精一杯背伸びしたら視界に入りますか?

羽月☆

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51 同じ屋根の下にいるのに。

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おせちを食べる近藤さん。
すっかりくつろいで緊張もしてないみたいに見える、馴染んでる。
それにすごく褒められた。
私もだけどお母さんも。

毎年こういう感じだからよくわからないけど、確かにおせちを買う人もいるし、
スーパーにはここぞとばかりに並ぶ。
寄せ集めればあっさりと完成するくらいたくさんの種類が。


年末年始お泊りプラン、すごく楽しい。
朝から時計ばかり見てお母さんに笑われていた私。


お昼過ぎに待ちに待ったメールをもらい駅に迎えに行くと、バッグに紙袋をもって近藤さんが出てきた。
飛びつくように駆け寄って一緒に歩く。
うれしくて笑顔になる。

「大掃除は済んだのか?」

「もちろんです。今はおせちの仕上げ中です。覗かないでくださいね。明日のお楽しみです。」

「手伝うことがあれば手伝うけど。」

「多分、父さんの相手が残ってる仕事です。」

「ちょっと緊張するが。」

「お酒飲んで適当にしててください。」

家についてお父さんのいる和室に入ってもらう。

1人仲間外れにされていたお父さんは喜んだ。

昔はおせちの手伝いをしてくれようとしてたらしいが、今では出入り禁止を言い渡されてる。
『邪魔です。手伝いたいというなら一人静かに過ごしていてください。』と。
この時期は主婦が本気モードを出す。
普段は優しいお母さんもピシリと言い放つことが増える。
昔は私もお父さんと連れ立って外に行って邪魔をしないようにしていた。
それでも遅すぎるとお父さんが怒られていた。
いつもは仲がいいのに。
私はさすがに受験の時以外手伝うようになったので、お父さんは本当に一人で静かにしていた。

今年は生贄の様に近藤さんを差し出しだした。

二人分のお酒と軽いおつまみを運んで扉を閉じる。
私も忙しいのです。
おせちはほとんど完成。
すき焼きの準備をして蕎麦の準備をして。

仕切られた生贄の祭壇からは賑やかな話声が聞こえてくる。
お酒もすすんだのかお父さんの声も大きく、近藤さんの声も良く通る。
途中お母さんと覗くと楽しそうに・・・・昆虫の本を広げて盛り上がっていた。

「凄い、お父さんの相手が出来てる。」

「もっと早く来てもらえばよかったかしら。」お母さんが言う。

お父さんも私を相手にしてる時より随分楽しそう。

やきもち焼くくらいに・・・えっと・・・・・どっちに?

準備が終わり食事の時間にしようと言う。
部屋の片づけと準備の間、二人にはお風呂に入ってもらう。

近藤さんを私の部屋に案内した。

二階に上がり振り向くと抱き寄せられた。
首に腕を回して甘えると耳にキスをされて囁かれた。

「せっかく近くにいるのに大人しい夜を過ごすなんて滅多にないな。」

まだまだ最初の頃、近藤さんの部屋で二人だけの二次会をやったことや、やり直しになった実験で職場に二人で泊まったことが思い出される。
それはそれは随分昔の事の様に思える。

お風呂の支度をした近藤さんを案内する。
その間に和室の準備を。
隅にはたくさんの昆虫本。食後にも続きをやるつもりらしい。
近藤さんがお風呂から出て来て夕食に。


すき焼きはすぐに食べ頃になった。
この後年越しそばが続くのも我が家のいつもの年末。

「近藤さん、茜が素敵なクリスマスプレゼントを頂いたみたいで。ありがとうございました。」

「いえ、本人とお店の人に選んでもらいました。」

「指輪まで。」

「はい、あの・・・はい、いつかちゃんと言えればと思います。」

近藤さんが言う。
お母さんにもお父さんにも伝えた。
内緒で買ってくれたこと、もっと長く付き合いお互いが納得したらもう一度言ってくれると言われたことも。

「お母さんたちも楽しいクリスマスだったみたいよ。」

近藤さんに言う。

「お母さんとお父さんも同じ職場だったんですか?」

私もちょっとしか聞いてない『父母出会い』編



違う職場でしたよ。
でも向かいのビルだったからお昼にはビルの前に来るお弁当屋さんのワゴンに並んで。
ある日私が買ったお弁当の種類が最後の1個で。
次に後ろで頼んだお父さんは売り切れって言われてすごくがっかりした声を出して。
そこで顔を見たのが初めてだったくらい。
あんまりにがっかりしてるから譲ってあげたの。
そしたらお父さんすごくうれしそうな顔をしたけど、そのあとしまったという顔をして遠慮して。
結局公園で一緒に半分づつ食べましょうって話になって。
その時に名刺を交換して、名前が分かって。
電話なんかしなかったけど時々お昼には顔を合わせて話をしたりして。
私が友人と2人の時は全く話しかけてこないのに、一人の時は一緒にランチして。
友達には相談してたから全然平気だったのに。
今みたいに携帯があればもっと早くにちゃんちゃんと誘ってもらえたんだけど。
『夕食に行きませんか?』って誘ってもらうまでに本当に時間がかかったから。
何度も誘いやすい様にいろんな話をしてたのに。
好きな人も恋人もいないとか、一人でまっすぐに家に帰るつまらない毎日だとか。
週末もあんまり用事は作らずぼんやりしてることが多いとか。
せっかく教えてもお父さんはぼんやりしてて。
本当に思い出してもイライラしちゃう。

お父さんはゆっくりとすき焼きを食べている。
照れもせず、言い訳もせず。

小さくついたテレビからはおなじみの歌番組。
有名な女の子が歌う歌は今時の歌詞で。
想像していた若い頃のお父さんとお母さんの恋愛話を聞いてると違和感がある。
そんな時代のふたり。なんだか不思議。

「ねえ、お父さんはどうだったの?」

「ん・・・・。」

動いていたて口が止まる。

「・・・・・それは、なかなか難しい。お母さんはそう言っても会社仲間と一緒に出掛ける姿を何度か見かけたことがあったし。誘ってみても断られたら楽しいお昼の時間もなくなるし。」

「だからいろいろと教えてあげたのに。話、聞いてたの?」

「緊張してたし、食べてたし。」

言い訳にならないと思うのだが・・・・。

「そうなのよ、近藤さん。」

「はい、何でしょうか?」

いきなりのお母さんのきつい視線が近藤さんを指す。

「この人は食事中はほとんど会話に気を向けられないと言う体質なの。そんな人いる?」

お父さん、そう言えば食べる時はマイペースだった、いつも。

そういうことだったの?・・・・娘の私でも初めて知った事実。

「今ではすっかり慣れたけど本当に覚えてないの。箸をおいたときに話しかけなきゃダメな人なの。」

「はあ。」近藤さんの相槌のような声。

「茜の恋愛相談は楽しかったなあ、久しぶりでこっちもドキドキしちゃって。」

「お母さんも近藤さんの顔は好きだしね。」

ぶふぉ。隣で近藤さんがむせる。

ちょっと言い方が悪かった?

そんな話をしながら野菜も肉もなくなり。一度何もなくなったテーブル。
テーブルを拭いて蕎麦の準備をする。
シンプルに蕎麦。

その後はまたお酒が運ばれて同時に空いたテーブルのスペースに本がのせられた。
お父さんの楽しみな時間が再会された。

お願いします、近藤さん!

お母さんと片づけをしながらも声が聞こえていて、楽しそうだなって安心していた。
さっきと同じ熱量で昆虫話が続いて・・・・・・、しばらくしたら終わりを迎えたらしい。

気がつくと静かになっていた。
ふたりとも撃沈。

しばらく放置してお母さんと交代でお風呂に入り・・・・・。
結局起きない二人はそのままに毛布を掛けて寝かせておいた。

せっかくくっついて眠れると思ってたのに。
別に何もしないけど・・・キス位は。何で一人で寝るの?
そこにある近藤さんの荷物。着ていた服は畳まれていて。
広げてハンガーにかけるふりしてちょっと抱きしめて匂いを嗅いだ。

覚えてる、ちゃんと近藤さんの匂いがする。



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