ。玄関でバイクの音がした。
年賀状を取ってくる。
束を3人分に分けながら見る。
その内、家族写真とか送られてくるのかな?
自分も・・・・・・。
近藤さんを見ると、何?みたいな顔をされた。


「近藤さん、私が着物着たら、近藤さんも袴を着ますか?」

「ん?」

ごまかすように聞いたら、分かりづらかったみたい。

「お母さんが着物着せてくれるって。初詣に行きましょうよ、一緒に。近くの小さな神社です。お父さんの袴が余分にあるので近藤さんも着ませんか?」

「着方を教えてもらえるなら。茜の着物姿も見たいな。」

「ほらっ、絶対そう言ってくれるって思ってた。良かった~、無駄にならなくて。」

お母さんがしてやったりの顔をする。さすが。


「お父さん、さすがに遅いわね。起こしてくるわね。」

そう言ってお母さんがいなくなると手を触れ合わせながら近藤さんが聞いてきた。

「昨日はずいぶん酔ったけど大丈夫だったのだろうか?変じゃなかったか?」

正直よくわからないけど大丈夫でしょう、そう答えると安心した顔をされた。
気にしてなかった、忘れてた・・・、なんて言いにくい。

お父さんが席に着くと挨拶をしておせちの蓋が外された。
近藤さんの顔が寄る。ものすごく感動してくれてるらしい。
残りの三人で顔を見合わせて笑う。

「写真撮ったらどうだ?みんなびっくりするぞ。」

急いで携帯を持ってくる。

お母さんがお重込みの私と近藤さんを撮ってくれた。

「ありがとう。」

おせちにも驚いたけど私が手伝ったってところにも驚いたらしい。
料理上手なお母さんに習って頑張ります。今年の目標!
煮物を褒めてくれる。大きな鍋でゆっくりと時間をかけて作ったのだ。
私はカットと灰汁取り係を務めた。

お正月から気分がいい。
ゆっくり食事をして、それではと着替えをして初詣に行く。
いつも行く小さな地元の神社で地味な列ができてる。
家族四人・・・・というような塊で横並びでお願いごとをする。
欲張っていろいろ頼んでしまった。1人長々と手を合わせていたみたい。
差し出された近藤さんの手をつないで歩く。

家族の前ですが・・・・・。


私は久しぶりの着物。近藤さんも初めて見る袴姿。
初めて見た時は互い一瞬無言になり、笑顔になった。

「茜、かわいい。似合うよ。」

「近藤さんすごい素敵。落ち着いてる雰囲気に渋さが加わる。」

なんて褒め合い。

お父さんとお母さんも久しぶりだと言う。
もちろん二人で親二人も褒めた。気を遣ったかな?

近藤さんがいるおかげで少し変わったお正月になった。
写真を撮ってもらう。
すごく幸せそうな二人のできあがり、満足満足。

勿体ないけど帰って着替えた。やっぱり楽。
着物はお母さんに任せてお酒の用意をして炬燵に入る。
お父さんがちらりと昆虫本に目をやる。
話をしたいらしいが、とりあえず止めたらしい。

私も加わり三人で酒盛り、着物を仕舞い込んだお母さんも加わる。
煎り黒豆をもって深鉢にあける。
ポリポリと食べながらお酒が進む。
その内スルメとマヨネーズ、チーズ、チョコレート。
お母さんがあらゆるものをかき集めての酒会になった。

近藤さんが私の手を握り、笑顔で笑いかけてくれる回数が増えてきた。
時々頭を撫でられる。

話の内容と関係ない気がするのですが。
ちょっとだけ変だなって思い始めた。

テーブルの上に黒豆でハートを書き始めた時には完全に酔い始めたと思った。
そろそろお酒は止めた方がいいのではと、さりげなく言うと本人はもとより両親も私に苦言を呈した。
お正月くらい好きに飲みたいだろうから、と。
だけど止めないと後で大変なことになったら・・・・。

そして本格的に酔ってきたらしい。

「お父さんは昆虫好きのいい人だし、お母さんは美人で料理が上手くてお世話がすごくさりげないし、ここの家に住みたいなあ。そしたら茜ともたくさん一緒にいれるしなあ。」

「お父さん、どうですか?」

「お母さんは反対ですか?」

「茜、茜からもお願いしてくれよ。こんな暖っかい家から一人の部屋に帰ったら寂しくて泣いちゃうよ。」

「あああ・・・・・茜がいないと部屋が広いし寂しいし。つまんないなあ。」

「ここは居心地がいいなあ。」

「やっぱりここに住みたいなあ。」

「お母さん、僕お風呂とトイレのお掃除係します。お父さんが庭で、茜がその他で、お母さんがキッチン。」

「茜、大好きだから一緒にいようよ。」

さすがにお母さんも何かが違うと感じたらしい。
それなのにお父さんはと言うと。

「近藤君、いつでも泊りに来てくださいね。お風呂掃除任せましたよ。」

お父さんも多分酔っている。同じくらい酔っているんだろう。
とりあえずお父さんはお風呂掃除が一番嫌いだと言うことがバレた瞬間だった。

「近藤さん、少しベッドで寝たらどうですか?昨日もここで寝たし。少し寝て疲れを取って、夕飯食べましょうね。」

「茜も一緒に寝てくれる?一緒がいい。」

「分かりました。一緒一緒。」

ここで照れたらこっちが恥ずかしい思いをするだけだから、適当にあしらい腕を引っ張って2階へ連れて行く。
大人しくついてきてくれた、階段を踏み外すことなく無事に2階へ。
自分の部屋のベッドに寝てもらう。


ペットボトルを一本用意して置いておこうと思った。
それなのに宣言通り私も一緒に引き込まれた。
しょうがない寝るまでと思って頭を撫でる。

3度目だけど、昨日と何が違っただろうか?


昨日の方が量も飲んでる気がするし。
取りあえず寝息が聞こえたら私は起きだしてベッドから降りる。
つながれた手はゆっくり剥がした。
もちろん誰もいなかったら最後まで添い寝しましたが。
下に降りるとお父さんもそのまま後ろに倒れて寝ていた。

お母さんと2人黒豆を食べながらお酒を飲む。

「本当に・・・面白い人ね、近藤さん。」

「そうかも。あんなに酔ったのは3度目。昨日の方が飲んでたよね?」

「そうね、明らかにね。」

本当に何が引き金なんだろう。
思ったほど衝撃的じゃなかったから良かった。
まだ、あれくらいなら・・・・。
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