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2 さらに最悪なことがあった日。
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面会手続きをとりフロアに上がって行こうと思ったら、下に降りてきてくれると言われた。
大人しく二人で反省モードで待つ。
「お疲れ。」
軽くそう言われた、当然二人でペコペコと謝罪をした。
もちろんメインは私が。
『貧乏くじのこいつがこの度とんだ失敗を』と言いたいのを、『手違いで書類の肝心な一枚をシュレッダーにかけてしまいました。』そう正直に告解して許しを請う。
「どうしたらそうなるんだろう?」
確かに私もそう思います、と言いたいくらい純粋に反応された。
また謝る私と隣の貧乏くじ。
「じゃあ、早速。」
そう言って署名と印を押してもらい、用件クリア。
「じゃあこれでいいかな?」
そう言って書類を返された。
当然です。完璧です。
押しいただくようにしてお礼を言い、もう一度謝罪した。
「お手数かけてすみませんでした。」
「ああ、まあね。じゃあ、お疲れ様。」
そう言って手を振って会社から出て行った人。
もしかして待っていてくれたのかもしれない。
相手にも少しの残業を強いたのかもしれない、そう思って時計を見たら終業時間一時間くらい過ぎだった。
まだ良かったと、そう思いたい。
私が思うんじゃなんだけど、そう思ってもらいたいくらい。
自分の肩の力が抜けて、同じように隣でも深い息をついたらしい。
じっと見てたら気が付いたらしく怯えるような眼をされた。
最初の春には見れなかった目の色と動き。
すっかり情けない雰囲気が出てくる。
「帰るわよ。」
そう宣言するように歩き出した。
頂いた書類はファイルに入れてバッグに入れて。
手元からは離すまい。直接上司に出してやろう。
とりあえず無事に書類が整ったことを連絡した。
「お疲れ様です、呉です。謝罪をして書類をいただきました。今から・・・・・あ・・・・分かりました。責任をもって提出いたします。はい、お疲れさまでした。」
今から急いで帰る必要はないらしい。
それでも手放したい気分だ。
とりあえずちょっとだけの寄り道で提出して帰ることにした。
上司も早く帰りたい金曜日。
『待ってないからね。』ということだろうけど。
上司の声は漏れ聞こえただろう。
隣では指示待ちの顔。
「提出は週明けでいいみたい。駅で解散しましょう。私が提出します。」
歩き続けた、前を向いて、とりあえず今日のノルマは終わりにしたい。
それにこの辺の空気を無駄に長く吸うのは嫌だ、そうも思ってた。
別に今から女子会になんて気分には少しもなってなかった。
そこは一度諦めたから、断ったし、もういいと思ってた。
「あの・・・・・呉さん、お詫びをさせてください、是非。」
後ろから追い越し気味に前に出て、顔を見てそう言われた。
そこは私よりも背が高いし、立ち止まられたから私も止まった。
「別にいいわよ。」
とりあえずここからは離れたい。
そんな思いは相変わらず私の心の壁にくっついたまま。
「いえ、本当にいろいろご迷惑をかけてます。今日がダメなら、いつがいいでしょうか?」
そんな気遣いはいらないのに。
なんなら小さな菓子折りの一つで今までの大部分は忘れかけてあげてもいいのに。
動かない富田林君。
「お腹空いてませんか?お酒でもいいです。」
「飲みたいの?」
「・・・・はい。」
そうとは思えないけど。
「やっぱりいいわよ。」
「軽く一杯か二杯とちょっとだけでも。」
しつこいらしい。
どうかした?説教されたい?それとも何か驚くような相談でもあるとか?
「じゃあ、軽くだけ。」
だってこの後会社に戻るんだから。
駅前に来ていたからそのまま歩いた。
「逆の方がお店はあるでしょうか?」
そう言われた。
「知ってるの?」
「何度か飲んだことはありますが学生の頃友達となので、呉さんはもっといい所がいいですよね。」
「じゃあ、軽く飲めるところを少しは知ってるから。」
ついそう言って自分で歩き出したのは駅の逆口。
ああ・・・・苦い思い出にしかなってないような場所へ自分から向かってしまってるじゃない。
お店の前に立ち、思わずため息も出た。
「ここですか?いい感じですね。」
「まあ、そんな感じ。」
思い出を振り切るように、扉を押して入った。
でも一番目の感想は『変わってないな。』と懐かしむようなそんなものだった。
当然座ったことのない席を選んで、富田林君を引き連れて座った。
勝手にメニュー表を開いて、手をあげる。
軽く一杯。
グラスを合わせて飲む。
ホッとしたのもあって飲み口も相変わらずよくて。
食べ物も相談して注文した。
「いつも行ってるお店はどんな感じ?」
「こんなおしゃれなところよりももっとうるさい所です。ヤロー飲みの定番のカロリー多めの物が出てくるようなところです。」
「おしゃれなお店も知ってるんじゃない?」
「そんなことないです。貧乏学生だったし、今でもまだまだだからそんな学生延長のお店ですよ。」
「ふ~ん。伊佐野君とは仲がいいよね。」
貧乏くじじゃないもう一人のほうの新人君だ。
「はい。仲良くしてもらってます。」
「良かったね。」
あんまり会話も楽しい感じじゃない。
それは相手のせいもあるし、やっぱりこの場所のせいもあるんだと思う。
申し訳なく思って来たのでもっと笑顔を増やしてみた。
「美味しいわね。好き嫌いないの?」
前に食べた事のあるチーズを使ったおつまみだった。
味は変わらず、罪もなく美味しいまま。
それを選んだのは富田林君だった。
「ないです、多分。これは説明書きで想像してたのとは全く違いましたが美味しいですね。」
「そうね。そう言えばお酒も強かったもんね。酒豪の酒々井(しすい)さんがライバルが入ってきたって喜んでたから、今度からとことん付き合わされるんじゃない?」
「はい、もう何度か一緒に連れてってもらってます。本当に強いですよね。でも負けてないです。呉さんはあんまりでしたよね?」
「普通です。5杯くらい飲めればいいでしょう?二人の最後までは付き合いきれないわよ。」
「歓迎会の時に真っ赤になってましたよ。いつもの雰囲気が柔らかくなって・・・・・。」
途中で止める不器用さ。
さり気なく言い直すこともできないくらい正直な失言に焦ったのだろう。
いつもはもっとガチガチでトゲトゲだと言いたいんだろう、でも誰のせいよ!
「あの時はうっかり5杯以上飲んだかもしれない。」
さり気なく聞き流すくらいは出来る。
「今日も誘ったのでちゃんと駅まで送ります。」
「そんなに飲まないわよ。」
だから会社に寄るんだってば。
ああ・・・面倒。
そんな風に思って背中に置いたバッグをチラリと見た時に、見たくないものを見た気がした。
そして向こうも気が付いたんだと思う、お互い視線が合って止まった。
ああ・・・やっぱり一刻も早くこの駅は離れるべきだったのに。
ゆっくり視線を戻した、多分向こうも。
隣にいたのは可愛らしい女性だった。
多分若い。
ちらりと見ただけでも分かる、そう思った。
よくいるような甘い女子。あんな子が好きだったんだろうか?
ほんのちょっとの間に服と横顔と雰囲気でそんな印象を持った。
俯いて考える。
向こうが後に入ってきたから、こっちが先に出るのが普通だろう、別に変じゃない。
目の前の料理を見つめて口を動かし、反対の手はグラスをつかんで離さず。
自分の分と思われる分より少し余分に食べて、飲み切った。
手を合わせてご馳走様、終わりの合図。
無言でそこまでいった私をぼんやり見てるかもしれない。
でも何かに気が付くほどの洞察力はないだろう。
「ああ、会社に戻ると思うとゆっくりも出来ないなあ、面倒。」
わざとそう言った。
「え、戻るんですか?」
「だって来週まで持ってるのも嫌じゃない、早く手放したいから提出は今日中にしたいの。」
「じゃあ、僕が戻ります。」
「いい、そこは責任もって提出するから。」
ピシャリと響いたかもしれない。
暗に信頼できないと伝わったかもしれない。
「ささっと提出してくるだけだし、別にいいよ。」
そう付け足した。
返事はなかった。
お酒を飲んで食べて、ちょっと急がせたかもしれない。
「じゃあ、ここは僕が払います。」
「そう・・・よろしく。ありがとう。」
もし・・・・このセリフが聞こえてたら、どう思うだろう。
多分恋人には見えてないだろう。
先に歩き出した私、後についてくる富田林君。
後ろを通り過ぎるとき、少し足取りが逃げるようになったかもしれない。
もう二度とこの駅には来たくない。
もう二度とこのあたりで食事をすることはないだろう。
本当に今日だってそんな予定じゃなかったのに・・・・。
会計を終えて二人で駅に向かう人混みに紛れた。
会社までは同じ方向だから隣同士で電車に乗り。
会社の駅について別れた。
「じゃあね。ごちそうさまでした。また来週。」
何かを振り切るようにそう言って、急ぎ足で改札に向かった。
あのまま一人で乗り換えをして帰っていくだろう。
今日のおごりで少しは恩返ししたつもりになってるだろう。
まさかそれが余計に古傷のかさぶたを剥ぐ行為になったなんて思ってもいないだろう。
大人しく二人で反省モードで待つ。
「お疲れ。」
軽くそう言われた、当然二人でペコペコと謝罪をした。
もちろんメインは私が。
『貧乏くじのこいつがこの度とんだ失敗を』と言いたいのを、『手違いで書類の肝心な一枚をシュレッダーにかけてしまいました。』そう正直に告解して許しを請う。
「どうしたらそうなるんだろう?」
確かに私もそう思います、と言いたいくらい純粋に反応された。
また謝る私と隣の貧乏くじ。
「じゃあ、早速。」
そう言って署名と印を押してもらい、用件クリア。
「じゃあこれでいいかな?」
そう言って書類を返された。
当然です。完璧です。
押しいただくようにしてお礼を言い、もう一度謝罪した。
「お手数かけてすみませんでした。」
「ああ、まあね。じゃあ、お疲れ様。」
そう言って手を振って会社から出て行った人。
もしかして待っていてくれたのかもしれない。
相手にも少しの残業を強いたのかもしれない、そう思って時計を見たら終業時間一時間くらい過ぎだった。
まだ良かったと、そう思いたい。
私が思うんじゃなんだけど、そう思ってもらいたいくらい。
自分の肩の力が抜けて、同じように隣でも深い息をついたらしい。
じっと見てたら気が付いたらしく怯えるような眼をされた。
最初の春には見れなかった目の色と動き。
すっかり情けない雰囲気が出てくる。
「帰るわよ。」
そう宣言するように歩き出した。
頂いた書類はファイルに入れてバッグに入れて。
手元からは離すまい。直接上司に出してやろう。
とりあえず無事に書類が整ったことを連絡した。
「お疲れ様です、呉です。謝罪をして書類をいただきました。今から・・・・・あ・・・・分かりました。責任をもって提出いたします。はい、お疲れさまでした。」
今から急いで帰る必要はないらしい。
それでも手放したい気分だ。
とりあえずちょっとだけの寄り道で提出して帰ることにした。
上司も早く帰りたい金曜日。
『待ってないからね。』ということだろうけど。
上司の声は漏れ聞こえただろう。
隣では指示待ちの顔。
「提出は週明けでいいみたい。駅で解散しましょう。私が提出します。」
歩き続けた、前を向いて、とりあえず今日のノルマは終わりにしたい。
それにこの辺の空気を無駄に長く吸うのは嫌だ、そうも思ってた。
別に今から女子会になんて気分には少しもなってなかった。
そこは一度諦めたから、断ったし、もういいと思ってた。
「あの・・・・・呉さん、お詫びをさせてください、是非。」
後ろから追い越し気味に前に出て、顔を見てそう言われた。
そこは私よりも背が高いし、立ち止まられたから私も止まった。
「別にいいわよ。」
とりあえずここからは離れたい。
そんな思いは相変わらず私の心の壁にくっついたまま。
「いえ、本当にいろいろご迷惑をかけてます。今日がダメなら、いつがいいでしょうか?」
そんな気遣いはいらないのに。
なんなら小さな菓子折りの一つで今までの大部分は忘れかけてあげてもいいのに。
動かない富田林君。
「お腹空いてませんか?お酒でもいいです。」
「飲みたいの?」
「・・・・はい。」
そうとは思えないけど。
「やっぱりいいわよ。」
「軽く一杯か二杯とちょっとだけでも。」
しつこいらしい。
どうかした?説教されたい?それとも何か驚くような相談でもあるとか?
「じゃあ、軽くだけ。」
だってこの後会社に戻るんだから。
駅前に来ていたからそのまま歩いた。
「逆の方がお店はあるでしょうか?」
そう言われた。
「知ってるの?」
「何度か飲んだことはありますが学生の頃友達となので、呉さんはもっといい所がいいですよね。」
「じゃあ、軽く飲めるところを少しは知ってるから。」
ついそう言って自分で歩き出したのは駅の逆口。
ああ・・・・苦い思い出にしかなってないような場所へ自分から向かってしまってるじゃない。
お店の前に立ち、思わずため息も出た。
「ここですか?いい感じですね。」
「まあ、そんな感じ。」
思い出を振り切るように、扉を押して入った。
でも一番目の感想は『変わってないな。』と懐かしむようなそんなものだった。
当然座ったことのない席を選んで、富田林君を引き連れて座った。
勝手にメニュー表を開いて、手をあげる。
軽く一杯。
グラスを合わせて飲む。
ホッとしたのもあって飲み口も相変わらずよくて。
食べ物も相談して注文した。
「いつも行ってるお店はどんな感じ?」
「こんなおしゃれなところよりももっとうるさい所です。ヤロー飲みの定番のカロリー多めの物が出てくるようなところです。」
「おしゃれなお店も知ってるんじゃない?」
「そんなことないです。貧乏学生だったし、今でもまだまだだからそんな学生延長のお店ですよ。」
「ふ~ん。伊佐野君とは仲がいいよね。」
貧乏くじじゃないもう一人のほうの新人君だ。
「はい。仲良くしてもらってます。」
「良かったね。」
あんまり会話も楽しい感じじゃない。
それは相手のせいもあるし、やっぱりこの場所のせいもあるんだと思う。
申し訳なく思って来たのでもっと笑顔を増やしてみた。
「美味しいわね。好き嫌いないの?」
前に食べた事のあるチーズを使ったおつまみだった。
味は変わらず、罪もなく美味しいまま。
それを選んだのは富田林君だった。
「ないです、多分。これは説明書きで想像してたのとは全く違いましたが美味しいですね。」
「そうね。そう言えばお酒も強かったもんね。酒豪の酒々井(しすい)さんがライバルが入ってきたって喜んでたから、今度からとことん付き合わされるんじゃない?」
「はい、もう何度か一緒に連れてってもらってます。本当に強いですよね。でも負けてないです。呉さんはあんまりでしたよね?」
「普通です。5杯くらい飲めればいいでしょう?二人の最後までは付き合いきれないわよ。」
「歓迎会の時に真っ赤になってましたよ。いつもの雰囲気が柔らかくなって・・・・・。」
途中で止める不器用さ。
さり気なく言い直すこともできないくらい正直な失言に焦ったのだろう。
いつもはもっとガチガチでトゲトゲだと言いたいんだろう、でも誰のせいよ!
「あの時はうっかり5杯以上飲んだかもしれない。」
さり気なく聞き流すくらいは出来る。
「今日も誘ったのでちゃんと駅まで送ります。」
「そんなに飲まないわよ。」
だから会社に寄るんだってば。
ああ・・・面倒。
そんな風に思って背中に置いたバッグをチラリと見た時に、見たくないものを見た気がした。
そして向こうも気が付いたんだと思う、お互い視線が合って止まった。
ああ・・・やっぱり一刻も早くこの駅は離れるべきだったのに。
ゆっくり視線を戻した、多分向こうも。
隣にいたのは可愛らしい女性だった。
多分若い。
ちらりと見ただけでも分かる、そう思った。
よくいるような甘い女子。あんな子が好きだったんだろうか?
ほんのちょっとの間に服と横顔と雰囲気でそんな印象を持った。
俯いて考える。
向こうが後に入ってきたから、こっちが先に出るのが普通だろう、別に変じゃない。
目の前の料理を見つめて口を動かし、反対の手はグラスをつかんで離さず。
自分の分と思われる分より少し余分に食べて、飲み切った。
手を合わせてご馳走様、終わりの合図。
無言でそこまでいった私をぼんやり見てるかもしれない。
でも何かに気が付くほどの洞察力はないだろう。
「ああ、会社に戻ると思うとゆっくりも出来ないなあ、面倒。」
わざとそう言った。
「え、戻るんですか?」
「だって来週まで持ってるのも嫌じゃない、早く手放したいから提出は今日中にしたいの。」
「じゃあ、僕が戻ります。」
「いい、そこは責任もって提出するから。」
ピシャリと響いたかもしれない。
暗に信頼できないと伝わったかもしれない。
「ささっと提出してくるだけだし、別にいいよ。」
そう付け足した。
返事はなかった。
お酒を飲んで食べて、ちょっと急がせたかもしれない。
「じゃあ、ここは僕が払います。」
「そう・・・よろしく。ありがとう。」
もし・・・・このセリフが聞こえてたら、どう思うだろう。
多分恋人には見えてないだろう。
先に歩き出した私、後についてくる富田林君。
後ろを通り過ぎるとき、少し足取りが逃げるようになったかもしれない。
もう二度とこの駅には来たくない。
もう二度とこのあたりで食事をすることはないだろう。
本当に今日だってそんな予定じゃなかったのに・・・・。
会計を終えて二人で駅に向かう人混みに紛れた。
会社までは同じ方向だから隣同士で電車に乗り。
会社の駅について別れた。
「じゃあね。ごちそうさまでした。また来週。」
何かを振り切るようにそう言って、急ぎ足で改札に向かった。
あのまま一人で乗り換えをして帰っていくだろう。
今日のおごりで少しは恩返ししたつもりになってるだろう。
まさかそれが余計に古傷のかさぶたを剥ぐ行為になったなんて思ってもいないだろう。
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