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3 まだまだ終わらない最悪だった日。
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改札を出て、人のまばらになった会社に足を踏み入れた。
残業してる人もいる。
楽しそうな会話も聞こえてくる。
自分の席に荷物を置いてファイルを取り出して提出した。
そのまま席に座りため息をついた。
「あれ、直帰じゃなかったの?」
一つ上の先輩がびっくりしたように言う。
「契約書をもらい直してきました。来週でもいいとは言われたんですが落ち着かなくて。」
「シュレッダーにかけたんだって?悲鳴が聞こえてたからみんな知ってるよ。」
それはもちろんやらかした本人の悲鳴だ。
「なかなか大変だね。本人も日々反省はして挽回するつもりで頑張ってるみたいだけど、呉さんも頑張って面倒見てるみたいだしね。」
弱い笑顔と抜けた笑い声にしかならない。
富田林君は日々精進あるのみ。
私は常に忍耐あるのみ。
手を振っていなくなった先輩。
机に手をついて反動をつけるようにして立ち上がった。
帰ろう、帰りたい。
せっかくの金曜日なのに。
本当は楽しい女子会のはずだったのに。
今日の事は忘れよう。
余計な手間で謝罪を繰り返したことも、その後飲みに行ったことも、そこで昔の知り合いに会ってしまったことも、全部忘れよう。もう書類も手放したんだし。
そう思ったはずなのに・・・・。
エレベーターを降りてビルを出ようとして、思わず立ち止まった。
なんでいるの?
誰かと待ち合わせしてたの?
止まった私に気が付いたみたいで、ゆっくりこっちに歩いてきた。
気遣いは無用なのに。
まだまだ今日は終わらない。
私も前を向いて歩いた。
「どうしたの?」
「待ってました。」
「別に良かったのに。部長はいなかったけど机の上に提出してきて終わりだし。」
「それだけにしてはゆっくりでしたね。」
「知り合いと話をしてただけよ。」
「良かったです、一人で帰ることにしてもらえて・・・・じゃあ、飲みに行きませんか?」
「もう行ったじゃない。今日の謝罪の埋め合わせは終わったからいいわよ。」
今日を終わりにしたい気分なの。
もう帰りたいの。
「まっすぐ帰って安眠できるんですか?何か嫌なことがあったなら、愚痴でもなんでも付き合います。」
相手が富田林君に限るなら愚痴というより説教になるのに。
そんな気力も今日はないのに。
「呉さんにも落ち着いていてもらえるようなお店を予約しました。行きましょう。」
そう言って軽く腕を掴まれた。
ただその手はすぐに外れた。
なんの惰性か大人しくあとをついて行く自分。
目的も分からず目指すゴールも分からない。
歩きはゆっくりとしていた。
そんな私の歩調に合わせるように隣を歩く富田林君。
「金曜日なのに、早く帰らなくてもいいの?」
「別にいいです。呉さんは?」
「今さら?」
すみません、と小さく聞こえた。
どういうこと????
連れてこられたのは上層階にホテルが入ってるビルだった。
低層階に少し、上の方にも食事とお酒が飲めるところはあるだろうけど、上と下では料金がずいぶん違うだろう。当然下の階だと思ったのに。
そのままエレベーターに乗り込み上の方を目指した。
それでも歩いて行ったのはホテルのラウンジバーだった。
グランドピアノがあって演奏予定でもあるのか楽譜が置かれてるのも見える。
「よく来るの?」
「まさかです。初めてです。」
そう言って名前を言って席に案内してもらった。
席はほぼいっぱいだった。
だって贅沢遣いのソファ席。
120度くらいの丸みのあるソファに90度くらいの角度を持って座った二人。
早速メニュー表を見ておすすめのカクテルをお願いした。
奢り?かなり高いけど、奢り?
貧乏とか言ってた年下の新人に、ご馳走になる第二弾でいい?
そうちらりとは思ったけど、当然払うつもりにはなった。
滅多に来ないんだから遠慮もしたくないし。
ちょっとしたおつまみも頼んだ。
ちょっとしたものでもそれなりにおしゃれな形の入れ物で来るんだから、それなりの料金だ。
私が提出すると言ってしまったから、反省が猛省になってこうなったんだろうか?
無事に終わったから、まあ、いいのに。
そんな事を思って視界の隅っこに富田林君をいれて美味しいお酒に口をつけていたのに。
「あの人が噂の人でしたか?」
「何?」
「さっきのお店で見ていた男の人です。呉さんよりも少し年上かと、そう見えました。」
何、さっきのお店って・・・・。
思い出しそうな映像をばさりと切ってすべての集中力を斜め横の富田林君に注いだ。
「少し前にお別れしたって聞いてます。前にあの駅は近寄りたくない駅ナンバーワンになったって言ってましたよね。向こうも呉さんを気にしてました。それは多分ですが。」
誰が言った?あいつの事なんて誰が新人に教えたの?
でも課内では知ってる人が多いかもしれない。
隠せなかったイライラと落ち込み。
同期も知ってる、奢ってもらって元気になったし。
「だからあのまま帰ると言われても、変に思い出に浸るんじゃないかと思って誘いました。」
「過去の事にそんなにこだわるつもりはないけど。それにそんな出来事の一つや二つあるでしょう?富田林君は引きづるタイプなの?私は飲んで食べて忘れられるタイプなの。」
一気にそう言い切って、自分にも言い聞かせた。
丸ごと忘れるつもりだったのに、蒸し返したのは富田林君じゃないか。
まったく。
グイッとお酒を飲んだ。
「本当に美味しい。そっちはどう?」
感想を教えられるよりもグラスを渡された。
「いい、美味しいなら自分でも頼もうかなって思ったの。どう?」
「美味しいです。」
「じゃあ、次に頼もう。」
学生時代なら男女でも友達なら平気で回し飲みをしていた気がする。
今、それをやられて、とんでもないって思った私。
ちょっと前までそんな事をしていた新人とは違う感覚になったらしい。
いっぱしの大人になり窮屈に考えてしまうことも増えてしまう。
そんな成長がこの二年の間に自分に起こったらしい。
「呉さん。」
「何?」
「最初、日本人じゃないのかと思いました。名前の漢字がちょっと違う国の方でもありそうだと思って。」
そう言われたら驚くしかない。
国籍を疑われたなんて初めてで。
「言われたことないけど、自分でもびっくりするくらい。顔を見たらすぐに分かるでしょう?」
「それは、分からなくて。こっそりほかの先輩に聞いたら確かにびっくりされました。」
「そうでしょうね。」
確かに『呉』はそんな誤解も生みそうだけど、でもやっぱり初めて言われた。
今まで出会っていた中にも疑った人がいたりしたんだろうか?
それは分からない。
「富田林君こそ名字二文字で名前三文字でもいいでしょう?切れ目にスペースが空いてないとかなりの確率で間違えられそうじゃない。」
「そうですね。僕はよくそう言われましたし、呼ぶのが面倒だと言って名字を短くされたり、名前を長くされたりしました。」
「そうでしょう。そうだと思った。」
「呉さん、本当にスッキリ忘れられるほうなんですか?」
せっかく話題が変わって転がっていたのに、また元に戻してくれたヤツ。
「悪い?」
声も尖り気味になる。
その声に反応して続けられる言葉はなかった。
お酒を飲む、ただ飲む、あっという間に空になる。
合間に少しだけ目の前の野菜に手を付ける。
空になったお酒のグラスをとりあげられてメニュー表を渡された。
さらりと開いて、メニューを目で追ってパタリと閉じた。
手をあげてくれて、呼ばれた店員さんに次のオーダーをお願いした。
ずっと無言の二人。
「ずっと綺麗ですよ。さっき一緒にいた女の人より、ずっと、いいと思います。」
やっと口にされたのはそんな事だった。
『君の個人的感想は今全く参考にもならないし、聞いてもいないです!』
そう言いたい。
だって選ばれたのはあの子だったんだから。
私の相手だった人が選んだ、それだけの事実でお終いになる関係はあるんだから。
「全然、呉さんの方が・・・。」
「私の何を知ってるの?」
途中でかぶせるようにそう言った。
よく知らない女性を二人並べて比べるなんて、ただの印象による好みであって、しかも本当にちらりとしか見えてなかったと思うのに。それはあの子にも失礼でしょう。
かばいたくもないのに・・・そう思ってしまった自分が嫌になる。
精一杯慰めてるつもりなんだろうか?
もう過去の事なのに。
今更の事なのに。
またお酒が空になり、次をお願いした。
美味しいはずなのに、怒りを鎮めるように口にしてるのは失礼じゃない。
丁寧に作ってくれてるのに。
もうそろそろ終わりにしたい量を飲んだかもしれない。
ホッと息をついてグラスを見つめる。
「ちゃんと送って行きますので。」
「別に必要ないから。」
まだそんなに遅くはないはず。
遅れてお代わりをしている富田林君。
やはり強いから、全く変わりはない。
「本当に強いのね。それで、そんな富田林君はどんな恋愛をしてきたの?」
「別に普通です。」
「それじゃあ私が普通じゃないみたいじゃない。」
「そういう訳じゃないです。」
「人気あったんじゃない?ガツガツしそうでもないし、見た目は爽やか系だし、優しそうでもあるし。」
「別に・・・普通です。」
「ふ~ん。」
普通に人気があって問題なかったらしい。
今やり取りしてる担当はみんな男性で、特に社外の人にどういう風に見られてるのかは分からない。
それでも男性にも嫌われるタイプじゃないだろう。
そこは普通に印象はいいんだろう。
まさか取り交わした契約書をシュレッダーにかけてしまうとは、それ以外にも私まで巻き込んで謝罪を必要とされる日々を送ってるとは、そうは見えないんだから。
ゆっくり目を閉じた。
自分の息がお酒臭い。
このまま電車に乗るのもどうかと思う。
すこし目を覚ましてからの方がいいかもしれない。
でも今は目を閉じていたい気分。
今日は散々な日だったんじゃない?
朝から面倒な書類を片付けて、うまく取り交わして終わったと思った書類がもらい直しになって、謝罪は倍にも必要で頭を下げて、その前に上司にも怒られた。
そして極めつけは避けたかった相手との遭遇。
さらに蒸し返されるように聞かれたりして、掘り起こして再現シーンのように思い出してしまって。
「すみません。」
小さく謝る声が聞こえた気がした。
眠い、飲み過ぎたかも。金曜日はやっぱり一週間の疲れが溜まってるから。
女子会で騒ぐつもりだったのに、ただ疲れが前面に出てしまう・・・・。
残業してる人もいる。
楽しそうな会話も聞こえてくる。
自分の席に荷物を置いてファイルを取り出して提出した。
そのまま席に座りため息をついた。
「あれ、直帰じゃなかったの?」
一つ上の先輩がびっくりしたように言う。
「契約書をもらい直してきました。来週でもいいとは言われたんですが落ち着かなくて。」
「シュレッダーにかけたんだって?悲鳴が聞こえてたからみんな知ってるよ。」
それはもちろんやらかした本人の悲鳴だ。
「なかなか大変だね。本人も日々反省はして挽回するつもりで頑張ってるみたいだけど、呉さんも頑張って面倒見てるみたいだしね。」
弱い笑顔と抜けた笑い声にしかならない。
富田林君は日々精進あるのみ。
私は常に忍耐あるのみ。
手を振っていなくなった先輩。
机に手をついて反動をつけるようにして立ち上がった。
帰ろう、帰りたい。
せっかくの金曜日なのに。
本当は楽しい女子会のはずだったのに。
今日の事は忘れよう。
余計な手間で謝罪を繰り返したことも、その後飲みに行ったことも、そこで昔の知り合いに会ってしまったことも、全部忘れよう。もう書類も手放したんだし。
そう思ったはずなのに・・・・。
エレベーターを降りてビルを出ようとして、思わず立ち止まった。
なんでいるの?
誰かと待ち合わせしてたの?
止まった私に気が付いたみたいで、ゆっくりこっちに歩いてきた。
気遣いは無用なのに。
まだまだ今日は終わらない。
私も前を向いて歩いた。
「どうしたの?」
「待ってました。」
「別に良かったのに。部長はいなかったけど机の上に提出してきて終わりだし。」
「それだけにしてはゆっくりでしたね。」
「知り合いと話をしてただけよ。」
「良かったです、一人で帰ることにしてもらえて・・・・じゃあ、飲みに行きませんか?」
「もう行ったじゃない。今日の謝罪の埋め合わせは終わったからいいわよ。」
今日を終わりにしたい気分なの。
もう帰りたいの。
「まっすぐ帰って安眠できるんですか?何か嫌なことがあったなら、愚痴でもなんでも付き合います。」
相手が富田林君に限るなら愚痴というより説教になるのに。
そんな気力も今日はないのに。
「呉さんにも落ち着いていてもらえるようなお店を予約しました。行きましょう。」
そう言って軽く腕を掴まれた。
ただその手はすぐに外れた。
なんの惰性か大人しくあとをついて行く自分。
目的も分からず目指すゴールも分からない。
歩きはゆっくりとしていた。
そんな私の歩調に合わせるように隣を歩く富田林君。
「金曜日なのに、早く帰らなくてもいいの?」
「別にいいです。呉さんは?」
「今さら?」
すみません、と小さく聞こえた。
どういうこと????
連れてこられたのは上層階にホテルが入ってるビルだった。
低層階に少し、上の方にも食事とお酒が飲めるところはあるだろうけど、上と下では料金がずいぶん違うだろう。当然下の階だと思ったのに。
そのままエレベーターに乗り込み上の方を目指した。
それでも歩いて行ったのはホテルのラウンジバーだった。
グランドピアノがあって演奏予定でもあるのか楽譜が置かれてるのも見える。
「よく来るの?」
「まさかです。初めてです。」
そう言って名前を言って席に案内してもらった。
席はほぼいっぱいだった。
だって贅沢遣いのソファ席。
120度くらいの丸みのあるソファに90度くらいの角度を持って座った二人。
早速メニュー表を見ておすすめのカクテルをお願いした。
奢り?かなり高いけど、奢り?
貧乏とか言ってた年下の新人に、ご馳走になる第二弾でいい?
そうちらりとは思ったけど、当然払うつもりにはなった。
滅多に来ないんだから遠慮もしたくないし。
ちょっとしたおつまみも頼んだ。
ちょっとしたものでもそれなりにおしゃれな形の入れ物で来るんだから、それなりの料金だ。
私が提出すると言ってしまったから、反省が猛省になってこうなったんだろうか?
無事に終わったから、まあ、いいのに。
そんな事を思って視界の隅っこに富田林君をいれて美味しいお酒に口をつけていたのに。
「あの人が噂の人でしたか?」
「何?」
「さっきのお店で見ていた男の人です。呉さんよりも少し年上かと、そう見えました。」
何、さっきのお店って・・・・。
思い出しそうな映像をばさりと切ってすべての集中力を斜め横の富田林君に注いだ。
「少し前にお別れしたって聞いてます。前にあの駅は近寄りたくない駅ナンバーワンになったって言ってましたよね。向こうも呉さんを気にしてました。それは多分ですが。」
誰が言った?あいつの事なんて誰が新人に教えたの?
でも課内では知ってる人が多いかもしれない。
隠せなかったイライラと落ち込み。
同期も知ってる、奢ってもらって元気になったし。
「だからあのまま帰ると言われても、変に思い出に浸るんじゃないかと思って誘いました。」
「過去の事にそんなにこだわるつもりはないけど。それにそんな出来事の一つや二つあるでしょう?富田林君は引きづるタイプなの?私は飲んで食べて忘れられるタイプなの。」
一気にそう言い切って、自分にも言い聞かせた。
丸ごと忘れるつもりだったのに、蒸し返したのは富田林君じゃないか。
まったく。
グイッとお酒を飲んだ。
「本当に美味しい。そっちはどう?」
感想を教えられるよりもグラスを渡された。
「いい、美味しいなら自分でも頼もうかなって思ったの。どう?」
「美味しいです。」
「じゃあ、次に頼もう。」
学生時代なら男女でも友達なら平気で回し飲みをしていた気がする。
今、それをやられて、とんでもないって思った私。
ちょっと前までそんな事をしていた新人とは違う感覚になったらしい。
いっぱしの大人になり窮屈に考えてしまうことも増えてしまう。
そんな成長がこの二年の間に自分に起こったらしい。
「呉さん。」
「何?」
「最初、日本人じゃないのかと思いました。名前の漢字がちょっと違う国の方でもありそうだと思って。」
そう言われたら驚くしかない。
国籍を疑われたなんて初めてで。
「言われたことないけど、自分でもびっくりするくらい。顔を見たらすぐに分かるでしょう?」
「それは、分からなくて。こっそりほかの先輩に聞いたら確かにびっくりされました。」
「そうでしょうね。」
確かに『呉』はそんな誤解も生みそうだけど、でもやっぱり初めて言われた。
今まで出会っていた中にも疑った人がいたりしたんだろうか?
それは分からない。
「富田林君こそ名字二文字で名前三文字でもいいでしょう?切れ目にスペースが空いてないとかなりの確率で間違えられそうじゃない。」
「そうですね。僕はよくそう言われましたし、呼ぶのが面倒だと言って名字を短くされたり、名前を長くされたりしました。」
「そうでしょう。そうだと思った。」
「呉さん、本当にスッキリ忘れられるほうなんですか?」
せっかく話題が変わって転がっていたのに、また元に戻してくれたヤツ。
「悪い?」
声も尖り気味になる。
その声に反応して続けられる言葉はなかった。
お酒を飲む、ただ飲む、あっという間に空になる。
合間に少しだけ目の前の野菜に手を付ける。
空になったお酒のグラスをとりあげられてメニュー表を渡された。
さらりと開いて、メニューを目で追ってパタリと閉じた。
手をあげてくれて、呼ばれた店員さんに次のオーダーをお願いした。
ずっと無言の二人。
「ずっと綺麗ですよ。さっき一緒にいた女の人より、ずっと、いいと思います。」
やっと口にされたのはそんな事だった。
『君の個人的感想は今全く参考にもならないし、聞いてもいないです!』
そう言いたい。
だって選ばれたのはあの子だったんだから。
私の相手だった人が選んだ、それだけの事実でお終いになる関係はあるんだから。
「全然、呉さんの方が・・・。」
「私の何を知ってるの?」
途中でかぶせるようにそう言った。
よく知らない女性を二人並べて比べるなんて、ただの印象による好みであって、しかも本当にちらりとしか見えてなかったと思うのに。それはあの子にも失礼でしょう。
かばいたくもないのに・・・そう思ってしまった自分が嫌になる。
精一杯慰めてるつもりなんだろうか?
もう過去の事なのに。
今更の事なのに。
またお酒が空になり、次をお願いした。
美味しいはずなのに、怒りを鎮めるように口にしてるのは失礼じゃない。
丁寧に作ってくれてるのに。
もうそろそろ終わりにしたい量を飲んだかもしれない。
ホッと息をついてグラスを見つめる。
「ちゃんと送って行きますので。」
「別に必要ないから。」
まだそんなに遅くはないはず。
遅れてお代わりをしている富田林君。
やはり強いから、全く変わりはない。
「本当に強いのね。それで、そんな富田林君はどんな恋愛をしてきたの?」
「別に普通です。」
「それじゃあ私が普通じゃないみたいじゃない。」
「そういう訳じゃないです。」
「人気あったんじゃない?ガツガツしそうでもないし、見た目は爽やか系だし、優しそうでもあるし。」
「別に・・・普通です。」
「ふ~ん。」
普通に人気があって問題なかったらしい。
今やり取りしてる担当はみんな男性で、特に社外の人にどういう風に見られてるのかは分からない。
それでも男性にも嫌われるタイプじゃないだろう。
そこは普通に印象はいいんだろう。
まさか取り交わした契約書をシュレッダーにかけてしまうとは、それ以外にも私まで巻き込んで謝罪を必要とされる日々を送ってるとは、そうは見えないんだから。
ゆっくり目を閉じた。
自分の息がお酒臭い。
このまま電車に乗るのもどうかと思う。
すこし目を覚ましてからの方がいいかもしれない。
でも今は目を閉じていたい気分。
今日は散々な日だったんじゃない?
朝から面倒な書類を片付けて、うまく取り交わして終わったと思った書類がもらい直しになって、謝罪は倍にも必要で頭を下げて、その前に上司にも怒られた。
そして極めつけは避けたかった相手との遭遇。
さらに蒸し返されるように聞かれたりして、掘り起こして再現シーンのように思い出してしまって。
「すみません。」
小さく謝る声が聞こえた気がした。
眠い、飲み過ぎたかも。金曜日はやっぱり一週間の疲れが溜まってるから。
女子会で騒ぐつもりだったのに、ただ疲れが前面に出てしまう・・・・。
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